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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
12章 詰みな誕生日
75/131

☆75話 実姉妹金縛り、恋は盲目の強刺激ラッピング、サプライズベテランお姉さん

※2023/8/8文末に始名川雀子のイラストを追加しました!

※イラストが苦手な方はスルーで!

 人生16年目を迎えた今日、金縛りで幕を開けた。

 ハッキリ意識があり、息苦しさ、拘束感、視界が暗い現実は、間違いなく金縛りだ。

 

 まずは謎の拘束感がどうにかなるか、水揚げ魚の如く、動きに動いて動きまくるべし。


「……ふっ!ふっ!ふっ!」


 ビチビチ動いたお陰で、金縛りじゃなく全身を誰かに拘束されてると分かった。

 そして拘束者が2名、前と後ろにいる。


 前の息苦しさと視界が暗さ、そして顔一杯に触れてる柔らかな感触は、自ずと拘束者の1人を導き出してる。


「ふっ!ふっ!ふっ!」

「んっ……」


 同室という環境、抱き枕が無いと寝れない体質、一言で誰だか分かる肉声。

 導き出された前面拘束者は姉さんだ。


 状況的に胸埋め抱き枕にされてる訳だ。


「くぴぃ……すぴぃ……」


 後ろから聞こえる静かな寝息、がっしり両手足での拘束、シャンプーの匂い。

 答えはもう空しかいない。

 寝起き早々のサンドウィッチ詰み(実姉妹)が判明した以上、2人を起こさないと。


「姉ふぁん、起きふぇ」

「んっ……ん……? ……洋?」

「うん。おふぁよう」

「……? もう朝?」


 寝惚けたまま解放され、部屋を見渡し疑問を浮かべてる姉さん。

 帰省ゆったりモードだからか、まだ寝ぼけてるっぽい。

 パジャマボタンの掛け違えが、いつにも増してるぐらいだ。


 姉さんには常日頃、朝早くから家事全般をやって貰ってるんだ。

 特別な日以外でも、もっとゆったりリラックスして欲しいのが、僕としての本音だ。


 前が解放され両手が自由になれば、空を起こすのはお茶の子さいさいだ。


「空、起きて」

「すぴぃ……すぴぃ……」 


 伝家の宝刀、声掛け頭撫でが通用しない。

 微かにピクっと反応はしてるんだ。

 通用してるのに通用してないフリ、つまり狸寝入りされてる。

 狸寝入りするまで拘束するなら、僕にだって考えがある。


「……こちょこちょこちょこちょ!」

「みゃはははは!? や、やめてぇ!? みゅふ!? お、起きたから!? みゃははは!? 起きてたから!?」


 弱点の脇こちょこちょの前じゃ、狸寝入りも無力。

 抵抗する暇もなく、空は若干幸せそうにくったりした。


 完全なる自由までに掛かった数分弱、ようやく身体を伸ばした。


「んー……! くんくん……朝ご飯のいい匂い……」


 お婆ちゃんの朝ご飯は、ここじゃ目覚まし代わりだ。

 時刻は7時前、スマホの着信バイブ音が鳴り、少し早めの宵絵さんのモーニングコールだった。

 スマホ片手に廊下へ出て、通話をオンにした。


「おはようございます宵絵さん」

『あぁ、おはよう洋君。そして誕生日おめでとう』

「ありがとうございます」


 こうして祝って貰えるだけやっぱり嬉しいものだ。


『早速誕生日プレゼントについてだが、あらゆる情報を取捨選択した結果、私自身となった』

「も、もっと自分を大切にして下さいよ」

『何を言ってる。大切にしてくれる君なら問題無いだろ。むしろ一線を超えても本望!』


 恋は盲目とは言われつつ、宵絵さんは真剣そのもの。

 一歩手前で踏み止まる自制心すら、軽く乗り越えてきてる。


『それに、世間一般的には己が身体をラッピングするのが刺さるらしい。が、帰省中の君に直接見せられないのが現実だ』

「ちょ、直接のつもりだったんですか」

『あぁ。非常に悔やまれるが、妥協案としてラッピング姿を静画と動画で送るつもりだ。それで構わないか?』

「べ、別のプレゼントでお願いします!」


 直接でもスマホ越しでも、刺激が強烈なのには変わりない。

 結局軽い押し問答の末、別日に直接会う事で納得し合った。


 ♢♢♢♢♢


 大変賑やかに祝われた朝ご飯後、誕生日サプライズをサプライズする為、しばらく出掛けて欲しいと日和ちゃん達に言われ着替えてる。

 もろネタバレを食らっても、誕生日サプライズをやってくれるなんて幸せ者だ。

 それにバースデイ連絡も沢山来てるんだ。

 早く着替えて返事しないと。


「……ぅぅぅおおおぬぉぉおおおお! 洋洋洋! 早く! 早く! 時間が勿体無い!」

「蜜葉ぁ。余裕ある女が好かれるの、知ってるか」

「余裕で元気だ! 雀子!」

「そうじゃないよ蜜っちゃん……」

「あのー……着替え中なんですけど……」


 着替えようにも蜜葉が何度も扉を開け閉めするもんで、着替えに苦戦。


 どうにか着替え終え、車移動中も蜜葉の溢れ出る元気パワーは、小学校に近付く度増していた。

 

