☆98話 腹が読めない先輩、信頼関係と同盟、ポニテのバレーユニフォーム、元気の充電完了
※2023/10/11文末に壱良木京泉のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
ピンポン玉を拾ってくれた壱良木先輩。
片手には卓球ラケットが握られ、選択球技が卓球で確定した。
「貴方のピンポン玉、なんですよね?」
「あ、ありがとうございます!」
「いえ。北高の1年生ですよね」
聞こえなかったフリは無理の極み。
かえって怪しまれる。
「は、はい。い、1-Bの積木です。い、壱良木先輩も練習ですか?」
「ですね。前年度に引き続き、全力でやりたいので」
一緒に卓球場に向かう流れは、もう避けられない。
「あ、そうです積木さん。ここで会ったのも何かの縁ですし、3-Bと同盟を組みませんか」
「ど、同盟?」
初対面も同然なのに同盟を組むなんて、壱良木先輩の腹が読めない以上、簡単には頷けない。
「理由を聞いても?」
「えぇ勿論。今回球技大会で一番脅威になるだろう、凛道刹那さんの在籍する1-Aを止める為です」
「り、凛道さんですか?」
「えぇ、凛道さんは同世代にとって唯一無二の紅一点。その場に存在するだけで統率が取れます。ましてやクラスという閉鎖的空間なら、統率力は絶大です」
凛道さんが1-Aの為に頑張ろうとすれば、その頑張り姿が鼓舞となり、凛道さんの為に1-Aが頑張る。
最強の循環サイクルがあれば、優勝どころかMVPも独占されそうだ。
「最新情報によれば凛道さんは、芸能活動にも支障が少ない卓球を選んだそうです」
「な、成程」
「そして例年通りトーナメント方式が採用されれば、必ず1-Aと決勝で闘う事になります」
対戦相手は当日くじ引きで決まり、同盟同士がぶつかる事もあり得るそうだ。
その時は辻褄合わせし、来るべき1-Aや他の猛者達に備え、体力温存すればいいと。
また僕らのどちらかが決勝外で1-Aと闘う事になれば、負け覚悟で体力削りに徹し、託す事になると。
かなりの賭けになる上に、今のままだと同盟を組むメリットがあまり無い。
「その顔を見る限り、前向きではなさそうですね」
「ま、まぁ……」
「なので同盟を組んで頂ければ、各クラスの近況情報の提供を約束します」
実力があっても、いとも簡単に覆せてしまうのが情報の力だ。
現状、他クラスの動きを把握出来ずにいる。
何がなんでも情報は欲しい所だ。
「それに加えて、3-Bが総合優勝準優勝3位、いずれかを取った暁には、1-Bに譲ります」
「な!? さ、3-Bになんもメリットが無いじゃないですか!」
「いいえ。積木さんに言えないだけで、ちゃんとメリットがありますので、心配ご無用です」
一体何がしたいのか全然読めない。
ただ冷静に考えれば、こんなうまい話には必ず裏があるんだ。
「さぁ積木さん。握手を交わせば、同盟は誰にも知られず結べます」
壱良木さんの言う通り、周りに誰もいない今は、同盟を結ぶ絶好の機会だ。
しかし、ここまでの流れ全てが、壱良木先輩の思惑通りなら一旦保留にし、探るのも選択肢の一つかもしれない。
「すみません壱良木先輩。返事は後日じゃダメでしょうか」
「では、3日以内に直接会って聞きたいので、決まり次第場所日時を知らせて下さい」
「分かりました」
連絡先交換を終えた壱良木先輩は、期待してますと言い残し、卓球場へ向かった。
ホッと肩の力が抜けるも、逸早く大米さんに連絡を取った。
♢♢♢♢
「という事がありまして……」
『偶然にしては出来過ぎだね』
休憩ホールの隅っこで、大米さんにビデオ通話で報告したところだ。
『仮に同盟メリットを出しに、ウチらを利用するなら、ウチらも利用するまでだね』
「目には目を歯には歯を、って事ですか?」
『うん。ただ情報源が壱良木先輩なら、都合の良いように操作も出来るだろうから、要注意ではあるけど。それに厄介なのが、真実の中に嘘を混ぜられる事だね』
「嘘を混ぜる? そんな必要あるんですか?」
『リーダーは100%純粋な真実って、逆に不自然だと思わない?』
「う、うーん……確かにそうかもしれないです」
