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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
10章 墨ヶ丘夏祭り
67/131

67話 回避先の豊満な胸、もしも揉んでいたら、感謝の底無し胸埋め、追いかける後ろ姿、幸福の花火、浴衣お姉さんの正体

 猫恋さん探し再々開から早数十分。

 虚しくも時間だけが過ぎ、一度皆と集合する事に。

 一足先に集合場所へ着き、屋台飯を食べつつ長平さんと待ってる。


「お盆から海外で過ごすんですか」

「あくまで勉強の為よ」


 長平さん曰く、有名若手ファッションデザイナーのお姉さんの下で、短期留学するそうだ。

 ありふれた情報より実経験を得てこそ意味があると、お姉さんに昔から言われてるらしい。

 限られた時間の中で、進むべき道を歩く長平さんは、本当に尊敬できる。


 僕も夏休みという時間で、愛実さんとの距離を一歩でも多く縮めるんだ。


「積木君はどうなのかし……口横にまたソース付いてるわよ」

「あれ? 気を付けてるんですけ」

「ペロッと頂きますわ♪」

「ひょわっ!?」


 眞燈ロさんの不意打ちペロ舐めに、咄嗟に回避行動を取ってしまった。

 回避先にいた長平さんの豊満な胸に、不覚にも両手が着地。

 それだけにとどまらず、反射的に数回指を動かし、まるで安全確認をするように揉んでいた。


「……積木君」

「す、すみません!?」

「あらあら洋様ったら♪ 長平さんには劣りますが、私のは好きなだけお揉みになって構いませんわ♪」


 浴衣がスルリと緩み、鎖骨から肩まで肌が露出。

 谷間もどんどん露わになり、本気で揉ませる気満々。


 長平さんと眞燈ロさんの別々のプレッシャーに押し潰されそうな中、僕の前に人影が現れた。


「デカ乳誘惑の取締りじゃい!」

「あん♪」


 はだけた眞燈ロさんを着直させた救世主は、紛れもなく愛実さんその人だった。


「大丈夫か! 積っち!」

「め、愛実さん!」


 脅威から守ってくれた愛実さんは、ニカっと可愛らしく振り返り、僕の手を見て小首を傾げてた。


「ん? 積っち……手の平のそれ、何だ?」


 見覚えのないピンク色のハート型肉球模様が、手の平あった。

 偶然にしてはくっきりハッキリ付いてる模様に、思い当たる節が一つだけあった。

 草履を直した浴衣のお姉さんに、ブンブン握手された時だと。


「もしかしてこれって……猫恋さんの……」


 もしこの模様が肉球ラブスタンプなら、あのお姉さんが猫恋さんって事になる。

 偶然の産物か、詰み体質によるものなのか。

 どちらにせよ、草履直しを教えてくれた中山さんに感謝だ。


「てか、長ちゃんの胸にも同じの付いてる……」

「あら♪ ホントですわね♪」

「そうね。揉まれてしまったから、付いたのよ、きっと」

「ちょ!?」

「にゃ、にゃんだって!? 積っち!? 何で揉み揉みしたんだ!?」


 肩を掴んで激しく揺する愛実さんに、必死に経緯を説明。

 長平さんも否定せず、愛実さんは納得したご様子で、肩にポンと手を乗せて来た。


「揉んでたら、どうなってたことやら♪」


 グッと力の込められる手が、もしもを物語り、静かに僕は頷いた。


