57話 ハイアングルからの胸元、下心丸出しな積極性、マドモアゼルの笑顔の為なら、心配胸埋め
女子眼福巡りin渋ヶ谷が始まり、最初に訪れたのはポチ公像から徒歩1分のモックバーガーだった。
飲み物やらモーニングセットを注文し、2階イートインスペースの窓際へ座り、とても落ち着いた赤鳥君が、僕らを見て来た。
「さて……俺が何故この場所を選んだか、分かるかね?」
「え。に、2階なら良く見渡せるから?」
「ふっ。在り来たりだな……君は何も分かっていない甘ちゃんだな」
小馬鹿にした赤鳥君に軽くイラっとした。
早々に難問を突き付けられ、真面目に考えるのに対し、オリヴィアさんがパチンと手を叩いてた。
「ハッ! 分かりマスた!」
「ほぉ。マドモアゼルのお答えはいかに?」
「ここなら人目を気にせず、女の子のハイアングルを見まくれマス!」
「お! 正解! 素晴らしい! 1ポイント先取!」
「イエイ!」
知らぬ間のポイント制はさておき。
オリヴィアさんの答え通り、人目の付く場所で下心丸出しで眼福視線を送っていれば、冷たい視線が容赦なく突き刺さるのは当たり前。
比べて、2階をわざわざ見る人はいない訳だ。
つまり眼福巡りの理にかなってるんだ。
「夏場の薄着姿から覗く、無防備な胸元を堪能できる……まさに至極の景色って訳だ」
「オゥ! 胸なら自信ありマスよ! ほら!」
零れ落ちそうなコルセットチューブトップの胸元を、グイっと指で下げたオリヴィアさん。
赤鳥君が目玉が飛び出そうな勢いで、滅茶苦茶食い付いてた。
僕が間にいるから視線で済んでるけど、隣同士になった暁にはどうなってたのやら。
早急にオリヴィアさんには胸元を戻して貰い、簡単に見せない様にと、遠回しに注意した。
ほっと安堵の一息を漏らす僕に、ギリギリ歯を鳴らし睨んでくる赤鳥君には、気付かない振りをした。
♢♢♢♢
ハイアングル眼福の堪能後、次なる眼福場所へと赤鳥君を先導に、渋ヶ谷を歩いてる。
「ふぅふぅ……日本の夏は、とても暑いデスね」
「今年は特に暑いらしいです。オリヴィアさんの住んでた所はどうでしたか?」
「それなりに暑くて、カラッとしてマス!」
「へぇー北海道とかに近い感じかもしれませんね」
オリヴィアさんは一年間滞在する訳だ。
沢山日本中を巡って欲しい。
「オゥ! 試される大地ほっけーどぉーデスね! のりこ師匠も、やまごおり?修行したそうデス!」
「宮内のお婆さんが山籠もり修行ですか。なんか想像できますね」
それっぽい話は聞いたことあるけど、きっと僕らが知らないだけで、もっと多くの修行を積んでるんだ。
今度話が聞ける機会があれば、色々と聞いてみるのも面白いかもしれない。
「ワタシも、のりこ師匠に見習え?って、ステゴロで熊を倒しマス!」
「絶対やめて下さい」
「おいおいおいおい。俺抜きに盛り上がるなよ」
先陣を切りつつ、道行く異性を片っ端から吟味してたもんだから、話し掛けない方が良いかと思ってた。
歩くペースを合わせる赤鳥君は早速、オリヴィアさんにあれやこれやとアピールし、気に入られる気満々。
積極性こそ見習えるも、視線と息遣いが下心丸出しで、どうにも見習いたくなかった。
一応対処法として、なるべくオリヴィアさんに近付けさせまいと、再度2人の間に割り込んだ。
案の定、鶏冠みたいな赤い前髪を、ぐりぐり肩に押し付けてくる赤鳥君だった。
徒歩移動から10分程、とある大型施設の前で、これ見よがしに赤鳥君がアピールポーズをしていた。
