91話 ブロンド美女とキャラ被り、不可避詰み、触れる21分間の身体魅力
4種目魅力の準備から早数分。
オリヴィアさんのお手製アイマスクを着けられ、道場の端で待機中だ。
聞き取れる限り、準備に手間取ってる感じだ。
いつ始まるか分からない以上、心構えだけは整えて待機中だ。
「これは何事だよん、洋チン」
「あ、ひーちゃん。実は僕にもサッパリで……」
「そうなのねん?」
ひーちゃんが来たなら、時間は約束の8時だ。
「ところでアイマスク放置プレイなのかい?」
「プレイではないけど、外しちゃダメらしいんだ」
「ほほーん……誰も寄り付いてない今なら、好き放題という訳ねん」
「その代わり宇津姉呼んじゃうけど」
「や、やめとくよん」
流石のひーちゃんも天敵の根城じゃ、迂闊に手出しできないご様子。
潔く諦めて隣に座り、身体を軽く預け、肩に頭を乗せて来た。
「そういえば、入れ替わりっ子の皆が来るの知らなかったの?」
「そうねん。まったく……連絡の一つでもして欲しかったよん」
あくまでも今日は、入れ替わりっ子の4人が決めた事なんだ。
ひーちゃん達の助力無しで、真っ向から向き合わないと意味がないんだと、4人の気持ちを聞けた今なら分かる。
それでも関係の深い仲には変わらないから、連絡はしても良かった気がする。
「お! 向日葵! 来てたなら声掛けてよ! 今お茶とか用意するから待ってて! あ、オリヴィアと話し合いするんだっけ? だったら2人分必要だね!」
「お、お構いなく」
「いいのいいの! 気にしないで! ドンとお姉さんに任せて頂戴! 洋ももうちょっと待っててね! 皆、中途半端のままやりたくないから時間掛かっててさ!」
「う、うん」
「その分ご期待に沿える筈だから、それまでお楽しみにね! よーし! もういっちょ一肌脱いじゃうぞー!おー!」
聴覚だけで宇津姉がどんな顔をしてたのか、どんな動きをしてたのか、手に取るように分かる。
「ねぇ洋チン。オリヴィアさんって、そこで手伝ってるブロンド美女さんなのかよん?」
「そうだけど……やっぱり直接オファーに緊張してる?」
「そっちは平気だよん。ただ……本物を目の当たりして、かなりキャラ被りしてるなーって、つくづく実感しながら嫌な汗が伝ってるのよん」
2人が隣に並べば、ブロンド美人姉妹として通じると思う。
ただ当の本人がキャラ被りだと実感してるなら、話は別だ。
気の利いた言葉を言えるか分からないけど、僕にしか言えない言葉を伝えておきたい。
「上手く言えないかもだけど、境遇とか色んなものは違っても、似てたら気にはなるよね」
「そうだねん。ハーフだから外国人、みたいに一括りになるのは仕方がないけど、キャラ被りは優劣で比べちゃうんだよん」
「オリヴィアさんは若手女優で有名人だから、余計にかもね」
「うん……だから自分が劣化版に見えるんだよん。洋チンもそう思うでしょ?」
「ううん。優劣にしてもキャラ被りにしても、どんな相手だろうと、僕が一緒にいたいのはひーちゃんだから、そうは思わないよ」
「洋チン……」
比べたくなくても比べてしまう。
誰しもが経験する事だ。
割り切って納得するだけで、納得したい訳じゃない。
それでもその人に寄り添いたい気持ちがあれば、僕は偽善的に思われても構わない。
「なんかあやふやで曖昧な言葉でごめんね」
「そ、そんな事ないよ。誰でもない洋チンの言葉だから、こうして心がホッと安心出来たんだよ? だから、ありがとうだよ洋チン♪」
嬉しそうにギュッと腕を絡ませ、身体を密着させてきた。
僕の言葉が正しいか正しくないかは、正直分からない。
きっと自分のエゴでしかないけど、それでも言わない後悔だけはしたくなかったんだ。
「やっぱり洋チンを好きで良かった♪」
「い、いつもの口調忘れてるけど、いいの?」
「今はイイの♪」
少なくても今のひーちゃんの声色を聞けば、間違ってなかったって思える。
♢♢♢♢
待ちに待つこと更に数十分。
準備がようやく整い、道場の中央で椅子に座らされた。
アイマスクでどうなってるか分からないけど、緊張で空気が張り詰めてるのは分かる。
「長らくお待たせしたね。洋くんも心の準備は出来てる?」
「い、一応は」
「なら安心だ。私達の決意表明をしっかりと受け止めてくれ、洋」
「が、頑張ります」
ポンと肩に触れた千佳さんと峰子さんも、だ緊張してるのか、手が若干強張った感じがした。
緊張してるのが僕だけじゃないと分かり、緊張が少し解れた気がする。
「えー第一種目の身体魅力は、アイマスク着用のまま執り行います」
「あ、はい」
「そして聴覚も音を流したイヤホンで封じる」
「み、耳もですか?」
詰み体質の経験的にも、今回ばかりは不可避詰みだって言ってる。
「肝心の内容だが、各々3分間、洋君に身体を触れて貰い、誰が良かったか順位付けして貰うものだ」
「ふ、触れるんですか?!」
「総意の上だから心配無用だぞ、洋」
「む、むしろ今までの分を含めたら……ふ、触れて貰いたいもん……」
触れられないなんて言えば、皆の決意表明が台無しになる。
それだけは絶対避けたいのに、どうしても葛藤してしまう。
「もし触れるのを躊躇えば、時貞さんが誘導アシストするからね」
「という事なので、率先して触れに行って下さい、マイマスター」
「ひゃ、ひゃい」
計12分間、美女4人の身体に触れる事が決まった。
乗り越えるには無となり、直感を信じ、順位を付けるのみ。
「あとは勘繰られない為に、宇津音姉さんとオリヴィアさん、向日葵も参加する」
「え」
「よろしくです! ようくん!」
「皆とても良い身体だけど、私もそこそこ自信はあるからね! 洋もきっと納得できると思うよ! ふっふーん!」
「沢山触れて貰えるなんて最高だよん♪ ハァハァ……」
プラス9分の計21分間に延長。
始まってすらいないのに、手汗が尋常じゃない。
「嗅覚での判断対策として、事前に同じ匂いのするシャンプーとボディーソープを使ってるよ」
あの時、皆が脱衣所にいた理由だ。
もはや触覚の順位付けは絶対だ。
「以上が身体魅力の説明です。積木さんから質問はある?」
「な、無いです」
「それじゃイヤホン渡すから着けてね」
手渡されたイヤホンを着け、姿勢を正した。
皆は元々魅力的な女性だ。
優しく丁重に触れるのを全力で心掛けよう。
「ポンポンと2回触れるのが、3分経った合図になるよ」
「わ、分かりました」
「それでは身体魅力を始めます! ミュージックスタート!」
時貞さんの手で音楽が再生され、外音がシャットアウト。
激しめのビートと心臓が徐々にリンクする中、誰かに跨がれて座られた。
初っ端から対面式なんて全く想定してない。




