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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
13章 買い出しと1on1お料理教室
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87話 プレゼント渡し、鬼畜難易度お料理教室、間違えた女性もの下着、ギュッとハグ

 お腹ぺこぺこな花音は見学兼味見役として、キッチンを挟んだ向かい側で待機中だ。


「ねぇ花音。料理が苦手なら、尚更一緒に作ればよくない?」

「み、未熟な姿を晒せないっす!」


 昔から知ってる仲だからこそ、努力を怠らない努力家なのは分かってる。

 だからいつの日か花音が、しっかりと料理を作れて、誰かの為に振舞うんだと考えたら、とても感慨深くなる。


「よし! 材料もバッチリだし、早速作るぞー!」

「あ、愛実さん。ちょっといいかな」

「んぉ?」


 プレゼントを渡すタイミングはここしかない。

 軽く震える手で、プレゼントをようやく手渡した。


「た、誕生日プレゼントです!」

「お! 待ってました! 見ていいか?」

「ど、どうぞ」

「何かな何かな……! エプロン! え、着るのもったいな! ど、どうしよどうしよう!」


 思ったよりも喜び方が慌ただしい。

 ただ、愛実さんはお手製エプロンを身に着けて、正直プレゼントのエプロンは不要だ。


「はっ! せ、折角だしさ……積っちに着けて欲しいかな?」

「……ん? ぼ、僕が……愛実さんに……プレゼントしたエプロンを?」

「ん! 着けて♪」


 エプロンを外して、着けられる気満々な愛実さん。

 早く早くと言わんばかりに僕に背を向けてる。


 やってあげるのにも勇気がいるのに、花音にも見られてるんだ。

 もはや正気の沙汰とは思えない。

 僕に残されたのが一本道なら、細心の注意を払って実行するしかない。


「じゃ、じゃあ失礼します」


 恐ろしくも魅力的なエプロン着させ終え、心身共に色々と削られた気がした。


「あんがと♪ 大事に使うからな♪」

「きょ、恐縮です」


 ご満悦な感想を聞けただけで、大満足だ。

 これで無駄な心配もなく、しっかりとお料理教室と向き合える。


「いいなー……」

「ふっふっふ~♪ 最強のエプロンパワーで美味いもん作るから待ってな♪」

「エプロンパワーいいなー……」


 指を咥えてエプロンを羨ましがってる花音。

 また別の機会にでも、愛実さんとお揃いのをプレゼントするのもありだ。


「ほんじゃ、やりますか!」

「はい! お願いします愛実先生!」


 主菜はサバの味噌煮。

 副菜は茶碗蒸しとほうれん草の胡麻和え。

 汁物は白菜の味噌汁。

 主食は手羽先炊き込みご飯。

 以上が今回教えて貰える和食三昧だ。


 調理時間は全部込々でなんと1時間。

 猫の手を借りても間に合わなそうだ。


「どれも10分か15分で作れるから、同時並行でやれば余裕余裕♪」

「しょ、精進します!」


 余裕綽々な愛実さんがそう言うなら、きっと大丈夫に違いない。

 それに待ちに待った愛実さんとのお料理タイムだ。

 楽しむのを忘れずに、美味しい和食三昧を完成させよう。


 ♢♢♢♢


「よ、洋しぇんぱい……い、生きてるっすか?」

「……た、多分……」


 花音に心配されながら、テーブルに突っ伏して動けずにいる。

 理由は簡潔、楽しいお料理教室が、想像を遥かに超える鬼畜難易度だったんだ。


 下拵え、調理、洗い物、ゴミ出し、掃除。

 2人でも大変な作業を、愛実さんは涼し気に楽し気にやってのけ、汗1つ流してない。

 対する僕は、無駄な動きが荒目立ちし、ご覧の有様。


 料理は上手くいったのに、僕がダメに終わった以上、しっかりと反省だ。


「あはは! 沢山食って回復してくれ!」

「だ、だね……よいしょ……」

「あわわ……げっそりしてるっす!」


 自他共に認める疲労姿ほど、情けない姿はない。

 出来立ての和食三昧を頂いて、お言葉通り心身共に早く回復だ。


「じゃ、いただきます!」

「「いただきます!」」

「ん~♪ サバの味噌煮も絶品っす♪ 何杯でもご飯いけちゃうっす!」

「良い食いっぷりだな! 積っちの腕前が確かって事だな!」

「愛実さんが教え上手だからだよ。ん! ご飯が進む!」


 家庭の味とも店の味とも違う、完全愛実さんオリジナルの味付けに、胃は鷲掴みされてる。

