56話 ブロンド美女のお願い、刺激の強い自撮り、分かり易い友達、女子眼福巡りin渋ヶ谷
朝、とある人物からの連絡で起こされた。
眠気眼を擦り、スマホに表示された相手を見ると、赤鳥君だった。
嫌な予感が過りつつ、中身を確認した。
《よぉ積木! 夏休みエンジョイしてっか? それは大いに結構! で、本題だけどよ、本日午前9時に渋ヶ谷ポチ公像前に来てくれ! 詳細は現地にて知らせる! 以上! PS・ちゃんと来いよ!》
「一方的……」
赤鳥君の発案する招集なんだ。
あまり深く考えずに行った方がいいのかもしれない。
了解の一言とスタンプを送り、ベッドから出て一階リビングに向かった。
リビングの扉越しから、姉さんの話し声が聞こえ、珍しく空が早起きしてるのかと思い、リビングの扉を開いた。
ダイニングテーブルで姉さんとブロンドヘアーの美人が、隣り合って座る姿が映った。
「あら。おはよう、洋。早いわね」
「オゥ! おはよーごぜーマス! ようくん!」
「お、オリヴィアさん? おはようございます?」
宇津姉の家で居候してるオリヴィアさんが、どうして積木家にいるのか、眠気の冴えてない頭では全然理解出来なかった。
朝ご飯準備をしに姉さんが立ち、隣に早く座ってと僕にジェスチャーで促すオリヴィアさん。
とりあえず訪問理由も聞きたいから、素直に温もりの残ってる椅子に、腰を下ろした。
早速理由を聞こうとしたら、オリヴィアさんの方からグイっと距離を縮め、美人小顔が近過ぎて、良い意味でギョッとした。
「あのデスね? ようくんに折り入ったお願え?をしたいのデス!」
「へ? ぼ、僕に折り入ってお願いですか? な、何でしょう?」
もじもじくねくねと照れ臭そうに動き、へそ出しグラマーキャミソール姿で色っぽさも極まり、大きな瞳をチラチラ向け、お願いを口にした。
「えっとデスね……? 渋ヶ谷を案内して貰える?たいのデス!」
「……今日ですか?」
「いえす!」
元々案内役だった宇津姉が昨日、大学からの緊急呼び出しで、他県の大学に戻ってしまったそうだ。
前々から楽しみだった渋ヶ谷観光が中止になり、稽古も身入り出来ない程、オリヴィアさんはしょんぼりモード。
そんな姿に宮内のお婆さんが見兼ねて、町ブラ趣味の僕に案内を直接頼んだらどうかと案を出し、今に至ると。
「急で申し訳あります?けど、お願いできないデスか?」
「話は分かりましたけど……僕も今日、渋ヶ谷で友達と会う約束があるんで、案内はちょっと厳しいかと……」
「オゥ……」
希望が消えた絶望顔に、わたわた大慌て。
何もなければ案内役は勿論引き受けたのに、今回ばかりは本当にタイミングが悪い。
どうにかならないか精神で、物は試しでオリヴィアさんにとある提案をしてみた。
「い、今、友達にオリヴィアさんも同行可能か、交渉してみていいですか?」
「! ホントデスか! ようくん!」
「は、はい。なので、ちょっと待ってて下さい」
希望が宿る眼差しに、物凄くプレッシャーが掛かりつつ、赤鳥君に電話を掛けた。
ツーコールで繋がり、のそのそと布擦れ音と、眠たそうな声が返って来た。
《なんだ積木ー。俺の二度寝を妨げてまで電話をよこすなんてよー》
「ご、ごめん。実は……」
要点だけをシンプル且つ、手短に伝えた。
反応はあまり関心がない感じだった。
《ふーん……なら、写真の1つや2つ送ってくれ。それで判断すっから》
「しゃ、写真……ちょ、ちょっと聞いてみるから、一回切るね!」
《おぅ》
通話を切りるも、正直どうするか迷ってる。
気さくで明るいオリヴィアさんは、将来を有望視されてる若手女優だ。
