54話 ポッポと赤らむ驚き、吉と出るか凶と出るか、まさかのハプニング、かき氷早食いタイムアタック
幸兎がスタート位置にスタンバイし、愛実さん達も誘導できるよう両手を口元に添えてる。
姉さんの手鳴らしスタートで、幸兎が恐る恐る一歩踏み出した。
「ユッキー! しばらくでこぼこ道だから、足元に注意!」
「慎重にいつも通りの歩幅で進んだ方が、逆に安全だ」
「恐れず行ったれー」
誘導通り、ちょびちょび歩きから、いつもの歩幅で進み始めた。
絶妙にでこぼこにハマらず、スイスイとでこぼこ道を突破。
次なる関門、スイカボールの散乱する地帯は、早速幸兎の足下にボールが触れていた。
「みゃ!?」
「ユッキー! 左向き過ぎてる! 方向修正!」
「ペースは上々だぞ! 好タイムを狙えるぞ!」
「方向修正オッケーそんまま直進だぞー」
驚き声を聞かれ体が赤くなる幸兎は無言で頷き、こまめなアドバイスに従い、スイカボール地帯を突破。
最後の関門、砂の城防御を如何に突破するかは、愛実さんの一声ですぐ決まった。
「スイカの周りに砂の城があるだけだ! 突っ切れユッキー!」
「臆するな! 何も怖くない!」
「砂に塗れるだけだー余裕余裕ー」
行く手を塞ぐ芸術性の高い砂の城を、臆せずズカズカと壊しながら進み、渾身の振り翳しでスイカを割り、タイムストップ。
タイムは2分弱。
目隠し状態でこのタイムなら、かなり大健闘した方だ。
花音達もタイムを聞き、分かり易く焦りの色を見せていた。
そんな花音チームは、雛美さんがスイカ割り役に抜擢され、海の家で作戦会議をしに向かった。
幸兎達も大健闘余韻をそこそこに、障害物設置を始めていた。
安全確認は僕と空とで分担しながら見守り、順調に作業時間が過ぎて行く。
♢♢♢♢
作業が大方進んだところで、1人になってる幸兎に聞きたい事があり、今の内に聞いてみた。
「ねぇ幸兎。どうして不利な先攻を選んじゃったの?」
「そりゃ、目隠し経験値を設置に活かす為よぉ」
幸兎曰く、実際にどの障害物が難しかったか、自分自身で経験した方が、確実に時間を稼げる方法が分かる算段だったそうだ。
見た目が滅茶苦茶難しそうでも、案外やってみたら簡単で、逆にシンプルなもの程難しかったりする。
「経験上、最初のデコボコ道と、中間のビーチボール地帯が厄介だなぁ」
「うんうん。最後なんか突っ切ってたもんね」
「砂の城作った人には悪ぃけど、あくまでタイムアタックだからなぁ」
実際、砂の城製作者の白姫さんが、ショックのあまり膝から崩れ落ちてた。
先攻の魂胆が分かった以上、余計な口出しはせず、しっかり安全確認を全うしないと。
作業時間ギリギリで障害物設置を完了。
幸兎チームのコースはこうなった。
ビーチに打ち上げられていたワカメを、至る所に配置したヌルヌルロード。
足を強制的にぬからせ時間を稼ぐ、沼穴地帯。
そしてスイカボールとスイカをごちゃ混ぜにした、惑わせミックス。
先攻で得た経験値が吉と出るか凶と出るか、いざ本番だ。
♢♢♢♢
スタンバイ完了の雛美さんは堂々とした立ち姿で、目の前の見えないヌルヌルロードにも怖気付いてない。
スタートの手鳴らし音と同時に、凄まじい跳躍でヌルヌルロードを、少しだけ飛び越えた。
「あと4回繰り返せば、ワカメ道を越えられるよ!」
「もし滑っても、砂浜がクッションになってくれるから大丈夫」
「ババっとビッビっとシュバババーンすれば、パンパラパーっすよ!」
師走さんの擬音誘導はさておき、花音の正確な誘導プランと、白姫さんの安心フォローを信頼し、あっという間にヌルヌルロードを攻略。
勢いのまま沼穴地帯に脛丈まではまり、強制鈍化移動されるも、雛美さんはすぐに状況を理解していた。
「雛美! 前に話してくれた、田舎のお祖母ちゃん家の、畑仕事のお手伝いを思い出して!」
