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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
13章 買い出しと1on1お料理教室
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84話 変態な身体検査、可愛い美人の同伴、あーんチャンス、ポンコツ化

 誕生日から数日後、今日は愛実さんの自宅でお料理教室が開かれる。

 しかも1対1で。

 買い出しの為、待ち合わせ場所の繁華街入り口で、1時間前から壁際でスマホと睨めっこしてる有様だ。

 

 デートという言葉が過る、冷静でいられる訳がない。

 だからこそ逸早く、スマホ情報を頼りに平常心を取り戻してるんだ。


「はい、そこの怪しい君。そのまま両手を上げて、何も触らないように」

「ひゃ、ひゃい!」


 不審人物に声を掛ける理由なんて、職質一択。

 若々しい女性の声から察するに、婦警さんだ。

 詰み体質は婦警さんすらも引き寄せる。

 一刻も早く安全無害だと分かって貰うしかない。


「んぷぷ……コホン! えー怪しいものを隠してないか、身体検査をするので、無駄な抵抗をしないように」

「はい! 好きなだけお調べになって下さい!」

「……マジ? やっていいの? でゅふふ……おっほん! し、失礼つかまつる!」


 前半ゴニョゴニョ何か言われ、涎を啜る音も聞こえた気もしなくないけど、婦警さんに解放されるまで我慢だ。


 婦警さんの両手が、脇腹から顔を覗かせ、活きの良い動きでやる気をアピールしてる。


「い、いただきます!」

「んっ……!」

「はぁはぁ……こ、これはいけないな! 犯罪スレスレだ! ハァハァ!」


 胸元から胴体を重点的に攻め、絶妙な揉み触れも生半可なレベルじゃない。

 もはや身体検査の度を超えた変態行為。

 つまり婦警さんは、婦警さんの皮を被った変態だ。


「ちょ、ちょっと待って下さい! んっ! あ、貴方は誰ですか!」

「こら! 抵抗すると逮捕するぞ! 洋君!」

「そ、その声は、く、呉橋さん!」

「あ、やべ! なふん!?」


 相手が呉橋さんなら、脱出も多少強引でも構わない。

 詰み経験で培った脱出の甲斐あり、一定の距離まで離れられた。


「ぐぬぬ……逃げるとは卑怯なり……」


 呉橋さんのお姿をお目見えしたけど、物凄く悔しそうだ。


 ホワイトシアートップスとデニムのボディラインを綺麗に魅せるコーデは、抜群のプロポーション、目を奪われる美貌、絶世の美女の呉橋さんが似合わない筈がない。

 ただし、あくまで中身無しでの話だ。


「普通に声を掛けて下さいよ」

「気付いた時にはもう体が動いてました、えぇ」

「ヒーローインタビュー風ですけど、やった事は真逆ですからね」

「またまた御冗談を~」

「お巡りさーん、この人変態で」

「嘘嘘嘘! 私がわるーございました!」


 涙目で脚にしがみ付いてきた。

 お巡りさんの冗談はさておき、ここにいる理由でも聞いてみた。


「それで、今日はどうしたんです?」

「まず聞く前に、自分から言うべきでは?」

「……愛実さんと買い物です」

「へぇ~あ、私も同じ同じ」


 返事が嘘丸出しだ。

 単なる暇つぶしか息抜きでも、呉橋さんは受験生だ。

 変態行為を働くほど煮詰まってるのなら、今回は目を瞑るべきなのかもしれない。


「夏期講習とか受験勉強とかはいいんですか?」

「我、進路、A判定ぞ」


 これ見よがしの胸張りドヤポーズで、自分が余裕の暇人であると表現してる。

 学年トップを行き来する実績は、伊達ではないって事だ。


「って事で、同伴するで」

「遠慮して下さい」

「えぇー!? 何でさ何でさ?! こんな超絶可愛い美人の同伴なんて、金をいくら積んでも叶わないんだぞ?!」

