☆72話 長女のご帰還、甘々な長女、積木家全員集合、お盆サンタ長女、揺らいじゃいけない大事な気持ち
※2023/8/2文末に積木日和のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
積木家全員がヘリの音に釣られ、外へ注目する一方。
お爺ちゃん達の顔色が、どんより敗北を認めてた。
酒乱の雀子さんに対抗するだけ無駄。
多分、親子兄弟の大事な一種のコミュニケーションだから。
隣に立つ父さんが、小首を傾げる姿を見た。
「にしても、どこに着地するんだろう」
「あ。確かに……」
広い敷地と言っても、ヘリポートみたいに安全に着地できる場所は、ここらには無い。
一体どうやって降りて来るのか、庭の真上に滞空したヘリを見上げてると、梯子が地上まで伸びて来た。
そして物凄い速さで梯子をスライド降下して来た人が、地上へと降臨。
健康的な若々しさが垣間見えるオフショルへそ出し長袖、通気性運動性を両立するハイウエストカーゴパンツ。
ただでさえ高身長なのに、高みを行くヒール。
黒で全体統一されたストリートファッションを着こなし、ティアドロップサングラスを外した彼女こそ、始名川雀子さん、僕の叔母だ。
黒髪オールバックパーマも相まって、元々の大人カッコいい印象が増して、そこにいるだけで圧倒的な存在感を放ってる。
「御長女様のご帰還だぜ。親父、お袋」
「お、おぅ」
「次は地上から帰って来なさい。それと、まずはうがい手洗い」
「わーてるって」
貫禄ある佇まいも会う度に増し、伯父さん達は玄関から静かに様子を伺ってる。
ただ唯一、マイペースに近付く父さんだけは違った。
「おかえり姉さん」
「! 玄三んっ! ただいんっま♪」
パァッと可愛らしい満開笑顔で、ど正面ハグと頬キスを浴びせる雀子さんは、昔から父さんにこんな感じらしい。
いくつになっても変わらない姉弟の仲睦まじい姿でも、身内の前で堂々とされたら、実子の僕が照れてしまう。
「す、雀子さん。そろそろ父さんを……」
「ん! 洋! 年々玄三に似てきて、可愛ええな!」
「わっぷ!?」
僕にシフトチェンジからの拘束型豊満胸埋め。
前までの僕なら窒息寸前までやられて、ぐったりする事で終わってしまってたけど、自然解放脱力モードを知った今じゃ、どんな胸埋めも怖いもの無しだ。
「ところで……残りの愚弟共はどこだ」
「ふぇ? 玄関」
「よーしよし♪ 玄関だな♪ いい子いい子♪」
存分にヨシヨシ撫で撫でを堪能した雀子さんは、玄関に視線を定めた瞬間、ガラリと空気を一変。
怖気ついてしまう重圧の足取りで、伯父さん達に接近。
結末は分かりきってるんだ。
可哀想だけれども見届けるしかできない。
「挨拶無しとは、随分と偉くなったもんだな」
「ご、ごめんなさい……」
「あばばばば……」
優しく頼れる伯父さん達は、雀子さんの前じゃ、ただの怯える子犬だ。
「成長しねぇ愚弟共には、荷物運びがお似合いだな。ピュイィ!」
綺麗に鳴り響く指笛を合図に、ヘリから物資調達の如く、大型キャリーバッグやらの荷物の数々がズリズリ降りてきた。
それに続いて、びくびくと梯子をゆっくり降りてくる2人が、数分後に地に足着けた。
「こ、怖かった……」
「じ、地面だよ……お父さん……」
抱き合いながら座り込む、始名川俊弓伯父さんと彦人君には、同情せざるを得ない。
何はともあれ、これで積木家全員集合だ。
「俊くん。立てる?」
「あ、ありがとう玄君……」
父さんの肩を借りて立ち震える姿は、生まれたての小鹿そのもの。
俊弓伯父さんは根っからのインドア派の小説家で、滅多に外へと出る事がないから、人一倍地面が恋しかったに違いない。
僕も父さんに見習い、青ざめてる彦人君の傍へと近付いた。
「お疲れ様、彦人くん。立てそう?」
「よ、洋くん……」
すっかり腰の引けた彦人くんは、外見こそ人が近寄り難いダウナー系で地声も低くく、初対面時の印象はあまり好印象でない。
ただ内面が小動物みたいに弱々しく、お花を育てるのが大好きな完全平和主義人だ。
雀子さんに振り回される人生で、数え切れない衝撃場面に遭遇しまくって、反発で出来上がったのが主な原因だと思ってる。
雀子さんは、顔の広さ、人脈、人望が僕の知る限り、そんじゃかしこの芸能人よりも遥か上を行く、世界を放浪しまくる実業家だ。
つまり彦人くんは生まれながら、雀子さんに振り回される以外に選択肢が無かった訳だ。
肩を貸しながらリビングまで移動し、ソファーに腰を下ろした彦人君は、そのまま横たわってしまった。
ホロリと安堵の涙を流すぐらい、安置が恋しかったんだ。
ともあれ、歳の近い同性が、積木家に存在するだけで、どれほど心強い事か。
彦人くんに心で感謝してると、お婆ちゃんを除く女性陣営が仏間で、ビシッと正座して並んでた。