「移動速度が遅くなる以外、障害物は何も無いから、どんどん進んで」
「泳いだ方が早いっすよ!」
「「それは佐良さんだけが出来る芸当です」」
「えへへ~そうっすか?」
アドバイスに頷き、すり足歩行に近い移動でズイズイ進み、30秒で最終関門惑わせミックスに着いてた。
ヌルヌルロードでガッツリ時間短縮。
沼穴地帯もお祖母ちゃんお手伝い経験での攻略。
幸兎チームのクリアタイムより、1分も早い状態だ。
このままのペースだと、余裕でクリアタイムを上回られ、2敗1分けで幸兎達が負けが確定する。
「スイカボールの群れだから、本物の前までどんどん足で避けちゃって!」
「本物が目前になったら合図出すから、遠慮なくね」
「でもサッカーボールじゃないっすから、蹴るのはどうなんっすか?」
「「真面目ですか」」
普通なら師走さんのお言葉通りだけど、今は目隠し状態でタイムアタック中だ。
スイカボールにいちいち躊躇すれば、それこそ大幅ロスだ。
ご自慢のサッカー脚でボールをぽんぽん飛ばし、本物のスイカがあと数歩先まで迫ってた。
敗北の文字が過ったまさにその時。
蹴り飛ばしたスイカボールの1つが、ギャラリーの頭部に跳ね当たり、偶然にも雛美さんの頭に当たり、返って来てた。
予想外の不意な衝撃に、雛美さんの脚が止まり、何かのトラブルかと思ったのか、キョロキョロと集中が散漫になってた。
「雛美! ただのハプニングだから気にしないで!」
花音の声でキョロキョロが止み、続け様に花音の的確な方向修正で、状態を持ち直した。
そしてハプニングを物ともしない振り翳しで、スイカを割った。
ストップウォッチを止め、タイムを確認すると、僅か1秒差で幸兎チームがギリギリ、勝利していた。
♢♢♢♢
スイカ割りコースの片付けを、祭平建設の人達がやってくれ、感謝しつつ幸兎達は最後の勝負会場に移動。
海の家前で各チームがテーブルに横並びに座り、スタンバイはあっという間に完了した。
「最後の4番勝負は、かき氷早食いタイムアタックリレーよ」
順番でかき氷を1人一杯ずつ完食し、早く食べ終わった方が勝ちのシンプルルール。
順番は姉さんがくじ引きで決め、両チームの順番はこうなった。
霞さん→峰子さん→愛実さん→幸兎。
雛美さん→師走さん→白姫さん→花音。
今までの勝負と違い、身体を動かさない早食いだ。
誰がどれ程の食の力量なのか未知数な以上、勝負の行方は誰にも分からない。
霞さんと雛美さんの前に、美味しそうなフルーツかき氷とスプーンが置かれ、最後の勝負の準備が整った。
「準備はいいわね。よーい……ドン!」
「はむ! シャクシャクシャク……」
「シャクシャクシャク……うにぃ……」
開始数秒の数口で、霞さんが目をキューっと瞑り、ほぼほぼギブアップも同然な空気に。
隣に座ってる峰子さんが、異変に気付き、肩を掴み物凄く心配してた。
「か、霞! ど、どうした!」
「ち、知覚過敏がぁ……ひぃにゃ……」
「な、なんだと……」
冷たい物が天敵の知覚過敏は、かき氷との相性は最悪。
見届け人もチームメンバーも、知覚過敏を和らげるような手助けはご法度。
その間にも順調に食べ続ける雛美さんとの差が開くのを、見るしか出来ない。
ルール上、順番交代も出来る訳もなく、どんどん時間が過ぎる中、愛実さんがハッと何か気付いた。
「ハッ! か、カスミン! ち、知覚過敏が片側だけなら、今すぐもう片側の方で食べて!」
「うひぃ……シャク……あ、大丈夫そうだわ。シャクシャクシャクシャク」
知覚過敏を感じさせない食べっぷりに、峰子さんもホッと胸を撫で下ろし、甘党の霞さんはペースアップ。
雛美さんに追いつき、霞さんがリードして峰子さんとバトンタッチ。
盛り上がるギャラリーに拳を掲げる霞さんは、口横に付いてたフルーツをペロッと舐め取り、余裕の笑みを零してた。




