81話 初恋のお姉ちゃん、もう一度同じ人に恋する、義姉妹
お婆ちゃんの持って来てくれた和菓子で、滞りなく皆のおやつあげが完了。
弄り合いが再熱する前に、ふーちゃんに切り出さないと。
「ふーちゃん。さっき姉さんから聞いたよ」
「やん♪ またサイズアップしたのバレちゃった?」
「あ、いや、違うよ」
「入れ替わりっ子についてよ、小雪」
「あぁー♪ そっち?」
反応が思ったよりも軽い。
話すのが照れ臭いのか、身体をくねくね動かし、指先同士をふにふにツンツンしてる。
「んふふ♪ えっとね? こ、小雪でしゅ♪ キャ♪ 噛んじゃった♪」
「え、えっと……これからは小雪ちゃんって呼んだほうがいいのかな?」
「よー君の呼びやすい方でいいよ♪」
「じゃあ、今まで通りのふーちゃんで」
「了解♪」
ゆるゆるな空気、肩肘張ってまで緊張するよりかはいいかな。
「まず、ふーちゃんにはお姉ちゃんがいる、でいいんだね」
「うん♪ 今は別々に暮らしてるけどね♪」
「昔遊んだふーちゃんは、お姉ちゃんと入れ替わりっ子してたんだよね」
「お陰様で、こんなに元気に……大きく実りました♪ ハァハァ……」
自分で立派な胸を揉んで、大きく実った事を教えてくれてる。
少々顔を赤らめて息が荒くても、ツッコミはしない。
「えー……僕としても喜ばしいよ」
「キャ♪ ふーちゃん大勝利♪」
「おい、私を見ながらは止めろ」
「いたたた!? ふともも抓ねらないで!?」
容赦ない制裁を下すしゅーちゃんの背後で、莉緒奈ちゃんと空が密かにガッツポーズを取ってた。
「つ、続けても?」
「い、いいよ。いてて……」
「あ、うん。えー今まで入れ替わりっ子の事を教えてくれなかったのは、お姉ちゃんが口止めされてたから?」
「だね♪ 私はどっちでも良かったけど、お姉ちゃんがどうしてもって、必死にお願いして来たからね」
「じゃあ、口止めの本心は?」
「聞いてましぇん♪でも、何となく分かるよ。よー君との大切な思い出は、綺麗なままでいたいもん」
入れ替わりっ子をバラすなら、明かさないまま思い出として大切にしたかったんだ。
「それによー君は、お姉ちゃんの初恋相手だもん。勿論、小雪一個人としても、しっかりとちゃんと好きだよ♪」
「ふーちゃん……」
「でも、引っ越すって分かってから、お姉ちゃんはその思い出ごと大事に大切に、自分の中にしまい込んじゃったの」
「他県の引っ越しだったから、余計に……」
「新生活が始まれば、何もかも一からのスタートだからね」
次いつまた会えるかも分からない。
もしかしたら二度と会えない。
再会しても綺麗さっぱり忘れられてたら、心に深い傷を負ってもおかしくはない。
だからお姉ちゃんは、そうせざるを得なかったんだ。
「引っ越ししてからお姉ちゃんは、沢山色んな事を頑張って来たの。また会える日が来るまでに、よー君の隣にいられる人になる為にね」
「……そうだったんだね」
「私もよー君のお嫁さんになるのに、現在進行形で頑張ってますけどね! ふっふーん♪」
「うん。ありがとうね、ふーちゃん」
「いえいえ♪ お姉ちゃんもよー君と再会できたし、最近は毎日楽しいみたいだよ♪」
お姉ちゃんと再会済み、そして最近毎日が楽しい。
もうヒントは充分すぎるぐらいだ。
「さてさて! 流石のよー君も、お姉ちゃんが誰かお気付きだよね?」
「だね。でも、どっちが本当の苗字なのか分からないんだ」
「あぁー! 兼森は親戚ので、お姉ちゃんのが私の本当の苗字だよ♪」
今まで気付けなくて、今すぐ謝りたい。
でも、まず最初に言わないといけない事がある。
ずっと覚えてくれてありがとうって。
「……ふーちゃん……いや、水無月小雪ちゃんは、水無月宵絵さんの妹なんだね」
「正解♪ 流石よー君だね」
水無月宵絵さん、僕が尊敬してる一人だ。
今度は入れ替わりっ子としてじゃなく、水無月宵絵一個人として僕に恋をしてくれ、前に告白もしてくれた。
ただ僕が告白を断っても、宵絵さんは以前よりも意欲的に好意を示してくれ、今日もモーニングコールと誕生日を祝ってくれてる。
宵絵さんのひたむきさは、あの時から忘れずに想い続けてくれたからだったんだ。
再会できたのは、偶然か、奇跡か、はたまた運命か。
少なくとも西女訪問で偶然再会。
サバブラでも奇跡的に会え、もう一度同じ人に恋をする運命。
宵絵さんにとっては全部だったんだ。
「そっか……宵絵さん……」
「大丈夫だよ、よー君。お姉ちゃんは今幸せだよ?」
宵絵さんが幸せなら報われた気がする。
なんて都合の良い解釈で、ハイ終わり、って訳にはいかない。
納得が行く形を、今度は一方的にじゃなくて、2人で作り上げるんだ。
「ふーちゃん、今まで気付けなくてごめん……それにずっと覚えてくれてありがとう」
「えへへ……入れ替わりっ子になれて良かった!」
これからは入れ替わりっ子が無くても、ちゃんと大事に大切に、ずっと僕らの心に残り続ける。
