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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
13章 買い出しと1on1お料理教室
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88話 大人の色気プラスα、バスタオル姿で両手に花、素肌視界封じ、好きな人と隣

 雷雨が止まないまま数十分。

 スマホで天気予報チェックするも、夜まで止まないらしい。


「雷さえ止めばいいんだけど……」

「あばばば……」

「ひぃいい……」


 愛実さんと花音は会話も無理なままだ。

 一応身動きが出来るように、左腕と足上に移動して貰ってる。

 左腕に抱き着く愛実さんを優しく擦ったり、猫のように蹲る花音の頭を撫でたりと、安心させて傍にいるのが役目だ。

 ただ、そろそろトイレに行きたくなってきたんだ。


「あのー……トイレ行ってもいい?」

「置いてかないで!」

「一緒じゃないと無理っす!」

「え、えぇ……」


 ギュッと力を込め、離れるのを頑なに許してくれない。

 ここで選ぶ選択肢は3つ。

 強行突破でトイレに駆け込む。

 限界寸前まで我慢する。

 トイレ前で待って貰う。

 

 選ぶとすれば我慢だろうけど、もって1時間が限界だ。


 トイレの事を考えないよう、深呼吸で集中を高めてる時、玄関扉の開く音が聞こえた。

 瓦子家の誰かが帰って来たんだ。

 1人分の足音がリビングに近付き、扉を開いた。


「愛実。誰か遊びに来……花音と少年だったか」

「お、お邪魔してます! 小乃美(このみ)さん!」


 愛実さんの実姉小乃美さんが、濡れた姿で帰って来た。

 シンプルな服装が抜群のスタイルにピッタリ張り付き、大人の色気がプラスαしてる。

 そんな小乃美さんは一目で状況把握したのか、僕に視線を合わせた。


「少年、そのまま2人を連れて風呂場までこい」

「え、小乃美さんが連れてけばいいのでは……」

「どうせ暇だろ。任せたからな」


 そう言い残し、リビングを出て行った小乃美さん。

 兎にも角にも、2人がどうにかなるなら連れて行くしかない。

 聞く耳は立てていた2人は僕にしがみ付き、チビチビ足取りでお風呂場まで着いて来てくれ、トイレにも余裕で間に合った。


 ♢♢♢♢


 2人を託して30分程。

 リビングソファーでポツンと座ってると、今日一の特大級雷が鳴った。

 停電程じゃないけど、雷が苦手な人なら腰を抜かしそうだ。


「少年! 2人がそっちに向かった!」

「へ?」


 お風呂場からの小乃美さんの声と、ドタバタ慌ただしい足音に、何が起きてるのか時間差で気付いた。

 さっきの特大級雷で、2人が怖さのあまり逃げたんだと。


 リビング扉が開き、脇目も振らずにやってくる2人が、バスタオルを一枚体に巻き付けた、無防備同然の恰好で、思考が止まった。


「無理無理無理無理!」

「怖い怖い怖い怖いっすぅううう!」

「その恰好で来ちゃダメダメダメぶふぇ?!」


 決死の声にも止まらず、2人のロケットタックルを真っ正面から食らった。

 お風呂上がりの良い香り、血色の良い綺麗で艶やかな素肌、バスタオル一枚越しの女の子の柔らかな体。

 1つの要素でもお腹いっぱいなのに、ドキドキを通り越して意識が吹っ飛びそうになる。


「少年! ……両手に花で事なきを得たか」


 後を追うように来てくれた小乃美さんも、タオルを首に掛けた真っ赤な下着姿だった。


「さ、3人とも早く着替えて来てください!」

「無理無理無理……」

「怖い怖い怖いっす……」

「私の風呂上がりはいつもこうだ。少年に見られても、なんとも思わんから気にするな」

「僕が気にするんです!」


 小乃美さんは聞く耳持たず冷蔵庫の麦茶を注ぎ、腰に手を当てながら美味しそうに飲んでる。


「東庭のプリンがあったな。愛実、食べていいのか?」

「ぷ、プリン……プリン!? だめ! 姉貴の分は無い!」

「ち、ちょ!? め、愛実さん!?」


 我に帰った愛実さんが、バッと離れてくれたのは残念ながらも良かった。

 でも、離れた勢いでバスタオルが今にも剝がれ落ちそうだった。

 当の本人は気付いてないのか、小乃美さんからプリンを取り上げようと、ズンズン向かってる。


「今日はプリンの口だ。金なら払う」

「そういう問題じゃない! てか、常備のアイスあんだろ!」

