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ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔は学校のアイドルに地獄に落とされたアイツにざまぁさせたい

作者: だぶんぐる

このお話は、

『ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔に魂を売り渡し俺を地獄に捨てた幼馴染学校のアイドルにざまぁしてみせる』(https://ncode.syosetu.com/n6433he/)の裏面。ギザ歯ヒロイン視点の物語です。

そして、ざまぁされた女の子視点の

『大切なことを忘れた学校のアイドルはギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔にざまぁされた。』

(https://ncode.syosetu.com/n9318he/)

も読後によければ、どうぞ。

「アタシと契約しねえか?」


アタシはアタシの大嫌いだったギザ歯を見せつけながら笑った。

多分、悪魔の契約っぽくてとてつもなく説得力はあっただろう。

目の前のぼさぼさ男は顔を上げ手を差し出す。


「ああ……そうだな。頼む、俺にざまぁとやらをさせてくれ」

「オーケー、あのクソ女にしょんべんちびらせてやろうぜ」

「お前、本当に汚ねえな!」


握った男の手は熱かった。



男の名前は、小角伏人おづのふすと。小学校から知っている。

といっても、幼馴染とかではなく、ちゃんと知り合いになったのも高校入ってからだ。

コイツの幼馴染は他に居た。


天羽璃々《あもうりり》。高校では学校のアイドルとして知られている。

明るい茶色のふんわりボブ、小柄な癖に出るところは出てる。

仕草も男をその気にさせる、今でいうアザトカワイイ女だ。

コイツと小角は幼馴染で小学校の頃はすげー仲が良かった。

どちらかというと、アタシは小学校時代小角よりも天羽と仲が良かった。


来馬晶きばあきら。それがアタシの名前。きばってめっちゃ強そうな名字にあきらっていう男だか女だか分からない名前。小学校の頃から長身黒髪ロング、そして、ギザ歯だ。


今でこそ、小角は髪もぼさぼさで猫背、他人と普通の会話が出来ないやべーやつだが、小学校の頃は髪も短く切りそろえて小学校のサッカークラブに通って元気いっぱいな男の子だった。逆に、天羽はかなりぽっちゃりしてて、黒髪おかっぱ、教室の端っこでお絵描きしてるようなヤツだった。

小五の時は、アタシと天羽が同じクラスで小角が別だった。

アタシもアタシでひょろ長くて、髪も黒髪のばしっぱで、やっぱり教室の端っこで本を読んでいるようなヤツだったから他の奴と比べて天羽とは話をするほうだったと思う。


「おい! りり! かえるぞ!」

「ふっくん! うん! じゃあね、きばさんバイバイ」

「あ……うん。ばいばい、あもうさん……お、づの、くんも……」


天羽と放課後話をしてると、小角が迎えに来て手を引いて帰る。そんな日常をよく目にしてアタシはいいなあ、と思った。

別に当時小角が好きだったわけではないが、本に出てくる幼馴染って感じで羨ましかった。


小六、三人が同じクラスになり、アタシと天羽は『クラスでの小角』を知ることになる。


「おづのー! 今日昼休みはサッカーな!」

「おづのくん! あの、この前はとしょいいんお手伝いしてくれてありがとう! あの、おれいで、これ、あげる!」

「おづのっちおづのっち! ビーム!」

「ぎゃああああああ! っていうか、一気にしゃべんなよお。わけわからん!」


笑いの渦の中心。人気者のポジションに小角はいた。

アタシはその時初めて、小角を遠く感じた。

天羽はアタシと同じくらいのポジション。仲のいい天羽。だから、アタシも小角と近づけるチャンスだってあるんじゃないかと思ってた。

でも、勘違いだった。小角を好意的に見てくれるのは天羽、とアタシだけではなく、他のみんなもそうだった。

天羽もそう思ったのだろう。小六の天羽はアタシから見ても凄かった。習い事を始めて、勉強も真面目に受けて、小角のことを全力で手伝っていた。

アタシが手を貸そうとすれば、


「だいじょうぶ。これはあたしがふっくんにしてあげたいから」


と、頑として譲ることがなかった。

アタシにとって二人とも眩しかった。


中学校。三人とも同じ。けれど、この時全てが変わり始めた。

入学式で見かけた天羽は、髪を整え、少し痩せて、明るく元気な性格になっていた。

小角は、そこまで変わっていなかったが思春期特有のちょっとめんどくさい感じが出ていた。けれど、やっぱり二人は幼馴染で一緒にいることが多かった。

アタシは、そのままだった。何も変わらず、二人を見ていたように思う。


そして、天羽はどんどん可愛くなっていった。秋には小六の時から見違えるほどに痩せ、また、お洒落で、文化祭のミスコンをとっていた。一年が終わる頃には、両手で足りないほどの男子に告白されていた。

