ズボラなジャックと巨大化した豆の木。
あるところに、ズボラなジャックという青年がいました。
ジャックは、家の仕事である農作業は適当、使ったものを元の場所に戻さない、靴下はそのへんに脱ぎ散らかす、何故か一口分だけ食べ残す、食後の皿は片付けない、部屋に持ち込んだコップを戻さない……と挙げれば切りがないほどにズボラでした。
同居する母親は、そんな彼のズボラさに辟易としていました。
ある夏の夜、ジャックは庭にあるベンチでビール片手に枝豆を食べていました。
なかなかにいい塩梅で茹でられた枝豆を取ろうとしましたが、酔いすぎて手元が狂い、枝豆の入ったお皿ごと地面にぶち撒けてしまいました。
そして、慌てて拾おうとしたせいで、その上にビールまでもぶち撒け、お皿もグラスも粉々になってしまいました。
「うげ、まーた母ぁちゃんにドヤされる……」
母親の小言を聞きたくないジャックは、足で適当に穴を掘り、そこへ全てを入れて、ダスダスと踏み固めました。
「なんだいこりゃぁぁ! ジャック、ジャーック!」
「んーだよ、うっせぇなぁ」
朝早くから母親の叫び声に起こされたジャックは、とてつもなく不機嫌です。
ですが、母親は気にも留めず、怒鳴り続けます。
「アンタ、今度は何したの!」
「はぁ? なにが?」
「これよ、これ! なんだい、このでっかい豆の木は!」
そう言われて、庭に目をやると、そこには天高くそびえる、枝豆の木がありました。
茎というか、幹は大人が三人集まった程度の太さで、五メートルほど上の所から枝分かれが始まっていました。
幾筋にも分かれた枝には鈴なりに三十センチほどの枝豆のサヤがぶら下がっていました。
「…………は?」
「は? じゃないよ! いったい何なんだい!」
「いや、俺も知らねぇよ…………」
そうは言ったものの、巨大な枝豆の木が生えていたのは、昨晩に色々とやらかした場所でした。
ジャックは、『まさかそんな事、あるわけないよな?』と心の中で思いつつも、『もしかしたら、もしかするのか? え? 俺、魔法使いになった⁉』など、大変に混乱を極めていました。
放置しすぎて枝豆が固くなり、落下して屋根に穴を開ける。という悪循環が起こりそうな気がした母親は、ジャックに一番上まで登って全ての枝豆を収穫するよう言い付けました。
「なんで俺が……。役場とかに頼めよ……。くそ、この年で木登りとか……」
グチグチと愚痴りながらも、ジャックは枝豆の巨大な木を登って行きました。
三十分ほど登り続けましたが、枝豆の木のてっぺんが見えて来ません。
「ハァ…………降りよ」
ズボラなジャックにしては珍しく、諦めずに頑張っていましたが、久しぶりの木登りでの疲れもあり、上まで行くことを諦めてしまいました。
豆の木を降りつつ、枝豆を収穫して、庭に落とし、カゴに詰めていきました。
「ジャック、てっぺんまで行ってきたのかい⁉」
「おぉん。行った行った」
「……本当にかい⁉」
「あぁ、ほら、こんなに枝豆あっだろ? 上から落としながら降りて来たんだよ」
ジャックは、カゴに詰め込んだ巨大な枝豆を母親に見せました。
ぶっちゃけると、わりと下の方で収穫したのですが、鈴なり過ぎた為、バレませんでした。
ジャックは、収穫した大量の枝豆を『ジャックの巨大枝豆』という商品名で売り、大金を稼ぎました。
不思議なことに、一年経っても枝豆は熟しも枯れもしませんでした。
巨大な木を登っての収穫は大変ではありましたが、働いていい汗をかき、収入を得る。それはジャックにとって今までにはなかった感覚でした。
とても充実した日々です。
「いやぁ、今日も働いた!」
「全く。やっとこさ真面目に働く良さが分かるようになったかい」
「へいへい」
ジャックは、母親の小言に適当に返事をし、ビールの入ったジョッキと、炒ったかぼちゃの種が入ったお皿を持ち、庭のベンチへと向かいました。
一時間後。
「うげ、まーた母ぁちゃんにドヤされる……」
何かのフラグが立ちました、とさ。
―― おしまい ――