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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
11章 お盆だよ!全員集合!
74/131

☆74話 長女の手の平の上、従姉妹と姉と妹の寿司食わせ、おめでとうを一番に言いたかった

※2023/8/4文末に積木莉緒奈のイラストを追加しました!

※イラストが苦手な方はスルーで!

 詰みの坩堝は結局、夕飯前まで続き、ありとあらゆる揉みくちゃを経験してしまった。

 夏の火照り肌こそ、スッキリ爽快で解決したからいいものの、明らかに去年以上に精神体力諸共を削られ、今すぐ横になって眠りたい気分だ。

 でも、まだ僕には役割が残っているんだ。


「いいかい洋。断酒作戦を達成できた暁には、平和なお盆が約束される」

「う、うん」


 そう、雀子さんの断酒作戦だ。


 一龍伯父さんによれば、僕が蜜葉と相手したり、プールで揉みくちゃにされてる間、伯父さん達がせっせと雀子さん達の荷物運びをした際、お酒を持参してないか入念に確認したそうだ。

 幸か不幸か、お酒は一滴も持参しておらず、金庫に封印されたお酒さえ守れば、断酒作戦は成功すると。


「ワシらも飲めないのは致し方が無いが、雀子を止められるなら安いもんだぁ!」

「そうだねお父さん!」

「姉さんにようやく勝てる日が来るとは……くぅ……」


 虎二郎伯父さんの趣味部屋で、積年の思いを馳せるお爺ちゃん達。

 ただ父さんと俊弓伯父さん、そして彦人くんだけは疑問を浮かべてる。


「んー……どうかなー」

「雀子さんが無策な訳がない……」

「母さんの事だし、そう簡単に行かないよ……絶対」


 お酒を封印する金庫を、ジーッと眺める彦人くんの予感は、リビングに戻ったことで現実となって姿を表すことになった。


「「「な!?」」」


 お爺ちゃん達が絶句で立ち尽くすのも無理はない。

 リビングに映ったそれは、この町の地酒を嬉しそうに飲む、雀子さんの姿だったのだから。


「んっくんっく……ぷふぇ! やっぱ故郷の地酒が一番だなぁ。なぁ親父、愚弟共」


 雀子さんの小脇に頓挫する数多のお酒は、封印されてる筈の現物だと、お爺ちゃん達の動揺を隠し切れない顔が、そう言ってる。

 ダイアル番号も、2つある鍵も、雀子さんには絶対知られてないのに、どうして封印が解き放たれたんだろうか。

 その答えを聞き出してくれたのは、父さんだった。


「どうやったの姉さん?」

「えー? 玄三~知りたいのー? んふふ~しょうがないなー♪ ズバリ! 私には有能な味方がいる! だ!」


 雀子さんはお婆ちゃんと伯母さん達、そして母さんとバッチリ目が合ってた。

 ごめんねーと、母さん達は楽し嬉しそうにキャッキャウフフと勝利を喜んでる。


 そして雀子さんが酒の肴代わりに、種明かしを語ってくれた。


♢♢♢♢


 そもそも今作戦自体、前々から伯母さん達伝いで筒抜け。


 2つのダイアル番号は、一龍伯父さんが考えたもので、茜伯母さんがそれらしきメモを入手し、見事なまでに的中。

 まさかの情報流出に頭を抱える一龍伯父さんを、茜伯母さんはシャッターを切りまくってる。


 僕の場合、プール前の蜜葉との相手中、小休憩を挟んだ際にお婆ちゃんが、タオルを手渡してくれた時、鍵をちゃっかり拝借。

 今鍵は僕のポケットに存在してるのは、プール後のシャワー浴び中に戻したらしい。

 気付ける訳がない。


 父さんの場合、部屋で荷物整理中、雀子さんご本人が足を運び、手伝いながら鍵を入手。

 谷間から取り出した鍵を見て、父さんは大変に納得して感心してた。


 趣味部屋は、雀子さん達の荷物運びを終えた伯父さん達が、汗を流すのに親子水入らずでお風呂に入ってる間、雀子さんが余裕綽々で侵入し、お酒を奪取。


 つまり眼には眼を歯に歯を、作戦には作戦をやられてたんだ。


「って事で、勝利の美酒は美味いなぁ~」


 完敗したお爺ちゃん達は、敗北としてお酒をお酌していた。


 ♢♢♢♢


 積木家が一斉に集った夕食は、出前の特上お寿司と数々の手作り料理と、豪勢なものだった。

 特上お寿司は、雀子さんが全額支払い済みで、大いなる太っ腹に有難く頂いてる。


「飲めや~食えや~! あひゃひゃひゃひゃ!」

「姉さん。動くと食べ辛いんだけど」

「えへへ~? 好きなトロ食べりゅ?」

「うん」


 父さんに肩を組み、上機嫌にあーんをする雀子さんは、完全に出来上がってる。

 大人女性陣営も勝利の美酒に酔いしれ、絶えず語り続ける女子会になってる。


 お爺ちゃん達は縁側で反省会を開き、酒乱の雀子さんと接触しない様にしてた。

 

