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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
13章 買い出しと1on1お料理教室
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86話 女子達の詰みの一手、お揃い伊達眼鏡、食べ盛りな後輩

 時間制限数分前、集合場所に愛実さんと呉橋さんの姿はなかった。


「およよ? 一番乗りだったみたいだね♪」

「座って待ちましょう」

「だな!」


 3人掛けベンチに、3人座れば埋まるのは当たり前。

 のに、不自然に瑠衣さんと長平さんの間に、1人分のスペースが空いてる。

 自ら詰むなんて真似はしない。


「積木君、ここ空いてるよ?」

「座って頂戴」

「休憩も大事だぞ?」


 曇りなき善意のお誘いこそ、詰みへの一手。

 断わり辛い状況にさえすれば、思い通りに行くと踏んでるんだ。

 しかし、今回に限っては回避可能な詰みだ。

 確実に回避するには謙遜からの遠慮が必須だ。


「僕なら大丈夫だよ。ありがとう」


 そして忘れてはいけない感謝。

 スマート且つ穏便に詰みを逃れる、詰みエスケープだ。


「座ってくれないの? えーん、グスングスン」

「心なしか冷え込んできたわ」

「急にどした?」


 ありすさんはさておき、嘘泣き嘘演技で更なる追い込みとは、やはり手強い相手だ。

 ここで根負けすれば2人の思う壺。

 詰みエスケープが無駄になるのは回避したい。


「積っち何してんだ?」

「だぁっふる?! め、愛実さん!?」

「ぷっ! リアクションでか! あはは!」


 目の前に集中し過ぎて、背後に現れた愛実さんに笑われてしまった。


「てか、竹つん帰って来てたのかい!」

「にょほほ~♪ これ、愛実ちゃんに誕生日プレゼント♪」

「やったー!」


 空きスペースに座った愛実さんのお陰で、詰まずに済んだ。

 それよりも何をプレゼントしたんだろうか。


 ラッピングされた小包み中は、スプレー式の小瓶だった。


「旅行先で見つけた香水です♪ お土産でごめんね♪」

「ううん! めちゃ嬉しい! 使ってもいい?」

「どぞどぞ♪」


 手首に1プッシュ拭きかけ、軽くトントン馴染ませると、ふんわりと柔らかな甘い香りがしてきた。

 柑橘系の香りの愛実さんが、こうも印象が変わるなんて、香水の力は凄い。


「オーデコロンだから1-2時間しか効かないけど、お風呂上がりとか寝る前とかに使うと、リラックス効果があるらしいよ♪」

「じゃ、そん時に使ってみる! あんがと竹つん!」

「愛実ちゃん。私からもプレゼントがあるわ」

「え! マジ! 開けていい?」

「えぇ」

「……お! 伊達眼鏡! いいじゃん!」


 眼鏡1つでこんなにも胸が高鳴るのだから、単純な生き物だ。


「積っち! どう? 似合ってるか?」

「う、うん。い、良いと思うよ」

「ふふーん♪ 今日一日着けてよっと♪」


 新鮮さも慣れれば平気になる。

 ただし今日だけは無理っぽい。


「ラストは私だな! 愛実! 貰ってくれ!」

「あんがと!」


 ありすさんが素渡したのは、リアル魚スリッパ。

 チョイスが完全に面白系でも、良し悪しはある。

 ありすさんのは後者だと思う。


「めっちゃ魚じゃん! しかも履ける! あはは! おもろ過ぎない?」


 百点満点のリアクションに、ありすさんもご満悦だ。

 好感触の流れに乗じて、僕もプレゼントを渡すなら今しかない。


「め、愛実さ」

「どぉおおおおりりゃぁあああ! セーーーーーフ!」


 時間制限ギリギリに現れた呉橋さん。

 決して悪いとは言わないけど、渡してから現れて欲しかった。


「あ、会長。髪めっちゃ凄いですよ?」

「ギリギリまで猫ちゃんと戯れてたもんで! へっへっへ!」


 乱れ髪を雑な手櫛だけで、元通りのサラサラヘアーに戻った。

 猫と戯れてた割に、誕プレは忘れてなかったようだ。


「てか、竹塔ちゃん達もいんじゃん。やほ」

「こんにちは♪ 会長のプレゼントは何にしたんですか?」

「お、そだそだ! ほい、愛実ちゃん! 数日遅れだけどハピバ!」


 ガサツに手渡したのはピンクのハートネックレス。

 チラッと見えた値札もキッチリ予算内。

 愛実さんも驚きを隠せないバッチリな反応だ。


「え、あ、こ、これって今大人気で入荷待ちのヤツじゃ……」

「ぬっふっふ……可愛い後輩ちゃんの為ならば、安いもんさ……キリッ!」

「か、会長ぉおお!」


