83話 桜髪と黒髪の女の子、お乳行為は1日1回、同じ景色を君と
入れ替わりっ子の最後の1人、さーちゃんは昔から、本をいつも読んでる博識高い子だった。
もし既に再会済みなら、博識高い子が該当する筈だ。
「最後は桜ね」
「オオトリって緊張しますね……すぅーはぁー……ふんふん!」
ぺちぺち頬を叩き、気合を入れ直したさーちゃん。
姿勢正し僕を見つめ、真剣さの伝わる顔で、ハキハキ声を出した。
「では洋ちゃん! お話ししますね!」
「うん、お願い」
「はい! えぇー昔々、あるところに本の虫が2匹いました」
まさかの昔話風語り。
本人の至って真面目なんだ。
天然性格には何も言わず、ひたすらに耳を傾けるんだ。
「2匹は家に籠っては本に嚙り付く、根暗な生き物でした」
「そんなある日、1匹が風邪を引いてしまい、もう1匹の私は数日間暇になりました」
「たまたま読んでいた冒険の本に触発され、公園で読むことにしました」
見慣れない女の子が本を読んでいたから、印象が強く残ってる。
「初めてのことにソワソワと落ち着かず、やっぱり帰ろうとした時、ふと男の子に声を掛けられました。洋ちゃん、貴方です」
まだ詰み体質の自覚がない声掛けは、今じゃ恐ろしくて考えられない。
コミュニケーションモンスター術は、あの時だからできた芸当だ。
「戸惑いながらも私は打ち解け、ふわふわした気持ちで帰りました」
毎回帰り姿が地に足着いてない感じで、無理してたのか心配だったけど、事実を知れてホッとした。
「ふわふわした気持ちのまま、本の続きを読んでいる内に気付きました。太陽のように眩しかった彼は、お姫様を救い出してくれる勇者様そのものだと」
「初めて抱いた気持ちに居ても立っても居られず、もう1匹にそのことを伝えました」
「興味を持った1匹も彼に会ってみたいと思いました。しかし、一歩踏み出す勇気が出ず、2匹は困りました」
「困り果てた時、目に留まった本で入れ替わりっ子を思い付きました」
「綺麗な黒髪を隠すのに桜色のウィッグを被り、どうにか彼と会うことが出来ました」
当時、動きの多い遊びに遠慮がちだったのは、ウィッグが外れるのを防ぐ為なら辻褄が合う。
「会う度2匹は彼を好きになり、いつの日かお嫁さんになれたらいいねと、明るい未来を思い浮かべてましたが、長くは続きませんでした」
「私の親が学校の先生で、都心部へ転任すると決まったからでした」
年端も行かない当時なら、転任をどうこうできる訳がない。
もし頼れる身内がいても、さーちゃんだけ居候って訳にも行かない。
「あっという間にお別れが来てしまい、残された1匹は自分一人では何も出来ないと、想いごと閉じ込め、篭ってしまいました」
「月日が経ち、篭りがちな彼女に一筋の光が差しました。忘れもしない初恋の彼が、同じ高校に入学してきたのでした」
「今度こそ一歩踏み出す勇気を出し、彼に声を掛けましたが、初対面にする時の反応でした」
「彼が知ってる自分は黒髪ではない、桜色の髪をした目元の隠れた子。当然の反応でした」
「気付かれないのを分かってても、やはりショックでした。でも彼は昔と変わらず、今の自分も受け止めてくれてると実感しました」
「顔を半分隠した黒い前髪も、彼が無い方が好きと言ってくれ、ちゃんとした素顔を堂々と見せる事にしました」
「変われずにいた自分がこうも簡単に変われたのは、ずっと忘れずに想っていた、彼のお陰でした」
「こうして過去の自分も受け入れ、前へ進むと決めた彼女は、彼にもう一度恋をしたのでした」
綺麗な黒髪、顔半分を隠した前髪、素顔。
当てはまってる女性は、あの人しかいない。
「洋ちゃんはもう分かったようですね」
「うん。最後の1人は暗堂芽白さんなんだね」
「はなまる大正解です!」
北高生徒会書記の2年生、暗堂芽白さん。
校内を徘徊する女霊と噂され、当時の面影があっても僕は気付けなかった。