小角は、少しずつ天羽との関係が変わっていったせいだろうか、ちょっとずつ大人しくなっていったように思う。


「あの、天羽。今日は部活ないけど、どうする?」

「あーごめん! ふっくん! 今日はみいちゃんと一緒に寄るところあるから」

「おう、わかった。じゃあ、また」

「うん! ごめんね!」


天羽は男女問わず色んなヤツから人気が出て、その付き合いで振り回されていたように見えた。そして、それを小角が影から支えてように見えた。

やっぱり眩しかった。

そして、アタシも漸く変わりたいと思い始めていた。

中学校に入った時から160後半の身長でかなり細かったアタシは、親戚のメイクしてるお姉さんからジュニアモデルに誘われたことがあった。

当初、頑なに拒んでいたアタシだったが、変わるならコレしかないと思い込んでいた。

多分、天羽がミスコンに選ばれたことの対抗意識もあったんだと思う。


「あきちゃん! モデルやりたいの!?」

「う、うん……で、でも! キレイじゃないと駄目だろうから、莉緒姉ちゃん手伝って」

「まっかせなさい! じゃあ、まずはちょっと髪を整えようか。莉奈の所で。とびっきりに素敵にしてもらおう!」

「う、うん!」


中二。アタシにとって自分を変えるための一年だった。

メイクの莉緒姉ちゃん、美容師の莉奈ねえちゃんのアドバイスを受けながらアタシは努力を重ねて、綺麗になった、と思えた。そして、モデルとしての仕事も少しではあるが入り始めた。けど、モデルというにはあまりにも無名だったので、学校では隠していた。

莉奈姉ちゃんと相談して、前髪を学校では下ろして目元を隠して生活した。


(いつか、もっと大きく取り上げられたら、天羽さんと小角くんに話そうかな)


そんなことを思っていた。

けれど、中学時代、その時が来ることはなくなってしまった。


「あの、天羽、さん」

「ん? ああ、ふっくん! ごめーん! 今日もちょっとたあくんやマーチのみんなでカラオケに行くから。あ、ふっくんも来る!?」

「あ、お、おう!」


中二の終わりごろ、天羽と小角の関係は完全に逆転していた。

二年連続ミスコンに選ばれた天羽と、サッカー部補欠の小角。

小角にとっての自慢は、ミスコンの幼馴染となり、天羽にとっての小角は、面倒を見てあげてる幼馴染となっていた。

アタシは無性に腹があった。どちらに? どちらにもだった。

アタシはあんな風にならない。どんな風かも分からない。ただ、そう自分に言い聞かせ、学校では大人しく、モデルとして戦い続けた。


中三。アタシにとっての学校での思い出はあまりない。

強いて言うなら、アタシはその頃から大分周りから避けられていたように思う。

身長170センチになった。モデルやってるから背筋が伸びてて、黒髪ロングの前髪で目を隠す奴なんてちょっとやばいだろうなとは思っていた。

しかし、それだけが問題ではなかった。天羽がアタシをハブろうとしていたらしい。理由は分からない。多分、目立っていて気に入らなかった。その程度の話だろう。

元々ウチはママが強い。ママ友とかともバチバチにやりあう人だったから別にハブられるくらいはなんともなかった。ちょっかいかけてくればママ直伝の睨みと脅しですぐ大人しくなった。ただ、それを利用して『来馬晶は不良でヤバい奴』っていう噂を流された。出所は天羽。

