85話 何でも知ってるコミュマスター、小脇詰み、お胸様の揉み確認、3人のプレゼント選び
たこ焼き事変後、老舗百貨店東庭ハンドにやって来た。
衣食住品、ペットショップ、ゲームセンターなどなど。
老若男女に愛され続けてる、地元の憩い場だと愛実さんが道すがら教えてくれた。
そんな東庭ハンドで、愛実さんの誕生日プレゼント選びを達成するつもりだ。
「愛実さん。誕生日プレゼントなんだけど、何か欲しいものある?」
「んー普通に積っちが選んだ物がいいんだけど」
「んじゃ、予算3000円以内! 消え物じゃない! これが絶対条件な! 1階の休憩スペースに1時間後集合! 解散! やっぴー!」
「い、行っちゃいまし……呉橋さんもいない」
うだうだ悩む暇よりも行動だ。
まず足を運んだのは2階の衣類エリア。
女の子と言えば服。
なんて安直な考えで来たものの、大事な事を今更になって思い出してた。
男が1人、女性ものの服屋さんに足を踏み入れるのは、無理ゲーだと。
いつもなら姉さんや空の同伴で、多少抵抗こそあるも入れたには入れた。
今回に限っては孤独な戦場だ。
ひよってる今も時間が刻々と迫ってるんだ。
覚悟を決め、レディースブランドのお店に踏み出そうとした時、ポンと肩に手を置かれた。
「おやおや♪ 随分とお困りだね♪ 積木君♪」
「る、瑠衣さん!」
夏祭り振りの瑠衣さんは、国内旅行すると聞いてたのに、いつの間にか帰って来てたんだ。
ここで会ったのも縁だ、瑠衣さん程の心強い味方はいない。
「あの! 瑠衣さん! 折言ってお願いがあるんだけど、いいかな!」
「ははーん♪ さては~……愛実ちゃんの誕プレ服選び……かな?」
「よ、よく分かったね」
「瑠衣ちゃんは何でも知ってるのです♪ って事で、協力しちゃうよ♪」
「あ、ありがとう!」
「いいのいいの♪ 2人の誕生日に何もしてあげられなかったから、その代わりって事で♪」
協力してくれる代わりに、あとで美味しい食べ物でも奢ろう。
「ここにいたのね瑠衣ちゃん。あら、積木君もいたのね」
「お、マジじゃん! 夏祭りぶり!」
「長平さん! ありすさん!」
顔馴染みの2人にも会えるなんて、今日だけは詰み体質に感謝だ。
瑠衣さんが事情説明してくれ、2人も快く了承。
愛実さん理論なら、2人なら2倍、3人なら3倍心強くなる訳だ。
「ところで3人はどうしてここに?」
「泊まり込みで、ありすちゃんの夏休みの課題を見てあげてたのよ」
「でも、頭がパンク寸前で、息抜きにがてらに来たんだよ♪」
「積木は課題終わらせたのか?」
「うん。お盆前にいつも終わらせるって決めてるんだ」
夏休みの課題は復習の一環だ。
普段予習復習をやってる身からすれば、何ら苦もない。
「計画的ね。いいと思うわ」
「ありすちゃんも積木君を見習おうー!」
「んな事言われても、部活で忙しんだよ」
夏場になると活動真っ盛りな水泳部なんだ。
夏休みも惜しんで励んでるなら、それはそれで素晴らしいと思う。
その証拠にありすさんのオフショルトップスから、健康的な日焼け跡がハッキリくっきりと顔を出してる。
「それだけ何かに夢中になれたり、努力出来たりする方が僕は凄いと思ってるよ」
「つ、積木……今すぐ撫でさせてくれ!」
「ほわちょ?!」
強引に頭を小脇にホールドされ、わしゃわしゃと撫でられてる。
「撫でて分かったけどよ、犬を愛でたくなる気持ちが分かったわ!」
「ほぅ。私も経験しようかしら」
「なら私も♪」
「ちょ、ちょっと待って! 時間が無いんだよ?!」
「「撫でる時間はあるわ、よ♪」」
「わぁあああああ!?」
それから数分間、3人が満足するまで小脇ホールドの頭撫でが続いた。
♢♢♢♢
「わ! これ大きく見えるって♪」
「確実に寄せて盛れる方が、形補正にもいいわ」
「愛実ってギリBだったか?」
服屋さんに行く流れが、何故かどうしてかランジェリーショップになってしまった。
