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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
10章 墨ヶ丘夏祭り
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66話 好きな子のモテっぷり、お気持ち表明、鈍さに呆れるクール美人、浴衣姿の綺麗なお姉さん

 長平さんは溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、僕に言葉の嵐を浴びせて来た。


「積木君の鈍さには、見てるだけでかなり頭を抱えたわ!」

「す、すみません……」


「でも、林間学校で自覚してくれたから、多少はマシになったわ!」

「な、なら良かったです?」


「何も良くないわ! 大体、積木君の優しさと鈍さで、愛実ちゃんや周りの女の子達がどれだけ惑わさせられた事か!」

「も、申し訳ないです……」


「そもそも! いつまでも悠長にしてたら、他の男に愛実ちゃんを取られるわよ!」

「え!? ほ、本当ですか!?」」

「状況的に嘘付かないわよ!」


 長平さん曰く、別クラスの愛実さんの友人、(じゅん)さんと理沙(りさ)さんに、中学時代の話を聞いたそうだ。

 告白された回数は、優に2桁越え。

 他校の生徒からも何度も告白されるモテっぷりは序の口。

 全員がリア充、人望有り、人気者の3点セット持ちだったらしい。

 ただ、当時の愛実さんは陸上一筋で、誰ともお付き合いはしなかったそう。


「変わらず狙ってる男子も多いけど、陸上部を辞めてからは更に増え続けてるそうよ」

「い、一体どれぐらいいるんですか?」

「タメなら数十人、年上年下合わせれば100は超えるわ」

「ひゃ、100超え……」


 想像以上のライバルの多さに挫けそうでも、僕が出来るのは決まってるんだ。


「積木君。とんでもないライバルの多さに、もし怖気付いてる様なら、私が背中を」

「ありがとうございます長平さん、でも大丈夫です。どんなライバルが現れようとも、正々堂々と僕は僕だけの思いを伝え続けますから」


 ライバルもライバルなりに思いを伝えてる。

 だから僕も変わらずに少しずつ、思いを伝えればいい。

 返答が正解だったのか分からないけど、長平さんの圧がスゥーっと消えてた。


「なら安心ね。でも、猫恋さんはキッチリ探すわよ!」

「はい! ……はっ!」

「? 急にどうしたの?」

「め、愛実さんってそもそも、恋愛をしたくないかも……です」


 愛実さんは陸上人生で背負って来た期待から、やっと解放されて、思う存分自由に羽を伸ばしてる真っ最中だ。

 仮に恋愛に興味があっても、愛実さん自身が経験したいとは限らないんだ。


 長平さんは眉間にシワ寄せて、僕を睨みつけてた。


「……積木君……私がもし柔道を習っていたら、容赦無く投げ飛ばしてるわよ」

「な、何でですか!?」

「……何でって……いいわね、積木君……愛実ちゃんは」


 言葉を遮るように、長平さんの足元からブツんと切れる音が聞こえ、脚がようやく止まった。


 足元に視線を向けると、草履の鼻緒が切れた音だった。


「……草履は走るのに不向きね」

「で、ですね……と、とりあえず安全な場所に行きましょう」

「……そうね」


 肩を貸しながらベンチまでゆっくりと移動した。


 ♢♢♢♢


 ベンチに腰下す長平さんも、流石に鼻緒の切れた草履を直すのは無理そうで、心成しか顔が暗くなってる。

 元を辿れば僕が鈍感だったのが原因なんだ。

 可能な範囲で長平さんを安心させないと。


「あ、あの、長平さん。鼻緒直すんで草履いいですか?」

「……え? 出来るの?」

「はい。近所の呉服屋さんで昔、色々と教えて貰ったんで」


 呉服屋さんの中山さんのところで、色んな体験教室とかを開かれて、よく姉さんと空と混ざって参加してたんだ。

 勿論、やれるのは対処法ぐらいだから、まずはどの程度の具合なのか見極めないと。


 草履を丁寧に受け取り、そもそも直せる草履かどうかを確認すると、僕でも直せる具合だった。

 袖からガサゴソと、もしも用草履直しセットを出し、早速取り掛かった。


 直す手順を思い出しながら、せっせと作業すること数分。

 草履が大丈夫かどうか、一度履いて貰った。


「どうですか? きつくないですか?」

「丁度良いわ。ありがとう」

「いえいえ、どういたし」

「いたた……」


 背後から女性の軽く痛がってる声が聞こえ、視線が自然と声の方へ向いてた。

 浴衣姿の綺麗なお姉さんが隣ベンチに座り、草履を脱いで肩をガックリ落としてた。


 恐らく草履問題だと思い、僕はお姉さんに声を掛けてた。


「あの……いきなりですけど、すみません」

「へ? は、はい? 何でしょう?」

「もしかしてなんですけど……草履がきつい感じですか?」

「は、はい……買った時にサイズ間違えたみたいで……」


 サイズ違いのまま無理して歩き続けてたのか、親指の間が痛々しく赤くなってる。


「えっと……はい、絆創膏使って下さい」

「あ、ありがとうございます……いつつ……」

「お姉さんさえ良かったらなんですけど、草履の調整を任せて貰えませんか?」

「え?」


 いきなりな事で一瞬戸惑うも、背に腹は代えられない思いが勝ったのか、任せて貰えた。


 鼻緒は一度伸ばしたら戻らないそうだから、慎重に加減しないといけない。

 お姉さんが心配そうに見つめる中、鼻緒の微調整と確認を数回繰り返すと、お姉さんの顔がパァっと明るくなった。


「あ! これぐらいが滅茶苦茶フィットします!」

「ほっ……では、もう片方も引き続きやりますね」

「お願いします!」


 あくまでも直しは素人だ。

 プロと同じく最後までやり遂げる心持ち様を忘れず、もう片方も直すんだ。


 身の引き締まる思いを引っ提げた甲斐あり、もう片方も無事に直せた。


「ありがとう! このご恩は忘れないよ!」

「うぉうぉ! お、大袈裟ですよ! うぉうぉ!」


 両手を包む握手を元気にブンブンし、感謝してくれたお姉さんは、夏祭りで使える食事券5千円分を握らせ、人混みに消えてった。


 遠慮する暇さえなかったものの、皆と合流した時に奢れそうだ。


「ジー……」

「な、長平さん? な、なんですか?」」

「……赤鳥君と違って、鼻の下は伸びてないわね」

「ま、まぁ……そ、そういえば、さっき何を言い掛けたんですか?」


 絶妙なタイミングで鼻緒が切れて、聞けずじまいだったんだ。

 長平さんが覗き込む体勢を戻し、顔を僕から背けて、一言だけこう言ってきた。


「何も言ってないわ」

「え。いやいや、愛実ちゃんは……の後ですよ?」

「……」

「む、無言は卑怯ですって!?」


 反対側に回っても顔を背けられ、何をやっても無駄だと分かり、早急に諦めがついた。


 長平さんが知っている愛実さんの何かを、知れる日は来るのか。

 全く分からないまま猫恋さん探しを再々開する僕らだった。

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