 スッカリ機嫌の戻った愛実さんが、僕の隣に座ろうとするも、眞燈ロさんが先に腕を絡めて来てた。


「うふふ♪ 洋様の隣が一番落ち着きますわ♪」

「なななな!? で、デカ乳押し当て禁止ですって!?」

「腕を絡めたら勝手に当たってしまうんです♪ ですよね? 洋様♪」

「い、いや……あ、当ててると思います」

「言質取りました! 愛実レスキュー出動! てりゃぁあああ!」


 可憐な手刀で接着面を剥がし、僕をベンチから抜き取り、腕を絡めた愛実さん。

 またしても守られてしまった中、峰子さんが瑠衣さんを担いでやって来た。


「待たせたな」

「あらあら、瑠衣さんはどうしたのでしょう?」


 事情を聞くと、チームごとに別れてすぐ、峰子さん目当ての女性達が集まり始め、瑠衣さんがせっせと守りに徹した結果だそう。


 自ら盾となり守り抜いた瑠衣さんを、異性ながら見習うべきものがあると感心した。


「って事だ。瑠衣はこのまま担ぐことにする」

「流石に師匠の負担が大きくないか?」

「浴衣もシワになっちゃうわよ」

「平気だ。元を辿れば私が原因な」

「おい峰子。とっておき思い付いた」


 ヌッと峰子さんの背後に現れた六華さんは、沢山の屋台飯を両手に抱え、一度瑠衣さんをベンチに寝かせるように指示。


「で、何するんだ六華?」

「いいから見とけ」


 もきゅもきゅイカ焼きを咥え、ニヤニヤ顔で何をするかと思えば、瑠衣さんの鼻と口をキュッと摘まみ始めた。

 みるみる顔が赤くなり、ぷくーっと両頬も膨れ、そして目をかっぴらき上体を起こした。


「んっぱぁぁああああ?! り、六華ちゃん?! て、天に召されるところだったよ?!」

「嘘演技で峰子に担がれてた、お前が悪い」


 図星だったのか、開いた口が塞がらないまま、ぎこちない動きで峰子さんを見上げ、一言すみませんでしたと謝ってた。


「瑠衣」

「は、はい……」

「私を守ってくれた事には変わりない。だから、ありがとう」

「み、峰子ちゃみゅ?!」


 ギュッと優しい底無し胸埋めに、体をビクビク動かす瑠衣さんは、幸せオーラを溢れ出してた。

 これこそイケメン姉御肌美女峰子さんの、懐深い性格を知らしめる素晴らしい光景だった。


 和やかな雰囲気に包まれてると、遅れて里夜さん達もやって来て、1時間弱振りの全員集合になった。


「皆さん。集合早々ですが、10分後には花火が始まります」

「うぉおおお! 特等席を確保しに行くぞぉお!」

「走ると危ないわよ」


 激走しかけるありすさんを、慣れた手付きで止めた長平さんは、穴場の特等席を知ってるらしく、案内してくれるそうだ。


「花火目当てにぞろぞろ大量移動を始めてるわ。間に合うかどうか、かなりの瀬戸際だけど、慌てず急ぐわよ」

「なら先陣切ってやるぜ! うぉおおおうげぇ!?」

「貴方は私の後ろよ、ありすちゃん」


 帯掴みの強制ストップで、お腹が締め付けられ、ありすさんが大人しくなった。

 すぐに霞さんがチョコバナナを食べさせて、ケロリと元に戻ってた。


「道筋は人混みの大河を突っ切れば、ギリギリ間に合うわ。けど、決して無理強いはしないわ」


 お留守番は眞燈ロさん瑠衣さん、峰子さんと六華さんになり、特等席を目指す僕らを見送ってくれた。


 ♢♢♢♢


 時間が刻々と迫る中、人混みの大河の流れに乗じ、対岸まで移動するのが、長平さんの作戦だ。

 

