☆7話 不幸体質女子の夢、生命力が爆発した美少女
※2023/4/13文末に天宮寺眞燈ロのイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
昼休み、生徒会書記の2年生暗堂芽白さんの連絡で、お弁当を持って生徒会室に向かってる。
林間学校で肝試し実行委員長だった暗堂さんが、お疲れ様会の日程調節や参加者を、一緒に確認したいそうだ。
北高生徒会は代々、生徒会長自らがスカウトした方々で結成され、プロフェッショナル揃い。
一般生徒はまず迂闊に近付けない、と呉橋会長が以前、だらだらとお菓子を食べながら教えてくれた。
だから、そうなんですか〜ぐらいのリアクションで返した。
生徒会室に着き、扉をノックをするも返事は無し。
いつも誰かしらいるのに、施錠もされてなく、丁度出てるのかもしれない。
もしくは室内で何か起きてる可能性がある。
一応の確認の為、扉を静かに開いた。
「失礼します……やっぱり、誰もいな……」
来客用ソファーでスフィンクス座りで眠る、生徒会役員じゃない見知らぬ女子生徒がいた。
淡い紫色の髪、儚げで美しい、すぐにでも消えてしまいそうな雰囲気だ。
「ん……あ、星さん……戻ってきたんで……」
目が合い物凄く気まずいのに、目が離せない。
不思議そうな顔で見つめられ、再度口を開いてた。
「貴方は……1-Bクラスの積木洋さん……でしたよね?」
「え、え? 何で知ってるんですか? 初対面……ですよね?」
「全生徒の顔と名前ぐらい、覚えないとですし……ふふふ」
サラッとエグい事を言ってる。
ぽやぽやで優しい感じなのに、掴みどころがなく、本当に何者か分からず、体に自然と緊張が走ってる。
「は! 申し遅れました。わたくし2年Cクラスの、天宮寺眞燈ロです」
天宮寺という名前を聞いた途端、緊張のあまり体が石になった。
天宮寺財閥、総資産数兆円。
大企業を数多牛耳り、北高や西女を始めとする、校舎を数百創設した生きる伝説。
総理事長の末娘さんが在学中してると入学前から知っていた。
実際に姿を拝見するのは、今が初めてだ。
「中に入らないんですか?」
「え、あ、ハイリマス」
正体を知り、言葉も動きもカチンコチン。
人生史上でもっとも緊張してる。
向かい側に座ってみたものの、柔らかな優しいニコニコ笑顔で見られてる。
相手が相手だ。機嫌だけは絶対に損ねてはいけない。
「あ、あの……天宮寺様」
「まぁ、様付けなんてしなくていいですよ? 気軽に天ちゃんでも、まほっちゃんでも、眞燈ロでも、何でも好きに呼んで良いですよ?」
寛大な性格故、気軽に親しい名前を呼べない。
1番安全な苗字呼びがいいに決まってる。
「て、天宮寺さん……そ、そのですね? 校内でお見かけした事がなかったので……その……」
「無理もないですよ。わたくしが今年度で登校できたのは、3日だけですので」
「み、3日?!」
お家事情で滅多に来れないにせよ、何で北高を選んだんだろう。
興味あるのに聞けない、何とももどかしい空気の中、扉が勢い良く開いた。
「まほっちゃん! 何も起きてな……って、洋君。来てたんか、我」
会って早々に失礼な、美人でモテない呉橋会長が来た。
両手に謎の大荷物を抱えてる。
「おかえりなさい、星さん。荷物ありがとうございます」
「そんな事より! 横になってて良いよ!」
何か悪い物でも食べたのか、も相手が天宮寺さんだから露骨にヘコヘコしてるのか。
どちらにせよ気遣ってるのは確かだ。
「星さん。積木さんにも説明してもいいですかね?」
「あ、うん! 洋君なら大丈夫! ベラベラ喋る勇気無いから!」
「呉橋会長……」
「だって本当じゃん」
否定は出来ないから、言い返せない。
無駄にあーだこーだ言われる前に、天宮寺さんの説明とやらに、聞く姿勢を正した。
「お、お話になってどうぞ」
「では遠慮なく……わたくし、人よりも不幸が降りかかり易い体質なようで、学校に通いたくても通えなかったんです」
不幸体質の過去を軽く話してくれた。
小学生の時、捻挫に脱臼、知らぬ間に骨にヒビが入っていたり、無傷な日を数えた方が早いぐらい、怪我が絶えなかった。
中学生は更に悪化し、現在まで何かしらの負傷が降りかかり、連日登校が叶わなかった。