 止まらない箸と食欲は、綺麗に完食するまで止む事は無かった。


 ♢♢♢♢


 あれだけ豪勢だった和食三昧は、めでた完食し、満腹幸福な時間が流れてる。


「ふぅー……お腹いっぱい……ご馳走様でした……」

「お粗末様! お茶でも飲んでゆっくり休んでな!」

「ふぁい~」


 ソファーでくつろぐ花音はウトウト状態。

 一番美味しそうに嬉しそうに食べてくれたんだ。

 料理手冥利に尽きる。


「ほい、お疲れ!」

「ありがとう。愛実さんもお疲れ様」

「おぅ! 食後のデザートもあるけど、食うか?」

「もう少しお腹を休めてからかな?」

「おけー!」


 まだまだ元気そうな愛実さんが隣に座り、静かにお茶を啜って一息。

 片付けも洗い物も済ませてあるし、気兼ねなく時間を過ごせる。


「ふぅー! 今更だけどさ、私のペースでごめんな?」

「い、いやいや。大変に勉強させて貰いました!」


 愛実さんの料理スキルの高さは、一般人の僕から見ても、お料理界隈に引く手あまたの実力だ。

 1人で数人分の動き、同時並行の効率性。

 なにより料理と向き合う姿勢がプロの料理人そのもの。


 だから愛実さんはそのままで、僕が精進すれば少しは近付ける気がするんだ。


「愛実さんのペースに合わせられるように、これからも頑張るよ」

「ふっふふーん♪ 気長に待ってるわ! あ、そだそだ!」


 足元からしっかり目の紙袋を出し、バッと向けてきた。


「渡し忘れない内にこれ! 誕プレ!」

「わ! ありがとう!」


 何時貰えるんだろうかと、内心ソワソワ気味で、お料理教室を受けてたのは内緒だ。

 中を早く見てと言わんばかりに、前のめりな愛実さんに感謝し、プレゼントを刮目した。


 青空の様に爽快な色と、可愛らしいデザインの女性もの下着だ。


「え」

「ん? どうし……にょわっ!? 袋間違えた!? 見ないで見ないで!?」


 間違えにホッとしてる場合じゃない。

 即時返却だ。

 極力見ないようにしたものの、Bという文字が確実に記憶に刻まれた。


「こ、こっちが本命です……」

「う、うん」


 改めてワクワク気分で中身を取り出すした。

 軽くて通気性の良さそうな黒のランニングシューズだった。


「前に一緒に走るとか言ったのに、中々機会がなかったじゃん? だから形だけでもって思ってさ、それにした」


 愛実さんが陸上を辞める時に、一緒に走りたいって言ってくれた。

 でも、お互い都合が合わず、いざって日にも天気がダメ。

 夏休みに入っても全然機会が無いままだったんだ。


 シューズまでプレゼントして貰った今日こそ、絶好のチャンスだ。

 帰り道の駅まで一緒に走らないか、ダメ元で提案しよう。


「あと、ちゃんと予算内だかんな?」

「信用してるから平気だよ。それと……愛実さんが良ければだけど、帰りに一緒に駅まで走らない?」

「っ! めっちゃ行く! 準備すっから待ってて!」


 ドタバタ慌ただしく、家内を行ったり来たりと、全然目が追い付かない。


 お料理教室が無事に終わった以上、ダラダラと長居するのも悪いし、帰るなら丁度良いタイミングだ。

 本音としては、もう少しだけ一緒に過ごしたい。

 けど、一緒に走る事が叶うなら、そのぐらい我慢だ。


「……ねぇ愛実ちゃん。何だか雲行き怪しくなって来たよ?」

「へ? ま、マジ?」


 花音の言う通り、外が曇天模様に様変わりしてる。

 天気予報は晴れのち曇りだったけど、雨が降って来そうな感じだ。


「なにぃい!? 空気読めない天気め! 今すぐ晴れろー! この野郎ー!」


 思いの丈を叫んだのがマズかったのか、水滴がぽたぽた窓に張り付き始めた。

 またしてもチャンスを奪われるなんて、ことごとく運が味方してくれない。


「今日も……ダメっぽいね」

「いや諦めん! いざって時はカッパを着」


 愛実さんの言葉を遮るように、窓から眩い光が射し込み、数秒遅れて雷鳴が轟いた。


「うぉ……結構近……」


 雷に気を取られた僅かな時間で、僕は前面背面がハグ拘束された。

 前面の愛実さん、背面の花音。

 異なる女の子の感触が押し付けられ、正気を保つので精一杯だ。


「ふ、2人ともどうしたの?!」

「か、雷……む、無理なんだ……あばばば……」

「み、右に同じくっす……ひぃいい……」

「え。ぼ、僕はどうすれば?」

「「止むまで傍に居て下さい!」」


 密着が増し震える2人を、正気のまま守れるか不安で仕方がない。

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