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夢の中で



 女性の話は大いに役に立った。やはり、どれも魔王が動き出した予兆だ。



 地震はわたしが住んでいるところでは起きなかった。だからこそ、知れてよかった。



 作物の値段が高騰(こうとう)したというのも、薄々感じてはいたが、ここまで上がっていたとは思っていなかった。



 一度帰って、仲間に話すのが良いかも知れない。



 わたしは、女性にお礼を伝えると、家に向かって歩き出した。



 ■■■



 「やっぱな......薄々、感じてはいたよなぁ」



 「そうね。地震とかは、わたしたちでどうにかできるものではないけれど......魔物とかは討伐できるんじゃない?」



 「.......魔王が動き出したんだろう」



 わたしが仲間に話したときの反応は思った通りだった。



 「ということは、大戦争になるの?」



 薄い金髪で一番しっかり者のエリナがみんなに問いかける。



 「そうだと思う」



 「そういうことになるな。勇者がいない今、倒す術がないからな」



 銀が垂れる灰色の髪を持ち、無愛想なマリトが曖昧にうなずき、漆黒の髪を揺らす紳士なアリアは諦めたように言う。



 「そう、だよね......ごめんなさい、お兄ちゃんが亡くなるきっかけをつくってしまって」



 わたしが罪悪感から謝ると、エリナが慌てたように椅子からガタッと立ち上がる。



 ルリアが死んでしまった日、三人には隠すことなく、正直に話した。勇者として、自分の兄を一番尊敬してくれていた人たちに真実を伝えないのはだめだと思ったから。



 「そう自分を悪く言わないの!魔物のせいであって、ルリカのせいじゃないわ」



 「......うん。わかってるんだけど」



 本当はわかってなんていない。もし、世界の全員がわたしのせいじゃないと言ってくれたとしても、わたし自身は一生、自分のせいだと思うだろう。



 そのくらい、わたしのしてしまったことは大きくて、最悪で、償えないものだ。



 自分が一番、わかりすぎるくらいにわかっているから。



 「ルリカが前を向いて生きないと、今度はルリア様が悲しむのよ?」



 「そうだな。勇者様はお前をどうしても生かしたくて、助けたんだろう」



 「......気に病む必要はない」



 「ありがとう、みんな」



 わたしがそうやって思える日は来ないかも知れないけど。



 優しくて、慰めてくれる仲間がいるからこそ、また前を向ける。



 「まあ、でも勇者が見つかんない限りはもうどうしようもないわよね。勇者でない人間にできることといえば、魔物の被害を最小限に留めることぐらいだし」



 「誰か、剣を抜く人が見つかれば......」



 「わたしたちも鍛錬を積んで、少しでも民のみんなを守れるようにならないとだね」



 「でもさ」



 アリアが急に声を落とし、真剣な表情になる。



 「王剣はどうやって選んでいるんだろうな」



 「選んでるって......勇者を?」



 「そうだ。王剣は自ら相棒を選ぶっていうのが特徴だろ。しかも、選ばれた人間にはなにか剣と通じるものがあるんだろ。ということは、剣自身、なにか基準があるんじゃないのか?」



 確かに......。わたしは思わずうなってしまいそうになった。



 剣はなにを基準に選んでいるか。



 そんなこと、今まで考えたこともなかった。ルリアは。兄はなにが認められて、選ばれたのだろう。



 ___そうだ。きっとルリアは他の人のことを第一に考える、その気持ちが認められたのだ。



 ルリアは自分よりも他人を大事にするような人で、良く言えば心優しい人で、悪く言えば自己肯定感が低かった。



 わたしはそんな兄だからこそ、背中を追いかけることができた。



 「今日はとりあえず寝ないと。もう遅い時間だし。明日になったら、魔物討伐の依頼にいくつかあたってみましょう」



 「そうだね。寝ようか」



 エリナの声にみんなが一斉に寝室へと向かった。



 ■■■



 「ルリカ」



 お兄ちゃん......!?なんで......!そう声に出したつもりが、なぜか声にならない。



 「ルリカ。ごめんな、あそこで死んじゃって」



 ごめんなさい、本当にごめんなさい。あれはお兄ちゃんのせいじゃない。わたしが油断したせいなの。



 わたしの謝罪が声にならずに溶けて消えていく。



 なんで、なんで。伝わって、お兄ちゃんに。



 「なぁ、ルリカ。一つだけ、お願いさせてくれ」



 目の前の兄が少しだけ言葉選びをするように、話を止める。



 「ルリカに、俺の後を継いでほしいんだ。俺ができなかったことを、ルリカなら絶対にできる。だから、お願いだ」



 ルリアの姿はだんだんとぼやけていくように、見えなくなっていく。



 もう少しだけ、お願い。お兄ちゃんの声を聞いていたい。



 そんな思いも虚しく、ルリアは視界からだんだんと消えていく。



 「これを預ける。絶対にそれで、成し遂げてほしい」



 最後になにかを握らされた気もするし、撫でられた気もする。



 ___もしかしたら、気のせいかもしれないけれど。

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