表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
10章 墨ヶ丘夏祭り
63/131

63話 来年もそれからも、謎の女性猫恋さんの噂、零れ落ちそうな谷間

 六華さんにりんご飴を奢り、瑠衣さん達の盗み聞きは許された。

 瑠衣さん達がズンズン進み、出遅れた僕の横から、ジーッと愛実さんが何か言いたげに視線を送ってた。


「ど、どうかしたの?」

「いやさー空ちゃんと蒼さん、留守番で良かったんかなーって思ったんだ」

「大丈夫だよ。2人とも、明日のお祭りに行くから」


 空自身が明日の明るい内に、宇津姉とオリヴィアさん、友達と行くって言ったんだ。


 姉さんはそもそも夜に弱いし、色んなモノに目移りして姿を消す事があるから、明日空達と一緒に行く予定だ。


「そっかー明日は用事あっし、今年は残念だけどしゃーないよな」

「だね。でも、来年もあるから大丈夫だよ」


 愛実さんと2人っきりでも行きたいし、皆とも一緒に行きたい。

 ただ今年の夏祭りじゃなくてもいいんだ。

 それにきっと、愛実さんと一緒ならどこに行っても楽しいんだろうなと、我ながら気持ち悪い妄想をしてたら、愛実さんが横にいないのに気付いた。

 来た道を振り返ると、数歩手前で硬直する愛実さんと目が合い、満面の笑みで駆け寄って来た。


「ら、来年もそれからも、ずっと行こうな!」

「う、うん? そのつもりだよ?」

「っ〜!」


 地団駄を踏み、自分の足をベシバシ叩き、滅茶苦茶喜んでる。

 久し振りに見た自己暴力喜びの音が、思いの外物騒で、周りの人達が何事かとザワついてた。

 面倒事になる前に愛実さんの手を握り、足早でその場を去った。

 キュッと握り返す小さな手に、夏の暑さとは比べ物にならない温かさを感じてたら、愛実さんが小さく笑ってた。


「ふっふっふ……来年からは蒼さん達しか知らない、積っちのあれやこれやを聞くのが楽しみだわ」

「お、お手柔らかにね?」

「え~? どーしよーかなー?」


 可愛らしい意地悪顔も含めて好きなんだと、我ながら本当にチョロい男だって事に、思わず笑ってしまった。


 そんな僕らだけの時間も、霞さんの後ろ姿が見えて、自然と皆との時間に戻っていた。

 短い時間でも、今はそれだけで十分幸せだ。


 霞さんも僕らに気付き、たこ焼きをハフハフ食べながら振り返った。


「はっふはふ……んっく……あんま離れてたら、迷子に……」

「……ん?どしたカスミン?」


 ソースを口横に付けた顔で、面白そうにニマーっと笑う霞さんは、こう言ってきた。


「仲が大変よろしいよーで」

「「へ?……はっ!」」


 繋いでた手が、あまりにも馴染み過ぎてて、バッと離れた僕らは一気に赤面した。


 ♢♢♢♢


 小休憩がてら、カキ氷を食べて足を休める中、瑠衣さんが皆の視線の中心に立った。


「ねぇねぇ♪皆、知ってる? 墨ヶ丘夏祭りの、う・わ・さ♪」

「噂? 確か、猫恋(ねここい)さんだったか?」

「ピンポン大正解♪ 峰子ちゃんに1ラブポイント♪」


 ここ数年前から、毎年墨ヶ丘夏祭りに変装してやってくる、謎の女性猫恋(ねここい)さん。

 会えれば肉球ラブスタンプを押して貰え、一発だけ上がる幸運の花火を見れば、来年まで絶好調でいれるらしい。

 今時期になるとSNSの検索ワード上位に、必ず候補に上がる有名な噂だ。


「恋愛成就も然り、学業成就やら安産祈願までも、あらゆるプラス効果が付与されるんだって♪」

「神社涙目じゃねぇか」

「誰しもが会えるわけじゃないから、大丈夫だよ♪」


 瑠衣さんの追加情報によれば、昨年はたったの5人しか、猫恋さんに会えてないらしい。

 10万人以上も行き交う中で、正体不明の1人を探すのなんて、ほぼほぼ無理ゲー。

 唯一明かされてる女性情報に絞っても、単純に考えて5万分の1。

 現場に居られる数時間じゃ、到底困難極まるレベルだ。


「まぁ、会えたら超ラッキーぐらいで、いいんじゃね竹ツン?」

「ダメだよ愛実ちゃん! ダメだよ!」

「に、2回言ってる」


 ただならぬやる気を溢れ出し、誰よりも本気度合いが違う瑠衣さん。

 もしかすると、猫恋さんのプラス効果を期待して、峰子さんとの関係を深めたいのかも。

 