それでも時間を重ねて知る度、暗堂さんが魅力的な人だと気付いていった。
「芽白ちゃんも本気です。勿論私達も!」
「うん。皆ともちゃんと向き合えるように頑張るから、改めてよろしくね」
「「「「こちらこそ!」」」」
「さぁ、休憩でもしましょうか」
「「「「ふへぇ~」」」」
姉さんの一言で集中が切れたのか、幼馴染の4人がとろけた。
従姉妹の皆も涼んだり、ゆっくりとした時間が流れる中、ひーちゃんがハッとしてた。
「そうだ洋ちん。さっきの話とは別件なんだけど、いいかよん?」
「別件? いいよ」
「ありがとよん。実はワタシ、ママとパパに特別任務を任されてるんだけろ」
「特別任務? それって?」
「来日中の若手女優にオファーの直接交渉だよん」
「す、すごい無茶振り……ちなみに有名な人?」
「オリヴィア・アレクサンドラちんって人だよん」
物凄く聞き覚えのある名前で、なんなら最近会ったばかりだ。
連絡先も把握済み、滞在先も宮内道場だ。
僕でも力になれる。
「一応、オリヴィアちんが宮内道場にいるのは知ってるけど、行きたくないのよん」
「え? どうして?」
「デーモンの住処に単独潜入は、自殺行為なのよん」
デーモンこと宇津姉を想像して、ガクブル震えてる。
こうやって話してくれたのも、僕を頼ってくれてるからだろうし、協力は惜しまないつもりだ。
「じゃあ僕と一緒に行く?」
「い、いいの?」
「僕とひーちゃんの仲でしょ?」
「洋ちん……ワタシをパートナーとして認めてくれるのねん♪」
両手を握り、そのまま谷間へと収納。
病み付きな柔らか素肌を伝い、心臓の鼓動が活き活きと動いてるのを感じ取れる。
「ちょいちょいちょい! どさくさに紛れて何してるの!」
「お乳を使った行為は、一日一回って決めたじゃないですか!」
「どいつもこいつも……デカ乳を利用しやがって!」
「「「ぎゃぁああ!?」」」
制裁を下すしゅーちゃんの前じゃ、お胸話は禁忌な筈なのに、3人は懲りてない。
飛び火する前に、こっそり安置に移動してると、とある事実に気付いた。
入れ替わりっ子の宵絵さん達も、大層立派なお胸をしてらっしゃると。
もし全員が一堂に会せば、慎ましやかなしゅーちゃんが闇堕ちし、悲惨な光景が繰り広げられる。
そうなる前に、あとで釘刺しておかないと。
♢♢♢♢
夕食時になり、お婆ちゃん達の絶品ジビエ料理に、豪華な手料理の数々がテーブルを埋め尽くしてる。
皆からのプレゼントにも囲まれ、完璧に誕生日の主役だ。
「ほんじゃ本日の主役、洋から乾杯音頭と一言貰うかぁ」
雀子さんに背中を押され、皆の視線が一気に向けられた。
「えぇー毎年皆と集まれて、沢山祝って貰って、僕は幸せ者です! 乾杯!」
大賑やかな乾杯で誕生日が始まった。
幸せを噛み締め、手料理に早速手を付けようとしたら、雀子さんが肩を組んできた。
「昨日渡したヤツ、外見ながら押してみなぁ」
「へ? 外で?」
縁側に出て、昨日貰った謎スイッチを押すと、町の上空に何かが打ち上がった。
そして夜空を彩る大輪の火の花が、満開に咲き誇った。
「は、花火だ!」
「サプラーイズ……♪」
点火スイッチをプレゼントにするなんて、雀子さんにしか出来ない芸当だ。
花火景色に釘付けになる中、スマホの着信音が聞こえ、相手は愛実さんだった。
「も、もしもし?」
《もし! 積っち! 今さ! ベランダで涼んでたら、花火が上がったんだ!》
「え、愛実さんのとこも? 実はこっちも丁度上がってるよ」
《マジか! 予告なしの急だったからビビったわ!》
「予告なしって事はサプライ……はっ!」
ビビッと悟っり、隣の雀子さんに視線を向けた。
渾身のドヤフェイスを見せ、グッドポーズを決めてた。
愛実さんの花火も、雀子さん仕込みのサプライズなんだ。
《お? どした積っち?》
「あ、いや。何でもないよ」
《?》
通話越しに同じ景色を堪能し、誕生日を心行くまで楽しんだ、僕と愛実さんだった。




