65話 隠し切れない芸能オーラ、ドヤ顔同然誇らしげ顔、加速する密着加減、大いなるプレッシャー、知られてた好きな人
同席した千鶴さんは、一歳下の澪さんと小学からの友人だと、聞かれるより前に教えてくれた。
澪さん1人でも掴み所が少ないのに、千鶴さんも加われば、厄介な事になり兼ねない。
「千鶴さんも収穫ゼロみたいですね」
「ヒント1だけでは、大雑把にしか絞り切れませんからね。ヒント2まで待ちましょう」
「そうしましょう。お二人もよろしいですか?」
「よ、よろしいです」
「従います」
長平さんも千鶴さんの前だとカチコチに緊張してる。
そもそも変装してる千鶴さんは、側を通る通行人の大多数に二度見される程、オーラがダダ漏れなんだ。
当の本人はそんな事を一切気にせず、澪さんとテーブルに小物をどんどん置いていた。
「あ、あの……何してるんですか?」
「未確認生物を誘い出す儀式です」
「猫恋さんも対象なら、きっと現れます。さぁ、お二人も」
魔法陣の布上に置かれた奇妙な小物を囲み、両手を隣同士で握り合った。
謎の奇怪な呪文をツラツラ唱える2人に続き、真似る一方、側を通る通行人がみるみる離れていた。
僕も相手が澪さん達じゃなければ、蜘蛛の子散らすように逃げてる。
怪しげな呪文詠唱後、小物の中心に置かれた物が、犬と猿が混ざったキメラ像こと、夫婦円満や恋愛成就のご神体ウッペポイ像だった。
見た目がUMAっぽい理由だけで置いてるのかもしれない。
「さぁ! 聖なるUMA神よ! 我らの贄を捧げようぞ!」
「お二人も贄の方をお願いします」
「え」
「に、贄の具体的な物はなんでしょうか?」
「髪の毛1本構いません」
スッと銀皿を向けられ、それぞれ1本ずつ髪の毛を捧げた。
澪さん達も髪を捧げ、千鶴さんが火を付けたマッチを銀皿に入れた。
ストロベリー系の香りが、甘く優しく香ってきた。
「……千鶴さん。またお皿間違えて来ましたね?」
「みたいですね。まぁ、大事なのは信じる心ですので、儀式の1つや2つぐらい気にしてちゃいけません」
ちゃっちゃと消火を済ませ、ケロッと儀式道具を片付ける千鶴さん。
ミステリー好きがそれを言って大丈夫なのかと、若干心配になった時。
僕と長平さんのスマホが同時に鳴り、瑠衣さんからの新しい猫恋さん情報だった。
「あ、友達から猫恋さん情報来ました」
「ヒント2、今日は北方面と南方面には行かないそうです」
「成程。このまま周囲を徘徊すればよさそうですね、千鶴さん」
「やはり儀式は効果覿面ですね」
ドヤ顔も同然な物凄い誇らしげな千鶴さんは、どんな顔も絵になる。
兎にも角にも、新たな情報を頼りに、猫恋さん探しを再開だ。
♢♢♢♢
猫恋さん探し再開から数分。
先陣を切る千鶴さんの、人を惹きつけるオーラに誘われ、通行人の注目の的になってる。
あの仄影千鶴が女友達と男友達?とプライベート夏祭り。
なんて変な誤解が広まってれば、千鶴さんに迷惑が掛かる。
解決策は逸早くこの場から距離を置くに限る。
「みき君。積木君」
「……へ? よ、呼びました?」
「えぇ。積木君も千鶴さんの正体に気付いてるようね」
「ま、まぁ……」
長平さんも知ってた様だけど、妙に距離が近い。
「きっと積木君の事だから、色々心配してるのでしょ?」
「相手が相手ですし……」
「なら、こうすればいいじゃない?」
ヌルりと腕を絡めて来た長平さん。
不意な行動に戸惑うも、理由を聞いて納得した。
「こうやって肌身離れずいれば、少なからず積木君と千鶴さんとの疑わしい関係性は薄まるわ」