だからもう大丈夫だ。
夏空のように清々しく澄み渡った今なら、どんな気持ちにも素直になれる気がする。
改めてふーちゃんに一言言おうとした時。
さーちゃんが申し訳なさそうに手を上げてた。
「あのー……洋ちゃん。今まで言い難かったのですけど、この際だからいいですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます! では、まず秋子ちゃんからお願いします!」
「わ、私か? ま、まぁいいけど……」
不意打ちバトンタッチに戸惑うしゅーちゃんは、落ち着いたトーンで口開いた。
「実は吹雪だけじゃなくて……私達も入れ替わりっ子してたんだ」
「……ん? 今、入れ替わりっ子ってえ?」
「ただし吹雪と異なる形でなんだ」
あんなに清々しく澄み渡ってたのに、一気に雲行きが怪しくなってきた。
「私の場合は姉妹と」
「私は洋ちゃんと別の幼馴染とです!」
「ワタシは従姉とだよん」
「ちょ、ちょっと休憩させて!」
とても簡潔な情報が超ハイカロリー、もう頭が爆発寸前だった。
♢♢♢♢
「とんでもない暴露大会だねーでも、聞き役の洋は1人しかいないから、慌てず1人ずつだよ?」
「「「「申し訳ありませんでした御義父様!」」」」
僕と父さんに向けられた土下座は、すぐやめて貰った。
お茶で一息ついたから、心の準備はもう大丈夫だ。
「それじゃあ、まずは秋子から話してちょうだい」
「ハイ! 蒼さん!」
情報過多と混乱を防ぐ為に、事情を知る姉さんが進行役を務めてくれてる。
「第一前提として、私達が口外出来なかったのは、吹雪と大体同じ理由なんだ」
「うん、分かったよ」
「キュン! こ、コホン! でだ! 姉妹と入れ替わりっ子と言ったが、血は繋がってないんだ」
「義姉妹ってことだね」
「そうなる。お互い物心つく前に、私は母親を、義姉妹は父親をな」
「うん……」
「元々友人だった母達は、幼い私達の為に手を取り合い、時間を重ねる内に結ばれたんだ」
「そうだったんだね」
しゅーちゃん達に寂しい思いをさせない。
将来を不安にさせたくない。
ご両親の子を思いやる気持ちが、しゅーちゃんの言葉越しに伝わってくる。
「同じ歳の義姉妹とは、前々から何度も遊んだ仲だったから、本物の姉妹として受け入れる時間は掛からなかった」
誰かと家族になるのは、勿論簡単に済ませられる話じゃない。
でも、しゅーちゃんの話を聞く限り、今も友好な関係を築けてる様で良かった。
「そしてある日、1人で出歩いてた私は、あの公園で洋さん達を見かけて、興味本位で声を掛けに行ったんだ」
「で、入れ替わりっ子が始まったんだね」
「うん。吹雪も同じ事をやってるって、当時は知らなかったけどね」
お互いの入れ替わりっ子自体は、追々知ったんだ。
「私達の場合、初めこそ洋さんを驚かせたい遊び感覚だったんだ」
「小さい頃ってそういうものだもんね」
「お、お恥ずかしながら……で、で! 吹雪達と同じく、一緒に時間を過ごす内に、私達も恋心を抱いてました!」
「う、うん」
やんちゃで元気溌剌な性格で、いつも怪我をしてたしゅーちゃんは、ずっと男の子かと思ってた。
時折、女の子らしさが垣間見えたのは、義姉妹と入れ替わりっ子してたからなんだ。
「けれど、私達も引っ越す事になって、義姉妹だけ宵絵さんと同じ道を歩んだんだ」
宵絵さんの話を聞いた今なら、気持ちが痛い程分かる。
「その影響なのか、義姉妹は自分1人で何でもやるようになった。まるで私達でさえも壊せない、壁を作る様に」
「壁を……ん? 私達?」
どうして今、しゅーちゃんは私達と言ったんだろう。
ご両親や周りの人を含んだ意味合いだとしても、少し変だ。
「洋さん?」
「あ、ごめん。その……もしかしてなんだけど……義姉妹ってもう1人いたりする?」
「あれ? てっきり分かってたと思ってた」
「って事は……」
「うん。義姉妹は双子なんだ」
壁を作った双子の1人。
その思い当たる人物が1人だけいる。
彼女がしゅーちゃんの入れ替わりっ子なら、こうやって話を聞かなかったら絶対に気付けてなかった。
「でも、とあるきっかけで、壁を作って申し訳なかったって、謝ってくれた」
「そのきっかけって、高校入試の日じゃないかな?」
「……もう誰か分かったんだね」
「しゅーちゃんがヒントをくれたからね」
高校入試の日、その壁を作る双子の1人と、再会してたんだ。
しゅーちゃんと苗字が異なるのは、ふーちゃんと同じで親戚名か旧姓を名乗ってるからだ。
再会してからずっと近くで力になってくれて、大事な友達として仲良く過ごして来た。
「しゅーちゃんの入れ替わりっ子は……峰子さんなんだね」
「正解だ、洋さん」
姉御肌美女こと義刃峰子さんが、しゅーちゃんの入れ替わりっ子。
実感こそあまり湧かないけれど、今の峰子さんも昔の峰子さんも、どちらもかけがえのない人には変わりない。