「一つ間違えれば戻れないわ。いいわね?」


 僕の頷きを合図に、いよいよ人混みの大河へと踏み込んだ。

 最後尾の僕の前は愛実さんだ。

 絶対に見失わない自信がある。

 ただ、思った以上に人波が早く、物理的に後ろ姿がじわじわ遠ざかってる現状だ。

 加えて詰み体質の弊害で、行く先々に女性が現れ、強引に進めないんだ。


 早く愛実さんの後ろ姿が見えて欲しい。

 そんな願いが通じたのか、タイミング良く人波が途切れてくれた。

 無事対岸に着くもタイミングが急で、結構派手目にコケた。


「いたた……愛実さんや皆は……」


 どうやら着いた場所がズレて、屋台と屋台の隙間に着いたみたいだった。

 両脇の屋台主さん達に、大丈夫?と心配され、返事し掛けた時。

 視界先の屋台裏で、2人の人影が颯爽と過ぎてくのが見えた。

 あれは間違いなく女の人に手を引かれる、愛実さんだった。

 ただ、相手の女の人が長平さん達でなく、明らかに見知らぬ人だった。


 心配してくれた屋台主さん達にペコペコ頭を下げ、慌ただしく屋台裏へと駆け足で向かった。

 2人が過ぎた方へと視線を移すと、茂みに入っていく愛実さんの後ろ姿が見え、すぐに追いかけた。


 かろうじて会場の明かりがチラつく茂みは、浴衣姿じゃ上手く走れない。

 でも、もしもの事をがある以上は、この足を緩める訳にいかない。


 走り続けて数分、視界の開けた場所に出ると、愛実さんが1人でポツンと立ち尽くすのが見え、傍まで駆け寄った。


「大丈夫?! 愛実さん!?」

「あ、積っち……って……か、顔近っ……」

「怪我は?!」

「にゃ、にゃい……ふにゅ……」


 幸いにもモジモジが忙しないだけで、無傷だったのが何よりもホッとした。


 モジモジの止まない愛実さんによると、人混みの大河を移動中、狐のお面を被った女性が僕の事を知ってると、耳打ちしてきたそうだ。

 そのまま秘密の観覧スポットに案内すると、半ば強引に手を引き、到着するや否や姿を(くら)ましたらしい。


 どうして見ず知らずの女性が僕を知ってるか一切分からずとも、もう安心しても大丈夫そうだ。


「ふぅ……とりあえず長平さん達に連絡しておかないと」

「だ、だな!」


 お互いスマホを出そうとした時、ドンと花火が空に満開に咲き誇った。

 まるで僕らが花火を独り占めしてるように、綺麗に僕らを照らしてくれてる。

 狐お面の女性の案内通り、秘密の観覧スポットに嘘はなかったみたいだ。


「めちゃ綺麗じゃん! なぁ!」


 花火の色鮮やかな光が、キラキラと愛実さんの瞳をより彩り、心臓がいつもより高鳴ってる。

 ずっとこのまま隣で見ていたい。

 そんな気持ちにさせてくれる愛実さんから目が離せない。

 だからいつも言えないような言葉が、自然と零れてた。


「うん。愛実さんの方が綺麗だよ」

「だよなー! ……ふぇ?!」

「……え?! あ! い、今のは違う……わないで……そ、その……」


 迷わず素直な言葉を伝えればいいだけ。

 吸い込まれそうな愛実さんの瞳を見つめ、もう一度綺麗だと口に出そうとした時、毛色の違う花火が空を彩った。


「ピンクのハート花火……」

「綺麗……って、あれ! 幸運の花火じゃん! やったぁー!」


 ぴょんぴょん飛び無邪気に喜ぶ姿に、伝えたい言葉もすっかり気が抜けて、今は一緒に喜びを分かち合いたくなった。


「今でも充分幸せなのに、もっと幸せになれるんだな!」

「そうだね、僕も同じ気持ちだよ」

「えへへ~♪ めちゃ嬉しいわ!」


 願わくばこれから先も、愛実さんと色んな景色を分かち合いたい。

 日に日に強まっていく想いは必ず愛実さんに伝えるんだ。


「あ! 見て見て積っち! 積っちのアレ、私の手にもうつってた!」

「え? あ、ほんとだ……いつの間に……」


 愛実さんの手に触れる機会なんて無かったのに、どうして同じ模様があるのか。

 疑問を浮かべる僕に対し、愛実さんがハッとガサゴソ袖を漁っていた。


「そういやさ? 狐お面のお姉さんが去り際に、こんなもん渡してきたんだよな」

「渡された?」

「うん。積っちに見せれば分かるらしいぞ?」


 手渡された名刺らしきものを見て、狐お面の女性の正体が分かった。

 名刺は猫耳メイドカフェにゃんだふるのメイドさん、もるにゃーさんのものだった。

 ガラッと雰囲気も容姿も変わってて、全然分からなかったけど、声色が時折もるにゃーさんと重なってたんだ。


「猫耳メイドカフェのもるにゃー?さん? と知り合いなんか?」

「うん、一回お店行っただけだけど」

「ふーん……積っちにそんな趣味があったとはね……」

「ま、まぁ……そ、それより、今度こそ連絡しないと!」

「あ、分かり易ぅー」


 悪戯っぽくツンツンくすぐられつつ、長平さんに電話を掛けると、すぐ近くで呼び出し音が聞こえて来た。

 愛実さんがスマホのライト照らし、恐る恐る音の方へと接近すると、地面から急にヌッと人間の頭部が現れた。


「「ひょわっす!?」」

「お! 愛実に洋! ここに居たのか!」

「あ、ありすさん!?」

「ど、どうしてそこ……に……」


 どうやら僕らがいたのは、長平さんの特等席から2m高い場所だった。

 位置的に会話を聞かれてたんじゃないかと、僕らは込み上げる恥ずかしさに顔を伏せ、もはや花火どころじゃなかった。

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