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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
8章 一個下の後輩
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55話 谷間射出、片脚立ち猫ポーズ、GとFのプルンプルン、心強い背中押し、昔と同じような事

 峰子さんの食べっぷりは、一つ一つの所作が綺麗で美しく洗練され、ギャラリーもウットリ。

 時折見せる、頬に手を添え幸せそうな顔は、もう誰しも釘付けだ。


「シュクシャク……新鮮な果肉がジューシーで、いつまでも食べられるな……シャクシャク」


 食レポの余裕すらあり、ギャラリーも同じカキ氷を続々注文する、凄まじい影響力だ。


 一方師走さんは、頻繁に頭がキーンとなって手が止まり、半分しか消費してない。

 このままのペースで峰子さんが差を離し、愛実さんにバトンタッチすれば、勝ちは濃厚だ。


 優勢に幸兎達のモチベが上がる中、峰子さんがちょっとしたミスを犯した。

 果肉の欠片がスプーンから零れ落ち、峰子さんの谷間にぷにょんと着地したんだ。


「んっ……こぼしてしまった……ふん!」


 指で取らずに胸をギュッと両サイドから押し、にゅぽんと谷間から欠片を射出し、パクっと口でキャッチ。


 あの峰子さんが、こんな芸当まがいの食べ方を披露するなんて思わなかった。


「うむ、美味し……あ」


 大勢に見られてるのを忘れ、谷間パックンチョをやってしまい、珍しく顔を赤らめ、物凄くしおらしく小食になってた。


 そんな一連の流れを刮目していたギャラリーは、男女問わず両手を合わせ、まるで仏様に祈る様に、峰子さんへ深々と感謝してた。


「ふみゃみゃ! んっく……食べ終わったっす!」


 差を離してた師走さんが、両頬をパンパンに膨らませ、強制的にかき氷を食べ終わらせてた。

 バトンタッチした白姫さんは、マイペースながら頭がキーンとならず、順調に食べ進め始めてる。


 非常にマズい状況に逸早く対処したのは、峰子さんの頬っぺたをペチペチ叩く霞さんだった。


「峰子峰子! 早く正気に戻らんと負けるぞ!」

「ハッ……か、霞……そ、そうだな。恥ずかしがるのは今じゃなくたっていいな!」


 気持ちを切り替え、残りのかき氷を一気に食べ尽くし、愛実さんへとバトンタッチ。

 怒涛のハイペース食いで、白姫さんに追いついた愛実さんは、もう一度差を離すべくペースを一切緩めない。

 しっかりと美味しく味わいながらの食べる愛実さんに、ギャラリーは大歓声を送ってる。

 歓声や声援は大きな力になり、更にペースアップを試みて、最後は立ち上がって一気食い。

 僅か1分で完食した愛実さんに、ギャラリーのテンションも爆上がり。

 パフォーマンスとしてかき氷の器を高らかに掲げた。


「ご馳走様でした!」


 渾身の可愛いドヤ顔ポーズに、皆の視線が集中した時。

 器の淵に残ってた氷がポタリと、愛実さんの日焼け美脚に不意打ちで落ちた。


「にゃん!? ちゅめたい!?」


 突然の冷たさに、片方の美脚をギャラリーに見せる様に、クイっとしなやかに曲げ、両手は猫の手握り。

 これこそ驚きが生み出した産物、片脚立ち猫ポーズだと、僕を含めたギャラリー達がキュンと胸を高鳴ってた。


 幸兎とバトンタッチを交わし、愛実さんは慌てて後ろに引っ込み、美脚をいそいそ拭いていた。


 全てを委ねられた幸兎は、モニモニ頬っぺたを膨らませて、かき氷を着実に減らし続けてる。

 遅れる事10秒ちょっと、花音が気合いの追い上げを見せ、幸兎のペースに食らい付いてきた。


 視線をバチバチ飛ばし合い、ガツガツと頭がキーンとなりながらも接戦が繰り広げられ、両チームを応援する声が五分五分。


 本気でどちらが勝つのか手に汗握る展開に、2人とも頑張れと言い掛けた時。

 2人がピタリと同じタイミングで、動きが止まった。


「んっぐ?!」

「んっつぅ?!」


 スプーンをそっちのけで、胸元をどんどん叩き、GとFのプルンプルン揺れる光景に、ギャラリーの男達が興奮。

 早食いするあまり、果肉を喉に詰まらせたんだ。


 緊急措置で水が提供され、ごくごくのど越し音を鳴らし、詰まりを同時に解消した2人は、再びかき氷をかきこむ。