別にどうでもよかった。ただ、一回だけ鞄を捨てられたことがあった。鞄にはママから貰った財布とか、莉奈莉緒ねえから貰った美容品とかがあったから、本気で焦った。

探し続けてたどり着いたゴミ捨て場には、小角がいた。


「あ……」

「あ、来馬、さん。ご、ごめん……これ、鞄」


どろどろになった鞄を、どろどろになった小角が持っていた。


「ごめんな、俺が捨てたんだ。でも、なんか急に罪悪感出てきて、ほんと、すみませんでした」

「ふざけんな」


そんなわけがない。そもそも小角はアタシにいやがらせをしたことがない。

何もかも急すぎる。


「天羽か」

「ごめんな。アイツ人間関係とかでピリピリしてて、八つ当たりみたいになって、ほんとごめんな。これ、鞄新しいの買うから、どこで……」

「うるせえ、喋んな。返せ」


アタシは鞄をひったくってその場を後にした。

何もかも見たくなかった。なんでこんなことに。

アタシの中三はそこで終わった。


高校。三人とも同じ。

立地や成績からすればまあ順当なところだった。

小角は天羽と同じ所に行くために大分頑張ったらしいが、どうでもよかった。

モデルの仕事さえあれば良かった。

学校にも許可はとっていたから、別に何か言われることはなかった。

ただ、学校の成績が落ちたら、その時はという話だった。

正直、当時はもう別に退学になっても構わないと思っていた。

けれど、そのモデルの仕事でもアタシは苛つき始めた。


「はーい、じゃあ、晶ちゃん笑って」

「はい」

「……おう、そっかそっか。ちょおっと口元が強いね。口閉じながら笑える?」

「……はい」


その日、アタシは家に帰って鏡の前で笑った。

アタシは口が大きくて、歯も多分ちょっと長いんだと思う。

笑うと、ニヤリが似合う口裂け女に見えた。

アタシは、笑うのが苦手になった。


高一夏休み。学校ではぼっちのアタシは、夏休みの宿題を適当に終わらせ、家で黙々と漫画とゲームの日々を過ごしていた。たまに、モデル仲間とか莉奈莉緒姉妹、ママと出かけたりしたが基本は家にいた。その日は好きな漫画雑誌の発売日で本屋に出かけた。ついでに発売したてのゲームも買って、家に帰ろうとすると、小角がいた。天羽もいた。珍しく二人のようだ。


「小角! それ借りていい?」

「いやいや~! 俺今買ったばかりだからさ~! ジャイアンかよ!」

「は? まいいや。また今度返すね」

「ちょっとちょっと~!」


雑誌をカツアゲされていた。高校に入って、二人の関係は主人と奴隷みたいになっていた。

モデルの仕事でも苛々していたアタシは、思わず雑誌を投げつけた。


「いって! って、お前……」

「しね」


それだけだった。それ以上そこにいたくなかった。

クソだった。なにもかもが。アタシも天羽も小角も。クソだ。


夏休み明け。アタシはいつも通りぼっちを極め、屋上でメシを食っていた。

そこに小角がやってきた。


「おお、いたいた」


髪はぼさぼさ。清潔感の欠片もない男がそこにいた。


「……なんか用か」

「ああ、うん。あのさ、お前夏休みに、〇ャンプくれたじゃん」

「やってねえよ、ぶつけたんだよ」

「ああ、うん。じゃあ、それで。まあ、どっちにしてもありがとな。で、それでさ、応募ハガキ出したらさ、Wチャンスのが当たったからやるわ。元々お前のジャン〇だし」


と、小角がジャン〇のエコバッグかなんかを渡してきた。

アタシは呆気にとられていたが、そのうちわけわかんない笑いが込み上げてきて、


「ククク、なんだそりゃあ!」


声を上げて笑っていた。その様を小角はじっと見ていた。


「お前、その歯……!」

「……!」


ハッとしてアタシは口元を隠す。最悪だ。何が最悪なのか分かんなかったが、とにかくアタシはその時最悪だと思った。触れてほしくなかった。しかし、小角は遠慮なく土足で上がり込んできた。


「ギザ歯じゃないですか!? ありがとうございます!」

「……は?」


小角は目を輝かせて深くお辞儀をしてきた。


「ギザ歯だよ! ギザ歯! 俺の今一番熱い属性だね! めちゃくちゃかっこいいだろギザ歯! でもな、そんなギザ歯がふとした時に無邪気に笑うと、カワイイに変身するんだよ! ギザかっこいい&ギザかわいい! それこそがギザ歯なのだよ!」