「お次の場所こそ、今年オープンしたばかりの渋ヶ谷新スポット! シー・ラグーンだ!」
「あーテレビでも特集されてたね。ここなんだ」
「オゥ! ワタシ泳ぎたいデス!」
都会のど真ん中にオープンした大型施設内プール・シー・ラグーン。
今まさに大繁忙期真っ只中だ。
ぞろぞろ施設内に入って行く人達も、家族連れや学生、カップル等々、夏休みを満喫しに来てる。
オリヴィアさんもその場でパタパタ動き、施設を指差して待ちきれないご様子。
そんな動きに連動して、本当に零れ落ちそうな胸をガン見する赤鳥君を、仕方がなくズルズル引き摺り、シー・ラグーンに強制入場した。
立地が都会のど真ん中なのもあって、入場料金も中々にお値段が張るけど、勉強代だと思って3000円を支払った。
海の家でのバイト代に感謝様々でいる一方、赤鳥君はオリヴィアさんの分まで入場料を払ってた。
「ホントにいいのデスか?」
「えぇ! さぁ! 思う存分楽しみまし」
「ちょ、ちょっと待って赤鳥君!」
「お、おいおいおいなんだなんだ?」
行こうとする赤鳥君の手を掴んで、強制的に足を止めた。
オリヴィアさんの聞こえない小声で、赤鳥君のお財布事情が本当に平気なのか、心配で聞いてみた。
「あ、赤鳥君……お金大丈夫なの? さっきだって薔薇の花束買ってたし……」
「……正直小遣いを前借りしてる……だが、マドモアゼルの笑顔の為なら、びた一文になっても構わないさ」
「いつか破滅するよ」
「現実を見せるな、愚か者」
「えでっ」
手の甲にしっぺして、そそくさとオリヴィアさんと行ってしまった。
無理に見栄を張って切羽詰まった時には、助太刀してどうにかしないとだ。
遅れて更衣室に行き、レンタル水着に着替え赤鳥君の姿を探すも、人が多すぎて全然見つけられなかった。
きっとオリヴィアさんのお出迎えも兼ねて、先にプールの行った可能性が高い。
人の流れに乗り、プールの入り口を目指し、シー・ラグーンのバリエーション豊かなプールが視界に映る。
遊びたくなる気持ちに駆られつつも、赤鳥君を探しを始めた。
予想通りなら、入り口付近でオリヴィアさんを出待ちしてる筈だ。
ただトレードマークの赤鶏冠の前髪が見当たらなかった。
ここはオリヴィアさんが来るまで待った方がいいのかもしれない。
それから入り口付近を見渡せる場所で、待機する事数分。
女子入り口の方から、わがままに主張する豊満な肌色を彩る、イエローブラジリアンビキニのオリヴィアさんが、ポニテ姿で現れた。
日本人とかけ離れた、美しいブロンドヘアーと抜群のスタイルに、男女問わずに目を奪われてる。
「むぅー……あ! ようくーん! 待ちやがりまシタかー?」
「い、いえ。全然待っどぅえ?!」
「おぉ~マドモアゼルぅ~……足元が大変に滑りやすいので、俺の手をお取り下さ」
「よ、ようくーん!? 大丈夫デスかー!?」
前触れもなく横から現れた赤鳥君の、容赦ない入れ替わり体当たりに軽くこけるも、オリヴィアさんが手を取って立ち上がらせてくれた。
ただそのままギュッと本息の胸埋めをされ、ペタペタ体を触れて触診されてる。
「どこかケガはありマスか?! 痛むところはないデスか?!」
「ふ、ふまぁま!」
「へ?! 何を言ってるのか、聞こえないデスよ!?」
夏休み中に何度胸埋めを経験したんだろうか。
思い出に浸りながら、自然に解放される時まで脱力するしかなかった。




