☆60話 重度のブラコン、汗で艶めく美背中と腰、誘いたい夏祭り
※2023/7/21文末に赤鳥南朋のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
南朋さんは誤魔化しきれないと悟り、僕の肩を掴み掛かり、開き直った顔で見つめてきた。
「いい積木くん……今聞こえた事は口外厳禁だから」
「ふぁ、ふぁい」
「君は何も聞かなかった。聞こえなかった。いいね?」
「……はい……」
瞬きのない落ち着いたトーンも合わさり、不気味さがより際立ってる。
僅か1分で、南朋さんのあらゆる面が垣間見え、嫌な汗が頬を伝った。
「何を話しやがってる?マス?」
「世間話ですよ。ね?」
「で、ですです!」
凄まじいプレッシャーを与えられ、同調以外の道は残ってなかった。
そのまま南朋さんは僕の耳元へ近付き、スゥッと一呼吸してから言葉を放った。
「いい積木くん……可愛い可愛い大地キュンは、小さい頃から私がダサく見える様に、入念に仕込んできたの……何でそんな事するのかって? 勿論、私や身内しか知らない可愛い可愛い大地キュンを隠して、メス達が寄り付かない様にする為……もし君が、この事を大地キュンにバラそうものなら……分かってるよね?」
分かってるからこそ、分かりたくない事だってある。
コクリと頷くのを確認した南朋さんは、何事もなかった風にウェイトレスモードに戻った。
詰み体質も所詮、危険な因子を引き寄せるだけに過ぎないんだと、改めさせられた。
「おい姉貴。サボってんじゃねぇーよ」
「ぴょわ?! だ、大地!? ちゃ、ちゃんと気付くように声掛けろって、いつも言ってるだろ!」
「はいはい、さーせんさーせん」
慌てて仕事に戻る南朋さんを一切見ず、オリヴィアさんからメニューを受け取る赤鳥君。
一方で離れた南朋さんは物陰から、赤鳥君にラブ視線を送ってる。
熱い視線に一切気付かない赤鳥君は、オリヴィアさんの胸元をチラチラ見て、鼻の下をだらしなく伸ばしてた。
「で、積木。姉貴と話してたのか?」
「……え?」
「世渡り上手?な話をしてやがったデス!」
「なるほー確かに、順調人生な姉貴だから、学べる事はそれなりにあるわな」
「そ、そうそう!」
オリヴィアさんの絶妙な言い間違いフォローで、赤鳥君が良い方向に解釈し、何とか南朋さん話題が終わってくれた。
「そ、そういえば2人は何食べるか決めたの?」
「ワタシはカチカレーデス! 大きなてんぷらが、とても美味しそうだったデス!」
カツを天ぷらだと勘違いしてても、実際に食べて分かって貰えればいいんだ。
トンカツとカレーのダブルパンチに、ノックアウト間違いなしだ。
「俺はビーフカレーだな。ここのはバチバチに美味いんだよ」
「ビーフカレー! 僕もカレーの中で好きなんだ!」
「なら、一口食ったら目玉飛び出んぞー?」
「ゴクリ……」
昼食が決まり、赤鳥君が早速呼び出しベルを鳴らした。
チーン音で南朋さんが誰よりも早く歩み寄り、迅速に身だしなみを整え、何食わぬ顔でやって来た。
「ご注文をお伺いします。大地はビーフカレーだな?」
「そだけど、ちゃんと接客しろよな」
「うっせ! 積木くんとオリヴィアさんの注文は何かな?」
「あ、ビーフカレーでお願いします」
「カチカレーでお願ぇーしマス!」
「ビーフ2にカツカレー? でいいのかな?」
「デス!」
注文を聞き終え、少々お待ち下さいと笑顔で去って行く南朋さん。
赤鳥君が振り向かない前提で、投げキスを何度もしていた。
もうバレるかバレないかの瀬戸際すらも、愛の為ならば攻め続けるんだと、見てるだけで内心ひやひやだった。
♢♢♢♢