「頭の固い妹だな。なら、私が少年とプリンを半分こすれば問題ないだろ」

「なんでそうなるんだよ! 半分こすんなら花音とだろ!」

「私が誰と半分こするかは、愛実に関係ない。少年も構わんだろ?」

「どうなんだ積っち!」


 振り返る動きでバスタオルが剥がれ、どんどん露わになりかけた瞬間。

 目の前が突然何かに覆い尽くされ、とても柔らかな温もりが顔一杯に広がった。


「愛実ちゃん! 全部見えちゃってる!」

「へ? ひゃ?!」


 愛実さんの可愛らしい声が、爆速で階段を駆け上がって行った。

 全部見えてしまう前に、僕の視界を咄嗟に封じてくれた花音には感謝だ。

 それにしても、いつまで視界を封じる気なんだろうか。


「か、花音? も、もう大丈夫なんじゃ?」

「ま、まだ駄目っす……私も取れちゃったんで……」

「え。か、花音が着替えるまで一切目を開けないから、離れていいよ」

「……」

「……か、花音さん? 聞こえてますか?」


 視界封じされてる以上、様子が一切分からない。

 唯一分かるのは、顔一杯に触れる花音の素肌が、段々と熱くなってる事だ。


「罪な男だな、少年」

「こ、小乃美さん! お願いですからどうにかして下さい!」

「断る。自分が招いた事は自分でどうにかしろ」

「そ、そんな!?」

「だらっしゃぁあああ!」

「にゃぱ?!」


 愛実さんの叫びと一緒に、花音が素っ頓狂な声を上げ、僕の視界も晴れた。

 着替えてきた愛実さんが、顔の赤い花音にオーバーサイズTシャツを着させたみたいだ。


「少年、プリン半分こするから隣に来い」

「まだ諦めてなかったんか! 姉貴!」

「何をしようが私の自由だ……あ、そうか。私が少年の隣に行けばいい話か」

「え」


 プリンとスプーン片手に歩み寄る小乃美さんが、小悪魔を越えた悪魔に見えて仕方がない。

 そこを動くなという圧にも、ソファーから離れられない。

 このまま小乃美さんの思うがまま、かに思えたのも束の間。

 愛実さんが大の字で、僕の前に立ってくれていた。


「積っちの隣は私だ! だから近付くな!」

「! わ、私も洋先輩の隣にいるっす!」

「力づくで行く。覚悟しろ」


 雷そっちのけで、プリンを半分こする為、火花を散らすなんて誰が想像出来ただろう。

 そんな3人は行く末は、大人しくソファーから見届けるしかなかった。


 ♢♢♢♢


 早めに上がった雨上がりの夕暮れ時。

 駅までの帰り道を愛実さんと一緒に歩いてる。

 水溜まりに映る夕日色に染まった空が、僕の気持ちを代弁してくれてる気がした。


「なんかあっという間な1日だったなー」

「色々あったけど楽しかったもんね」

「だな! あ、虹!」


 無邪気に虹を撮る愛実さんは、満足気に撮った虹を見せてくれた。

 好きな人の些細な一面でも心が癒される。

 恋ってものは本当に不思議な力がある。


 でも、ふと愛実さんがどこか現実に戻されたような顔をしてた。


「どうかした?」

「ん? あ、いや……もうそろそろ夏休みも終わりだなーって……」

「あと1週間ちょっとだもんね」


 1か月もの夏休みから、いつもの高校生活に戻れば、寂しくなるのも無理ない。

 けど、新学期が始まればクラスメイトの皆とも久し振りに会える。

 なによりも行事ごとが目白押しだ。

 9月は球技大会、10月は高校祭、11月は紅葉狩り、12月はクリスマス会と冬休み。


 他にもまだまだ細かな事はあるけど、新学期になればほぼ毎日愛実さんと会えるんだ。


「また愛実さんと高校に通えるから、今から楽しみだけどね」

「積っち……気持ちは嬉しいけど……そうじゃねぇんだ」

「え?」

「夏休みの課題……まだ残ってるんだ……」


 声のトーンも元気も下がったと思えば、全然拍子抜けだった。

 勉強が苦手な愛実さんには、夏休みの課題は苦行そのもの。

 そんな気持ちを分りたいのに、なんだか笑いが込み上げてくる。


「ぷっ……」

「あ。今笑ったな」

「ご、ごめん……ぷっ。も、もっと深刻なのかと思ったから……っぷ」

「なぁああああ! このこのこの!」


 ビシビシと肩を叩く愛実さんも、笑みを零して元気を取り戻してた。

 好きな人の隣にいれば、それだけで笑い合ったり元気になれる。


 そんな恋心を抱きながら、歩幅を合わせて帰り道を歩いて行った。


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