「待たせたなお嬢さん方。お望みの品を受け取れ」
大袋を担いで来た雀子さんに、積木家女性陣営の眼差しは、キラッキラに輝きを放ってた。
毎度恒例、大抵の事なら何でも叶えてくれる雀子サンタの前じゃ、あんな風になっても無理ない。
「玲子にはWWEプレミアペアチケット、往復ファストクラス航空券だ」
「わぁー♪ 本当にありがとう♪ 雀子さん♪」
プロレス大好きな玲子伯母さんは、もう骨抜きメロメロ状態だ。
あらゆる伝手と交渉で、元値よりも格安で入手するのが雀子さんなんだ。
本当はどれも無償で入手可能らしいけど、利益になる割引きが絶対条件だそう。
「次、茜には最新の高解像度一眼レフカメラだ」
「これですこれです! ありがとうございます!」
大事に大事に受け取ったカメラは、一龍伯父さんの撮影に使われるのは、説明がなくとも明白だった。
「恵那には、ギャディズ・ニューマンのジャパンコレクションをセッティングして貰う。上手くやれよ」
「う、わ、は、へぇふ! 全身全霊でやります!」
海外でもっとも影響力があるとされる、美容インフルエンサーの名前だ。
ニューマンのアマチュア時代から目を付け、いつの日か一緒に仕事がしたいって、いつも言ってたから願いが叶って良かった。
「日和には、究極安眠セット最新モデルだな。後で虎二郎にセッティングして貰え」
「ありがとうござすやー……」
セットを抱き枕代わりに、感謝入眠するなんて、日和ちゃんにしか出来ない芸当だ。
「蒼には宮沢のんの完全オーダーメイドぬいぐるみだ」
「はわわ……完全再現されてりゅぅ……」
自作イラストでの世界に1体だけのぬいぐるみを、前々から欲しいと雀子さんにお願いしてたぐらいだ。
動物だとギリギリ分かるぬいぐるみも、姉さんさえ良ければ何も問題ない。
「文乃には、海外セレブ御用達ダイエットインストラクター推薦の間食約3ヶ月分だ。食い過ぎんなよ」
「こ、今回こそ痩せるし! たぶん……」
横っ腹をプニプニ摘み、幸先不安なのが全然拭えない文乃ちゃん。
莉緒奈ちゃんに肉付きが良い方がいいって、強めに言ってたのに、やっぱり気にはなってたんだ。
「莉緒奈にはVtuberの3Dモデルだ。相手の連絡先を教えっから、あとは好きに頼みな」
「これで覆面から解放される……」
巷で一世風靡中のVtuberは、正直何が何だか分からないけど、莉緒奈ちゃんにとってはいい事なんだ。
「空には……うーん……まぁ、頑張れ」
「ありがとう雀子さん! ふんす!」
雀子さんに手渡された物がチラッと見えるも、僕は見なかった事にした。
姉さんや日和ちゃん、文乃ちゃん達に比べれば、空は圧倒的に慎ましやかだけど、僕からは口出し無用だ。
「吉穂には永久不滅メロメロテクニック1000選・最新版だ。必要あるか?」
「大いに……ありがとう雀子さん」
ニコッと僕に向かって微笑み掛けられ、小学三年生とは思えない小悪魔っぷりが垣間見えた。
まるで千佳さんや真理さんのような、グイグイ系ギャルに近い感じだ。
積木家の中じゃ、まだまだ考えの読めない吉穂が、近い将来どうなるのか見当もつかない。
「蜜葉には、世界ベスト玩具賞を受賞した、ポイントチャンバラセットだ。初っ端から暴れんなよ」
「うぉおおおおおお! めちゃんこ欲しかったヤツだぁああ! 洋洋洋! 見ろ見ろ見ろ!」
「うぉうぉうぉ!? うべぇ?!」
抱えたセット諸共突っ込まれ、少々痛い抱っこでギリギリ受け止めた。
目が完全にお遊びモードになった以上、3時のおやつまで止まらない。
「いいか! 洋! 今から遊びまにょわ!?」
「落ち着け蜜葉。まずは彦人と遊んで貰え」
「分かった! とぅ!」
「ぐうぇ?!」
絶賛安眠中の彦人くんに、容赦ないジャンプダイブで、遊び相手を切り替えた蜜葉。
彦人くんには申し訳ないけど、しばらく任せよう。
「最後に洋……」
「う、うん」
真っ正面に立つ雀子さんが、真剣な面立ちで見下ろしてきてる。
緊張の生唾を飲み込むと、ギュッと手を優しく包み込まれ、何かを手渡された。
「大事な気持ち……揺らぐなよ」
雀子さんの凄い所は、僕らの近況情報ですら巡り巡って、伝わっている所だ。
揺らいじゃいけない大事な気持ち。
つまり僕が愛実さんが好きなのも知ってる訳だ。
「ありがとう雀子さん。僕なら大丈夫」
「そうか……うぅ~……寂しい胸の子らしいけど、私の胸にはいつでも埋もれていいんだからな?」
「あ、うん」
直球の胸関連話は、ご本人がいない場でも濁しておかないと。だ
寂し気に胸埋めを期待する雀子さんはさておき、手渡された謎の箱を見ると、透明な蓋で守られたスイッチっぽかった。
「あー……これってスイッチ?」
「そう! 明日の夜のお楽しみってヤツだ!」
「?」
ニマニマと顔の雀子さんの考えてる事。
予想の斜めを行く可能性大だ。




