☆97話 頼りになるサブリーダー、脱力系マイペース女子、想定外の親切な人
※2023/10/13文末に大米桐子のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
新学期から数日。
僕は早くも慣れないリーダーシップに右往左往してた。
愛実さん達に助けがあるとは言え、やる事がそれ以上で、更には勉強との両立だ。
天羽先生のプランもまだ本格的に始まっていないのに、へばってしまうなんて情けない限りだ。
兎に角今はホームルームが始まるまで、頭の中を整理して、軽くリフレッシュだ。
「お疲れ様、リーダー」
「あ、大米さん。おはようございます」
「うん、おはよ。バイトの件だけど、融通利いてくれる事になったよ」
「! じゃあ!」
「うん。今日から先代さん達にお願い出来るかな?」
「了解です!」
ご家族の了解とバイトの融通の件で、大米さんは参加出来てなかったけど、今日から大丈夫そうだ。
先代生徒会の皆さんに早速連絡し、今日の放課後にでも大米さんと会い、交代制でお手伝いしに行ってくれると、返事が来た。
そして大米さんがサブリーダーに指名された理由は、昼休みに判明した。
いつも各々が教室から移動したりするのを、大米さんが声掛けで留め、今の内に話しておきたいこと語り始めた。
「まず各球技の経験者は初心者にわざわざ合わせず、お手本になって下さい。そして適宜改善点を指摘し、模擬戦も随時取り入れ、実戦に少しでも慣れさせるようにお願いします」
「質問いいか大米さん」
「どうぞ赤鳥君」
「経験者がいない種目の場合、どうすればいいんだ?」
「宮内先生が重点的に就いてくれる事になります。球技全般の他に、運動系のものなら大体こなせるそうなので、安心して貰っても大丈夫ですよ赤鳥くん」
「折角の差を付けるチャンスだし、放課後以外でも頑張っちゃっていいよね♪」
「経験者ならまだしも、初心者の慣れない内のオーバーワークだけは絶対に避けて下さい。疲労が蓄積する度にパフォーマンスが低下し、その分回復時間も掛かるので、むしろ悪手になります。なので体が慣れるまで、練習時間は部活動時間と同等に留めて下さい、竹塔さん」
「練習場が使えない場合はどうするんだぜ?」
「総理事長の計らいで、北高近くの総合体育館が使用可能ですが、事前申請は必要なのでウチらに一声掛けてくれれば大丈夫ですよ、風渡さん」
僕がフォローするまでもなく、痒い所に手が届く説明をした大米さんは、まとめ上げる能力に秀でてるっぽいんだ。
恐らく8人兄弟の面倒を見て来たからこそ成せる技に違いない。
天羽先生はその秀でた能力を見据えて、サブリーダーに選んだんだ。
ただ天羽先生が、大米さんのお家事情を考慮し、クラスリーダーは無理だと判断したんだ。
そんな中で宇津姉の助言で、僕がクラスリーダーに推され、天羽先生はこう考えたんだと思う。
何かと顔の広い僕なら、大米さんのお家事情を考慮した解決策があると踏んで、そのまま大米さんをサブリーダーとして抜擢する事にしようと。
実際、こうして上手く事が運んでるんだ。
天羽先生の采配は最適だったんだと、勝手に思ってる。
一通り説明し終えた大米さんのお陰で、クラスメイトの球技大会に対する気持ちが、より強まった気がした。
「ウチからの話は以上です。ウチは実技自体には疎いですが、今回の様なアドバイスならいつでも可能ですので、何かあればよろしくお願いします」
「よっ! サブリーダー! 頼りになるぜ!」
「桐子ちゃんも私達に頼ってね♪」
「赤鳥くん、竹塔さん。ありがとうね。こうしてウチがサブリーダーとして役立てられてるのは、リーダーのお陰だからね」
「やるなー! 積木リーダー!」
「流石積木君だね♪」
最後には僕に花を持たせ、大米さんは一歩下がって、空気を沸き立ててくれてる。
サブリーダーの器じゃ勿体無い、リーダーの器が大米さんにあるんだと、つくづく実感した昼休みになった。
♢♢♢♢
放課後、クラスメイト数十人と総合体育館へとやって来た。
目的は勿論、球技大会に向けての練習だ。