「お恥ずかしながら、先日までお尻の方の不幸が起きてまして、ようやく完治して登校出来たんです」
「おし……」
追及しないのに、わざわざヒントを与えてる。
呉橋会長は何故か顔を赤らめ、自分のお尻を隠くしてた。
「こんな体質ですけど、出席はちゃんとしてるんですよ?」
「これでね! どん!」
「タブレット端末……つまり、リモート出席ですか」
「画面越しですが、授業も行事ごとにも参加できます……けど、直接楽しめた事は一度もありません」
本当なら直接、その体一つで皆と同じ時間を過ごしたい。
のに、不幸体質で叶えられない。
にこやかな笑顔を見せても、ずっと前から苦しんで辛かったんだ。
「なのでわたくしはいつの日か、普通の女の子として当たり前を楽しむのが、幼い頃からの夢なんです」
「まほっちゃんの夢叶えたいからさ、色々頑張ってんだけど、中々上手くいかんのよ」
両手の大荷物も、楽しみたい物が沢山入ってるそうだ。
1人の友人として、1人の生徒として、誰かの力になって寄り添える、呉橋星はそんな人だ。
口では何とでも言える。
実際、行動に移せる人は本当に少ない。
力になりたいのなら思うだけじゃダメだ。
ちゃんと自分の口で伝えて、行動しないと意味がない。
「あ、あの! 僕も天宮寺さんの夢に協力しても良いですか?」
「洋君……」
「いいのですか?」
「はい! 天宮寺さんには幸せになって貰いたいですから!」
自分の時間が無くなるからやらない。
どうせ無意味な時間。
心許ない言葉もあったと思う。
それすらも忘れるぐらい今後楽しめば、不幸体質もいつか薄れて、普通の幸せに満たされる筈だ。
「不思議な人ですね……こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい!」
握手を交わす天宮寺さんの心が、少し軽くなれたら嬉しい。
遅れて合流した暗堂さん達と、お昼を一緒に食べ、時間が許す限り楽しみたい事を、皆で和気藹々と楽しんだ。
♢♢♢♢
翌朝、いつも通り玄関で靴を履いてたら、インターフォンが鳴った。
きっと霞さんだろうと、すぐ外に出た。
「おはようございます、霞さ……え」
黒スーツのダンディーなお爺さん。
黒塗りの高級車リムジンも、家前に停まってる。
まだ寝ぼけてるんだと、グシグシと目元を拭っても、1mmも景色は変わってなかった。
「積木洋様ですね。わたくし、天宮寺家専属執事長、縣と申します」
「て、天宮寺さんの……」
執事の実在よりも、まず家に来てる理由を探せど探せど、見つからない。
「積木様ぁー! おはようございまーす!」
リムジンから天宮寺さんご本人が、上半身を乗り出し、元気一杯に手を振っていた。
聞き間違いでなければ、積木様と呼ばれた。
きっと聞き間違いに違いないし、明らかに昨日と様子が違ってる。
「一緒に登校しましょうー! つーみーきーさーまー!」
ご丁寧に一文字ずつハッキリと、積木様と呼んでる。
一体昨日の今日で何があったのか、分からずじまいのまま縣さんにリムジン内へ誘導された。
隣に座って下さいと言わんばかりに、ポンポン隣を推奨してる。
大人しく座った途端、胸が当たる腕組みをされた。
「積木様! 聞いて下さい!」
「は、はい! なんでしょう!」
「わたくし! 昨日から一度も不幸が起きてないんです!」
「め、珍しい事なんですか?」
「勿論です! 朝は必ずどこか攣ったり、寝違えたりするのに、今朝は痛みのない目覚めだったのです!」
大変に喜ばしい報告を、わざわざ知らせに来たのなら、少し大袈裟だ。
「不幸が起きない理由は何か、いつもと違う点を洗い浚い、熟考したところ! とある結論に至りました!」
「と、とある結論?」
「はい! 積木様! 昨日、貴方様に出会い、直接触れ合った事で、不幸が帳消しになったんです! それ以外に考えられません!」
僕自身が他と異なる点は、詰み体質の一点。
天宮寺さんの考え通りなら、マイナスの体質同士が接触で、プラスに変わったのかもしれない。
奇跡みたいな事実なら、とんでもない事だ。
「なので積木様! 本日から1週間! 帳消しを立証する為、わたくしの自宅で一緒に過ごしてくれませんか!」
「せ、整理する時間を下さい!」
急な情報過多に、頭はパンクしそうになったのは言うまでもない。