私とエッチしたら、茄子になった茄子川君の話。
「…え?」
昨日、会社の歓迎会で結構お酒を飲んで酔っぱらって。で、会社でちょっと気になってる茄子川君っていう後輩の男の子に「私、酔っぱらっちゃったみた~い♡」という、伝統の方法を思いきって使って、私のお家に誘導して。
そして、その茄子川君を裸にひんむいて美味しく召し上がった。
───────ところまでは、思い、出せた。けど…
布団で裸を隠しながら、ベッドの隣で転がっているものを、じいっと凝視する。どっからどう見ても。
「…茄子、よね?」
ベッドの隣に茄子川君はおらず。かわりに、テカテカに艶めく紫色のものが…茄子が、そこにあった。
「え?何でこんなところに茄子があるの?もしかして私、酔っぱらって茄子川君だけじゃなく、八百屋かどこかで茄子もお持ち帰りしちゃった?」
てか、茄子川君は?と、私はベッドの上でキョロキョロと辺りを見回す。ベッドの横には、脱ぎ捨てられた茄子川君の洋服が落ちていた。けど、茄子川君はどこにもいない。
「…もしかして、お風呂にでも入ってるのかな?」
でも、お風呂場の方から、シャワーの音や人の気配を感じない。
「茄子川くーん?」
茄子川君の名前を呼びながら、ベッドから出ようとした時だった。
「うー…ん…はぁい、先輩なんれすか~…」
茄子川君の声が近くからした。だが、辺りにそれらしき人物はおらず。ふと、ベッドの上に転がる茄子を見ると─…茄子が、ころん、とひとりでに動いた。
「へ?!なっ…茄子が動いた!?」
と、私が声をあげると。
「ん~?寝ぼけてるんですか~千尋先輩。おはよ~ございます。わぁ~…朝から千尋先輩のたわわなおっぱいが見れるなんて、俺は幸せ者だな~」
むにゃむにゃと、寝ぼけてるっぽい茄子川君の声がして、私は布団で裸を隠した。けど、その声の先には茄子しか転がっていない。しかも、よく見るとその茄子には、両手足があり、目鼻口も付いていた。
「ひっ!?なっ…え?もっ、もしかして…なっ、茄子川君…?」
私は転がってる茄子に、そう聴いた。すると。
「も~…ほんとに寝ぼけてるんですかぁ、せんぱぁい。昨日の熱い夜を忘れた…なんて、言わせませんからね?」
茄子川君の色気混じりの声がする。…茄子の方から。
「─さて、今日は日曜日ですし…どうします?俺、一旦家帰って着替えて、一緒にデートにでも行きませんか?それとも~…もう一度、熱い夜のことを思い出させましょうか?」
と、茄子は上体を起こし、茄子川君の声で何か言ってる。
「えっと~…う~ん…茄子川君で間違いない、かな?」
「…先輩、本気で寝ぼけてるんですか?俺ですよ、茄子川類ですよ」
そう、真剣な口調で、茄子川君は言う。いや、茄子川君の声で、茄子が言う。
この茄子はやっぱり茄子川君で間違いないようだ…けど。
「あの…茄子川君。驚かないでね…って言うのは難しいかもしれないけど…落ち着いて聴いてね」
「?なんですか?」
「その…ね、今茄子川君…茄子になってるの」
「…はい?」
「うん、あのだから、茄子川君…身体が茄子になってるの」
しばらくの沈黙。のち。
「ぷはっ!ははは、も~…先輩マジでどうしたんですか?俺が茄子になってるってなんですかぁ?」
茄子が笑った。
「いやあの、ほんとに!茄子川君なんだろうけど、どこからどう見ても茄子なの!茄子川君は今茄子なの!」
「先輩、マジで大丈夫ですか?昨日そんなに飲み過ぎましたか?」
「…わかった、ちょっと待ってて」
そう言って、私はベッド傍に脱ぎ捨てられていた茄子川君のワイシャツを着け、ベッドから降り、手鏡を取りに行った。
「はい、この鏡で自分の姿を見てみて」
「先輩、彼シャツとかエロいんですけど」
「今はそんなことどうでもいいから、ほら!」
私は手鏡を、茄子に押し付けた。
「寝起きの俺を見るより、彼シャツ姿の先輩を見ていたいのに…」
ぶつぶつ言いながら、茄子は私から手鏡を受け取ると、鏡を覗き込んだ。
すると。
「…………………えっ?なに、この茄子。え?俺?」
鏡を見ながら、茄子は手と声を震わせた。もしかしたら私にしか、茄子川君が茄子に見えるのかもしれないと思ったけど、どうやら違うらしい。茄子川君自身にも、茄子に見えるようだ。
◆◼◇◼◆
「ほおぉ~…!これは『茄子変化症候群』じゃないですかっ!!」
とりあえず病院に行き、医者に診てもらうと、医者が興奮気味にそう言った。
「な、なすへんげ症候群?なんだそりゃ!?」
「あの~…それは一体…」
「これを発症している人は、これまで世界に10人もいない、非っ常に珍しいものなんですが~…まさか、目の前で見れるとは…驚きです!」