カレーが届くまでの間も、南朋さんのラブアピールは絶え間なく行われ、見ているだけでドッと疲れが来てた。
やはり詰み要素は十人十色なんだと、なるべく疲れを見せない様に、目の前のビーフカレーをスプーンで掬い、口に運んだ。
「……?! え、あ、お、美味しい!? あ、赤鳥君!? す、凄いよ! ここのビーフカレー!」
「ご期待以上のリアクションだな、積木よ」
「みゅふふ~とても可愛らしいデスよ、ようくん!」
語彙力がどっかに飛び、真面な感想が口に出せずとも、ちゃんと自分の中じゃ言いたい事は分かってた。
濃厚でコクのあるルーの中に野菜の甘さが感じ、牛肉もホロホロに口でほぐれ、ブレンドされたスパイス達がしっかり食欲増進してくれてる。
「カチカレーもスパイシーで身体が燃えました?デス!ハフハフ……」
「ふほほ! ブロンド美女のハフハフ顔も、絵になりますな!」
好物を無我夢中で食べる子供みたいで、見てるだけで可愛いらしいオリヴィアさん。
代謝が大変によろしい様で、ぽたぽたと汗を掻き熱気がムンムンだ。
「ハフハフ……ようくん! 背中の汗を拭きやがってくれデス!」
「……え? い、今ですか?」
「ハイ! お願ぇーしマス!」
コルセットチューブトップの背中の紐をシュルッと解き、汗で艶めく美背中から腰までが御開帳。
タオルもいつの間にか手渡され、早く早くと言わんばかりに、じわりじわりと距離を詰めて来てる。
赤鳥君もビーフカレーそっちのけで、興奮の眼差しで見届ける気満々。
同時に遠目で睨んでる南朋さんが、フォーク片手の般若の形相で、僕を視界に捉えてる。
このまま南朋さんに手を下されそうで、もう躊躇ってる暇はないと、形振り構わずにタオルを背中に当てた。
「ンッ……気持ちいいデス……そのまま隅々までお願ぇーしマス……」
「は、はい!」
艶めかしく気持ち良さそうな声と、軽く拭く度にピクっと反応する身体に、大人な空気を感じた。
無心を心掛けつつ、丁寧に汗を拭いてる内に、肌を露出した範囲外も拭いて欲しいとお願いされ、しっかりと綺麗にした。
「フゥー! ムラムラが解消されまシタ! ありがてぇござぇーマス!」
「ど、どういたしまして……」
「デュフフフ……グッジョブ……積木……」
スッキリ爽快したオリヴィアさんは、再びハフハフ食べ始め、さっきよりも汗を掻かずに済んでた。
赤鳥君もご満悦な顔でビーフカレーを食べ、オリヴィアさんの胸元を眺めてる。
そして南朋さんは物陰から、赤鳥君の幸せな顔を見て、キュンキュンくねくね体を動かしてる。
とりあえず一件落着に、安心して口に運ぶ美味しいビーフカレーは、疲れのお陰であまり味がしなかった。
♢♢♢♢
南朋さんに見送られ、イノリを後にした僕ら。
エレベーターに乗り込み、今度こそ安堵が訪れたと、ホッと息が漏れた。
南朋さんの危険性を知った以上、なるべく同系統の女性とは、あまり関わらない方がいいと学ばせて貰った。
とは言え、詰み体質はどんな異性が来るかは全く分からないんだ。
今後はより危機感を持って過ごすと心掛けよう。
「なぁ積木」
「え? な、なに?」
「今週の土日、瓦子を誘ってんのか?」
「……ま、まだ……」
土日は県内で一二を争う有名な夏祭り、墨ヶ丘夏祭りが開かれる。
2日間で10万人以上が足を運ぶ大規模な夏祭りに、今年は愛実さんを誘おうか悩んでた。
前までは詰み体質が怖くて夏祭りには行けなかったけど、今は赤鳥君も味方だと知れて、何だか踏ん切りがついた。
「でも、今日誘ってみるよ」
「よし! よく言った!」
「えでで……」
元気良く背中を叩かれ、軽く痛いのには変わらないけど、凄くやる気を貰えた。
それから夕飯前まで、女子眼福巡りin渋ヶ谷withオリヴィアさんは続いた。