『でしょ? 同盟で重要なのは信頼関係。ウチらと壱良木先輩には現状信頼関係は全く無いからね。余計に100%の真実なんて信じられないんだよ』
0からの信頼関係で同盟を結ぶのは、よっぽどの自信がないと無理な話。
一応真意を知るのに、同盟を結んで探り出すのも視野に入れておかないと。
「とりあえず同盟を結んで、壱良木先輩達の出方を窺うのがいいかと思います」
『そうだね。利用する素振りを見せたら、あえて乗ってみせれば、ボロが出るかもしれないし』
「大米さんの考える、3-Bのメリットはなんだと思います?」
『そうだね……単体のMVPは考え難いかな』
「やっぱり総合優勝準優勝3位のいずれかですかね?」
『かもね。ただ、各球技の総合勝率で決まるなら、1-B以外と同盟を結んでてもおかしくないんだよね』
卓球だけ優勝しても、他の球技が勝率が芳しくなければ元も子もない。
だからこそ壱良木先輩と同じ同盟話を、他クラスに持ち掛けてる可能性はなくはない。
『同盟も口裏合わせれば、バレないだろうから、ウチらも惑わされない様にしないとね』
「ですね」
『それじゃあ、リーダーの意見通り、同盟を結びつつ出方を窺うって事で』
「了解で」
「そんな隅っこで何してるんだ、洋」
「ひょっす?! み、峰子さんでしたか……ほっ」
普段見慣れてる峰子さんと違い、ポニテのバレーユニフォーム姿だった。
一瞬反応に遅れるも、新鮮なお姿に見惚れてしまってる。
「ん? 桐子とビデオ通話してたのか?」
「へ? あ、ですです」
『お疲れ様、義刃さん。バレーはどんな感じ?』
「順調だ。むしろ怖いぐらい意欲的で心配だが、フォローはしてる」
『なら安心だね。それじゃリーダー、義刃さん。無理せず頑張』
「待ってくれ桐子。ちょっと提案があるんだ」
背後にいる峰子さんと場所交代しようとしたら、腕絡みで固定された。
『それで提案って?』
「あぁ。ざっと個々の力量を観察したんだが、基礎体力が心許ないと感じた」
『1-Bは体育会系少ないし、大半がこっち側にいるからね』
「そこで提案なんだが、私の父が経営するジムに通えば、短時間で効率良く、基礎体力改善が出来ると考えた」
『うん。ジムなら確かに解決しそうだけど、人数もそれなりにいるでしょ。迷惑にならない?』
「ジム内に団体用のスペースがあるから、数十人来たところで問題ない」
『なるほどね。義刃さんの提案は良いと思うよ。ただスケジュール配分が心配かな』
ジム通いすれば、その分負担が増える。
スケジュール配分を誤り、オーバーワークになれば本末転倒だ。
「対象者はあくまで私の主観だ。本人が望まないのなら無理強いしない。スケージュール配分も話し合って決めるつもりだ」
『義刃さんなりに考えてるならいいけど、リーダーはどう』
信頼できる峰子さんの提案自体は、勿論賛成だ。
クラスリーダーの立場上、簡単に了承出来ない。
だからこそ見極めの機会を設けるんだ。
「まず試験的に、土曜か日曜にジムで実施して貰って、判断するのもアリかと」
『実際体験すれば、自分の現状を知れるもんね。ウチもリーダーに賛成だね』
「私も洋の意見を採用したい」
『じゃあ、あとは義刃さん達に任せても大丈夫だね』
「あぁ、ありがとう桐子」
『いえいえ。こっちでも話しておくから、対象者が増えるかもだけど』
「分かった」
軽く挨拶を済ませ、大米さんとのビデオ通話を終えた。
壱良木先輩との同盟話は、このまま進めて問題ないから、卓球場に戻らないと。
「あのー峰子さん? そろそろ戻らないとなんで……」
「む。ずっとこうしておきたかったが仕方がない」
ゆっくり腕絡めが離れるも、今度は正面から胸埋めハグをされた。
「んぐ?!」
「……ふふっ、やっぱりこうすると元気が出るな……よし、充電完了」
「ぷふぁ?! び、びっくりした……」
「2人きりだとどうしても抑えきれなかったんでな、すまない」
「み、峰子さんが元気になってくれるなら、お安い御用ですけど」
「……もう一回してもいいか」
「むぐぅ?!」
間髪入れずの二度目は加減を知らず満足する数分間解放されなかった。
その後、ホクホク顔の峰子さんと別れ、卓球場で壱良木先輩と同盟を結んだ。




