冬に待つ
私は駅の改札口で白い息を吐いていた。
「遅いなぁ、まだかなぁ」
電車が停車する度に、彼がいないかと目を皿のようにしてみるが、まだ彼の姿は見えない。
もうかれこれ二時間は待っている。
我ながらよくやるなと思いながらも、また手に息を吐き温める。
彼に会えると思うと嬉しくて、ついおしゃれして丈の短いスカートをはいてきたのだが、それが間違いだった。
腰が冷えて、痛い。
しかも上からコートを着るので、スカートが隠れて見えない。
失敗したなぁっと思いながらも、もし彼に『今日は冷えるから、ちょっと何処かによってこうか?』と誘われでもしたら・・・
きゃ~、きゃ~、何処に連れていくの?
まだ心の準備が!!!
いや、本当はできているけど・・・やさしくしてね♡
うん、やっぱり見えなくてもおしゃれは大切だよね。
「あっ、彼だ」
私が馬鹿な妄想をしていると、彼が電車から降りてきた。
このところ残業続きなのだろうか。
疲れた表情をしている。
重い足取りで一歩、また一歩と私の方へ近づいてくる。
どうしよう、気付いてくれるかなぁ?
私の胸は期待と不安でいっぱいになって、張り裂けそうだった。
彼は改札機にカードをかざし、こちらへ来る。
うわぁ、気付いちゃったか、胸のドキドキが止まんないよぉ。
そして、彼は何食わぬ顔で私の前を通り過ぎ、家へと向かった。
私は彼の後ろ姿に胸をなでおろす。
「よかった~」
そして、安堵の息を吐く。
彼に気付かれなかったのは残念だけれど、今の関係が崩れてしまうんじゃないかという不安はぬぐい去られた。
ストーカー歴三年。
明日もまた私は待ち続ける。
いつか彼が私に恋に落ちるその瞬間を。