93話 豹変する入れ替わりっ子達、圧倒的なフォロワー、個性豊かな得意料理
2・3問目もオリヴィアさんが正解し、皆の焦りがどんどん増して、凡ミスも目立って来た。
「4問目、趣味の町ブラで」
「ハイ。森迫町だな。モーニングコール時に行くと言ってた」
「まだ出題が終わってません宵絵さん」
「な、なんだと!?」
「お手付きですので、今回の問題は答えられません」
「くぅ……」
「続きを言います。最近行った森迫町にある、甘味処で食べたスイーツは何でしょう」
「はい。苺たっぷりのショートケーキだな」
「違います」
「ぐっ」
「はい! 分かったよ! 時期と好みを察するに、夏みかんシャーベットだね」
「おしいです!」
「ふみゅ!?」
「ハイ! もしかして夏みかんジェラートですか?」
「せ、正解です」
ついに4連続正解の王手まで迫った。
強運か、奇跡か、それとも必然か。
オリヴィアさんの優勢を崩すには、残りの出題を答えるしかない。
♢♢♢♢
オリヴィアさんの連続正解のまま最終問題。
正解を1つでも勝ち取りたい、確固たる意志を感じながら、出題した。
「最後の出題です。最近観たリバイバル映画のタイトルは何でしょうか」
最後らしく難易度はかなり高めだ。
リバイバル映画は、渚さんに連れて貰った『雨宿りな2人』。
上映期間も終わっているから、正解は無理かもしれない。
「ところで洋くん。その映画って1人で観たの?」
「え、ど、どうしてそう思うんですか?」
「最新映画なら1人で行くのは分かるよ。でもリバイバル映画って、思い立っただけじゃ普通行かないもん」
「千佳さんの言う通り。感化されたか、誘われたか、いずれにしても第三者の介入があり得そうだな」
第三者介入という可能性に、皆の目付きが豹変。
詰み経験上、今の流れは非常にまずい傾向だ。
「おやおやおや? 明らかに動揺してるね! これは黒じゃないかな!」
「へぇ……積木さんと映画を見る人って、誰なんだろうね……私達の知ってる人なのかな?」
「同性ならここまで顔色は変わらないだろうから、相手は異性で確定だな」
「ようくんは私達にめぐみさんが想い人だと話してくれたので、相手がめぐみさんなら濁す必要は無いです! つまり他の異性である可能性が高いです!」
「洋ちんと同年代の子が、リバイバル映画を観てる可能性は低いよん。よっぽどの映画好きか、リードの出来る歳上か、映画とかに携わってる関係者か、どれにしても洋ちんと映画デートした事は変わらないよん」
追い詰められる犯人の気持ちが、今なら嫌って程分かる。
座っていた皆が、今にもテーブル越しに身を乗り出しそうで、重圧にも押し潰されそうだ。
喋ってしまえば楽になれる。
ただ、渚さんとの関係をバラすぐらいなら、このまま皆に押し潰されても構わない。
覚悟を決めた時、時貞さんの声で我に帰った。
「はい時間切れです。9問正解したオリヴィアさんの1位になります」
「「「「「「え?」」」」」」
「何驚いてるんですか? 解答時間は1分だと自分達で決めてたじゃないですか」
「「「「「「わ、忘れてた!?」」」」」」
時貞さんに救われ、事なきを得た。
オリヴィアさんの1位はこれで3つ目。
一体どんな結末になるのか見届けないと。
♢♢♢♢
「3種目の認知度魅力は、どれだけ周りに認知されてるかを可視化するものだ」
「まずは連絡認知度です。身内以外の連絡先から10名を選び、共通の簡潔な質問を送り、制限時間5分内にいくつ返事が来るかを競います!」
「残り制限時間、質問返しが加点対象だよ」
「洋、私達が10人選んでる間、文章を考えてくれ」
「りょ、了解です」
考えること数分、お互いに準備が完了。
「えー共通質問は、あなたの好きな食べ物は何ですか、です」
「それでは皆さん、一斉に送って下さい」
各々文章を打ち込み、10名に送信。
連絡認知度は、結果的に峰子さんが1位を勝ち取り、2位は宇津姉、3位は千佳さんになった。
「次は認知数だよん。自分のやってるSNSの中で、一番フォロワー数の多いもので順位付けするものだよん」
「しかし、オリヴィアさんの圧倒的なフォロワー数に勝ち目がなく、順位付けするまでもなくオリヴィアさんの勝ち星となってる」
「ミリオン越え相手は流石にね。色んな意味で鳥肌立っちゃうよ」
「えへへ~照れちゃいますね~♪」
オリヴィアさんを除けば1位は千佳さん、2位は峰子さん、3位ひーちゃんだった。
認知度魅力でも結果的にオリヴィアさんが1位を1つ取った。
逆転劇は無理でも、皆の決意表明は最後までしっかりと受け止める。
♢♢♢♢
「4種目の家庭魅力は、一品ずつ得意料理を洋君に振る舞うものだ」
「食材の買い出し時間、材料費、調理時間、出来栄えなどの家庭的な面を重視した、加点減点方式になる」
「えっと……一斉に作るにしても場所がないですよ?」
「道場に簡易キッチンをセッティングするから大丈夫! ちゃんとお祖母ちゃんの許可も取ってるからね!」
「そ、そうなんだ」
人数分の長テーブル、ガスコンロ、調理道具一式がセッティングされ簡易キッチンが完成。
水洗い場や家電はキッチンのを使うそうで、洗い物は少し大変になりそうだ。
「それでは家庭魅力、スタートです」
時貞さんのスタートで、一斉に道場を飛び出して行った。
買い出しと調理も合わせたら、しばらく時間が掛かりそうだ。
時間の有効活用で、時貞さんに柔軟運動をサポートしながら待つ事にした。
♢♢♢♢
スタートから1時間半。
皆の得意料理が完成した。
クリームシチュー、卵焼き、肉じゃが、温玉シーザーサラダ、チーズハンバーグ、寿司、オムライス。
大テーブルに並ぶ個性豊かな7品に、お腹が声を上げてる。
「さぁ洋君。私達は静かに見守るから、心行くまで堪能してくれ」
どれから手を付けるかも、食べる姿も、全部見られるのは流石に食べ辛い。
それに丹精込めてくれた料理を、僕1人で先に食べるなんて、いくら順位付けでも申し訳ない。
「あ、あのー……順位付けもするんで、一緒に食べませんか?」
「折角の大人数だもんね! 皆で食べた方が美味しさ倍増だもんね! よーし! 洋の隣に座っちゃおう!」
「「「「「あ!」」」」」
「oh! では私は反対側に座りますね!」
「「「「「あぁああああ!?」」」」」
両サイドを狙いに皆が一気に押し寄せ、もみくちゃに。
最終的に交代交代で落ち着いた。
それからの家庭魅力は、仲睦まじい食事とあーんの連続で、賑やかで楽しいものになった。
肝心の順位は、1位芽白さんの卵焼き。
2位肉じゃがのひーちゃん。
3位オムライスの宇津姉、という結果に。
最終的な総合順位は、堂々の1位オリヴィアさん。
2位芽白さん。
3位宵絵さん。
峰子さん、千佳さん、宇津姉、ひーちゃんとなった。
決意表明が完了しても、これからの事はまだまだなんだ。
それでも今日というは、なんだかんだでいい思い出になった。




