46話 モテるのにモテない、後悔の指切りげんまん、現タレント女王との出会い、根付いた恋愛観
電車移動で10分、駅前の大型書店木ノ々屋へと着いた。
冷房の効いた休憩スペースで、体を涼ませのんびりと小休憩。
充分に休み、エスカレートで2階漫画エリアの最新刊コーナーに一直線に向かい、お目当ての漫画を無事に発見。
午前中にかなり売れたのか、他の最新刊よりも減り具合が違い、いちファンとして笑みが溢れた。
前々から気になってた漫画も吟味し、表紙の画風や裏のあらすじを見て、どれを買うか時間を過ごしてたら、パタパタと足早に駆ける足音が耳に入って来た。
気を削がれたのと、あまり書店内で駆けないで欲しい一心で、足音のした方に赴いてみた。
長い黒髪の女性が、3階洋書エリアに向かうのがギリギリ見え、一目見たい好奇心が勝った。
静かに洋書エリアに向かい、女性がどこに向かったか一つ一つ通路を覗き見。
人の寄り付かなさそうな小難しそうな洋書コーナーに、さっきの黒髪の女性がいた。
何やら帽子とサングラスの茶髪の女性と、ひそひそ会話中だ。
バレないよう距離を縮める内、黒髪の女性の姿がハッキリ見え、呉橋会長だと確認出来た。
挨拶の一つぐらい済ませた方がいいと、思い切って接近するも、茶髪の女性との会話に夢中で気付かれない。
盗み聞きは悪いと思いつつ、聞く耳を立ててみた。
「ふむふむ……年下の男の子が気になる、美人先輩の不器用ピュアラブコメ……いいですね」
「でしょでしょ? 隅々まで熟読すれば、今度こそ私達はモテる!」
「ゴクリ……星ちゃん……一緒にモテましょうね!」
ガッチリと結託し合う姿に、類は友を呼ぶとはこの事なんだなと思った。
茶髪の女性の声が、現タレント女王の草薙クレアさんで、変装もよく見ればクレアさんのまんまだった。
2人がどう知り合ったか分からずとも、中々に交友関係は深そうだ。
「さて、このまま私の家で熟読会ですね!」
「おぉー! モテモテ美女に私はな……る……」
背後に立つ僕の存在に、ようやく気付いた呉橋会長は、みるみる顔を真っ赤にさせ、体をぶるぶる震えさせてた。
クレアさんが何事かと振り向き、君は誰なんでしょうと小首を傾げてた。
♢♢♢♢
お会計後、1階の休憩スペースで、僕らは対面する形で座った。
ヒィーヒィー声を漏らし、顔を手で隠す呉橋会長が、ここまで恥ずかしがるとは、本当に珍しい。
クレアさんがよしよし撫で撫でと、大丈夫ですよーと励ましても尚、立ち直る気配がない。
「ヒィー……ヒィー……」
「……呉橋会長……僕が悪かったですから、元に戻って下さい」
「……ぜ、絶対誰にも口外しない?」
「しませんよ」
「ほんとに?」
「はい」
「指切りげんまんして」
「あ、はい」
うるうる泣きそうな大きな瞳でガン見され、細くしなやかな小指を絡めて指切りげんまん。
恥ずかしさの熱が小指から伝わり、呉橋会長の絡め具合も力が強まってた。
「ゆ、指切りげんまん……う、嘘付いたら一日私の言う事を聞ーく……」
「え」
「指切った……ひひ」
断りにくい機に乗じて、わざと恥ずかしがってたんだ。
頭の回転が良くても、あまり器用じゃないのが呉橋会長なのに、今回はしてやられた。
さっきまでのヒィーヒィー恥ずかし顔から、勝ち誇ったお調子者の顔でジロジロ見られ、本当に後悔してる。
「うひひ! これで洋君を丸一日好き放題じゃ!」
「なんだか良くわからないけど、やりましたね星ちゃん!」
「クレアちゃん! イエーイ!」
ハイタッチで喜びを分かち合う美女2人に、有り難くないと感じてるのは僕だけだ。
そもそもクレアさんとの関係性を話して貰わないと、微妙なモヤモヤが晴れない。
「クレ……草薙さんと結構親しそうですけど、いつ知り合ったんですか」
「およ? 聞きたいかね? 聞きたいかね?」
「言いたくないなら大丈夫です」
「まぁまぁ……この懐広い星ちゃんが、いつ言いたくないと言ったかね?」
素直に話してくれれば好感度が上がるのに、余計なことを言うんだ。
ガサツに隣に座り、肩を組んできた呉橋会長は語ってくれた。
「まぁ、出会いを話す前に……前に洋君の最寄り駅で会ったのを覚えてるかね?」
「そりゃ、覚えてますよ」
「なら、友達のお泊まり帰りだったのも?」
「まぁ……言ってた気が……え。草薙さんのとこだったんですか?」
「イエーちゅ……」
渾身のドヤ顔ポーズが、こんなにも憎たらしいと感じるのは呉橋会長だけ。
お調子者モードのまま、ペラペラとクレアさんとの出会いエピソードを語り始めた。
クレアさんがまだ駆け出しの街頭リポーターだった頃。
初インタビューが当時小学生だった呉橋さんで、一目でクレアさんを憧れの人だと認識したそうだ。
呉橋会長はクレアさんを画面越しに追い続け、中学の入学式、サプライズ挨拶をしに来たクレアさんと再会を果たした。
クレアさんも呉橋さんの事を覚えており連絡交換。
ちょくちょく会って交友を深め、現在の関係に至る。
「私の知らない色んな事を教えてくれた、師匠であって友達なんよ!」
「照れますね~星ちゃんは大事な友達で、お弟子さんです!」
「いや~嬉しいね~」
2人のテヘテヘ頭を掻くシンクロ姿を見て、今まで紐解けなかった呉橋会長の疑問が解決した。
モテるのにモテないクレアさんから、色んな事を教えて貰ったのが影響し、モテない呉橋会長が出来上がったんだと。
「てな訳で、今しがた買ったこちらの『アンバランスラブ・年の差なんて関係ない!』を参考に、有効活用出来そうなモテテクを、洋君を実験体にして試します」
「……え?」
「二度は言わないぜベイビー。さぁ! クレアちゃん! 読んでモテテクを見つけるんだ!」
「了解! にょわわわわ!」
勢いの割に1ページ1ページしっかり読み始めるクレアさん。
時間が掛かりそうだなと眺めてる一方、呉橋会長が僕の懐に大接近し、ギュッとハグをしてきた。
「な、何してるんですか」
「実験体の心音高鳴り確認係です……ほぉほぉ……私にハグされて心音が速まってますな~」
いくらモテない呉橋会長でも、美人なのは事実なんだ。
不意のハグの一つでもされれば、そうもなってしまう。




