☆68話 愛する孫達、久々の全員集合、頭ポンポンで笑顔満開、元気っ子従妹、控えめな従妹
※2023/7/29文末に積木狩太のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
お盆の1日前、僕ら積木家は父方の実家に毎年行く事になってる。
始発の電車で片道3時間弱、自然溢れるのどかな小さい町で三日間滞在だ。
帰省は思ってるよりもやる事がないって、よく言われてるそうだけど、積木家はそんな事を微塵も感じさせない程、忙しなくて退屈は一切しない。
駅に着き、慌ただしくホームを出ると、道路脇に駐車する白ワンボックスカーが僕らの視線を奪った。
「あ! もう来てる! どこどこ?」
「ガッハハハ! おかえり! 愛する孫達ぃ!」
「! お爺ちゃん!」
「おっとっと! 空ぁ! 元気してたみたいだなぁ!」
「うん!」
背後から豪快に笑い現れたのは、僕らの祖父狩太お爺ちゃん。
近所の子供達からはモリ爺と呼ばれ、みんなの人気者だ。
定年前は役場で働き、冬になるとジビエ料理の為に狩猟、趣味の畑で採れたて新鮮野菜を販売しに行ったり、いつも元気もりもりアクティブお爺ちゃんなんだ。
「蒼も洋も元気そうで何よりだぁ!」
「お爺ちゃんお婆ちゃんの、美味しい野菜とかお肉のお陰だよ」
「余す事なく、丹精込めて作ってるわ」
「そっかそっか! ほれ! 荷物積んで行くぞぉ!」
「「「おぉー!」」」
バックドアから荷物を積もうとしたら、大容量のクーラーボックスが積まれてた。
「お爺ちゃん、これ中身何?」
「猟師仲間に保存して貰ってた猪肉だぁ! 洋の誕生日に振る舞うぞぉ!」
「やったー! ありがとうお爺ちゃん!」
「ガッハハハ! 良いってことさ!」
お爺ちゃんの獲ったお肉は、丁寧に下処理されてて、獣臭さや筋張って固いとかが一切無いんだ。
思い出すだけで涎が口一杯に広がって、明日の誕生日が待ち切れない。
♢♢♢♢
助手席から変わらない町並みに癒され、お爺ちゃんよお会話に花咲かせてると、ふとお爺ちゃんがハッと話題を切り替えて来た。
「そうだそうだ! 今年は久々に全員集合だぞ!」
「え! じゃあ、雀子さん達にも会える! 楽しみだな♪」
雀子さんは僕らの伯母にあたる、50代目前なのに20代に見える、若々しくクレイジーな人だ。
仕事上、多忙極まってるのもあって毎年は会えてないんだ。
それでも毎回会う度、壮大なお土産話を聞くのが楽しみなんだ。
「雀子も喜ぶさぁ! 玄三は夕飯前には間に合うんだったか?」
「うん!」
「毎年の事だし、大丈夫だよ」
「お父さん達も直接会うのは数ヶ月ぶりね」
一女三男の末っ子である僕らの父さんは、国内での長期出張が多くて、年に数えられるぐらいしか会えない。
でも、僕らの誕生日や、お盆とお正月には必ず帰って来てくれて、ビデオ通話越しには会ってる。
「ふふ、早く会いたいって顔に出てるわよ」
「な! もう姉さん!」
「お兄ちゃん~可愛い♪」
「ガッハハハ! んなら、ちょっとばかし飛ばすっぞ!」
何だかんだ気恥ずかしさも含めて、自然に笑みが溢れるぐらい、家族や皆が好きなんだ。
♢♢♢♢
楽しい車移動で10分弱。
鴨居付きの大きな日本家屋の、お爺ちゃんの家に到着した。
荷物を急々降ろし、玄関から正月振りの挨拶を3人仲良く言わせて貰った。
「「「ただいまぁ!」」」
「ガッハハハ! 元気の良いただいまだぁ!」
真っ先に挨拶に反応したのは、正面奥の台所がある暖簾を潜って来た、割烹着姿の育子お婆ちゃんだった。
厳しさの中に優しさのある、しっかり者のお婆ちゃんは、僕らにお玉をビシッと向けてきた。
「おかえり。帰って来たら、うがい手洗い」
「「「「了解!」」」」
年を重ねるにつれて蔑ろにしがちな事を、小さい頃からちゃんと教えてくれたり、時には甘やかしてくれたりと、僕らの土台を作ってくれた、大好きなお婆ちゃんだ。
隅々までうがい手洗いを済ませ、廊下で待つお婆ちゃんの前に並んだ。
「「「終わりました!」」」
「よろしい。では改めて……よく来たね、アンタ達。ご苦労様」
「お婆ちゃん達に会えるなら、なんのそのだよ!」
「嬉しいこと言ってくれるね」
「えへへ♪」
優しい頭ポンポンで、空は笑顔満開だ。
