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眠る呪いの王子様を目覚めさせるのは私の口付けだけなんですか?!  作者: 石月 和花


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31. 月光浴

「月光浴って、月の光を浴びるだけなのか?」

「えぇ、そうですね。……退屈でしょう?」

「いや、そうでもないよ。」

レナードは相変わらずニコニコとアイリスの事を見つめているので、アイリスは対応に困った。

王族をじっと見つめる事は不敬だし、かと言って全く顔を見ないのも失礼だし、自分もレナードと向き合った方が良いのかと考えたて、チラリと様子を伺うと、レナードと目がしっかりと合ったのだった。


元から美形である王太子であったが、今宵の彼は、普段よりなんだか輝いて見えた。


月明かりの下、予期せずレナードと見つめ合う形になってしまい、アイリスの心臓はドキドキと早鐘を打ってまるで静まる気配を見せなかった。


(私は一体どうしてしまったのだろう……)


この鼓動がレナードにも聞こえてしまうんじゃないかと心配しながらも、不敬だとは思っていても、それでも、彼から目を離せなかった。



「こうして君とただ座っているだけでも退屈ではないけども、でもそうだね、折角だから何か話でもしようか。」

そんなアイリスの心境など知らずに、ニッコリと笑って、レナードは語り始めた。

先程から終始ニコニコしている彼は、どうやら相当機嫌が良いみたいだった。


「君にとっては大変な一日だったかもしれないけど、今日の夜会で君と踊ったのは楽しかったな。途中で邪魔が入ったのは本当に悔やまれるよ。」

レナードはアイリスを見つめながら今日の出来事を振り返った。


彼が言う邪魔というのは呪いのことだ。二人が踊っている途中から、レナードに呪いが襲い始めて、その後は眠らないように必死だったのだ。


けれども、それまでのレナードとのダンスは彼が言うように本当に楽しくて心が躍るもので、そう思ってるのはアイリスも同じであった。


「私も楽しかったです!こんなに大きな夜会で、そもそも家族以外と踊ったこともなかったので緊張してましたが、ダンスとは案外楽しいものなのですね。」

「楽しんで貰えたのなら良かった。随分と強引に君に相手をして貰ったからね。」

「それは……目立つのが嫌なだけで、別に殿下と踊るのが嫌だった訳ではありませんわ……」

「良かった。嫌われてはいないようだね。」

「そんなことある訳ないじゃないですか!殿下の事は人として尊敬しているのですから。」

「尊敬……ね。」

少し悲しそうに苦笑しながらレナードは小さく呟いた。期待していた言葉が聞けなかったので思わず漏れた落胆の声だったが、アイリスには何故彼がそのような事を呟いたのかわからなかった。


「それで、明日が新月なんだね。」

「えぇ、そうです。新月の日は月の魔法は使えないので、いつもかけている魔法も出来ないんです。ごめんなさい。」

「謝る事じゃないよ。明日は、それならゆっくり休んで。」



それからレナードは月を見上げながら、少し神妙な顔で呟いた。

「明日が新月なら、満月までは後15日程か……」

「そうですね。満月になれば月の花が咲きますので、そうしたら殿下の呪いは完全に解く事が出来ますね。」

月の花が咲くまでは後十五日。解呪が成功すればアイリスの役目は終わるので王宮から去る事になる。

レナードと会えなくなるのは嫌だなと思うものの、彼の呪いが解けるのは喜ばしい事なので、アイリスは自分の残念に思う気持ちを押し込めて、笑顔でそう言ったのだった。


「そうなったら、アイリス嬢は領地へ帰るんだよね?」

「えっ?……えぇ。一ヶ月だけとルカス様から聞いていますし、そうなるかと思います。」

「……もし、私の呪いが解けた後も城に残ってくれと言ったら、君はどうする?」

レナードは真剣な顔でアイリスの目を見て訊ねた。冗談などでは無い。彼は本気で聞いているのだ。


「それってつまり……」

予期せぬ問いかけに、アイリスは思わず言葉に詰まってしまった。そして直ぐにレナードの気持ちを察すると、満面の笑顔で答えたのだった。


「私の魔道士としての腕を評価してくださっているんですね!」


側仕えの継続を望まれる理由は、この月の加護の魔法の力が必要なのだろうと直ぐに分かった。彼がこの魔法を認めて必要としてくれている。そう思うとアイリスは嬉しくなっていた。


「サーフェス家として、こんな光栄な事ありませんわ。父もきっと喜ぶと思います!」

過去に取り止めになった王族専用の術士の役目が復活になるのだ。サーフェス家にとってこんなに名誉な事はなかったし、それに、アイリス自身も呪いが解けた後もレナードの側に仕えられるのは、嬉しかったのだ。どんな形であれ、彼の側で、彼を支える事が出来るのだから。


けれども満面な笑顔のアイリスに対して、何故かレナードは困惑の色を浮かべていたのだった。


「……そういう意味では無かったんだが……」

「えっ?」

「いや……。そうだね、この件が終わった後も、アイリス嬢が側で支えてくれたら嬉しいな。」

レナードは言いかけた言葉を飲み込んで、アイリスに微笑みかけた。


この場にドロテアが居たら、間違いなくヘタレと罵られたであろう。けれども、今のレナードにはアイリスに対して自分の言葉の真意を伝える事は出来なかったのだ。


「かしこまりました。前向きに父と相談しますわ!」

アイリスはニッコリ笑うと恭しくレナードに頭を下げた。


まさかレナードから契約延長を申し出てくれるとは思っても無かったので、この話は本当に嬉しかった。


政敵が多い彼を護りたかったのだ。

レナードはきっと素晴らしい王様になるから。


そしてそこには勿論、もう少しの間だけ、レナードと気楽に話がしたいと言う、アイリス自身の下心もあった。


田舎の伯爵令嬢と王太子とでは、普通だったら話をする機会すらないのだ。

彼と話が出来るのは、王宮に居る間だけだから、少しでも長く、彼の側に仕えたかった。


いつかこの関係に終わりが来るのは分かっているが、それでも、少しでもその日が遅くなったらいいなと思ってしまった。

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