☆48話 若手女優の稽古、逃げる昔馴染み、お隣さんサプライズ
※2023/6/1文末にオリヴィア・アレクサンドラのイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
宮内道場までの案内中、あれやこれや聞いたところ、名前はオリヴィア・アレクサンドラさんと言い、20歳の若手女優だそうだ。
両親が有名な俳優で、昔宮内のお婆さんに稽古をつけて貰い、その経験を活かしたアクション映画が大ヒット。
ハリウットで現役バリバリ大活躍してるそうだ。
宮内のお婆さんとは、今でも手紙でやり取りする程親交が深く、オリヴィアさんは両親の勧めで、今後の女優業のゲン担ぎとして来日したそうだ。
「陰ながら応援してますね」
「アリガトゴゼーマス!」
「いえいえ。あ、着きましたよ」
「オゥ! コッコガ、ミヨウチドジョウ!」
「宮内ですよ。お邪魔しましょうか」
「ハイ! オジャマリマス!」
門のインターフォンを鳴らすと、爆速で元気バリバリの宇津姉が来た。
来日するのは聞いてたそうで、僕も何故か手を引かれ、リビングまで連れてかれた。
「お祖母ちゃん! オリヴィアちゃん来たよ! あれ? さっきまでいたのに? あ、もしかして道場の方にいるのかも! うんうん充分あり得るね! じゃ、もっかい移動するね! それ!」
「にょん?!」
「ワォッス!」
腕組み強引走りで再び連れられ、道場の襖を開くと、宮内のお婆さんが道場の中心で、姿勢正しく正座していた。
オリヴィアさんは目をキラキラ輝かせ、パタパタと対面する形で正座した。
「アナタサマガ、ノリコ、シショー! ハジマリマシテ! オリヴィア・アレクサンドラ、デス!」
「アンタがオリヴィアかい。ソフィーの手紙通り、泊まり込みで1年間みっちりしごいてやるさ」
「オネネガシマス! ノリコシショー!」
「かっかっか! 他にも学ぶ事は多そうだね……ところで、何で洋坊やがいるんだい?」
「オゥ! オミチノ、クエスチョンシテタ、ワタシガ、タスケべラレマシタ!」
「洋坊やが連れて来てくれたんかい? おかしいねぇ……駅まで迎えに行くのは、宇津音のお役目だったろうに……どうしたもんかね」
鋭い眼光を光らせた宮内のお婆さんに、こっぴどく叱られると分かってたのか、僕の隣にいた宇津姉はいなかった。
微かに宇津姉の謝る声が、家の遠くから聞こえた。
宮内のお婆さんは呆れ混じりの溜息を吐き、スッと立ち上がった。
「正座説教1時間コース決定だね、こりゃ」
「ナンノ、コトデ、アリンスカ?」
「宇津音みたいには、なっちゃいけないよって事さ」
「?」
無事オリヴィアさんを送り届けたんだ。
長居はせずそろそろお暇しよう。
「宮内のお婆さん。僕はこれで帰りますね」
「ちょい待ちな。良かったらお礼も兼ねて、オリヴィアの歓迎会に参加してくれないかい?」
「フゥ? ナンノ、オハナシデス?」
「アンタのパーティーについてだよ」
「オゥ! パーティーダイコウブツ、デマス!」
くるくる陽気に回り、ピョンピョン飛び跳ね、喜びを表現するオリヴィアさん。
そもそも断る理由はないのだから、お言葉に甘えよう。。
「分かりました。参加させて貰いますけど、姉さんと空も呼んでいいですか?」
「勿論、賑やかな方が私らも嬉しいよ」
時刻的に姉さんが夕飯準備を始める頃だ。
早速姉さんに電話を掛け、ワンコールで出てくれた。
《洋? どうしたの?》
「えっとね? まだ夕飯の準備ってしてない?」
《今するところよ。夕飯までには帰って来るのよね?》
「あ、それなんだけど……」
かくかくしかじか説明したところ、身支度を済ませてから来る事になった。
「姉さん達も来れそうです」
「そうかい。なら、早速準備に取り掛かろうかね」