 渡すタイミングを失った上、大感激なリアクション。

 僕のプレゼントなんか霞んで見える。

 正直、僕のはありふれたプレゼントだ。

 気持ちに押し潰される前に、今すぐにでも買い直したい。


「愛実ちゃんの次は……積木君へのプレゼント♪」

「きっと気に入る筈よ」

「受け取れい!」

「わっ!?」


 3人から一気に手渡されたプレゼントで、申し訳なさが緩和された気がする。

 瑠衣さんはハンカチ、長平さんは愛実さんと色違いの伊達眼鏡、ありすさんは抹茶お菓子の詰め合わせ。


 伊達眼鏡に至ってはすぐ装着せよと、眼力の訴えもあって着けた。


「お揃じゃん♪ ふふふ~♪」

「だ、だね」


 愛実さんのニヨニヨ嬉しそうな顔を見たら、何となく僕のプレゼントも自信を取り戻せる。


「ところで♪ 愛実ちゃん達はこの後どうするの?」

「お昼の買い出しだな! 積っちと家でお料理教室なんだわ!」

「あらあら……まぁまぁ……」

「へぇー! おもろそうじゃん! なぁなぁ! 一緒に行ってもいむぶぅ!?」

「息抜きは終わりよ、ありすちゃん」

「だね♪ それじゃ私達はこれで♪ またねー♪」


 口塞がれたありすさんを引き摺り、颯爽と去って行った。

 3人に翻弄こそされたけど、最終的には結果オーライだった。


「で、何作るん? ワクワク♪」

「え、呉橋さんも来るんですか?」

「愛実ちゃんの手料理! ゴチになりまーす!」


 呉橋さんと出会ったのが運の尽き。

 初めから愛実さんと2人っきりになるなんて、無理だったんだ。

 詰み体質の運命は、もう誰にも止められない。


「ごめんなさい! 今日は積っちと2人だけって約束してるんです!」

「え、私無理ぽ?」

「今日だけは!」


 快く受け入れるかと思えば、頭を下げてまで丁重にお断りしてる。

 呉橋さんもバツ悪そうな顔で、頬をポリポリ掻いてる。


「あー……なんかすんまへん。今すぐ撤収します!」

「く、呉橋さ」

「あ、最後に洋君のプレ渡さんと。ほい!」

「ちょわ!?」

「んじゃ、バイビー!」


 雑に投げ渡されたプレゼントは、サバブラのアサシンスタイルのラバーストラップ。

 顔を上げた時には、呉橋さんの姿はなく、お礼の一言も言えなかった。


「会長のフォーム綺麗だったなー」

「そ、そこ?」


 着眼点が愛実さんらしくて、自然と頬が緩んだ。

 気を遣ってくれた呉橋さん達には、お礼の言葉と一緒に、料理写真を撮って送ろう。


 ♢♢♢♢


 買い出しも無事終わり、エコバックを1ずつ持って愛実さんの家に向かってる。

 料理教室で教えて貰えるのは和食三昧。

 和食好きなのもあって、今から楽しみで仕方がない。


「でさ! 姉貴が間違って食べたの!」

「え、平気だったの?」

「ダメダメ! 姉貴のあんなやせ我慢した顔、初めて見たもん! 本当ワサビってヤバいわ!」


 お互いのお盆話に花咲かせる内に、愛実さんの自宅が見えてきた。

 好きな人との時間はあっという間だ。


「まぁ、主犯格の花音達はすぐに、こっぴどく説教されてたけどな!」

「ワサビ寿司だもんね、花音の自業自得」

「だよなー! お、もう家じゃん! 早! ……ん?」


 インターフォン前で茶髪の女の子が、オロオロと家の中を窺ってる。

 Tシャツ短パンのラフな女の子は、すぐに誰か分かった。


「花音? なした?」

「あ、愛実ちゃ……よ、よよよ洋先輩?!」

「え、そんなに驚く?」


 パッパッと慌ただしく身形を整える花音は、どうやら忘れ物を取りに来たそうだ。


「連絡したのに音沙汰なしだから、何かあったかと思ったよ」

「ごめんごめん、普通にスマホ見てなかったわ!」

「もう……」


 ホッとする花音を撫でる愛実さんが並ぶと、従姉妹なだけあって似ている。


「と、ところで……よ、洋先輩は遊びに?」

「ううん。今日は愛実さんとお料理教室なんだ」

「え、ふ、2人っきりで?」

「うん」


 あからさまに動揺する花音から、可愛らしいお腹の音が聞こえた。

 真っ赤になった花音が、必死にお腹を叩いて誤魔化すも、身体は正直に音を奏で続けてる。


「お? 花音、もう腹減ったのか?」

「あ、いや、しょの……ぺ、ペコペコでございます!」

「そっか! なら一緒に作って食うか! 積っちもそれでいいか?」

「勿論、花音は今食べ盛りだからね」

「は、恥ずかしぃっす……」


 花音なら呉橋さんと違って、茶々入れする真似はない。

 僕らは言葉を交わさずとも、そう解釈し合ってたに違いない。

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