5話 パンツの神隠し、尊いアイドル、女優のアピール方法、心の師匠をガン見
ハッと脳内宇宙から現実に戻り、簡潔にパンツを貸して欲しい理由を聞いてみた。
番組前、トイレを済ませた際、何故かパンツが無くなっていたそうだ。
「休憩時間に探しに来たけど、どこにも無くて……うぅ……」
摩訶不思議なパンツの神隠しだとしても、凛道さんの事だ。
何かしらを見落としてる筈だ。
休憩時間は残り5分を切ってる。
見落としを見つけつつ、代案を提案だ。
「あ、えっと……よ、予備はないんですか?」
「無いの……」
「あ……ま、マネージャーさんか、衣装スタッフさんに頼めば、何とかなりませんか?」
「じ、実は……」
サプライズ新曲発表に合わせた今回の新衣装は、こだわりを極めたもので、簡単に着脱出来ないそうだ。
千鶴さんと碧羅さんにも相談してみたものの、全員サイズが違うので何も解決に至らず。
との事で、パンツを貸して欲しい理由だそうだ。
スカートは万が一の場合に備え、普通に脱げるが、根本的には何も解決してはない。
ノーガード状態のふりふりミニスカで踊れば、放送事故待った無し。
もはや解決策は女装野郎のパンツを貸すしか救えない。
苦渋の決断が刻々と迫る中、凛道さんのサイドテールに違和感を覚えた。
一握りの可能性を信じ、震えそうな声を我慢して話し掛けた。
「せ、刹那さん。もしかして、そのシュシュ……パ、下着だったりしませんか?」
「しゅ、シュシュ……はっ!」
ブルブル震える手が、ゆっくりとシュシュに向かい、サイドテールを解いた。
違和感のシュシュは、一握りの可能性通り、白レースのパンツだった。
「お、思い出しました……トイレを出る前に、シュシュが足元に落ちて、ろくに確認もせずに付け直したんでした……」
「じゃ、じゃあシュシュは?」
ポケットから白シュシュを出し、凛道さんはハンカチだと思ってたそうだ。
兎にも角にも、女装野郎のパンツ貸しはせずに済む。
お互いに心に傷を負う事のない、平和的な解決だ。
「本当にありがとう! これで心置きなく、新曲お披露目ができます!」
「私も自分の様に嬉し」
言葉を断絶するが如く、その場でパンツを履き始めた。
ガーターベルトの美脚を伝い、上へ上へと履き登るパンツ。
このまま登頂まで見届ければ、変態の確信犯だ。
即時天井と視線が合うように、思いっきりのけぞった。
生着衣の儀は滞りなく終わり、若干首と腰を痛めつつ、凛道さんと一緒にスタジオへと戻った。
♢♢♢♢
『皆さんお待ちかねの! ゲストトークタイムでーす!』
ルーレットダーツでゲストとトークを繰り広げる、タイトル名通りのコーナーだ。
最初の話題は、お互いが知ったキッカケ。
初共演の渚さん達が、どんなキッカケでお互いを知ったのかは、ファン勢は聞き逃せない。
『一番バッターは……凪景さんで!』
『了解です! 碧羅さんは子役時代から知ってましたし、千鶴さんもデビュー当時から引っ張りだこなので、自ずとですね。で、刹那さんなんですけど……実は、刹那さんがアイドルの卵の時、ダンス教室で一緒だったんです!』
『ほぇ!? ほ、ホントですか?!』
『ふふふ♪ そうなんです!』
以前、家に遊びに来た渚さんが、人生ゲームで即興ダンスを披露した時、プロ並みだったのを鮮明に記憶してる。
ダンス教室に通ってたのなら納得が行く。
一方の凛道さんは本気で、当時渚さんがいた事に気付いてなかったリアクションだ。
『当時はまだ芸能界入りしてませんでしたし、刹那さんとは別のグループだったので、一方的に知ってただけですよ?』
渚さんは僕と同じ歳ぐらいにスカウトされ、歳自体が5つ違いだから、別グループで顔を合わせない事だって普通にあり得る。
『そ、そうでしたか! で、でも光栄でしゅ!』
『せつぽん、噛んじゃってるぅ♪』
『か、噛んでないもん!』
真っ赤な顔で認めない凛道さんに、カワイイ、尊い、結婚して、もっと噛んで欲しいコメで埋め尽くされてる。
千鶴さんは渚さんと芸歴が同じなのもあり、当時から知っていて、歳も2つ違いなのもあって、距離が物理的にもグッと縮まってた。
『では続いてのお題はぁー! とぅ! 私なりのアピール、になります! 碧羅ちゃんからお願いします!』
