82話 赤髪幼馴染と姉御肌女子達、上品な社長令嬢、ブロンド幼馴染の家系、身も心も大人色、再会は胸埋め
しゅーちゃんの入れ替わりっ子が、峰子さんと判明した。
「峰子と蘭華の話、もう少ししていいか?」
「うん、お願い」
「ありがとう……まず峰子はね、洋さんとの充実した高校生活を、耳に胼胝ができるぐらい聞かせてくれてるよ」
「なんか意外だったかも……」
「だよね! でも……蘭華がその度、ご乱心で大変だよ……」
「あぁー……前に蘭華さんが一車両占領して、僕に釘刺しに来た時は、流石に肝が冷えたよ」
「その節は妹がご迷惑をお掛けしました!」
思えば、入れ替わりっ子で、丸一日スンとしてた時は、蘭華さんだったんだ。
「ただ、ここ最近の蘭華は、物腰が柔らかく人に優しく、素直になれてきてるんだ」
「そうなの?」
「ふふ♪ それって、洋さんのお陰なんだよ? 最近、蘭華達と偶然会ったでしょ?」
「最近? あ、ハンバーグ店?」
「うん、2人が言うにはね?」
あの時に特別何か言った覚えはない。
思い当たるとすれば、蘭華さんに峰子さんが軽く叱ったぐらいだ。
「んー……ただ蘭華さんが成長しただけじゃない?」
「洋さんって本当に無自覚なんだね。そんなところも含めて好きなんだけどね」
「う、うん……あ、ありがとう」
さり気なく好きと言われたら、流石に照れる。
しゅーちゃんも時間差で照れて、自己暴力抑制で帳消し。
次の話題を振って、お互いに照れを冷まさないと。
「そ、そういえば! しゅーちゃん達のお家って、何をやってるの?」
「い、家? あ、父が大手のジム経営者で、母はスポーツ用品店の社長なんだ」
「えーっと……しゃ、社長令嬢って事?」
「お固く言えばね」
大人顔負けの達観っぷりが、社長令嬢で培ったものなら納得だ。
プラス、3人の努力の賜物だ。
一言で片付けるなんて失礼だ。
「3人とも上品なのも納得だよ。……あ」
「? 洋さん?」
「あ、そのね? 峰子さんってどうしてバイトしてるのかなって」
金銭面的には不自由はない筈だ。
もし社会経験を積んでるにしても、ご両親のジムかスポーツ用品店で良さそうなのに、バイト先がファミレスだ。
「普通にお小遣いの為だね。そのぐらいは親を頼らず、やりくりしたいって決めてたっぽいから。でも、どうしてファミレスなのかは聞いてないかな」
色んな理由は浮かぶけど、峰子さん自身が選んだのなら、これ以上探りはしない。
「秋子、大体話したんじゃないかしら」
「そうですね! って事だ、洋さん。これが私達の大まかな入れ替わりっ子だ」
「うん、話してくれてありがとうね、しゅーちゃん」
照れ照れと嬉しそうなしゅーちゃんの横から、ヌッとひーちゃんが座った。
「次は向日葵ね」
「了解だよん。さぁさぁ、洋ちんの正面を譲るんだよん」
「なぁー! デカ乳押して急かすなって!」
用済みと言わんばかりに、しゅーちゃんと場所交代したひーちゃん。
一番上まで閉めたジャージのチャックを胸元まで下げ、谷間を何故か露出した。
「ふぅー窮屈で仕方がなかったよん」
「あ、ソウナンダネー」
慎ましやかな女性陣の強烈な視線が突き刺さる。
せめて顔から下は絶対に見ないと、行動で示すから許して欲しい。
「ほんじゃ、早速だけどねん。洋ちんはワタシの家系について覚えてるかよん?」
「か、家系? ま、まぁ……印象強かったからね」
ひーちゃんの家系はあらゆる仕事を請け負う、言わば裏の人間らしい。
詳細は一切不明でも、ひーちゃんの人格を見れば、危険で無い事は確かだ。
「実はねん……ワタシの家系の正体は……」
「ごくり……」
「あの……」
「ごくり……」
「謎に包まれた……」
「早くしないと日が暮れるよーひーちゃん」
「タメが台無しだよん、吹雪ちん」
「茶番はいいとして、話して頂戴」
「はい! 蒼姉ちん!」
姉さんの言葉に素直に従う幼馴染達は、幼少期に印象付いた、理想の姉像が未だ健全なのかもしれない。
「こほん! えー家系の正体なんだけど、代々続く映画監督なんだよん」
「へぇー! 予想の斜め上だったかも!」
大きな括りで見れば、映画監督も裏の人間なのか。
「ふっふっふ……驚くのはまだ早いのねん。なんと! あのベテラン映画監督ノーネームが、ワタシのパパとママなんだよん!」
