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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
2章 不幸な財閥令嬢
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8話 誘惑された姉妹、フランクな美少女、飲ませたい令嬢、好きな人の変わったところ

 一度姉さんと空に事情説明するのに、天宮寺さん達と家に戻った。


「お兄ちゃんを1週間も独占するなんて、普通に許せない、です。どんなに偉い人でもね」

「私も洋が1週間いないと寂しいわ……」


 家族の了承が得られない以上、1週間のお泊まりは無効。

 お泊まり以外なら、勿論力になるつもりだ。


「タダとは一言も言ってませんよ?」


 パンパンと手を鳴らすと、縣さんがチケットらしき紙を取り出した。


「こちら帝王ホテルの数量限定高級モンブラン無料券になります。ご協力頂ければ、あと30枚差し上げます」

「も、もんぶりゃん!」

「そ、空?」


 モンブランは空のスイーツランキングで不動の一位。

 幸せそうな顔が心揺らいでる証拠だ。

 

「こちらは、ぬいぐるみ職人アーデリアンの会員限定展覧会と、ぬいぐるみ講座の招待券です」

「にゅ、にゅいぐりゅみ……」

「ね、姉さん!?」


 ぬいぐるみ大好きな姉さんは、度々アーデリアンの展覧会に行きたいと寝言で言うぐらい、大ファンなんだ。


 ピンポイントの交渉材料を用意するなんて、天宮寺財閥の力があれば、一個人の込みを調べ上げるのも、手に入れることも容易なんだ。


「お兄ちゃん……私、帝王ホテルのモンブランを飽きるまで食べるのが、1つの夢だったの……」

「洋……私は……その……」


 そもそも僕が素直に首を縦に振れば、すんなり済む話だ。


 たったそれだけで姉さんと空、天宮寺さんも幸せになるんだ。


 詰み体質による細心の注意を払って、1週間過ごせばいい。 

 たったそれだけなんだ。


 ようやく決心が付き、緊張で渇き切った口を開いた。


「い、1週間。よろしくお願いします」

「わぁー♪ 心の底から嬉しいです♪」

「お嬢様がこんなにもお喜びになる日が来るとは……うぅっ……」


 縣さんも天宮寺さんの傍にいたからこそ、不幸ではない嬉しい姿を見られて、込み上げて来るものがあるんだ。

 1週間のお泊まり、無事に乗り切ろう。


♢♢♢♢


「それでは洋様を丁重にお預かりしますね♪」

「お兄ちゃんをよろしくお願いします!」

「洋、何時でも連絡して頂戴。私も連絡するから」

「うん。僕もそうするよ」


 1週間分の寂しさを埋めるように、ヒシっと抱き合った。

 2人が幸せならそれでいいんだ。


 名残惜しみつつ離れ、荷物と一緒にリムジンに乗り込もうとした時、不意に名前を呼ばれた。


「おーい、積木ーどうなってんだこりゃー?」

「あ、霞さん」

「貴方が伊鼠中霞さん! どうですか? 一緒に登校しませんか?」

「お、イイんっすかー? じゃ、お言葉に甘えてーっと」


 霞さんみたいにフランクで気軽になれたら、どれだけ心持ちようが楽か。


 姉さんと空に見届けられ、遠ざかる自宅が見えなくなるまで見続けた。


「すげぇー! めっちゃ座り心地良いし、快適だし、いい匂いー! リムジン、最高っすね!」

「うふふ♪ 飲み物もありますよ♪ お好みは?」

「甘々のココアで!」


 テンションがずっと高い霞さんに、ニコニコ楽しそうにおもてなし。

 仲睦まじい2人に挟まれた状態で座ってる。

 霞さんが動けば、ムニムニ柔らかな感触が触れ、天宮寺さんには常に腕を組まれ、ずーっとむにゅんと挟み込まれてる。


「どうぞ♪ ココアです♪」

「アザッス!」

「洋様は何になさいますか?」

「へ? か、カルピソで!」

「承りました♪」


 片手でテキパキと準備して、プレミアムカルピソがグラスに注がれる。

 グラスを受け取ろうと、手を差し伸ばすも、天宮寺さんはそのまま飲ませようとしていた。