大米さんは北高に残り、もう半分のクラスメイトの指導を執る事になってる。
連絡先は交換済みだから、お互いの練習状況を報告し合い、良し悪しを早急に確認出来る。
天羽先生と宇津姉も、ひと段落したら練習場に来てくれるそうで、それまでにウォーミングアップや軽い練習を済ませておくんだ。
「おっほー! いつ来ても広々して綺麗な所れふな~」
「あれ? 黄坂君来たことあるの?」
「妹の柔道大会の応援で、何度か来てるんれふよ~」
「なるほどね。そういえば妹さんって県大会でも優勝してるんだっけ?」
「れふね~目標は全国ベスト8入りれふから、今日も部活を頑張ってるれふね」
黄坂君の妹さんとは実際会った事は無いけれども、勉強会合コンの時に風邪を引いたと聞いて、お見舞いのお菓子を黄坂君伝いに渡してる。
今日も部活動に励んでるのなら、あれから体調不良にならず元気にやってるって事だ。
そんな近況話やらを交えて、更衣室で体育ジャージに着替え、一度皆と休憩ホールに集合した。
「では、これから2-3時間、各球技ごとに別れて、チームリーダーに従い練習を始めて下さい」
やる気満々な返事をする僕らサイドは、室内球技のメンバーになり、それぞれのチームリーダーが決まってる。
バスケは黄坂君、バレーボールは峰子さん、バドミントンは夢望さん、そして卓球は僕になってる。
詰み体質上、男女混合の集団球技は逃げ場のない、時間制限付きの詰み場になるんだ。
つまり個人戦の卓球か、バドミントンしか選べなかった訳だ。
そんな卓球メンバーは美術部の美鼓心菜さん。
吹奏楽部の鈴木爽さん。
風紀委員の馬蝶林野乃花さん。
僕の4人とで卓球場へと向かった。
「えーまずは準備運動からしましょう」
「ほーい」
「怪我をしない為に入念にしないとだよね!」
「ラジオ体操が適任だわ。音声付きか映像付きか、どちらがいいかしら?」
「じゃ、じゃあ音声付きで」
馬蝶林さんがスマホから音声を流し、準備運動を開始。
ほぼほぼ初対面に近い3人は、ラジオ体操の動きで個性はなんとなく分かって来た。
脱力な動きで別な事を考えてそうな、マイペースな美鼓さん。
ハキハキと大きな声でキビキビ動く、真面目な鈴木さん、
大変にぎこちないロボット動きでも、クールな表情を崩さない馬蝶林さん。
色んな意味でバランスの取れたメンバーに、リーダーシップを執れるかは、正直に言って自信はあまり無い。
それでも、僕にしか出来ない事で頑張らないと。
準備運動後、早速卓球台に一対一で向き合い、ラリー練習に。
僕を含めた4人は、お遊び程度の実力だ。
まず慣れる事を優先してる。
「いくよ積木くんリーダーほーい」
「よっ!」
「ほほーい」
「ほっ!」
「ほっほーい」
声も動きも脱力系な美鼓さんは、意外にも正確なラリーが出来てる。
ただスタミナ消費を避けたいのか、必要最低限の範囲でしか動かず、ライン側を攻められるのが弱点になってる。
「ほっほほいほーい」
「あ!」
「ドンマイドンマイ。てか、20回も続いたら上出来じゃない?」
「で、ですかね?」
「うん。ワタシ人と合わせるの苦手な方だけど、歩の言ってた通り、積木くんリーダーとなら大丈夫」
「歩って、生天目さんの事ですか?」
「同じ美術部のダチトモだから、色々話だけ聞いてた」
生天目さんとはサバブラ関連の話が大半だから、美術部の事はほぼほぼ知らなかった。
言われてみれば美鼓さんと空気感は似てるような気がする。
「って事で、サーブやってもいい?」
「え」
「そーれ」
「わ!?」
「あ、ごめん」
「だ、大丈夫です! 取ってくるんで待ってて下さい! あ、逃げてる!」
サーブの勢いのまま、コロコロと卓球場の外まで逃げ転ぶピンポン玉を、すぐに追い掛けるも、一瞬で姿を見失った。
「ピンポン玉……どこに行ったんだろう……」
「これ貴方のですか?」
「へ? あ、ピンポン玉! ありがとうござ……」
手の平にピンポン玉を乗せ、声を掛けた人に、感謝の言葉が自然と途切れた。
ピンポン玉を拾ってくれた親切な人こそ、前年度MVPの壱良木先輩だったんだ。