『私のアピールは、美味しい食べ物をお勧めする事です!』
『確かに碧羅さんのSNSで、食のお勧めレビューって好評ですもんね! 私もいつも楽しく見させて貰ってます♪』
『むふ~! 今度一緒に行こうね♪ 凪景さん♪』
ぽわぽわと幸せな癒し空気感が、スタジオを包み込んでくれる。
碧羅さんのレビューは普通に気になるから、帰ったら見てみよう。
夏休みに色んなところをブラブラするのに、参考になるかもしれない。
『お次は凛道さんで!』
『ん~……アピールより先に、気になって声を掛けちゃってる事が多いかもですね』
『積極的ですね! 私も見習わないと!』
『い、いやいや! 私の方こそ凪景さんを見習いたいです!』
謙遜し合う両者もまた、多くの人達の憧れで、見習いたい対象だ。
林間学校で夏洋として話し掛けられた際も、気になったから話し掛けて来たのかもしれない。
『千鶴さんはどうですか?』
『私からのアピールは特にないですけど、アピールされたら気にはなりますね』
『何だか、かぐや姫みたいですね♪』
『かぐや姫……とても……とても良い例えです。使っても良いですか、凪景さん?』
『ちづるんテンション上がってるぅ♪』
凛道さんに抱き着きながら、渚さんにグイグイ近付く千鶴さん。
ミステリアス好きの千鶴さんに刺さるのも、なんとなく頷ける。
『最後に凪景さん! お願いします!』
『アピールの仕方は、私を知って欲しいので、お気に入りのものを、まず知って貰います』
『分かります分かります! 同じものを好きになれば、それだけ距離は縮まりますもんね!』
『ふふふ♪ 私……刹那さんとの距離を縮めたいです♪』
恋人繋ぎでグッと凛道さんに顔を近付けた渚さん。
観客席とコメントが、期待のザワつきで溢れてる。
眼福な百合展開もまた、尊い美女達によって、より尊くなる。
眼福光景を見つつ、今日のデートで自分のお気に入りを沢山教えてくれた事を、軽く振り返ってた。
渚さんなりのアピールだと、今更ながら気付かされ、気付けなかった自分の鈍さを痛感した。
同時に渚さんに対し、どこか心が温かくなる優しい不思議な気持ちが生まれ、初恋の愛実さんにも生まれてた。
唯一違うとすれば、不思議な気持ちは恋心じゃなく、憧れに近い尊敬なんだ。
自分を知って貰う努力も、相手を知る努力も、詰み体質も努力次第で、良い意味に変えられる。
気付かせてくれた渚さんの事は、今後心の師匠として敬い、見様見真似で色々と吸収するんだ。
誉め殺し合いのトークは続き、最後はシークレットスターの、サプライズ新曲のお披露目で締め括ることになった。
観客や視聴者が大いにパニクるも、神対応女子達の手に掛かれば、チョチョイのチョイで落ち着いた。
『名残惜しいですが、今回のミックスぅーの終わりの時間が来てしまいました。ゲストの凪景さん、シークレットスターの皆さん。本日はありがとうございました!』
『またいつでも遊びに来ますね♪』
『うぅ……おら、涙がちょちょぎれそうだぁ! 大好きだよ凪景さんぁああん!』
お気に入りのゲストとお別れする際、毎度クレアさんが抱き着いて本気で泣きつくのが、ミックスぅのお馴染みの光景だ。
《それでは聞いて下さい!シークレットスターの新曲!》
《《《Summer♡Lover!》》》
アップテンポな楽曲と華やかなダンスに合わせ、一糸乱れぬパフォーマンスを見せる熱狂的観客達。
美しい凛道さん達の歌声は、一瞬で心を打ち、自然とノリノリで楽しんでいた。
♢♢♢♢
生配信終了後、約束通り渚さんのマイカーで、家まで送り届けられてる。
「……ちゃんと見ててくれてたわね」
「はい! しっかりと全身くまなく!」
「ぜ、全……ば、馬鹿!」
「えでっ」
運転中に猫肩パンチは、普通に危ない。
顔と耳まで赤くなって、言い方が悪かったのかもしれない。
渚さんを心の師匠と決めた以上、努力方法を教えて貰うんじゃなくて、しっかりと自分の目で見て、モノにするんだ。
「じ、ジロジロ見過ぎよ!」
「お気になさらず!」
「な、なんなのよぉおお!」
多少強引さを出し過ぎたせいか、家に送り届けるまで、説教を喰らうハメになった。
自宅に送り届けた後、帰り際でデートは楽しかったと、照れ臭そうに言ってくれたのが、何だかとても嬉しかった。