「お口、開けてくださーい♪ あーん♪」

「飲め飲め積木ー! ひゅー!」

「わ、分かりましたから、冷やかさないで下さい」


 恥ずかしさを飲み込み、適切なペースで飲ませてくれるカルピソは、大変に美味しかった。


「はい♪ 上手に飲めましたね♪」

「い、いえ……」


 霞さんもニヤニヤと動画を撮らないで欲しい。

 平常心を装ってても、結構精神的には疲れてるんだ。


「ところでなんっすけど、先輩って何者なんっすかー?」


 転校してきて日も浅いなら、知らないのも無理ないんだ。


 直々に自分自身が何者かを、手短に口頭で説明していた。


「へぇーヤバいっすね! あ、ココアのおかわりいいっすかー?」

「勿論いいですよ♪」


 正体を知っても尚、全くものともしない不屈の精神。

 何でも受け入れられる寛大な心は、本当に尊敬の一言に尽きる。


「てか積木ー愛実達に伝えてあんのかー?」

「あ!」


 時間的にはもう、愛実さんと合流してる頃合いだ。

 大慌てでスマホを出し、愛実さんに謝罪と経緯を送った。

 すぐ既読がつき、返事こそ少し遅れて来た。


《ふーん……千佳さん達に甘えてやる》


 ぷくっと頬を膨らませて不機嫌な、可愛らしいスタンプが後付けされた。

 へそを曲げられた反応の、ちょっと可愛らしい一面が見られ、思わず嬉しくなる。


 今日から1週間、愛実さん達と一緒に通学出来なくなると考えたら、ぽっかりと寂しい穴が開く感じがした。

 高校で会えるにしても、やっぱり一緒にいる時間が減るのは、少しだけ残念だった。


♢♢♢♢


 北高に着くなり生徒達には驚かれ、2日連続登校する天宮寺さんはもっと驚かれてた。

 呉橋会長や生徒会役員の皆さんからも、驚きを隠せない連絡が来て、朝から本当に忙しなかった。


「では洋様♪ お昼休みにまた来ますね♪」

「は、はい」

「うふふ♪」


 教室まで付き添ってくれ、生命力の溢れるハミングスキップ姿を見送った。


 教室内の視線がビシビシ刺さる中、赤鳥君も妬ましい視線を送ってるけど、何でか頬が赤く腫れてた。


 赤鳥君の事情はさておき、自分の席に視線を向け、一筋の汗が額から流れる。

 愛実さんが僕の席に座り、ジト目で見てきてるんだ。

 峰子さんや来亥さん達も視線で、早く謝罪を、って訴えてるから、挨拶前に謝罪をしないと。


「あの……愛実さん。連絡が遅れてすみま」

「汝に問う」

「え?」

「今日の私は昨日と違う。それを具体的に答えよ」


 どこか悟った顔になったと思えば、スフィンクスみたいなクイズを出してきた。

 今日の愛実さんは昨日と違う。

 シンプルながらも、かなり難しい問いだ。


「峰子師匠や竹つん達は見事正解してる。ちなみにクソドリにも聞いたら、あのザマになりました」


 これで赤鳥君の頬が赤く腫れてる理由が判明。

 答え様によっては、同じ目に遭うのかもしれない。


 いくら好きな人でも、ビンタは食らいたくない。

 必ず正解しないと。


 まず愛実さんの頭の天辺から脚のつま先まで観察だ。

 ショートの黒髪は艶があってサラサラ。

 美形の日焼け肌小顔も愛らしくて可愛い。

 主張しないスレンダー体型も、しっかり女の子らしくて良い。

 陸上で叩き上げられた美脚は言わずとも。


 特に変わった様子は無いのに、さっきよりも顔が赤らんで、もじもじしてる。

 いつまでも見てられるけど、そろそろ答えを出さないと。


 ヒントは昨日今日で変われる、限定された条件。

 

 考えられる限り照らし合わせてると、ハッと違いに気付いた。


「あ、薄くメイクしてますか?」

「……うん。当たり……」


 ナチュラルメイクに違和感がなくて、危うく気付かないところだった。

 峰子さん達からは、うんうんと頷いて貰い、赤鳥君は机に頭突きを繰り返してた。


「てか、見過ぎ……」

「す、すみません」

「別に嫌じゃなかったからいいけど……えへへ」


 機嫌は良くなったみたいで良かった。

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