女性の禁域に、男が踏み込めないのに、1対3じゃ抵抗すらさせて貰えなかった。
協力は悪手だったのかもしれない。
「私もそろそろ買い替え時なのよね」
「てか、またデカくなったんじゃね? 積木もそう思わん?」
「え?! ぼ、僕に聞く?」
「折角だから、当てて貰おうかしら」
目の前に立った長平さんが、ノースリーブタンクトップに支えられた、特大級の胸をドンと主張。
大きさに比例する驚愕の破壊力は、林間学校で体験済みでも、慣れないものは慣れない。
「見てるだけじゃ分からんか」
「だったら、ありすちゃんが揉み確認すればいいんだよ♪」
「お、それだ! それっ!」
「んぁっ!」
手の平じゃ収まりきれない胸が、指の動きに抗えず柔らかく形を変えてる。
長平さんも無表情から一変。
艶かしい吐息と色っぽい顔で、ピクピクと反応してる。
一体何を見せられてるのか正直分からないけど、これだけは言いたい。
「こんな事してる場合じゃないんですけど?!」
「「「正論! ね、だね♪」」」
結局、長平さんのお胸情報しか収集がなく、そもそも服のプレゼントは難易度が高すぎると、気付くのに遅過ぎた僕がいた。
♢♢♢♢
「プレゼントと言えば小物雑貨だよね♪」
「お財布にも優しいものね」
「月のライトスタンドだって! これにしねぇ?」
ランジェリーショップでの時間ロスがあったものの、小物雑貨店に移動してきた。
協力を頼んだものの、初めからここに来れば良かったと思ってる。
「積木君♪ これなんかいいんじゃない?」
大々的に宣伝されてる売れ筋商品の小物入れだ。
モダン且つオブジェのワンアクセントとしても効果を発揮する、お洒落なものだ。
お値段は4000円、残念ながら予算条件外だ。
「良いと思うけど、予算がダメだね」
「ありゃ~残念♪ 自分用に買っちゃおう♪」
嬉しそうに猫型の小物入れを、お会計しに行った瑠衣さん。
一番高い小物入れを即買いとは、大人でも中々にやれない。
「積木君。いいのがあったわ」
「マグカップ! でも、なんで2個も?」
「ペアマグカップだもの。こう合わせれば……ハートになるのよ」
持ち手部分を合わせると、見事なハートが完成。
これを買いなさいと言わんばかりに、長平さんから圧力を感じる。
愛実さんが喜んでくれるのならまだしも、一空回りで終われば、マグカップを見る度に落ち込める自信がある。
「ぺ、ペアは大丈夫かな?」
「……積木君がそうなら、止めておくわ」
残念空気をチラッと見せ、マグカップを戻しに向かう長平さん。
毎度毎度おちょくられたり翻弄されても、何だかんだで気を遣って味方になってくれてる。
長平さんにもしもの時があっても、味方でいるつもりだ。
「積木積木! マジでめっちゃオススメなの見っけた!」
「おぉ! え、えーっと……究極自動TKG……?」
「しかもワンタッチ! 卵かけご飯ってみんな好きだろ?」
面白系プレゼントなのに、ありすさんの純真無垢な眼差しで断り辛い。
何回か使えば物置行きだ。
「準備とか諸々含めたら、普通に食べた方がいいんじゃないかな?」
「それもそっか! 別なもん探してくるわ!」
持ち前の明るさとポジティブで、次に臆せず進めるありすさん。
ちょっと素直過ぎて抜けてる所も、沢山の人を笑顔にさせて愛されてる。
僕もそんな中の1人だ。
それからも色々勧められるも、どうもピンと来なかった。
残すところ10分を切り、焦りがどんどん増してる。
悩みに悩むしかない中、小物雑貨店の向かい側で、燦然と輝く物が目に留まり、自然と手に取っていた。
「ねぇ皆。これってどうかな?」
「ほほーん♪ 愛実ちゃんなら喜びそうだね♪」
「プレゼントとしても受け取り易いわね」
「値段も予算内じゃん! これしかないっしょ!」
3人のお墨付きも頂けたんだ。
早速お会計を済ませよう。




