62話 露出多めのフォルムチェンジ、豊満なお胸サンドウィッチ、不器用な友達、名前呼びをして欲しい
集合時間5分前、滝さんと風渡さんがやって来た。
2人の色違い花模様浴衣は、滝さん作の完全一点モノらしく、愛実さん達は興味津々に見たり触れたりしてる。
「おぉー! 流石、長ちゃんオリジナル! シルエットが綺麗だな!」
「無駄がないな。私も作って貰いたいものだ」
「費用は私が出すよ峰子ちゃん!」
「落ち着いて瑠衣ちゃん」
興奮冷めやらぬままゲンナマを出す竹塔さんは、本気なご様子。
一方で風渡さんは、霞さんと来亥さんに両サイドからあれやこれやとされてた。
「ほぉほぉ……ちゃんと浴衣用の乳袋になってんのか……」
「スポーツやってっから、張りも弾力も段違いだなー」
「みゃははは! く、くすぐったいぜ六華! 霞!」
2人のぷるんぷるんと異なる胸触れで、全身がピクピク反応し笑いが止まらない風渡さん。
少しずつ浴衣が乱れ、鎖骨周りの肌が見え始め、なんだかとっても色っぽい。
「ちなみにワンタッチ式のフォルムチェンジ仕様よ」
「マジか! やってくれるか?」
「勿論よ。ありすちゃん、早速フォルムチェンジよ」
「うっしゃ! やったるぜ! せいや!」
息ピッタリなタイミングで、自分の両肩をタッチした2人。
パチンパチンと外れる音が聞こえ、一瞬で浴衣の胸元・両肩・腰下の一部が、ストンと足元に落ちた。
あっという間に、ぷるるんと揺れる大きな谷間が露出した、ノースリーブ・ロングスリットチャイナ服にフォルムチェンジ。
スリットからのチラ見え美脚も然り、特に大きなお胸の2人の谷間露出は、水着姿の時よりも刺激が増し増しな気がする。
フォルムチェンジに愛実さん達が感心と興奮する一方、滝さん達の様子が変だった。
「……長ちゃん。こんな露出したっけ?」
「……調整ミスね」
「ま、これはこれでありだな!」
「そうね」
2人はそのままの格好で今日は過ごすと即決。
ミスの産物から生まれた発明品があるぐらいだ。
結果オーライだ。
兎にも角にも、2人の格好も恰好だ。
意識しないように今日は過ごさないとだ。
2人から視線を不自然なく逸らすのに、スマホで時間を確認すると、丁度集合時間になるところだった。
残るところ天宮寺さんと里夜さんだ。
「皆様~♪ お待たせしました~♪」
「慌てずとも逃げませんよ、お嬢様」
華やかな金魚柄の色違い浴衣の、天宮寺さんと里夜さんが合流。
無事に全員集合も束の間、天宮寺さんが満面の笑みで、僕に真っ正面ハグを強行してきた。
「わっ!? とっとと!」
天宮寺さんの不幸体質を帳消しするのに、詰み体質の僕との触れ合いが必要だったけど、今はもう大丈夫な筈だったような。
疑問が過りながら受け止めた胸元で、むにゅーっと柔らかに広がる感触に、意識が自ずと向き、天宮寺さんが幸せそうな声を漏らしてた。
「ふふふ♪ 急なハグも完璧に受け止めてくれましたね♪ 洋様♪」
「流石です。里夜ちゃん先生からもご褒美ハグです」
「おわっ?!」
背後に回った里夜さんの、特大のお胸の感触が後頭部を包んできた。
豊満お胸サンドウィッチ拘束に、愛実さんが猫パンチで引き剥がし、助け出してくれた。
「ふにゃー!」
「あらあら♪ まぁまぁ♪ なんて可愛らしいのでしょう♪」
「めぐにゃんですね。ほーら、怖くないですよー」
人懐っこいめぐにゃんは2人に撫で撫でヨシヨシされ、嬉しそうに目を細め、場がとても和んだ。
♢♢♢♢
気を取り直し、竹塔さんを先頭に夏祭り回りが始まった。
天宮寺さんも里夜さんも、初めてのお祭りで、あちらこちらと動き目移りしまくってる。
今まで当たり前の日常を、天宮寺さんは最近まで過ごせなかったんだ。
無邪気に楽しむ天宮寺さん達をこっそり撮影して、後で蓮さんと弍夏さん達に、サプライズで送ってみよう。
「ふぁ! ふぃんふぉふぁふぇ!」
「わ!? か、カスミン!? 待って!」
イカ焼きを頬張って駆けだす、食欲旺盛な霞さんを追いかけてる愛実さんも、棉飴をいつの間にか片手に持ってた。
よくよく周りを見れば、峰子さん達も焼きそばの出店で、鉄板調理をスマホで撮影してる。
霞さん達の方に行こうかと思えば、チョコバナナを食べる来亥さんが隣にいる事に今更気付き、軽く驚いてしまった。
「ひょ?! く、来亥さん?」
「あ? 見ててもやんねーから。まむまむ……」
「わ、分かってますよ」
言葉の圧が相変わらず強めでも、機嫌自体は良さそうだ。
そんなモニモニ頬っぺたを動かして、チョコバナナを頬張る来亥さんが、軽く見上げてきた。
