邂逅
野田が目を覚ますと、周囲は薄暗いながらも見えるようになっており、
どうやら時刻は朝方あたりらしかった。なぜ自分がここにいるのか思い出そうとしたが、
頭がぼんやりしていて失敗した。
少し体を動かせば思い出せるかもしれないと、ゆっくりと体を起こそうとして、これにも失敗した。
野田は自分が絶叫していることにしばらく気付けなかった。
恐る恐る首だけを動かして体を見てみると、それはもうひどい有様だった。
右足は絶対に曲がらない方向に向かって九十度に折れ曲がっていて、使い物にならないだろう。足の指も爪がすべて剥がれ、ぐちゃぐちゃだった。全身のあらゆるところが青紫色に変色しているし、
左足の太ももには木の枝が突き刺さって貫通している。
呼吸するのも苦しいので肋骨も折れているだろうし、
内臓もいくつか傷がついているに違いない。ただ不幸中の幸いなのは、頭が無事なことだ。
少なくとも意識ははっきりしているし、頭蓋骨から脳がはみ出してもいない。
痛みですっかりさえた頭で、今度は思い出すのに成功した。
(そうだ、私は飛行機に乗っていたのだ。この全身の有様を見るに、どうやら墜落したらしい。探せば近くに人がいるかもしれないし、最悪人がいなくても墜落現場さえ見つかればその荷物で救助までは生き残れるだろう。)
野田はまだ楽観視していた。何とかなると思っていたのだ。
(荷物を見つけたらまずは治療をしなければ。
抗生物質と包帯がスーツケ-スの中に入っているはずだ。)
そこまで考えてから、野田はゆっくり慎重に体を起こした。
全身の激痛に顔をしかめながらあたりを見回して、そして愕然とした。
周囲はアマゾンの奥地、いやそれ以上に木々や植物に覆われていて、人の痕跡や墜落の現場など
見つけられそうもなかった。上も木々に覆われていて、捜索隊は私のことを見つけられないだろう。
いやそれよりも、いつどこから猛獣が飛び出してきてもおかしくないこの場所で一日すら生き残れるか
疑問だ。野田は自分の置かれている状況に絶望した。わたしは父のように死体が発見されることなく、
ここで動物のえさになるのを待つしかないのだ。・・・そんなのはいやだ!私が死んだら残された母はどうなる?一人でここまで育ててくれた母の恩をあだで返すわけにはいかない。親孝行するまでは何が何でも生き抜いてやる!決意を固めた野田は、どうすれば生き残れるかを必死に考えた。
私の血の匂いを嗅いで、すぐに興奮した獣が襲ってくる。まず止血をして移動した方がいい。すでに辺りは赤く染まり、場所によっては乾き始めている。
たしか紐か何かできつく縛れば止血できるはずだ。
野田は服を破いて右足の付け根できつく結んだ。これでこの場所を離れれば、少なくとも
襲われるリスクは下がる。高台に上って、辺りを見回してみよう。
立ち上がって歩き出そうとしたとき、後ろからものすごい勢いで突き飛ばされ、五、六メートルは吹っ飛んだあと、木に思い切り叩きつけられた。再び私は深く絶望した。私は諦めて
ゆっくり後ろを振り返った。そして私は息をのんだ。
それは、今まで見てきたどんな生き物とも異なっている。素人の私が見てもわかる。
これはいまだ人類に発見されていない、新種の動物だった。簡単に表現するなら、鹿と蛇のキメラだ。
体は鹿のようだが、全身が蛇のような緑のうろこで覆われている。
目は黒く鋭く、爛々と光りこちらをじっと見据えていた。角が後ろに五十センチほど伸びて二本生えていて、色はドス黒い。口の中には肉食動物の鋭い牙が生えていて、チロチロと舌が見え隠れしている。
すべてが歪ではなく、ごく自然に調和がとれていた。
私はその動物に畏敬の念を抱いた。これほどまでに美しい動物が存在するだろうか。いや、ない。
この世の生物とは思えないほど、恐ろしく、美しくその動物はそこに存在していた。