「そこのたこ焼き買ってあげるんで、今日の所はご遠慮を」

「あーん付きでなら良き♪」


 近場のベンチに座り、たこ焼きを1個箸で摘んだ隙に、あーんスタンバイ。

 気分はまるで雛の餌付けだ。


「あーん♪」

「はい、どうぞ」

「あむっ♪ はふはふ……んふ~♪ 美味ですな~」


 余計な事がなければちゃんとモテるだろうに、自覚があるんだか無いんだか。

 残り5個も綺麗に食べさせて、約束通り巣立たせよう。


「あれ? 会長?」

「お、愛実ちゃーん! 彼を独占しちゃって悪い熱っふ!?」

「あ、流れでつい!」


 よそ見+流れ作業で口に入れたせいで、呉橋さんが悶絶した。


「やけろした。責任とっへ」


 案の定真っ赤な舌を見せ、被害状況をわざわざ見せてきてる。


「とりあえずお茶飲んで冷まして下さい」

「よろひぃ!」

「で、会長がどうしたんだ?」


たこ焼き事件前を知らない愛実さんは、今日も愛らしい。

ブルーのカットアウトトップスにジーンズ。

シアーオーバーシャツを羽織るお洒落コーデがお似合いだ。

ただ、あまり魅入ってしまう前に、簡潔に説明しないと。


「買い物に同伴したいって駄々こねられたんだよ」

「こねこねこねてない!」

「同伴すんなら私は別に良いけど?」

「「え!」」


 手の掛かる子供がマシに思える程、突拍子もないのが呉橋さんだ。

 十中八九幸先のよろしくない展開が待ち受けてる。


 大人しく引き下がる気も更々無さそうならば、愛実さんを説得するしか道は残されていない。


「か、考え直すなら今の内だよ?」

「コラ! いいんだね愛実ちゃん!」

「2人なら2倍、3人なら3倍楽しいですから!」

「オラ、愛実たその嫁になるだ!」


 感謝感激ハグ頬擦りの大勝利。

 現実はあまりにも残酷だ。

 愛実さんとの大事な時間でも、愛実さんが望むなら今回ばかりは目を瞑ろう。


「てか、余ったたこ焼きどうします?」

「2人でお食べ♪」

「ほんじゃ、ありがたく!」


 呉橋さんの二の舞にならない為、たこ焼きを割って、中身を軽く冷ます作戦みたいだ。

 あとはふぅふぅと吹き冷ませば食べ頃だ。


「はい積っち! あーん♪」

「あ、え? て、てっきり自分で食べるかと……」

「2人でって言ってたじゃん! ほら、食べ頃だぞ?」


 いくら照れ臭かろうと、好きな人からのあーんは絶対に逃したくない。


「い、いただきます……」


 惰性も無理矢理感も無い、純粋に食べさせてくれる優しさが、たこ焼きから伝わる。

 美味しさも数段、言葉で言い表すのも勿体無いぐらい、今まで一番のたこ焼きかもしれない。


 愛実さんもニコニコご満悦で、釣られて幸せな気持ちになる。

 ぷりぷりとご機嫌斜めな1人を除けば。


「私にもふぅーふぅして食べしゃちて!」

「食べてもいいって言ったじゃないですか。」

「前言撤回だし! 火傷も治った! ほら! 洋君! たーべーさーせーて!」


 綺麗なお口を開け、今か今かと期待に胸膨らませてる。

 あーん1つで機嫌を直せるなら安いものだ。


「はむ♪ うーん♪ 2度目も美味なり♪」

「良かったですね!」

「うん! ほれもう一丁♪」

「分かりましたよ……あ、そういえば、間接キスでしたけど良かったんですか?」


 今更聞いたところで、間接キスの一つや二つ、なんとも思ってないんだ。


「へ? あ、そ、そう言えばソウデシタ……」


 ぎこちない動きで遠くを見つめ、肌の見える部分が真っ赤に染まった。


「会長ー? おーい?」

「カンセツキチュ……カンセツキチュ……」

「ぽ、ポンコツ化した!?」

「えぇー……」


 治るまでそっとしておこう。

 そう愛実さんと頷き合い、たこ焼きを食べ終わるまで、呉橋さんは終始ポンコツだった。

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