死ぬほど早口だった。

そして、何かに気付いたように。


「あ……一般論な」

「く……いや、くく……一般論ではねえよ。くくく」

「わああ、クククって笑ってるう」


アタシはめんどくさくなって口元隠すのをやめて笑った。

放課後、アタシは急遽代理のモデルを引き受けた。最近断っていた超笑うハッピー系(アタシと莉緒さんの間での呼び方だけど)のモデルだった。莉奈さんも、美容院が休みだったこともあり最近のアタシを心配してか送ってくれて一緒だった。


「あきちゃん、呼んだのはこっちだけどいいの?」

「あーうん、なんかめんどくさくなったんで」

「は!? ちょっときばっち!」

「とりあえず、笑ってみるわ」


驚く莉奈さん莉緒さんを尻目にアタシは撮影に臨む。

アタシは、すげー久しぶりに思いっきり笑ってやった。

にかーっと。傍らに置いてあるエコバッグを見る度笑えてきた。

その笑いを全力でぶちかました。

カメラマンは、息を呑むと言えばいいのか、なにかを飲み込むような雰囲気だったが、どうでもよかった。


アタシは、かっこいいギザ歯だ!


撮影は、長引いた。仕方ないかとアタシは笑った。

終了後、カメラマンが近づいてきたアタシに言った。


「めちゃくちゃ良かったよ」

「え?」

「いやあ、はじめましての子だったから、どんな子かなあと思ったら、良かった。なんていうだろう、口がさ、すごい印象的で、ちょっと悪そうなんだけど、もう口で語ってるというか」