医者は鼻の穴を広げながら、茄子川君の身体をまじまじと見た。
「あの!そんなことより、俺…もとに戻りますよね?てか、何で俺茄子なんかに…?」
私の膝の上でちょこんと座りながら、真面目な声色で医者に聴く茄子川君。
「う~ん…あまり事例が無いのでなんとも言えませんが…まれに、茄子のDNAを持っている人間がいて、そしてその茄子のDNAを持ったもの同士で性行為をすると、その茄子のDNAを多く持ってる方が、茄子に変化する…と、現段階の研究結果で発表されてはいますが~…」
「何故茄子…?」
「茄子だけではなく、他にもきゅうりやトマト、人参などがあります。一番多いのは人参ですね。といっても、やはり世界に十数人くらいしか、発症している人はいませんが」
「そんなことより!俺のこの茄子の身体は…?もとに戻りますよね?」
私の膝の上で、茄子川君は声を震わせながら言った。
「…すみません。残念ながら、もとに戻す方法が今のところ見つかってなくて…」
「そん…な。俺、この茄子の身体で、生きなきゃいけないんですか?」
「はい…」
茄子川君は黙ったまま、私の膝の上でふるふると身体を震わせた。そして。
「くそおおおおおお!!!」
突然、茄子川君は大声をあげると、私の膝の上からひょいと飛び降り、パタパタと診察室から出ていった。
「ちょっ、茄子川君!?」
私は急いで、茄子川君の後を追った。
◆◼◇◼◆
「茄子川くーん?!どこに行ったのー?」
茄子川君を途中で見失い、名前を呼んで探す。すると。
『バウッ!!!』
「うわあああ助けてーー!!」
茄子川君は、散歩用のロープを引きずったブルドックに追いかけられ、私の方に向かって走ってきた。
「あ、あの犬が俺のことを食べようとするんです!」
そう言いながら、息を切らせた茄子川君は私の胸にぴょんと飛び込んできた。
『ヴーッ!バウバウッ!!』
「ひいっ!」
私の足元で、茄子川君に向かって吠えるブルドック。すると私は。
「あっち行きなさい!!ガルルルルッッ!!!」
ブルドックにそう威嚇すると、ブルドックはキャウンキャウンと怯えた声で鳴きながら、後ろから追いかけていた飼い主らしき人の方へと走っていった。
「大丈夫?茄子川君。あの犬にかじられなかった?」
「大丈夫ですけど…情けないなぁ…俺」
私の胸の中でふるふると震える茄子川君。
「先輩とHさえしなければ、こんなことにはならなかったのに…」
「茄子川君…」
「俺のこれからの人生、どうやって生きてけばいいんですか?」
「ごめんね…」
まさか、こんなことになるなんて思わなかったし、分かるわけがない。ただ、好きな人と、茄子川君と身体を重ねたかった、それだけだったのに。私とHしたせいで、茄子川君が茄子になってしまうなんて…
胸の中で震える茄子川君をぎゅっと抱きしめながら、謝っていると。
「…とってください」
「…え?」
「責任とって、俺と結婚して、俺のずっと傍にいて下さい!」
「えっ…ええええ!!!?」
え?プッ、プロポーズ?結婚!!?私が?茄子川君と?確かに、私は茄子川君に好意を持ってるけど…
「いや、あの…すみません。こんな、脅しみたいなプロポーズなんてして。卑怯ですよね」
「え?いや…」
「俺…もうずっと前から先輩のことが好きで。だから、昨日の夜は、先輩とひとつになれてすごく嬉しかったんです。なのに、茄子って。…何だよ、茄子変化症候群てよ。先輩と結婚して、先輩を幸せにするのが俺の夢…願いだったのに。こんな茄子な身体じゃ、先輩を幸せになんてできな──────」
そう、茄子川君が言っている途中で。
ちゅっ。
「んっ…」
「んん…」
茄子川君の身体を持ち上げ、茄子川君の唇にキスした。
「…先輩?」
「結婚、しよう。結婚して、一緒に幸せになろう」
ちゅぱっと、茄子川君の唇から離れると、私は茄子川君にそう言った。
「え…でも、こんな身体じゃ俺、仕事も何もできないかもしれないですけど…」
「仕事なら私がすればいいし。茄子川君は茄子川君のできることをするといいよ。ていうか、私は茄子川君が傍にいてくれるだけで嬉しいかな。だって、私も、茄子川君のことが…好きだから」
「千尋…先輩」
「例え茄子に変わっても、茄子川君は私の大好きな茄子川君だよ」
そう言って、私は茄子川君を抱きしめた。
「…結婚して、一緒に幸せになろうね」
「…はい!よろしくお願いします!」
◆◼◇◼◆
その後程なくして、私たちは結婚し、夫婦になった。
そして数年後には、男の子と女の子の子宝にも恵まれ、現在は家族4人で幸せに暮らしています。
── END ──
※『茄子変化症候群』というものは、作者が作った架空のもので、実際には存在しませんので。多分。