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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
12章 詰みな誕生日
78/131

78話 女優生命、未来の花婿・初接吻略奪戦、従姉蜃気楼、味方の花嫁

 渚さんの参戦宣言に古宝さんの目が光っていた。


「凪景様……女優である貴方様が初接吻をお済みでないと?」

「はい! そういったシーンはNGとしてます!」


 古宝さんの見定める眼差しに物怖じせず、より信憑性を高めるべく、林マネさんも激しく何度も頷いてる。


 女優なら絶対求められそうなキスシーンを、NGにする例外中の例外。

 のに未来の花婿・初接吻略奪戦に参戦するだなんて、一体どういう事なんだ。


「……自ら参戦宣言したからには、わたくし達は女優生命の責任を一切取りませんが、それでも?」

「構いません!」

「分かりました……積木洋様も構いませんか?」


 女優生命までも天秤にかける渚さんは本気だ。

 いち個人の誕生日を盛り上げる、そんなお気楽な事じゃない。

 渚さんの本気に応えるのが、僕が出来ることだ。


「はい」

「かしこまりました……では、これより『未来の花婿・初接吻略奪戦』を執り行わせて頂きます」


 計8名の花嫁達vs僕1人の戦いが今始まろうとしていた。


 ♢♢♢♢


 未来の花婿・初接吻略奪戦の主な概要だ。


・舞台・

徒歩5分内で移動可能な場。

(参加人数が10名以上を超えた場合、徒歩10分内に変更可)


・制限時間・

10分。

(開始前に花嫁花婿の両方同意があれば延長可)


・花嫁(鬼役)・

舞台内を徒歩で徘徊し、花婿(捕獲対象者)を捕らえる。

健全な捕獲と認定された場合のみ、接吻可。

花婿を視界に入れた時、走るのを許可

(見失って5秒経過後、徒歩に戻る)


・服装・

白を基調とした動き易いものなら自由。

(過度な露出行為で、花婿を足止めした際は強制退場)


・花婿(捕獲対象者)・

舞台内に設置された計4つの証を入手し、規定のゴールへと向かう。

花嫁に捕らえられた場合、抵抗行為を禁止。


・証・

狐のエンブレム

(入手後、胸元に着用)

証はそれぞれ台座に設置され、一目で分かる目印がある。


・お助けアイテム・

4つランダム配置され、花嫁を20秒静止させる。

(使用は各一度のみ)