「そういや積木」
「へ? な、なんですか?」
「夏休み入ってから、幼馴染情報提供がめっきりだよな」
来亥さんには幼馴染系ラブコメ漫画制作の為、僕とふーちゃん達の情報提供をしてたんだ。
肝心のふーちゃん達は夏休みに入ってから、花嫁修行強化合宿で連絡も取れず、近況が一切合切分からないんだ。
噛み砕きつつ説明したところ、ふーんと案外あっさりとした反応で、それ以上は聞いてこなかった。
前までの来亥さんなら、どんな手段も厭わずに情報収集してこいと、鬼教官の如く言ってきた筈だ。
何か心境の変化があったのかもしれない。
友達としてちょっと知っておきたい。
「あの……漫画の進捗状況はどうですか?」
「ここに来てる時点で分かんだろ」
「あ、確かにそうですね」
秋葉っぱらで会った時よりも、体調の方も快調そうで、夏休みに入ってからは余裕があるんだ。
来亥さんと知り合って数か月。
ようやく平和的なコミュニケーションが取れるんだと、心が浮足立っていたら、ギロっと気持ち悪い物を見る目で見られてた。
「……すみません……」
「何も言ってねぇだろ」
「いて」
横っ腹に水平チョップを食らわせても尚、視線を向け続ける来亥さんは、ぶつくさと一方的に話してきた。
「中学卒業してからよ」
「えて」
「担当さんに百合題材を勧められてよ」
「えてて」
「高校入って近場にいた峰子と愛実を見てりゃ、それなりに百合情景は集められた訳だ」
続行する横っ腹チョップの加減は、全然弱くて気にならないけど、急に高校初め頃の話をし始めてんだろうか。
「けど、お前って存在がちょくちょく顔を出して、私の邪魔をしてきた」
「あ、え、と、当時は知らなかったんですって!」
「だから利用する事にしたんだろうが」
来亥さんからすれば詰み体質の僕は、確かに百合情景集めの邪魔者だ。
結果として邪魔した代償に、漫画の情景収集をあれやこれやと、強引に手伝わされてきたんだ。
最初は連絡一つで怯えてたけど、来亥さんが真摯に漫画と向き合う人だと知る内に、率先して力になりたいって思えるようになってたんだ。
「いつも1人で描き続けて、周りに友達の1人もいなかったのによ……」
「邪魔だったお前と会ってから、どんどん他の奴も首突っ込んできてよ……」
「マジ何様だよって、何も分からねぇだろって、モヤモヤが止まんなかったのによ……」
「今じゃ……いなきゃなんねぇって思えてんだよ……」
不器用な来亥さんは思いの丈を、いつか僕らの誰かに吐き出したかったんだ。
顔が真っ赤で、凄く勇気を出して言ってくれた事は、本当にしっかりと伝わってる。
だから僕から言えるのは、シンプルなものだ。
「だって、来亥さんは大事な友達ですから」
「……ん」
横っ腹チョップもスッと止め、一言だけ言葉を漏らして俯く来亥さんの気持ちは、十分に分かったつもりだ。
きっと来亥さんも友達と夏祭りに来たのが初めてで、改めて僕らが友達だってのを言いたかったんだと思う。
遠回しの感謝にも受け取れ、僕からも感謝しようと口に出し掛けたら、来亥さんから思いもよらない言葉が小さく聞こえた。
「……り、六華でいい」
「え?」
「お、お前だけいつまでも苗字呼びじゃ、体が痒くなんだよ!」
両手に強く握り拳を作り、ギリギリ歯を鳴らしてまで、本気な来亥さんは顔が真さっきよりも真っ赤だった。
言われてみれば、仲の良い友達の中で、来亥さんは苗字呼びだ。
断るのはあり得ない、ここは有り難く話に乗らせて貰おう。
「じゃあ、今日から呼ばせて貰いますね、六華さん」
「……こっちはこっちで痒くなる」
「えぇ? どうしろって言うんですか?」
「し、知ら」
「是非とも私も名前呼びしてくれないかしら」
「「ひょわ?!」」
ぬっと僕らの背後に割り込んで来た滝さんに、息ピッタリで驚いた。
焼き鳥パックとたこ焼きの両刀で、しっかりお祭りを楽しんでる滝さんの真剣な目から察するに、名前呼びは本気なご様子だ。
「私も名前で呼んで―♪」
「いつもでもありすって呼んでいいんだぜー!」
「わたくしも眞穂ロと呼んで下さいませー♪」
「え? わ、ちょ?!」
まるでタイミングを見計らったかのように、一気に集まって来た竹塔さん達は、遠目で僕と六華さんの会話を聞いてたのかもしれない。
六華さんも察したようで、ぷるぷる怒りに満ちた赤い顔で、竹塔さん達を睨んだ。
「お、お前ら……盗み聞きすんじゃねぇぇえええええ!」
竹塔さん達の豊満な胸目掛けて、強めのビンタをパンパン鳴り食らわせた六華さんだった。