口は語るもんだろ、と思ったが、そうじゃないと分かってる。

どんだけ今私が笑えているかが口のデカさで伝わったんだろう。

莉奈莉緒姉妹もすげー褒めてくれた。

その日の撮影された写真は1カット採用のはずだったのが、サイトで特集組まれるくらい使ってもらえたらしく、笑った。

それから、アタシは時々屋上で小角とメシを食った。

話題は漫画やらラノベ、小説、アニメ。時には、小角の話を聞いた。

小角は、中学校の頃、親が離婚したらしく、そのゴタゴタで、部活に行けなかったり勉強できなかったらしい。

アタシには、話にあった下の面倒やら、親の八つ当たりやらで大分性格がねじ曲がったように見えた。あとは、そんなこともしらない幼馴染のせいだろう。

今の小角は、真剣にすることを恐れていた。真剣にやってダメだったら、裏切られたら。

だから、ふざけて自分の気持ちを誤魔化しているように見えた。

アタシも結構見えてなかったんだなあと思うと笑えてきた。

その後、アタシは少ない知り合いと小角のいる漫研に乗り込み、ちょいちょい邪魔しにいった。少しでもアイツのことを知りたいと思い始めてた。


一年二学期の途中。小角はアタシに言った。


「俺、天羽に告白するわ」


突然の宣言だった。アタシは、なんで? なんで天羽? なんで今? と溢れ出そうな言葉を飲み込み、小角の話を聞いた。


「アイツ、クソだぞ?」

「一回すっきりしたいんだよ」

「クソだけにか」

「マジ汚ねえな!」

「まあ、せいぜいがんばれや」

「おう、ありがとな」


一回スッキリしたい。分かる気がした。だから、背中を押した。

けれど、嫌な気持ちでいっぱいだった。苛々した。

アタシは、告白の一部始終を影から覗いた。


『天羽! 俺と付き合ってくれ!』

『ごめんなさい、気持ちは嬉しいけど付き合えないの』

『そっか……でも、ちゃんと向き合ってくれてありがとな!』


そして、握手。


クソみたいなワンシーンだった。あのクソ女があんな殊勝なこと言うはずがない。

見せかけだ。けれど、それで小角が前に進めるならそれでいいと思った。

ガラスにうつった自分はギザ歯を見せて笑っていた。

アタシもクソだ。小角がフラれて笑うクソ。


しかし、話はそこで終わらなかった。クソ女の正体を偶然知ってしまった小角はクソ女のクソ芝居で、クラスでいじめられ始めた。

小角は、アタシを避け始めた。クソなりの気遣いだろうが、それこそクソだ。

アタシは、こっそり帰ろうとするクソこと小角の首根っこを掴んだ。


「なんぞ?」


振り返った小角はへらへらしてた。アタシも自分も誤魔化す笑顔だ。


「どうした、エレン・イエーガー」

「身長170センチなんて女子にもいるだろが」

「どうしたゴールドシップ」

「流行りだな、悪くない」


いつも通りのやりとりが嬉しくなってアタシは笑った。

そして、話を聞いた。出来るだけいつも通りに、小角が普通になれるように、いつものアタシを心掛けた。丼ぶり屋(奢らせた)から公園(ジュース奢らせた)に移動し、アタシは怒り狂った。小角は笑っていた。


「何ニヤニヤ見てんだコラア」


小角は少し困り顔になってアタシに話しかける。


「悪いな、お前が散々忠告してくれたのに」

「……で、お前、どうする?」

「どうするって?」

「このままあのクソ女にマウントとられたまま残りの学校過ごす気かっつってんだよクソが」

「よくはねーよ。けど、あっちは学園のアイドル様、こっちは底辺ヲタク。スクールカースト奴隷層の俺に何ができる?」


その時、アタシに一つの考えが浮かんだ。それはアタシにとって一つの願いのような考え。


「……『ざまぁ』してみねえか?」


『ざまぁ』所謂ラノベでよくある。フラれたヤツが急にモテたり、実力が認められたりするあれだ。


「具体的にはどうすんだよ。ラノベなら、実は隠れた才能を持っててとか、美人の彼女が出来てとかになるがラノベじゃない、から……ラノベじゃないから! オレ、サイノウ、ナイ! オンナカンケイ、マジ、ナイ!」

「なんで頭を押さえながら急に宇宙人と化したは知らねえが、お前に才能なんて期待してねえよ。要はアイツが悔しがる程度に男あげりゃあいいわけだ。そうだな……勉強学年10位以内、腹筋割れてる、女子に複数人告白される。あとは……まあ、とりあえずはこの位で十分だろ。」

「十分すぎるけど! 舐めんな! 俺は雑魚中の雑魚だ!」


小角は、怖がっていた。多分ざまぁに対してじゃない。変化に対してだ。

けれど、アタシは変わって欲しかった。変えたかった。

小角は少し悩んでいるようだったが、それでも引き受けてくれると確信していた。

そこで、アタシは自分の中での計画を織り込む。


「アタシと契約しねえか?」

「ど、どういうことだYO」


よくわかんねえラッパーの真似をしながら聞いてくる小角。なんでだよ。


「アタシはあんたに必ずざまぁさせてみせる。だからうまくいった暁には、アタシの言うことを三つ必ず聞いてもらう」


小角は悩んでいた。ぶつぶつとプッピリパロとか聞こえてきた。なんでだよ。


「ざまぁ出来たら、さぞかし気持ちイーんだろうなあ」


アタシは自分の心臓がうるせえくらい鳴るのを抑えながら小角の耳元で囁く。

死ぬほどはずい。けれど、アタシはここで引かない。引きたくない。


「……このまま、学生生活、ただ耐えるだけで棒に振るのと、少しでも前向いてやりあうのどっちがいい。大丈夫だ、アタシがどんな手を使っても必ずざまぁさせてみせる」

「わかった、てめえのことだ。悪だくみさせたら天下一品だ」

「よく分かってんじゃねえか、アタシのことを」


アタシは笑っていたんだろう。ギザ歯を見せつけて。


「ああ……そうだな。頼む、俺にざまぁとやらをさせてくれ」

「オーケー、あのクソ女にしょんべんちびらせてやろうぜ」

「お前、本当に汚ねえな!」


小角は笑っていた。誤魔化すような笑いでなく、多分心からの。

その日からアタシの計画は動き始めた。


翌朝。小角のクラスに睨みをきかせ、いじめを抑えた。天羽のクソ女が流したやべー噂が逆に役立った。アタシにびびって引いていた。噂の出所天羽は、ビビってはいなかったが、小学校のアルバムを見せた途端ビビり始めた。そりゃそうだ、あの頃の天羽など見られたくないだろう。