 他の事細かなルールに目を通しながら、僕は護送されてる。


 概要を見る限り、証を集めてゴールすれば平和的に終わるんだ。

 この鬼ごっこ風脱出ゲームは、何があっても乗り越えないと。


「積木洋様、着きました」

「あ、はい」


 駅を中心とした場が、舞台に設定され、

 狐婚堂の手回し済みなのか、人っ子一人も見当たらない。


「では積木洋様、良き未来を」

「ど、どうも?」


 古宝さんの運転するバンが颯爽と去り、完全に僕1人だけに。

 たった10分の戦いでも、ここまで孤独で心細くなるなんて思わなかった。

 詰み体質で誰かしら側にいたから、人一倍その実感を感じるんだ。


「……でも、しっかりしなきゃ」


 セルフ頬叩きで気合注入し、今度こそ覚悟が決まった。

 直後、開始のブザーが響き渡った。


 まず集中するのは視覚と聴力。

 迂闊に動けば、足音で察知されて一気に窮地に陥る。

 逆に慎重になり過ぎて、のろのろ動けば、捕まる可能性が高くなる。

 どう動けばいいか護送中に考えてる時、身近にヒントがあると気付いたんだ。


 それは、サバブラで僕が愛用するスタイル、アサシンスタイルに成り切る、だ。


 以前サバブラファンによる『アサシンスタイルに実際なってみた』という動画で再現度100%のクォリティーに感銘を受けたんだ。

 現実でもゲームにキャラに成れるんだと。


 動画を教えてくれた生天目さんには、あとで感謝の連絡だ。

 だから過酷な10分間、アサシンを真似て尽力すべし。


 アサシンを真似て数十秒、足音を殺し、身を潜め北上してると、早速白いシルエットが視界端に入って来た。


「洋くん~どこにいるのかな~?」


 第一花嫁はど日和ちゃんみたいだ。

 ゆらゆらとした動作も、俊敏性を発揮するストレッチに違いない。

 愛実さんが前に教えてくれたのと同じものなんだ、忘れる訳がない。


 幸いにもまだ日和ちゃんに気付かれてない。

 近場にも証の目印は無さそうだ。


 もしかすると目印が視界外かもしれないから、日和ちゃんを避けつつ、もう少し確認を……。


「ん? あれ、日和ちゃんがいない……」


 瞬きした瞬間に消えてる。

 近くの建物に隠れたにしても、全力で数秒は掛かる距離だ。


「一体どうなって……」


 音もなく感じる、この背後の気配。

 紛れもなく花嫁の誰かだ。


「後ろの正面誰だ~?」

「ひ、日和ちゃん……」

「んふふ~大正解~」


 振り返る先にいた日和ちゃんは、恍惚の笑みを溢してる。

 逃走を図っても即捕獲出来ると、余裕な空気だ。


「日和姉! 上手くいったか!」

「暑い……」


 前方から熱気むんむんで汗だくな、文乃ちゃんと莉緒奈ちゃんが姿を見せた。

 そして勝ち誇った笑みとハイタッチする3人に、完全に囲まれた。


「作戦成功だね~」

「さ、作戦?」

「「そう! 暑がりな私達だから成せる、究極の技! その名も従姉妹蜃気楼作戦!!」」

「し、蜃気楼……」


 暑がりの2人が生み出した蜃気楼で、日和ちゃんの幻覚を見せ、僕の油断と視線を惹く。

 その隙に本物が背後から退路を断ち、挟み撃ちする作戦だそうだ。


 花嫁同士が結束するのは、全くルール違反じゃない。

 従姉妹の強固な結束の前じゃ、この状況に成す術無し。


「あれ~? 諦めムードだね~」

「こ、これはもう……やっていいのか?」

「ゴクリ……約束通り、順番はじゃんけんね」


 僕を囲んでじゃんけんに集中する3人を、眺めて待つしかない。

 せめてもの足掻きで、亀の様に縮こまろうとした時。

 突然、誰かに手を取られ、3人の包囲からスルっと逃げ出せた。


「じゃんけ……あれ? 洋君は?」

「「へ? あ!」」


 時間差で気付いた3人が驚くのも無理はない。

 僕を助け出してくれたのが渚さんだったんだ。


 一気に数十mもの距離が開くも、視界に捉えられてる限り追われ続ける。

 早く物陰か角を曲がればいいのに、渚さんの足が止まらない。


「右前方! 足止めアイテム!」

「え? は、はい!」


 渚さんの言う通り、足止めアイテムのオモチャ銃を走りながら入手。

 玉数は6発、安心安全なスポンジ玉で花嫁を撃つ感じだ。


 追ってくる3人には悪いけど、止めさせて貰う。


「んな?!」

「うっ……」

「あにゃ」


 一発ずつ当たり、徐々に静止して行く3人が、遠退く僕らに絞り出す声を出してた。


「な、凪景さん……横取りなんてズルいですよ……」

「横取りじゃないです。助けたんです」

「い、今私達と結束すれば、洋の初チューを一番にして貰っても……」

「しません」

「で、でも凪景さんも、色々とマズいんじゃ……」

「そもそもの話。花嫁は敵にも味方にもなれるんですよ」


「「「あ!」」」


 そんなこと言ってしまえば、元も子もないけれど、ルール違反ではない。

 渚さんの言葉が効いたのか、3人は膝から崩れ落ち戦意喪失。

 静止時間が切れても追ってくる事は無かった。


 これで渚さんを除き、残りは4人の幼馴染達だ。

 未だ遭遇してないとはいえ、以前よりパワーアップしてるんだ。

 捕まる前に証を集め、この戦いに終止符を打つんだ。


「いい? ちゃっちゃと証集めして終わらせるわよ」

「はい! あ、その! ありがとうございます!」

「当たり前でしょ。初めてってのは、いざって時にするもんでしょ」


 渚さんは女優生命を天秤にかけてまで味方になってくれてるんだ。

 心の師匠の渚さんから教わる事は、まだまだありそうだ。


「そ、それに……わ、私も……こ、こんな形じゃしたくにゃいし……」

「え」

「にゃ、にゃんでもない!」


 顔も手も真っ赤にした渚さんは、ギュッと改めて手を握り、走るスピードを上げた。

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