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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
10章 墨ヶ丘夏祭り
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61話 夏祭りと浴衣、魅入る浴衣美人、ファンクラブ会員の定め、目に入れても痛くないぐらい似合い過ぎ

 墨ヶ丘(すみがおか)夏祭り当日。

 自宅で浴衣姿を何度も、姉さんと空に確認して貰ってる。


「最高に似合ってるよ! お兄ちゃん!」

「胸張って行って来なさい」

「う、うん」


 見た目も着心地も全然違和感が無くても、いつまでも腑に落ちないんだ。

 理由は勿論、夏祭りのお誘いに即オッケーしてくれた愛実さんの存在だ。

 一緒にいて違和感がないか。

 1人だけ浴衣姿で浮かないか。

 兎に角、心配で一杯なんだ。


 いっその事、私服に着替えた方がいいんじゃないかと弱気になった時、インターフォンが鳴った。


「ほらお兄ちゃん! 霞ちゃん来たんだし、行って来なよ!」

「私達のお墨付きよ、心配なんてないわ」

「う、うん! ありがとう! 姉さん空! 行って来ます!」


 愛実さんと2人っきりで行く予定が、その日の内に霞さんが直接、夏祭りに一緒に行かないかって誘いに来たんだ。


 友達と行く夏祭りが初めてだそうで、一人目の友達でお向かいさんの僕となら、安心して夏祭りに行ける筈だと。

 だから、その場で愛実さんに連絡してみたら、快く一緒に行こうって返事をくれ、他の皆にも声掛けようって話になった。


 声を掛けたのも峰子さん達で、なんだかいつもと変わらないですねって言ったら、霞さんは軽く笑って嬉しそうだった。

 今年は愛実さんと2人っきりではないけど、霞さん達と一緒の夏祭りだって、楽しみなのには変わりない。


 手荷物を持ち玄関外に出ると、霞さんがインターフォン前でそわそわと、アレンジした髪をイジってた。


「お待たせです霞さん!」

「おぅー積木も浴衣かーいいじゃんかー」


 黒ベースの浴衣に花火模様をあしらった、夏祭りとの相性抜群な姿は、モデル体型な霞さんに似合ってた。


「霞さんも浴衣姿似合ってますよ。霞さんなら、なんでも着こなせそうです」

「……あーと」


 若干照れ臭そうに、略しありがとうも聞けたんだ。

 そろそろ行かないとだ。


「いえいえ。じゃ、行きましょうか!」

「おぅー」


 足並み揃え最寄り駅に向かう僕は、ワクワクとドキドキが止まらない。

 夜に出掛けるのが滅多にないから、本当に未知の世界に行く気分なんだ。


 夕暮れ景色を眺め電車移動で20分弱。

 墨ヶ丘駅を出ると、人がごった返す景色が広がってた。

 そこらかしこから祭り囃子が聞こえ、出店も人集りで大忙しだ。

 今すぐにでも飛び込みたい気持ちを抑え、愛実さん達と合流するのが最優先位事項だ。


「駅外で集合だよなー?」

「ですです。早めに来過ぎま」

「おーい♪ 積木くーん♪ 霞ちゃーん♪」


 人波から竹塔さんの声が聞こえ、霞さんと一緒にキョロキョロ探すと、華やかな浴衣姿でぴょんぴょん飛んでる竹塔さんがいた。

 両手に綿飴、頭にお面、りんご飴を咥え、ヨーヨーと金魚入り袋を器用に持ってた。


「エンジョイし過ぎだろ……」

「ですね」


 パタパタやって来た竹塔さんは、いつの間にか綿飴を1つ消費してた。


「ふぅー♪ お祭り最高だね♪」

「フライングはルール違反だぞー」

「竹塔さんらしいですけどね」

「いかにも! どんなお祭りも、このお祭りプロフェッショナル瑠衣ちゃんにお任せだよ♪」


 りんご飴を咥えて喋るなんてお手の物、そうドヤ顔でアピールしてる。

 言葉通り、祭り初心者の僕らにとって、竹塔さん程心強い味方はいない。


「お! 峰子ちゃん来たよ! おーい♪ こっちこっち♪」


 人波の中で女性達のキャーキャー黄色声が上げる中心で、困惑気味の峰子さんが見えた。

 どんな場所でも同性に大人気な峰子さんも、ひょっとしたら特殊体質なのかもしれない。


「すまないが、これから先は友達と回る」

「「「もっとご一緒したかったです……」」」


「大丈夫だ。君達の事は大事に覚えておく。だから、心配いらない」

「「「はぁん……」」」


 流石イケメン姉御女子の峰子さん。

 僕らを巻き込まない様、穏便且つイケメンに女の子達を骨抜きにし、安全に合流してくれた。


 そんな峰子さんの結い上げたアレンジ赤髪と、赤花模様をあしらった浴衣姿は、いつにも増して美しさが際立ち、何時までも見られる気分に駆られる。


 群がる女の子達の気持ちが何となく分かる中、僕の視線に気付いた峰子さんが、もじっと髪をいじり小さく聞いてきた。


「どうだろうか……」