「まず無限鬼ごっこな! で、飽きたら最強かくれんぼ! それから!」

「ほ、ほどほどにだよ、蜜葉ちゃん」

「彦兄は分かってない! 小学校は無敵なんだ!」

「怪我だけはすんじゃねぞ」


 縦横無尽に動き回っても、かすり傷で済むのが蜜葉だ。

 お爺ちゃんや虎二郎伯父さんの丈夫な体を、しっかり受け継いでる証拠だ。

 僕らも大きな怪我や病気と無縁の人生を送れてきてるんだ。

 改めて積木家遺伝子に感謝しないと。


「ねぇお兄ちゃん……」

「ん?」

「小学校……なんか人多くない?」

「え?」


 夏休み中でも小学校で遊ぶなんて珍しい話じゃない。

 それが地元の小学生ならまだしも、いるのが大人達だ。

 学校関係者にしては雰囲気も違い、むしろバリバリ仕事をしにきてる感じだった。


「お? なんだなんだ? お祭りか?」

「にしては緊張感があるような……」

「雀子さん、行っても大丈夫なの?」

「平気だ。私に任せとけ」


 大体の事ならまかり通る雀子さんがいれば、確かにどうにかなりそうだ。

 ただ一瞬見せたニヤッと顔を、僕は見逃さなかった。


 駐車後、真っ先に向かう校内は、お盆真っ只中の静かな校内と違い、見たことも無い沢山の機材、謎の飛び交う専門用語、異国さながらの異質さが漂ってる。


 異質な空気中、先陣を切る雀子さんが横切る度、大人の人達にペコペコ頭を下げられる光景も、異質さが際立ってる要因の一つだ。


「着いたぜ」


 行き着いた応接室で一体何が待ち受けているのか。

 一つ言えるとすれば、明らかにオーラの違う何者かが室内にいるって事だ。

 僕らが心構えする間も無く、雀子さんが扉を開いた。

 物凄く綺麗な女性が1人、姿勢正しく静かに座っていた。


「よぉ。来たぜぇ、此方(こなた)

「っ! 雀子ちゃん! 本当に来てくれたのね♪ 嬉しいわ♪」


 さっきまでの第一印象を覆す、キャッキャ可愛らしく喜ぶ姿と、此方(こなた)という名前に、ハッと時間差で気付かされた。


 雀子さんとの対面に喜ぶ彼女こそ、ベテラン女優の出雲(いずも)此方(こなた)さん。

 夏休み初日、渚さんと観たリバイバル映画『雨宿りな2人』で主演を飾った、記憶に新しい人だと。


 蜜葉を除き、空達も唖然を通り越し、オロオロ行き場のない手足を動かしてる。


「なぁなぁ? お姉さんは雀子の友達なんか?」

「あら♪ うふふ♪ そうよ♪ 蜜葉ちゃん♪」

「な、なんで蜜葉の名前を!? はっ! さては、のうりょくしゃか!」

「ふっふっふ……このコナタリンの正体を見破るとはやるわね……」


 即興で悪役にシフトチェンジ。

 本格的な演技も相まって、僕らも現場にいる錯覚に陥ってる。

 画面越しじゃ伝わらない、生演技には本当に鳥肌が立つ。


「あ、あくのおんなだいかんぶ、コナタリン……み、蜜葉に倒せるのか……」

「いい目してるわね……たっぷり可愛がってあげ」

「はいストップ。本気にさせちゃ、後で相手させられるぞ」

「うふふ♪ ついつい♪」


 貴重な此方劇後、此方さんがお茶菓子を用意してくれた。

 ご厚意に甘え、短いながらも楽しい時間を過ごし、緊張も解れた頃合い、ノック音が耳に入った。


「はーい」

「此方さーん? そろそろ撮影始ま……」


 呼びに来た女性スタッフさんが、何故か歯切れ悪く言葉を絶った。

 どうしたのかとチラッと振り向くと、スタッフさんでなかったと一目瞭然だった。


 突然の対面に感激する空、ニヤッとする雀子さん、唖然とする吉穂と彦人くん、小首を傾げる蜜葉。

 そして容姿が違えど、一目見た瞬間に分かった僕。


 不意に現れたスタッフさんではない彼女こそ、女優凪景こと渚さんだったんだ。

挿絵(By みてみん)

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