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不機嫌なあの人

タケトリは思い出を少し思い返す。

タケトリは電気街中心の、老頭の一人。

年をある程度とった、温和な感じの男だ。

タケトリは部屋にいて、のんびりと思い出に浸る。

仕事がないわけではない。後回しにしているわけでもない。

タケトリは、仕事をするのに、おもに案件の判断をするのに、

思い出の中のある人物を思い出して、

それからタケトリの責任の下に、案件を一つ一つ吟味していく。

タケトリは、それほどに、思い出のその人物を大切にしている。


「四人で老頭になろうといった。そうだろう、オトギ」

タケトリは思い出のその人物に呼びかける。

オトギ。その人物は、思い出の中ではまだ若く、

いつも不機嫌そうな顔をしている。少し神経質そうに見えなくもない。

でも、その判断はいつも的確で、その上の責任も承知していた。

タケトリができない、クロックが判断できない、チャイが理解できない、

そんなことも、オトギは痛みを引き受けて、率先して行動する。

そういう、不器用な男だった。

決して笑わない、冗談も言わない。嘘もつかない。

けれど、オトギはいつも町のことを思っていた。

タケトリはそう信じているし、四人で老頭になって町を回していくと、

そんな約束もしていた。


オトギは町を去っていった。

昔々。あるとき、ふっと。

それ以来、音沙汰はない。


だからタケトリは、思い出の中にオトギを忍ばせている。

オトギは変わったかもしれない。

遠い昔に去っていったオトギは、生きていれば年も食っているだろうし、

考え方も何か変わっているかもしれない。

でも、タケトリの中のオトギは、

いつでも痛みの中にいるような不機嫌そのものの顔で、

そのくせ、みんなの痛みまで引き受けようとする、

責任と犠牲の固まりだ。

堅物で、融通が利かなくて、真っ先に飛び出していっては痛い目を見て、

その、オトギの痛みで、どれだけ人が痛みから救われたか。

痛覚的なものだけでなく、精神的痛手など、

その他もろもろをオトギは無愛想なその表情のまま、引き受けた。


タケトリの思い出の中、オトギは笑わない。

今もオトギはどこかで痛みを引き受けている。

タケトリはその痛みを、後生大事にしている。

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