表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
12章 詰みな誕生日
76/131

☆76話 赤らむ女優、女優達とお昼、妬く従姉

※2023/10/10文末に出雲此方のイラストを追加しました!

※イラストが苦手な方はスルーで!

 なんで君がここにいるのか。

 空達と神対応挨拶を交わす渚さんが、圧で語りかけて来てる。

 だから真摯な態度で真っ直ぐ見つめて、分かりませんと目で伝えるしか、僕には出来ないんだ。


 結果、お気に召さなかったのか、顔色が仄かに赤らみ、握手越しの体温が上がり、怒り心頭だった。

 場が場でなければ鉄拳制裁の嵐だ。


「てか、撮影やんじゃねぇのか?」

「っ!? そ、そうでした! い、行きましょう此方さん!」

「わぉ! あ、皆、見学してってね♪」


 貴重な映画撮影見学に赴く一方、僕だけは心ここに在らずなのも無理なかった。

 

♢♢♢♢


《待って! あなたは誰なの?》

《っ……》


 現在の自分を此方さん、過去の自分を渚さんが演じ、自分の未来を変える物語だそうだ。

 応接室での和気藹々と違い、没入不可避な演技力に、現場の誰しもが息を呑んでる。

 画面越しじゃ伝わらない、生でこその演技はきっと、いつまでも忘れないと思う。


 そんな女優と一般人の住む世界が違っても、詰み体質には通用しないんだから、我ながら恐ろしい。


「……ハイ、カット。文句なしの一発オッケーっス!」


 監督さんの一声で、現実に引き戻されても、余韻が残り続けてる。

 一番に飽きそうな蜜葉ですら、静かに釘付けになるぐらいだ。


「み、蜜葉ちゃん? お、おーい?」

「彦人お兄ちゃん。今の蜜っちゃん、物凄く集中してて、何も聞こえないよ……」

「そ、そうなの? 初めて見たかも……」


 興味あるものなら、とことん興味を示し続けるのが蜜葉だ。

 もしかすると女優の道を、自分なりにあれやこれや考え中なのかもしれない。

 身体を動かすのが大好きな蜜葉だから、アクション女優なんかピッタリだ。

 いつどんな時、誰がどんな影響を与えるか、本当にわからない事ばかりだ。


 順調に進む撮影も一区切りつき、しばしの休憩に。


「どうぞ♪ ゆっくり休んでくださいね♪」

「まだまだ続きますが、お互いに頑張りましょう!」


 見守ってたスタッフ陣に、冷たい飲み物を手渡す此方さんと渚さんは、神対応女優そのもの。

 芸能関係話で噂される、芸能人の裏の黒い部分は、2人にとって無縁だ。


「はい♪ 雀子さん♪」

「あんがとさん。此方、昼飯はウチで食ってけよ」

「まぁ♪ 嬉しいわ♪」

「てか、来れる奴ら全員来い」


 今朝方、台所でお婆ちゃんが頭を悩ませてたのは、この事だったんだ。


「凪景さんと一緒にご飯……ほわわ……ゆ、夢みたい……」

「空お姉ちゃん、しっかりして……」

「ふふふ。私も楽しみだよ♪」


 お世辞抜きに楽しみにしてる渚さんは、僕が飲み物を受け取った際そっぽを向き、未だ消えないお怒りを鉄拳発散されないか心配になった。


 ♢♢♢♢


 撮影再開を機に、撮影場から去った僕らは、帰りに買い出しの寄り道をしてる。

 此方さん達を含めたら積木家に約60人が集まるんだ。

 此方さん達が持ち寄ってくれても、もしもに備えておかないとなんだ。


「蜜葉ぁ。菓子ばっか入れるな」

「みんなで食うからいいじゃん! あとこれも、これと……」

「虫歯になっちゃうよ……蜜っちゃん」

「……きょ、今日はこれぐらいでいいかなー?」


 虫歯=歯医者が根付いてるのか、効果的面。

 アシスト吉穂自身もこっそり好きなお菓子を追加してる。

 僕も渚さんのご機嫌取りお菓子選抜を始めないと。

 同じ甘党だからこそ、お菓子選抜が試されるんだ。


「お兄ちゃん、今日は随分と悩むね」

「うーん……死活問題でもあるからね……」

「?」


 渚さんは凪景、その大ファンの空。

 灯台下暗しとはこの事だ、是非ともアドバイスを聞こう。


「あ、そう言えばお兄ちゃん」

「あ、え? な、何?」

「凪景さん達の前で、全然緊張してなかったね」

「え。あ、いや……し、してたよ?」


 大ファンの女優と実兄が交友関係持ち、なんて口が裂けても言えない。


「そうなの? あ、甘盛りスフレクッキー! 凪景さんが今ハマってるやつ♪ これにしよっと♪」

「あ」


 今一番手に入れたい情報と物品が、カゴに吸い込まれた。

 ハマってるものなら間違いない安全策を、空にやられたのは痛恨の極みだ。

 許される道がほぼほぼ無くなった以上、僕のお気に入りの抹茶チョコを選ぶしかなかった。


 ♢♢♢♢


「大事な可愛い可愛い甥っ子の誕生日だ! 一発景気良く、祝い歌をやるぜぇ!」


 総勢60名によるバースデイソングは圧巻そのもの。

 主役の僕も緊張を通り越して、軽くハイになってる。

 バースデーソング後、各々が誕生日会を和気藹々と過ごし始めた。

 それにしてもスタッフさん達の8割が女性で、四方八方どこを見渡しても詰み場が発生してる。

 