「え?! あ、あのノーネーム!?」
ノーネームと言えば、ハリウット賞ノミネートまでされた、現代映画界で有名な監督だ。
徹底して公に姿を見せず、撮影現場でさえも媒体越しに指示を出す、全てが謎に包まれてる事で有名だ。
最近だとノーネームはAIなんじゃないかと、都市伝説が出回ってるぐらいだ。
誰しも解明したいノーネームの謎を、まさかひーちゃんから聞けるとは思わなかった。
「け、結構あっさり素性明かしたけど、良かったの?」
「入れ替わりっ子を話す上で必要だから平気だよん♪」
聞く耳立ててる皆も、暗黙の了解で同意してくれてる。
「とまぁ、そんな2人の娘であるワタシは、生まれてこの方、世界中を巡りながら育って来たのよん」
何だか既視感があると思えば、彦人くんと境遇が似てるんだ。
チラッと視界端に映る彦人くんを見ると、しみじみと人生を振り返りながら、うんうん頷いてた。
「で、とある時、日本での長期撮影でワタシは、ママの妹に預けられたのよん」
「ふんふん」
「あとは吹雪ちんと同じで、あの公園で洋ちんと出会ったんだけろ」
ただでさえ子育ては多忙極まりないのに、世界を巡りながらなら何倍もハードモードだ。
一時でもいいから頼れる人に頼っても、罰は当たらない。
「入れ替わりっ子してた一歳上の従姉ちんが、洋ちんを好きになったのも、大体吹雪ちん達と同じ理由だよん。ワタシが世界で吸収した大人な知識を少々、従姉ちんに普及したぐらいで」
「そっか……え?」
「その甲斐あって、従姉ちんは見事なまでに成熟してるよん」
「あ、待って。せ、成熟って何?」
「身も心も大人色って事だよん。まぁ、そういった経験はまだらしいけどねん」
どうしてひーちゃんが周りより大人びてるのか、ようやく合点がいった。
ただ、大人な知識を簡単に普及しちゃマズい。
思い返せば、ひーちゃんのスキンシップだけ、子供とは思えない艶めかしい物ばかりだった。
「1年もの長期撮影も終わって、ワタシは日本を離れたよん。従姉ちんは自分磨きをし続けて、今年ようやく洋ちんと胸埋めって形で再会を果たしたのねん」
「胸埋め……はっ」
大人な知識、胸埋めの再会。
情報不足が否めなくても、僕の中で1人の女性が浮かんでる。
「まさか……ひーちゃんの従姉って……白石千佳さん?」
「あらら、もう少しヒントあげるつもりだったのに、正解されちゃったよん」
まさか千佳さんがひーちゃんの従姉で、入れ替わりっ子をしてただなんて思わなかった。
よくよくひーちゃんを見れば、パーツの所々が千佳さんの面影と重なる気がする。
「ふふふ……舐めまわす様に見てくれて嬉しいよん」
「え。あ、ご、ごめん!」
「目を逸らさなくたっていいのにん……ぺろり」
柔らかそうな唇を舌なめずる姿も、どこか千佳さんに見えてきた。
幼少期に普及された大人な知識と、自分磨きによって形成されたのなら、千佳さんの年相応でない大人の色香も頷ける。
「ひ、ひーちゃんと千佳さんの関係は分かったけど、真人さんは知ってるの?」
「真人兄ちんは蚊帳の外だねん」
「そ、即答……」
年下のひーちゃんにも舐められてる真人さんが、ちょっと可哀想に思えてきた。
「あ、そうそう。千佳ちんの幼馴染の真理ちんにも、普及してたんだよん」
「ま、真理さんまでも……」
小悪魔系ギャルの真理さんにも影響を及ぼすなんて、それだけひーちゃんの影響力があるんだ。
千佳さん達の大人びた元凶を知れて、良かったのかな。
「話もいいところかしらね」
「そうねん。吹雪ちん達と違って、ワタシ達には小難しさはないから、これで以上だよん」
ひーちゃんの言う通り、割とリラックスしながら聞けて良かった。
「だそうよ。洋もいいかしら?」
「ひーちゃんがいいなら、僕は」
「あ! 最後に一つだけいいかよん!」
「勿論」
「ありがとよん! もし、何らかの形で入れ替わりっ子がバレたら、伝えて欲しいって頼まれたんだよん」
「頼まれた?」
「千佳ちんはいつでも、いつまでも洋ちんを受け入れる気満々だよん、って」
千佳さんもあの時に抱いてくれた想いを忘れずいてくれてる。
そう知れただけで感謝しきれない気持ちが込み上げてた。