「な、成程」
擬似カップルを装えば、通行人の認識も変わる作戦だ。
効果覿面か、僕への視線が綺麗さっぱり無くなってた。
協力してくれる長平さんに頭が上がらないのに対し、腕に触れる胸の感触に、どうにも意識が持ってかれてる。
そして長平さんの密着加減は加速し、恋人繋ぎにまで発展。
もし知り合いに見られれば、滅茶苦茶誤解されること間違い無しだ。
そんな中、突き刺さる視線を前方から感じ、恐る恐る視線の主を目視した。
「あ、あの……どうしました、澪さん?」
「積木君……積木洋君……あくまで予想なのですが……もしや貴方が、宵絵さんのお慕い人である、洋君なのですか?」
「え」
「っ!?」
突拍子もないタイミングでの、僕と宵絵さんの関係性話題は、全く想像出来なかった。
長平さんも見たことのない驚きっぷりだった。
「た、確かに宵絵さんとは仲良くさせて貰ってますけど……どこからその情報を?」
「宵絵さん本人です。夏休み入って数日経ったのを境に、宵絵さんが洋君という方に、もぉにぃんぐこぉぉる?を、毎朝欠かさず勤しむ様になったので、気にはなっていたんです」
オフ会での一件以降、宵絵さんのモーニングコールが始まり、今朝もやって貰ったばかりだ。
もし澪さんが宵絵さんと同じ寮暮らしなら、モーニングコールを聞かれててもおかしくはない。
宵絵さんの事だ、澪さんに僕とのあれやこれやを素直に話してる可能性が高い。
「先日も藻岩ビーチに急遽出向き、翌日帰って来ましたので、お土産の受け取りの際に聞いてみました。するとどうでしょう。モーニングコール相手である洋君に会いに行ってたと、嬉しそうに話してくれましたよ」
「た、確かにそうです」
「っ!?!?」
ジリジリ距離を詰める澪さんから、大いなるプレッシャーを感じる。
長平さんもプレッシャーのせいで汗を掻き、しっとり吸い付く柔美肌が左腕に触れてる。
「ほぉ……つまり、宵絵さんのお慕い人である事を、お認めになると?」
「は、はいっのわ?!」
「つ、積木君!? 本気で言ってる!?」
「な、長平さん?」
強引な両肩掴みで向き合わせてきた長平さん。
いつものクールな面影はなく、真剣な眼差しの中に明らかな動揺と焦りが混ざってる。
長平さんの行動に疑問が浮かぶ最中も、澪さんは僕に向かって言葉を投げ掛けてる。
「いいですか積木洋君。宵絵さんは恩人であり、友人であり、目指すべき憧れなのです」
「は、はい」
「宵絵さんの意思を汲み取り、今は貴方を味方として見ます。が……宵絵さんを少しでも傷付ける結果になれば……後は分かりますよね?」
宵絵さんを慕っている人達を全て敵に回す事になる。
そういう意味だ。
何も言えずに喉だけがカラカラな僕は、長平さんに手を握られ、ハッとした。
「う、鵜乃浦先輩! 私達はこっちを探すので! また後程!」
「おわっちょ!?」
グッと手を引かれ、猛スピードで人混みに紛れ、澪さん達の姿が数秒で見えなくなった。
それでも脚は緩まず、もう大丈夫だと声を掛けようとするも、長平さんがとある言葉を漏らしていた。
「早く猫恋さんを見つけて、愛実ちゃんに来て貰わないと……」
「へ? ど、どうして愛実さ……はっ」
今まで分からなかった点と点が繋がり、一つの線になった今、僕は長平さんの行動の意味を知った。
「な、長平さん……も、もしかして……僕の好きな人……知ってたんですか?」
「何を今更?! 気付かないとでも?!」
知ってて当たり前な返事に、一気に恥ずかしさが込み上げるしかなかった。