プライベート写真の1つや2つで、大きく人生が変わってしまう事だってあり得る。
もし写真を送る許可が出ても、しっかりと写真を一切世に出さないよう、釘刺しておかないと。
ただ、僕の独断と偏見じゃダメだ。
ちゃんとオリヴィアさんの意思を尊重するのが優先だ。
「あのーオリヴィアさん」
「ふぅ?」
「友達がオリヴィアさんの写真を確認したいらしいんですけど……」
「オゥ! それなら自撮りしてやります!」
僕のスマホをスッと取り、慣れた手付きでパシャパシャ自撮りを数十枚。
しゅばばっと素早い指捌きで数枚まで厳選。
そのまま厳選写真を見せて貰うと、フィルター加工なしで美しく可愛いオリヴィアさんが、スマホを彩ってた。
「どうぞ! お好きなのを送れやがれデス!」
「ほ、本当にいいんですか?」
「いえす! インフタにも自撮りは、沢山揚げ立て?デスし、フォロワー100万人越えなので、このぐらい屁のかっぱデス!」
何かあればフォロワーが黙ってない。
自撮りにそんな意味合いが込められてるとは、オリヴィアさんは全然分かってなさそうだ。
若干心配しつつ、チャーミングフェイスの自撮りを送った。
「ハッ! そうデス! ついでにホーム画面に設定してやりました!」
「え? あ」
両腕でむぎゅっと豊満な胸を寄せ、ハートの片割れを指で作り、顔横に添えた自撮り。
善意あるサービス精神でも、無防備状態に近いブロンド美女のホーム画面は、かなり刺激が強い。
本人がいる前でホーム画面を戻す訳にも行かない。
とりあえず今日だけは変えないでおこう。
写真を送って数十秒、赤鳥君から電話が掛かり、すぐに繋いだ。
「ど、どうだった?」
《君という大事な友を、俺は大変に誇らしく思うよ、積木君》
「あ、うん」
スマホ越しの声色で、大変ご満悦な顔が浮かび、本当に反応が分かり易かった。
♢♢♢♢
予定時刻15分前、渋ヶ谷のポチ公像でオリヴィアさんと赤鳥君の姿をキョロキョロ探してる。
人目を惹くオリヴィアさんが目印になり、誰よりも見渡せるのにどこにも見当たらない。
連絡もうんともすんとも反応がなく、どうしたものか。
「ぬぅー……どこにもいまセンね」
「ですね……」
状況が迷宮入りしかける中、前方の人通りがざわざわしていた。
誰かが接近してるのか、人集りがどんどん道を開けてる。
そして僕らの目の前に現れたのは、ビシッと服装を決めた薔薇の花束を持つ赤鳥君だった。
「おぉ……美しき貴方に贈る、薔薇の花束になります……マドモアゼル……」
「オゥ! 嬉しいサプライズデスね! ありがとごぜーマス!」
「おっふほ!」
ダイナミックなオリヴィアさんの感謝に、物凄くだらしない顔で喜ぶ赤鳥君。
会えた喜びはさておき、本題を聞き出さないとならない。
「赤鳥君。そろそろ呼び出した詳細を話してくれない?」
「おいおい……俺が外でやる事って言えば、一つだろ?」
「な、なに?」
呆れ混じりの鼻息と、憎たらしく両手を上げるポーズと、小馬鹿にした顔で、僕の肩に手を置いてきた。
「忘れたのかい、ベストフレンドよ……俺の趣味を」
「赤鳥君の趣味……げ」
「ふぅ?」
赤鳥君の趣味、即ち女子眼福巡りだ。
異性のいる場所に赴き、時間が許す限り心行くまで眺める。
ただ明らかに同行者として僕を選ぶのは、絶対に人選ミスだ。
「な、なんで僕なの?」
「そろそろ夏休みの課題が終わって、暇を持て余す筈だって、恋次の兄貴が教えてくれたもんでな……」
「れ、恋次が……」
「だからさ? 今日は付き合えよな?」
来たからにはお前を逃がさない。
置かれてる手から伝わり、大人しく付き合うと決めた。