僕と姉さんにも頭ポンポンしてくれ、いつやって貰っても安心できる。
ほんわか温かな空気に包まれる中、お腹を刺激する美味しそうな匂いが、廊下にふんわり香ってきてた。
「スンスン……いい匂いするけど、お昼作ってたの?」
「そうさ。食べ盛りが増えるから、台所と睨めっこさ。さて、早速だけど蒼、手伝って頂戴」
「分かったわ、育子お婆ちゃん先生」
フンスとやる気に満ちる姉さんは、取り出したエプロンを素早く着替え、お婆ちゃんと台所に向かった。
母さん達のいない間、我が家の食事を支えてくれてる料理上手な姉さんに、料理の手解きを教えてくれたのがお婆ちゃんなんだ。
だから姉さんだけが、お婆ちゃんを先生って呼んでるんだ。
「部屋に2人の荷物持ってくから、先にリビングで待ってて」
「分かったよ! ありがとうね! お兄ちゃん♪」
3日間寝泊まりする2階奥の部屋は、元々父さんの部屋で、綺麗好きなお婆ちゃんの掃除が行き届き、ノンストレスで過ごせる。
先に扉を開け、部屋に数歩足を踏み入れた瞬間。
僕の真横から人の気配を感じ、視線を向けた時には手遅れだった。
「スーパーミラクル最強蜜葉パンチィィイイイ!」
「のごっ!」
不意打ちの横っ腹ストレートパンチに、絶妙な静止を余儀なくされた。
痛みこそないものの、僕の残念な姿を見て、大変にご満悦な少女は、元気いっぱいに大きな声で笑ってた。
「ナハハハハ! 洋! 雑魚っ過ぎ!」
「あ、相変わらずパワフルだね蜜葉……」
「だろだろだろ? 蜜葉ちゃんは最強なのだ!」
俊敏にドヤ顔を色んな方向から見せる少女は、従妹の蜜葉小学3年生。
白Tの青オーバーオール姿がデフォで、腰丈黒髪ストレートは小さい頃の姉さんを彷彿させる。
性格は男の子みたいにやんちゃ。
学校でも男友達と遊ぶ方が楽しい、根っからの元気っ子だ。
「なぁなぁなぁ! 早く遊ぼうぜ! なぁなぁなぁ!」
「に、荷物置かないとだから、り、リビングで待ってて?」
「分かった! ちゃんと来いよ! ビュビューン!」
ドタバタ慌しい足音が遠退き、束の間の安堵も今の内だ。
そもそも同性の従兄弟が、雀子さんのとこしかいないから、お盆は必然的に詰み場になるんだ。
皆仲良いのは嬉しい限りだけど、僕と歳の近い従姉妹達には色々振り回されるんだ。
それでも皆大好きだから、詰み場なんて感じないんだ。
「とりあえず、荷物は隅に置いておけば大丈」
「洋お兄ちゃん……蜜っちゃんがゴメンね?」
「ふぉわっつ?! よ、吉穂!? び、ビックリした……」
扉の後で身を潜めてた少女は、従妹の吉穂小学3年生、蜜葉の双子の妹だ。
スカイブルーのフレアワンピースを好み、お団子ヘアスタイルが似合う、蜜葉とは逆の大人しい女の子らしい子だ。
吉穂の性格上、蜜葉に誘われて一緒に部屋に潜んでたに違いない。
おおよその流れを思い浮かべてたら、ちょこちょこ足取りで近付く吉穂が、キュッと手を握り見上げて来た。
「一緒に行こ……?」
「あ、うん。他の皆はリビングにいる感じ?」
「たぶん。お父さんお母さんは買い物……もうすぐ帰って来るよ」
「じゃあ、挨拶はその時だね」
コクコクと頷く吉穂は、2人っきりの時だけ距離間が滅茶苦茶に近くなる。
誰かが居れば、離れた場所でチラホラ視線を向けたり、会話にちょこっと混ざるぐらいで、本当に控えめな性格だ。
吉穂が一対一で気兼ねなく話せるのなら、僕はそれで構わない。
吉穂の手から伝わる嬉しさを感じ、階段を降りてると、玄関で靴を履いてる、誰かの後ろ姿が見えた。
階段を降りる足音に気付いたのか、クイっと僕らの方を見てきた。
「誰かと思えば洋だったかい。おかえり」
「一龍伯父さん! ただいま!」
一女三男の長男一龍伯父さんは、スラッとした高身長が特徴の商社マンだ。
冷静沈着で物腰が柔らかく、僕の思い描く、同性の憧れるクールな大人に一番近い人だ。
「どこか行くの?」
「父さんの手伝いをしにね。虎二郎が帰ってきたら、来て欲しいって伝えてくれるかい?」
「分かったよ!」
「助かるよ、ありがとう」
大人な柔らかい笑顔で、外に行った一龍伯父さんを見届け終わると、いつの間にか離れていた吉穂が再び手を繋いで来た。
とりあえず虎二郎伯父さんが帰って来るまで、吉穂と一緒に従姉妹達がいるリビングへと向かった。




