90話 入れ替わりっ子の重なる肌色景色、決意表明、自分勝手な想い、4種目の魅力
道場の中央で僕は、入れ替わりっ子の4人に土下座していた。
「この度は申し訳ありませんでした! 気が済むまで煮るなり焼くなりして下さい!」
「か、顔を上げてくれ洋」
「じ、事故だから仕方がないよ」
「ちょ、ちょっと恥ずかしかったけど……も、もう気にしてないよ?」
「ということだ洋君。綺麗さっぱり水に流してくれ」
懐深いお許しを頂けても、肌色景色が焼き付いてる以上、顔を上げられない。
「まぁまぁ! 真摯な態度も大事だけど、4人の気持ちを無下にしちゃダメだよ! 洋! あ、もしかして、まだ顔見るの恥ずかしい系? だったらお姉さんが手伝ってあげよう! それ!」
「わ、ちょ?! う、宇津姉……あ……」
いとも簡単に体を起こされ、目の前で正座する4人が視界に入った。
私服姿が肌色景色と重なり、顔が一気に熱帯びて、真っ赤になってるのが分かる。
「う、宇津音お姉さん。よ、洋が死にかけてるような……」
「だ、大丈夫?!」
「あわわ……ど、どうしよう……」
「私達が脱衣姿に見えてるのなら、視界を塞いだ方がいいかもな」
「おぉー! なるほ! ほんじゃ私が塞いどくから、もう安心していいよ! 洋!」
宇津姉のハンドアイマスクで、どうにか落ち着いた。
少しでも肌色景色を忘れるよう、尽力しないと。
「お、落ち着いたか洋?」
「は、はい。なんか色々とすみません……」
「謝らないで。私達がいるって知らなかったんだもん。洋くんは悪くないよ」
「あ、あれ? い、言われてみれば……う、宇津音お姉ちゃんが、私達が来るのを積木さんに伝えてる筈じゃ……」
「まさか宇津音姉さん。洋君に言ってなかったのか?」
「いや~普通に忘れてたよね! でも、こうして集まれたでしょ? だから大目に見てくれると嬉しいかな?」
何はともあれ、4人が揃ってる貴重な機会だ。
伝えられなかった想いを、今日伝えるんだ。
「確かに場所と機会を設けてくれたんですから、宇津音お姉さんには感謝してもしきれないです」
「み、峰子! あとで昔みたいに沢山よしよししてあげるからね! それとも膝枕でお昼寝でもする? 私はどっちでもいいよ!」
「あのー……僕が入れ替わりっ子を知ったから、集まったんですよね?」
「うん。だから決意表明をしに来たの。今度はありのままの自分として、洋くんに想いを伝える為のね」
あの時からずっと想い続けてくれてるんだ。
だから4人の決意表明の前に、僕からも伝えないといけない言葉がある。
「決意表明の前に、少しいいですか?」
「勿論だ。さぁ聞かせてくれ洋君」
「はい……峰子さん、千佳さん、暗……芽白さん、宵絵さん。まずこれだけは言わせて下さい……いままで想い続けてくれて、ありがとうございました」
入れ替わりっ子として過ごした日々への感謝。
想い続けてくれた感謝を数年越しに伝えられた。
これで一区切りつけるなんて、自己満足以外でしかないけれど、大事なのは目の前にいる4人と向き合う事だ。
「僕は皆と再会しても、当時の事を全く思い出せませんでした」
「入れ替わりっ子をしてたんだ。無理もないんじゃないか?」
「だとしても、面影が重なってもおかしくないのに、僕にはそれすらなかったんです」
大事な思い出なら尚更、ふとしたきっかけで全部思い出す事もある。
でも、僕の場合はそうしたくなかったんだ。
「きっと皆とお別れするのが、寂しくて辛くて受け入れられなくて、こんな思いが続くなら、いっその事忘れてしまえばいいんだって、無自覚でそうしてたんだと思います」
そのまま詰み体質を言い訳に、記憶の奥へ奥へと追いやって、思い出ごと忘れるのを望んだんだ。
無自覚だったとしても本当に自分勝手だ。
「結局僕は自分の事しか考えてなかったんです」
「積木さん……」
「本当に僕は酷いヤツな」
「それは違うぞ洋君。それだけ私達を大切に想ってくれてたんだろ。例え誰が何を言おうと、洋君が認めたくなくても、君が変わらずにいてくれた事実は確かだ」
自分がどれだけの人間なのか。
まだ言える筈なのに、言葉が口から出てくれない。
前から認めたかったのに、そんな自分でいるのはもうダメなんだ。
「……宵絵さん達は、変わらない僕でもいいんですか?」
「あぁ。変わろうと変わらなかろうと、きっと私達はまた洋君を好きになれる。だから洋君、君の想い人が誰であろうと、私達は受け入れられる」
僕の想い人は、この場にいる誰でもない。
それでも受け入れられる宵絵さん達に、僕の口から言うしかない。
それが今まで認めたくなかった僕の決意表明なんだ。
「ぼ、僕は……瓦子愛実さんが好きです……」
「み、皆の想いを知っても、愛実さんに対する想いは変わりません……」
「だからといって、皆と向き合わないなんて真似はしません。本当にわがままで、自分勝手で、都合の良い考えです。でも、これが僕に出来る事なんです」
声が震えて全部言えたかも曖昧な未熟さだ。
皆がどんな風に受け止めてくれたのか、視界がゆっくりと解かれた。
「洋の想い、しっかりと受け止めた。愛実が相手なら手強いな」
「やっぱり愛実ちゃんが恋敵か……負けられないね」
「瓦子さんの情報収集しないと……」
「洋君。君の決意表明を聞けて良かった。お陰で私達のやる気は満ち溢れてる」
「あ、え?」
想像してた反応と違い、放たれる本気空気が肌身に伝わってきてる。
「洋。今までは色々と遠慮してたが、今後は手加減しないからな」
「滅茶苦茶アピって振り向かせるから、覚悟してね」
「私もご期待に沿えるように、一生懸命頑張るから!」
「そういう事だ洋君。次は私達の決意表明の時間と移ろうか」
「は、はい!」
僕の決意表明は受け止められたって事でいいのかな。
若干拍子抜けな状況下で、4人は何やら手早く準備に取り掛かっていた。
「私達の決意表明はズバリ、身体魅力・頭脳魅力・認知度魅力・家庭魅力の4種目魅力を、洋君に判断して貰う事だ」
「???」
「それと時貞さんだったか。審判役を頼みたいんだが、どうだろうか?」
「よく分からないですけど構いませんよ」
「ワタシも微力ながら協力します! ふんす!」
「オリヴィアもやる気満々じゃん! 事前に話聞いて準備したけど、思った以上に面白そうだね! よーし! 宮内道場全面協力の下、どんちゃん騒ぎしまくっちゃって!」
詰み体質と4種目魅力、正直嫌な予感しか過らない。