「洋、誕生日おめでとう」

「へ? あ、ありがとう姉さん」

「弟が洋で幸せ者よ」

「うん、僕も姉さんが姉さんで良かったよ」


 普段言えない照れ臭い言葉と、プレゼントをくれた姉さんは今、ビキニ姿だ。

 しかも姉さんだけに留まらず、従姉妹の皆がだ。

 発案者は文乃ちゃんと莉緒奈ちゃんだ。


「人の多さと暑がりもあって、2人はプールにいるわ」

「だね……凄い目力……」


 姉さんと入れ替わりで、女性スタッフさん達の会話ラッシュが炸裂。

 男子高校生の流行り、食べ物、恋愛事情はどうなってるのか、簡潔な返事で精一杯だ。


「サバプレね! 弟がやってるよ!」

「シークレットスターは誰推し? 私は千鶴ちゃん!」

「やっぱ今の子って、SNSで告る感じ?」


 そして何より、距離間が滅茶苦茶に近い。

 当たり前に肌が触れ合い、薄着姿が大人の色気と一緒に、思考を鈍らせてくる。


「日頃お仕事疲れのお姉さん達に、現役青春エピ頂戴♪」

「聞きたい聞きたい!」

「ちょ、ちょっと待っおゎ!?」

「はい、休憩タイム~こっちでゆっくりしようね~」


 背後からスポッと抜き出してくれた日和ちゃんに救出された。

 お姉さん達の残念がる声を背に、仏間まで運ばれた。


「あ、ありがとう日和ちゃ」

「休憩にピッタリな膝枕~」


 強制膝枕は勿論、生足ビキニ仕様だ。

 ひんやりすべ肌の極上感触は、癒し効果抜群。

 ただし場が場だ。

 突き刺さる無数の視線の前じゃ、癒しもなにもない。


 だから膝枕じゃなく、普通に座り直そう。


「ありがとう日和ちゃん。もう大丈」

「まだお休みしとこうね~」


 おでこに指を一本置かれただけで、全く起き上がれない。


「大人のお姉さん達に囲まれて楽しかった~?」

「へ? ま、まぁ……」

「へぇ~妬けちゃうな~」


 立派な双子山で顔が見えずとも、日和ちゃんの心境が伝わってくる。

 普段温厚だろうと、いざって時には怖くなる。

 日和ちゃんはそれだ。


「身内なら許せるけど~他所様に取られちゃうのは、やっぱり嫌かな~」

「あ、あの……起きたんぐっ!?」

「洋君と会えるのって、大体年に数回でしょ~? だったら尚更だよね~」


 膝枕から太ももサンドで、頭部が完全に拘束。

 このままだと日和ちゃんが満足するまで、一切身動きが取れない。


 堅牢な太ももサンド牢獄から脱出する方法は、確かにある。

 ただ同じ弱点を持つ身としては、やりたくはない。


「もっと甘えて~構ってくれて~昔みたいに一緒に眠ってもいいんだよ~?」

「み、みんなに見られ」

「日和お姉ちゃんの言うことを聞けない悪い子は、抱き枕にしちゃおうかな~?」


 ビキニ抱き枕をされれば脱出不可能だ。

 やられる前に心を鬼にするしかない。

 日和ちゃんの脇腹に手を伸ばし、弱点の擽りを炸裂した。


「みゃふん!?」

「おわっ?!」


 軽く吹き飛ばされる超敏感反応で、脱出成功。

 不意な弱点攻撃に日和ちゃんは、一瞬で骨抜き状態だ。

 逃げ出すなら今しかない。


「ご、ごめんね!」


 次なる詰み要素までに、一度クールタイムを設けないと身が持たない。

 安置の2階寝室なら、いくらかは時間を稼げる筈。

 忘れ物を取りに行くふりで、玄関方面の廊下へと出た。

 視線こそ向けられるも、誰かが追ってくる気配はなかった。

 あとは階段を駆け上がれば大丈夫。

 そう高を括ったのが運の尽き。

 死角から現れた女性と軽くぶつかった。


「キャ! ご、ごめんなさ……」

「こちらこそ、ご……」


 よりにもよって相手が渚さんだった。

 目が合うなり顔を赤くし、プイッと顔を背けられた。


 そんな危機的状況下、渚さんから仄かな抹茶チョコの香りが、僕の鼻を擽った。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