そして、昼休み。アタシは昨日一晩で必死になって考えた小角改造プランを渡した。

メインは筋トレだ。アタシが莉緒さんに教えてもらったトレーニングを改造したらなんでかサイタ〇式になった。小角は机上の空論だと言った。信じられないと。

それを信じさせる方法。その時のアタシは寝不足もあってか一つの答えしか思いつかなかった。しかし、その答えは……その、大変だった。

アタシは、自分の上着に手をかけ、腹を曝け出した。


「おま! 何やってんの!」

「うるせえ! 見ろ!」


アタシはモデルの為に腹筋は続けていて、増やし過ぎてもいけないのでうっすら割れる程度にコントロールしてた。この腹を見せれば納得するだろうと思っていた。


「す、すげえ」

「分かったろ。まあ、アタシは自分に合わせた量に変えたから、この程度だけど、お前があれだけやればがっつり腹筋も割れ……おい、聞いてんのか」

「綺麗だな……」


不意打ちだった。いや、勿論腹筋のことしか言ってないとは分かってはいたけれど、分かってはいたけれど、嬉しかった。けれど、まだその気持ちは見せられない。アタシは、みえそうになるギザ歯を隠すため背中を向けることで精いっぱいだった。


その後、莉奈さんの美容院を紹介した小角は思いっきり坊主にしていた。

かわいくて滅茶苦茶触らせてもらった。

膝枕までして触りまくった。

小角は、髪以上になんだかすっきりした顔をしてた。

アタシは小角が抵抗するまでずっとその顔を見てた。


その後も、小角はアタシの教えたランニングとかも続けていた。

アタシは、自分のいつものコースを変えて、小角と一緒に走り始めた。

勉強も図書館で、小角と一緒に学んだ。

小角はどんどん、その、かっこよくなった。

前向きな小角はやばかった。

ちょっと心配になって美容院に行くという時もついていった。

小角は切られている間、莉奈さんと話をしていたが、いつもみたいに誤魔化すようなふざけた会話でなく、ちゃんと莉奈さんの欲しい話題や言葉を選んでいた。


「今日もありがとうございました、菩薩様」

「大原でございました、また来てね」

「ええ、今日も凄い楽しかったですし、為になりました。美人の話は飽きませんね」

「も~、おづのっちはおべっか上手になったねえ」

「いえいべっ……!」


蹴ってた。気づいたら蹴ってた。いや、コイツ変わり過ぎだろ。


「どした? なんかあったか?」


で、そんな蹴ったことも気にせず、アタシに真っ直ぐな目で聞いてくる。やめろ!


「なんでもない……」

「あらあら~、とらないわよ私旦那いるし~」

「……! と、とるとらないじゃなく! 小角が! 調子に乗らないよう戒めてんの!」


とるとらないじゃない。とるからな。アタシはとるんだ。今、アタシが一番……そのことを実感すると笑えてきた。そして、本当の姿に戻り始めているアイツが、笑っているのが嬉しかった。アタシは振り返ってアイツに


「イーだ!」


アイツは、こっちを真っ直ぐ、アタシを見てくれていた。アタシを。

で、笑ってたんで蹴った。


莉奈さんに指摘されて知ったのだけど、この頃くらいからアタシの言葉遣いが崩れてきてたらしい。昔みたいと莉奈さんは笑っていた。


春。四月。高校二年。

アタシは、ドキドキしながら登校した。

今日が目標の日と定めていた。

天羽にざまぁする日。そして、ざまぁ出来たとなれば契約が終わる日。

アタシは、モデルとしてのアタシ全開の、メイクも薄くし、髪も整え、登校した。

初めてモデルをやっていることを知らせる勢いで、学校に行った。

周りがざわつく。

それでもかまわない。このアタシはアイツの為に変わったアタシだ。

見たければ見ろ。

そして、アタシが教室に入ると、席が前後になった天羽と小角が向かい合っていた。

アタシが来るより早く勝負は始まっていたみたいだ。

天羽が、前かがみになって、だらしなく小角に話しかける。

小角は、そんなのに引っかからない。引っかからないとは分かっていたが、一応、一応、アタシは、ないなりの胸を小角の背中に押し付けて話しかけた。


「おい、アタシの下僕に手を出してんじゃねーぞ」

「はあ~、またあんたなの! き、ば……」


天羽はアタシを睨みつけたかと思うと目を見開いてそのまま止まる。何だ? ザ・〇-ルドか? 他の生徒たちは一瞬止まるが、すぐにざわめき始める。今度は男子も赤い顔をし始める。