「とてもお似合いですよ! いつもと違う美しさに、魅入っちゃいます!」

「そ、そうか……あ、ありがとうな洋。嬉しいぞ」


 いつもの凛々しい笑顔と違う女の子らしい笑顔に、僕の方が照れてた。

 いい意味で視線を向け続けてたら、体に毒だと判断した僕は、安心安全の竹塔さんに視線先を移した。


 きっとニコニコ笑顔で見続けてるんだろうなと思ったら、頬染め顔のままダラーっと涎を垂らし、峰子さんをスマホで撮ってた。


「……竹塔さん?」

「……はっ! じゅるじゅる~……どうしたのかな?」

「あ、いや……峰子さんとのツーショット、撮りましょうか?」


 何だかんだで、竹塔さんは誰かの為に動いてくれてるんだ。

 峰子さんの浴衣姿が気に入ったのなら、ツーショット写真ぐらいは撮ってあげたい。


 僕の提案を聞いた竹塔さんは、血走った眼を大きく見開き、スルリとスマホを手から落としてた。


「す、スマホ……」

「み、峰子ちゃんと、つつつつツーショット……い、いいいいの?」

「いいんじゃねー? なぁー峰子ーあーしと撮ろうぜぇー」

「なら、軽く屈んだ方が良いか?」

「任すわーとりま、峰子ので撮って送ってくれー」

「あぁ、分かった」


 胸元からズボっとスマホを取り出し、霞さんの細い腰に手を回し、グイっと引き寄せた峰子さん。

 みゃっと声が漏れた霞さんも、仄かに顔を赤らめ、キュッと居心地良さそうにツーショット。


「これでいいか?」

「お、おぅ! あーと!」

「お安い御用だ。さて次は瑠衣だな。傍に来」

「ま、待って!」


 バッとお面を被り、ブルブル震えて待ってポーズを取る竹塔さん。

 俗に言う顔を抑える中二病ポーズに近いけど、いつものコミュマスタータケトウと明らかに様子が違う。


「わ、私だけ抜け駆けするのはご法度……」

「ご法度? なんのだ?」

「……会員は……会員は隊長の許可なしに、無断プライベートで峰子ちゃんとのツーショットは禁止されてるの……」


 会員と隊長という言葉を聞き、僕と峰子さんは察した。

 竹塔さんは峰子さんファンクラブの会員で、忠実にルールを守る為に、私欲に抗ってるのだと。

 北高のファンクラブトップは確か蜂園さんだ。

 僕の方から連絡するのもありかもしれない。

 さっき涎を垂らしながらの撮影も、会員達用の写真を共有する為だったんだ。


 一応、蜂園さんに連絡しようかとスマホを構えかけた時、峰子さんに優しくスッと止められた。


 頼れるイケメン微笑みは、ここは私に任せておけと汲み取れ、キュンと胸高鳴りつつ託した。


「そうか。そうだとしたら、私と撮れないな」

「う、うん……こ、これが会員の……さ、定めなの……」


 峰子さんは聞く耳立てつつ接近し、こう言った。


「だが、私が瑠衣とツーショットを撮りたいのなら、問題ないだろ?」

「ひゃ?!」

「いつもの太陽みたいな瑠衣の顔、見せてくれ」


 腰に手を回され、お面を優しく外された竹塔さんは、耳まで真っ赤だった。

 竹塔さんが何も言えないまま、峰子さんはツーショットを数枚撮ってた。


「これでいいか瑠……瑠衣? おい、瑠衣?」

「幸せ過ぎて死んだんじゃねー?」

「な、なに?! し、しっかりしろ! 瑠衣ぃいいいいい!」


 クタっと脱力する竹塔さんは、幸せそうな笑顔のまま峰子さんの腕の中で気絶した。


 数分もすれば目覚めるだろうと思ってる内に、2つの歩み寄って来る足音が聞こえた。

 チラッと振り向くと、手を可愛らしく振る愛実さんと、ダルそうに隣を歩く来亥さんだった。


「お待た……って、師匠と竹つんは何してんだ?」

「知らん。つーか、ありすとかが、まだみてぇだな」


 夏を感じさせる風鈴模様に、爽やかな藍色浴衣姿の愛実さん。

 金魚模様をアクセントにした、ゆったり甚平姿の来亥さん。

 異なる夏祭り仕様の姿は、見慣れてる2人の姿を、新鮮に見させてくれてる。


「よぉー来たなー愛実も六華も似合ってんなー」

「えへへ~あんがと! カスミンもめっちゃ浴衣美人だな!」

「参考資料にすっから撮っていいか?」

「お、おぅ」

「あはは! カスミン照れてる!」


 照れつつも満更でも無い霞さんは、それっぽいポージングを取り、立派に来亥カメラマンの被写体をこなしてる。


 集合前の自由さに、夏祭りの緊張感が解れる中、ジーっと僕を見つめてる愛実さんと目が合った。

 ドキッと一気に顔が熱くなる僕に、愛実さんが静かに近付いてきた。


「なぁなぁ……積っちからの感想……聞きたいんだけど……」

「あ、え、えっと……め、目に入れても痛くないぐらい……似合い過ぎ……かな……?」

「……えへへ……嬉しい……あんがと」

「い、いえ……」


 お互いに頭からプシューっと白い煙が登り、少しばかり顔を見ることが出来なかった。

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