「いい愛実ちゃん! 便利な現代じゃ、情報共有ツールSNSで、最新の情報を得られるのだぁ!」

「堂々と当たり前の事言ってるな、コイツ」


 興味なさげにシャクシャクかき氷を食べてる六華さんも、微かに体がウズウズ動き、本音がしっかりと分かり易かった。

 珍イベントとしては盛り上がるだろうし、僕も前向きに参加希望したい気分だ。


「てかよーSNSがあってもー噓情報かもしんねぇーじゃん」

「ご心配なかれ! 定期的に猫恋さん自らが、ヒント情報をSNSに投稿するの! あ! 言った傍から来た!」


 超近距離でスマホ画面を食い入る瑠衣さんが、目にも止まらない指捌きを披露。

 直後、僕らのスマホの通知音が同時に鳴り、瑠衣さんからの猫恋さん最新情報が送られて来た。

 どうやら猫恋さんは和装姿でいるそうで、ヒント1つ目だそう。

 私服姿の女性はとりあえず除外しても大丈夫そうだ。

 せめて和装の色とか、大まかな現在地さえ分かれば、グーンと効率は上がるのに、去年の事を考えたら望み薄だ。


「よーし! これから皆で手分けして探そー!」

「っしゃ! アタシは北に行くぜ!」

「あーしも、ありすに付いてくわー」

「なら、わたくしが同行しましょう」


 腕をブンブン回して、やる気十分なありすさんは、霞さん・里夜さんの北チームに。


 瑠衣さん・峰子さん・六華さんは南に。


 僕と長平さんは東に、眞燈ロさんと愛実さんは西にと、ジャンケンでスラスラ決まり、常時情報共有しつつそれぞれ向かった。


 ♢♢♢♢


 猫恋さん探しから早数分。

 霞さんの写真付きお好み焼き食レポ。

 射的姿の峰子さん写真。

 お揃いの水ヨーヨーを持って自撮りする愛実さん達。

 各自夏祭りを堪能する報告が次々に送られてきてる。

 ひと夏の思い出にピッタリな顔に、ほっこりさせて貰える。


 僕らも何かしらを撮って共有したいのに、長平さんが型抜きに集中しっぱなしで、一歩とたりとも動けない現状なんだ。


「……ふぅ。1000円の型抜き、成功しました」

「や、やるなぁ姉ちゃん……」

「手先作業は得意なので。次は2000円のをお願いします」

「あ、あいよ」


 100円型抜きから300円・500円・800円・1000円と連続でノーミスクリアしてる長平さん。

 店主さんが徐々に顔を引き攣らせ、屋台泣かせ光景が繰り広げられてる。

 このまま最高金額の1万円も成功する気満々なんだ。

 横槍入れず最後まで見守るのが、僕がやれることなんだ。


 他のお客さんも自分の型抜きをそっちのけで、長平さんをジーっと見守り、周囲の祭囃子の一角で、型抜き屋台だけが真剣な空気が漂ってた。

 場の空気に飲まれない長平さんは集中を切らさず、ひたすらに小気味いい型抜き音を鳴らしてる。


 誰しも心の中で応援する中、たぶん小学高学年か中学生だろう女の子達が、長平さんの露出してる豊満な谷間を、ガン見してるのに気付いた。

 型抜きの動きに連動してふるふる揺れ、今にも零れ落ちそうな胸の方が、気になる年頃らしい。


 ♢♢♢♢


「2000円ありがとうございます」

「ね、姉ちゃん、何者だい?」

「ただの高校生です。懐もそこそこ潤ったわ、行きましょう」

「あ、はい」


 拍手喝采で見送られても尚、無表情を崩さない長平さんに続いて、型抜き屋台を後にした。

 長平さんの実力なら1万円も手に入れられた筈でも、お店の事を考え、程良い所でストップしたんだと思ってる。


 表情は相変わらず読みにくいも、真面目でユーモアのある人なのは、身に染みて経験してる。

 そんな横を歩く長平さんをチラッと見ると、逆に見られてた。


「ひょっ?!」

「積木君。待たせちゃったお詫びに、奢らせて頂戴」

「へ? あ、いや、悪いですよ。見てて楽しかったですし、気にしないで下さい」

「そう。なら……」


 パタパタ屋台に向かい、買った焼きとうもろこしを強制的に手渡された。

 醤油バターの焼けた香ばしい匂いが、食欲をそそってくる。


「い、いいんですか?」

「えぇ。私が納得するまで奢るわ」


 妖艶な笑みをこぼし、ぬるりと腕を絡め、グッと引き寄せられた。

 むにゃっと腕を軽く飲み込む柔らかさは、いつ経験しても全然慣れない。


「ふふ。さぁ、猫恋さん探しをするわよ」

「おわっちょ!?」


 グイッと更に引き寄せ、嬉しそうに前進する長平さんと2人っきり時間は、まだ続きそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