「おい。いい加減胸を押し付けるのやめろよ、来馬」


うっすら赤くなった小角の耳に満足したアタシは、身体を起こし、小角の横に並ぶ。


「セクハラだな、小角」


あー、顔熱い。

けれど、ここまでの流れは悪くなかったようだ。

女子の奴らがパクパクしてる。これで下手に小角に近寄らないだろう。

アタシが一番近いってことを教えたから。

何も言わず俯いた天羽を小角は一瞥すると、少し悲しそうに笑った。

これで、全部終わったんだろう。

けれど、アタシの中では終わってない。


「テメエに変われるってことを教わったつもりだったが、結局テメエは変われてねえよ。あの頃のままだったな」


天羽はその言葉にびくりと震え無言のまま席についた。

アタシは……尊敬してたよ。好きな人の為にそこまで変われるアンタを。

アタシの言葉がどこまで届いたかは分からないけど、少し震える小学校でアタシが一番話をした女の子へのアタシの『ざまぁ』は終わった。


放課後。逃げようとする小角の首根っこを掴む。


「なんぞ?」

「いくぞ」


捕まえた。『ざまぁ』を達成してしまったということは契約終了のお知らせである。

けれど、それから逃げるわけにはいかない。

アタシは、バクバクする心臓を押さえながら、小角と一緒に屋上へと向かった。


「さて、では、契約はこれにて成立だ。報酬を貰うぞ」

「あ、ああ……」

「それは……」


アタシの計画はここまでうまく進んだ。あとは、あの時決めた報酬をもらうだけだ。

大丈夫だ。今のアタシなら大丈夫だ。そう言い聞かせ、アタシは小角に報酬の一つ目を告げる。


「一つ目は、その、な……名前で、呼びあいたい、んだけど……」


小角はめっちゃ顔を見てきた。今、見んな! 今!

熱い! 熱いぞ! 空調きいてないぞ! 屋上だからか! そりゃそうだ!

ダメだ! 最後まで伝えきれる自信がない。

とにかく、言おう! せめて二つ目までは!

何か言おうとする小角を制して、アタシは叫んだ。


「二つ目! 今度遊園地に連れていって! 週末空いてたら!」


もう無理だ! 熱い! アタシは返事はあとで何かしらで聞こうと立ち上がって去ろうとする。なのに、空気読めないクソ野郎が声をかけてくる。


「三つめは?」

「……ま、また、今度でいい。週末とかに」


なんで来てくれる前提なのよお! あたしい!

けれど、アタシにはそう願うしかなかった。来てくれると。

来てくれたら、一緒に行けたら、三つ目を伝える勇気が出てくるから。

鼻で笑うような音が聞こえた。おい。


「じゃあ、三つめはいいから、俺からもお願いあるんだけど」

「なに……? 内容によっては考える」


嬉しかった。お願いがあるということはそれを叶えるためにまた会えるから。


「あの、さ。晶」


おい。確かに、頼んだけど、いきなりはやめろ。しぬぞ。


「俺は晶のことが本気で好きなんです! 俺と付き合ってくれませんか!?」


……おい。いきなりはやめてってばあ。……泣くぞ。しあわせすぎて。

振り返らないと、振り返って返事を言わないと。

向かい合うんだ。アイツと。

アタシは、変わったから。


「伏人!」


アイツは笑っていた。

アタシも涙は出てるが、笑ってると思う。

どうだ、あんたの大好きなギザ歯だぞ。

でもね、アタシそのものの方が圧倒的に好きだって変えてやるからな。


お読みくださりありがとうございました。


ギザ歯女子流行って欲しい。

ギザ歯タグが盛り上がると嬉しいです!


また、ブックマーク登録や評価してくださった方ありがとうございます。

少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。

よければ、☆評価もしていただけるとなお有難いです……。


あわせて、あまりにもギザ歯熱が高まり過ぎて後日談を超不定期連載します! よければ。

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[良い点] ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔がかわいい! [一言] 大切なことを忘れた学校のアイドルはギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔にざまぁされた。 もお待ちしております。
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