 一方、従姉妹達の皆も、特上お寿司と料理を食べながら、それぞれ騒がしい。


「イクラ! イクラ! イクラを食いたい!」

「もう4貫も食ったろうが! 食い過ぎだ!」

「まだ入るし! ほら! 全然お腹出てねぇし!」

「馬鹿! 腹見せんな!」


 柔艶なほっそりお腹を、おっさんみたいにパンパン叩き、大好物のイクラを所望する蜜葉。

 文乃ちゃんが注意する傍ら、自分のお皿には大層カロリーの高そうなお寿司達が、厳重にキープされてる。

 美味しいには抗えないのは仕方がないだろうけど、食べ過ぎないかが心配だ。


「胸筋を鍛えると、土台が大きくなるらしい」

「じゃあ追加プランで筋トレだね!」

「胸筋……バストアップ……ふむふむ……」


 莉緒奈ちゃんに空、吉穂はバストアップ論を肴に飲み食い。


「彦兄は年々渋みが増してるわね」

「えぇ……この前なんか30代後半に見られたんだよ……とほほ……」

「あぁー♪ 確かに見えるかもー♪」

「えぇ!? 本気で言ってるの日和ちゃん!?」


 ピチピチの20歳には到底見えない彦人くんを、姉さんと日和ちゃんが褒めてても、全然嬉しそうじゃない。


 確か彦人くんが中学の時、友達と映画館や遊園地に行ったら、1人だけ大人料金で、毎度説明しなきゃならなかったって、しょんぼりしてた。


 今は料金問題こそ解消済みらしいけど、外出する度必ず職務質問されるそうだ。


 そんな楽しい夕飯を眺めてても、僕の口ん中が空になった途端、従姉妹達と姉さん達が目を光らせるんだ。


「お! 洋! 次は蜜葉のイクラ食っていいぞ!」

「おい! それ私のやった奴だろ! 蜜葉のは放って置いて、鰻で精力付けてくれ!」


「自分のを先に食べなさい、お肉たっぷりな文乃ちゃん。ほら洋、栄養価抜群の鯖を食べて」

「いやいやいや! お兄ちゃんには肉厚な赤貝の方がいいよ!」

「2人ともダメだよ。次は牡丹海老が相応しいよ。ちゃんと頭と尻尾取ってるから大丈夫」


「玉子でさっぱり口直しした方がいいわ。あ、一口食べちゃったけど、いいわよね」

「納豆巻き美味しいよ~? あーん♪」


「い、一斉には無理!」


 お断りも虚しく、お寿司と手料理を餌付けの如く、満腹になるまで食べさせられたのだった。


 ♢♢♢♢


 騒がしかった家が寝静まった深夜0時前。

 日中の疲れがあるのに、何だか目が冴えて眠れずにいる。

 皆は気持ち良さそうに眠り、近場で夜風にでも当たりに

 

 スマホを持ち静かに部屋を出た時、スマホの着信バイブ音が鳴った。

 軽く驚きつつ画面を確認したら、目がより冴え渡った。


「え。め、愛実さん?!」


 い動揺を隠せないまま、息を静かに整え、通話をオンにした。


「も、もしもし?」

《あ、積っち? 今大丈夫か?》

「あ、ちょっと移動するから待って!」

《うい! ふんふふ~ん♪》


 流行り曲の鼻歌が、可愛らしくスマホ越しに耳を擽られ、足元が少しばかり疎かになる。


 分かり易く浮足立ってるのを、自覚しながら玄関を出て、家の敷地外へと歩き始めた。

 夏夜にピッタリな虫と蛙の声を感じながら、愛実さんに声を掛けた。


「も、もしもし愛実さん? もう大丈夫だよ」

《お! 迅速な対応ありがとうごぜーます!》

「い、いえいえ。ところで……夜更けにどうしたの?」

《ふっふっふ……今なーん時だ?》

「え? もうすぐ日付が変わる時間……あ」


 時間確認にスマホを見た瞬間、丁度日付が変わった。


《来た! 0時! 誕生日おめでとう! 積っち! イエーイ!》


 日付の変わった今日こそ、僕と愛実さんの誕生日なんだ。

 わざわざおめでとうを言うのに電話してくれたのなら、滅茶苦茶嬉しい。

 ニヤニヤが止まらない僕も、愛実さんにおめでとうを返そうとしたら、愛実さんが先に言葉を続けていた。 


《あ、あのさ? お、おめでとうを一番に言いたかったんだ……》

「愛実さん……」


 特別な言葉じゃなくてもいい、ありふれた言葉でもいいんだ。

 心の底から込み上げる、大事な気持ちを確かめさせてくれる。


「本当に嬉しいよ……ありがとう」

《な、なら良かった……ふぅ~……》


 愛実さんもちょこっと緊張してたのか、安心の声が漏れてた。

 折角なら僕の方から、おめでとうを先に言いたかったけど、気にしなくていい。

 今度は僕から、お祝いの言葉を一番に送ればいいんだ。


「コホン! えぇー! 愛実さん!」

《ふぇ? っ! はい!》

「本日はお誕生日おめでとうございます!」

《お、おぅ! あんがと!》

「これから先もずっと、愛実さんと一緒に過ごしたいので、今後ともよろしくお願いします!」

《こちらこそよろ……え? これから先もずっ……あ! 充電が無く――》


 通話が切れた。

 もう少し話していたかったけど、僕の方も充電切れで掛け直しは無理っぽい。


 今日は始まったばかりだ。

 時間が空いたら、また僕の方から連絡しよう。


 ゆっくりと来た道を戻る足取りは、フワフワな気持ちで胸が一杯で、布団に入ると嘘みたいに熟睡出来た。


挿絵(By みてみん)

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