ほっこり笑みを溢した宮内のお婆さんは、そう言い残して目の前から一瞬で消えた。
「オゥ?! シショーガ、イナナクナリマシタ!?」
「大丈夫ですよ。とりあえず、台所……キッチンに行きましょうか」
「オゥ! キッチンデ、パーティーディナーデスネ! オテアライシマス!」
お手伝いする気満々なのか、黒スーパークロップを脱ぎ捨て、白のチューブトップ姿になったオリヴィアさん。
海外産グラマーボディーも、上着が無いだけで大人の色気が爆発するんだと、自然と目を奪われる。
「レッツゴーデス!」
「はっふぉ?!」
軽々しく肩に担がれ、男一人分の重さを速度で、キッチン目指して爆走。
「スンスンスンスンスンスン!」
鼻筋通った綺麗な小鼻の嗅覚頼りに、ひたすらに台所まで足を動かしてるオリヴィアさん。
超大型犬に運ばれる気持ちなんだと思う内に、台所に到着。
宮内のお婆さんと一緒に焼肉の下拵え、オリヴィアさんは盛り付けを任せ、縁側で宇津姉が炭火を準備中だ。
下拵えを終えたタイミングで、インターフォンが聞こえ、手の空いた僕が直接迎えにいった。
「よいしょ……もう準備出来」
「よーっす。お邪魔しまーす」
「……え? か、霞さん?」
Tシャツワンピにセンタープレスパンツの、かなりカジュアルな霞さんが現れて、一瞬理解出来なかった。
そんな理解出来てない僕のアホ面が面白いのか、笑いを堪える霞さん。
その背後から、ぴょこぴょこと姉さんと空が顔を見せた。
「びっくりした? お兄ちゃんがいない間、ウチで遊んでたからお誘いしたの!」
「ちゃんと宇津音姉さんには連絡済みよ」
「サプライズ成功ーイエイ―」
「やったね霞ちゃん!」
「面白い提案だったわ、霞」
キャッキャウフフと喜び合う3人を見て、つられて笑みが零れてた。
縁側に着いて真っ先に視線が向いたのは、ビール1ケースを飲み干し、炭火を調整してる宇津姉の姿だった。
足元には自前の大型クーラーボックスが見え、大量のお酒が顔を覗かせてる。
「ぐびゅぐびゅ……ぷふぇ~! お! 来たね蒼! 空! 霞! だったよね!」
「そうっす。改めてよろしくお願いします、宇津音さん」
「よろしく! さぁ! お肉達が運ばれる前に、自分の好きな飲み物をクーラーボックスから好きに取ってね! あ、私の足元のヤツは全部お酒だから駄目だよ! ぐぴゅぐぴゅ……ぷっふぁ~! うぅ~大学生の夏休み最高ぉお!」
いくら飲んでも全然酔っ払わないのだから、本当に酒豪過ぎて恐ろしい。
それぞれ飲み物を選び、お肉達を運ぶ手伝いに向かった。
お肉達のセッティングが完了し、歓迎会の音頭を宮内のお婆さんが取った。
「今日から1年間、ウチで面倒を見るオリヴィアだよ」
「オゥ! オリヴィア・アレクサンドラ、デス! フチュチュカ、モノノフデスガ、ヨロシコ、オネゲェシマス!」
歓迎の拍手を送り、早速最適に焼き上がった美味しそうなお肉を、オリヴィアさんにあげた宇津姉。
霜降りの極上お肉を、パクっと一口食べた瞬間、華やかに色付くエフェクトがオリヴィアさんから見えた。
「ンンン! オカワレ、クダセイ!」
おかわりをすぐに所望し、無邪気な子供っぽい反応に、和やかな空気が更に和み、僕らも焼肉を頂く事にした。
それぞれが焼肉を楽しんでると、宮内のお婆さんが僕の隣に来て、カルピソを注いでくれた。
「ありがとうございます」
「カッカッカ……洋坊や。宇津音の代わりに、オリヴィアを連れて来てくれてありがとうね」
「いえいえ。しばらく道場が賑やかになりそうですね」
「カッカッカ! 両親に似て、近い将来大物になるよ、あの子は」
宮内のお婆さんがそう言うなら、きっとそうなるんだろうと、焼肉を幸せに楽しむオリヴィアさんを眺め、僕らは微笑ましく笑った。