 そして数十秒後、一本のスプーンがバッと掲げられ、勝敗が決まった。


「か、完食ぅ!」

「な!?」


 幸兎が勝利を飾り、最後の一口を運ぶ寸前で、花音はポロリとスプーンを落とした。

 濃密だった海水浴4番勝負の結果は、2勝1敗1分けで幸兎チームが勝利した。


 ♢♢♢♢


 夕暮れが終わる頃合い、戸羽女さんの粋な計らいで、海の家前で野外バーベキューを開催中だ。

 勝負し合った仲もあり、すぐに仲良く打ち解け、バーベキューを和気藹々と楽しんでる。


 ただ花音だけは波打ち際で1人、海を眺めながら座り込んでる。

 負けた事に落ち込んでるのは、花音を昔から知ってるから一目瞭然だ。

 同時に1人で居たいって空気も感じてるんだ。

 こんな時は下手な事はせず、花音が自分で戻って来るまで待ってた方がいいんだ。


 心ここに在らずなままにいると、愛実さんが不意に顔を覗かせて来てた。


「うぉ!? め、愛実さん!」

「アハハ! 驚き過ぎじゃん!」


 楽しそうに笑う愛実さんを見るだけで、心配事が少しだけ和らぐんだ。


「で、なした積っち?」


 愛実さんには一目で悩んでるのが、お見通しみたいだ。


「花音がどうしても気になって……でも、1人になりたそうな空気だから、迷ってるんだ」

「なら行けばいいじゃん! 放って置けない性格が積っちだろ?」

「! そ、そうだよね……ありがとう、愛実さん!」

「いいって事よ! じゃ、待ってるからなー!」


 背中をポンと押してくれ、踏み出せなかった一歩がすんなり踏み出せた。


 明かりがギリギリ届く波打ち際で、ただただ海を見つめる花音の隣に、静かに立った。


「花音。そろそろこっちに来ない?」

「もう少しここにいるっす。皆と楽しんでて下さいっす」


 元気のない声のまま海だけを見つめる花音は、どうしても1人になりたい感じだ。

 でも、お節介は百も承知の上で静かに座った。


 戻ると思ったのか、花音はチラッと一度視線を向け、体育座りで顔を埋めてた。


 そんな花音の姿を見て、昔同じ様な事があったと、懐かしみながら言葉を口に出していた。


「そういえば……花音がサッカーを始めた時も、こんな風に落ち込んでて、隣に座ったよね」

「……覚えてるんっすか?」

「うん」


 花音がサッカーに興味を持ち始めた小学低学年の頃。

 サッカー少年団に入るも、周りが男の子ばかりで、性別も低い身長も気弱な性格もあって、何もかも浮いてた。


 初歩的な練習にも全然着いて行けず、放課後通学路の土手でいつも、1人体育座りで川を眺めてた。


 だから僕は隣に座り、花音が諦めない限りずっと練習に付き合うって、言ったんだ。


 放課後の土手の広場で、2人で練習をしていたら、恋次も幸兎も駆け付けてくれ、練習に付き合ってくれたんだ。

 それから花音は目に見えてメキメキ成長し、夏休みに入る前には少年団の練習に着いて行けるまでになったんだ。


「花音が諦めないで、どんどんサッカーを好きになってくれて、僕は本当に自分の様に嬉しかったんだ」

「……知ってるっす……」


 ゆっくりと上げた顔が、薄暗い中でも目元が赤く見えた。


「……今の私があるのは、洋先輩に恋次先輩……幸兎先輩のお陰っすから……」

「ううん。僕らは花音の背中を押した、きっかけに過ぎないよ」

「……もっと、素直になってくれてもいいじゃないっすか……」

「あはは……でも、本当に僕も恋次も幸兎も、そう思ってるんだよ」


 花音が自分で頑張ったから、今の自分がある。

 僕らの支えは、ほんの一部に過ぎないんだ。


 数秒黙り込んだ花音は、目元をグシグシ手で拭い、バッバと砂を払って立ち上がった。


「だったら、幸兎先輩に謝罪と感謝をしないとっす!」

「そうだね」


 柔らかな笑みをチラッと見せ、バーベキューを楽しむ皆の下に歩く花音。

 すぐ隣を歩き、元に戻ってくれた花音に、疑問に残ってる事を聞いてみた。


「結局、どうして幸兎とバチバチに勝負する事になったの?」

「……洋先輩って察しがいいのか悪いのか、分からないっすね!」

「え? あ、ちょっと! 教えてくれないの!?」

「にしし! お預けっす!」


 容赦のないダッシュで、一足先に合流した花音が、無邪気に笑いながら僕を手招き、皆とバーベキューを楽しんだ。

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