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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
7章 日々の夏休み
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45話 もじもじ姉御肌美女、迫力満点壁ドン、双子のシンパシー、少し分かった気持ち

 ハンバーグ専門店『ジューシーズの』店内は、ウッド調の壁や床、各席に天吊り照明、足を踏み入れた人達に居心地良さを提供してくれてる。

 お肉の香りも外よりも香ばしく漂い、空腹音が惜しみなく鳴り続いてる。

 峰子さんも運動後だからか、お腹を小さく鳴らし、平静を装いながら軽く照れてた。


 2人用テーブル席へ案内して貰い、メニュー表を峰子さんと睨めっこ。

 お目当ては目星を付けていた、平日ランチタイム数量限定の和牛ハンバーグセット一択。


「峰子さんは決まりましたか?」

「あぁ。3種のチーズインハンバーグ・トリプルセット各500gだな」

「わぁ……お腹空いてたんですね」

「ん、んっ……あとオールバーセットも……」


 峰子さんは高校でも、3段重箱のお弁当を綺麗に平らげてるんだ。

 一対一での外食で総量1.5kgを食べるとなれば、流石の姉御肌の峰子さんも、もじもじしていた。

 そんな超ハイカロリーの行く先も、ダイナマイトボディーの隅々まで行き渡るのかと考えれば、むしろ足りないなと勝手に思っていた。


 注文を済ませオールバーを頼んだ峰子さんが、行ったり来たりと忙しなく、山盛りサラダを運んでようやく落ち着いた。


「すまんな洋。もう行っていいぞ」

「はい、行ってきます」


 峰子さんと入れ替わりで、ドリンクバーを注ぎに向かった。

 ドリンクバーに人がおらず、ラッキーと思いながらカルピソを注ごうとした時。

 立ち塞がる様に高身長の女性が現れ、ぶつかりそうになった。


「あ、すみま……」

「姉様と一対一でお食事とは、どういった了見ですか」

「ら、蘭華(らんか)さん……」


 身の竦む重圧を放ち、見下ろす恐ろしい眼力。

 峰子さんの双子の妹蘭華さんの心情がすぐに分かり、僕は自ずと覚悟を決めた。


 峰子さんと色違いのファッションが、まるで陰と陽を彷彿させ、足がガクブル小刻みに震えてる。

 ドリンクバーが僕らのテーブルから死角なのを知って、1人になるタイミングを見計らい、現れたに違いない。


 邪魔にならない場所まで追い詰められ、蘭華さんの迫力満点な壁ドンに情けない声が漏れた。


「にゃひ?!」

「散髪頭を撫で撫でされて嬉しかったですか? 姉様の神々しいお胸と接触して幸せでしたか?」

「お、落ち着い」

「姉様の芳醇な香りでトリップしましたか? 姉様のジム帰りの黄金肉体に見惚れましたか?」


 瞳の輝きが一切なく、一方的に言葉を吐き出し続ける蘭華さんが、過去一で危険だと本能で感じる。


 逃げ道も全て塞がれ、蘭華さんの言葉を聞き終わるまで解放されないと、小動物に成り果てかけてる時。

 グイっと蘭華さんを優しく離し、僕の手が掴まれ引き寄せられた。


「蘭華。洋に何をしてる」

「ね、姉様……わ、わたくしは何も……」

「私が嘘を嫌いなのを知っててもか」

「あぐぅ……」


 崇拝する峰子さんの前では、蘭華さんは何も言えなくなってしまう。

 蘭華さんに対して、本当に峰子さんの力は偉大だ。

 助け出してくれた峰子さんが、僕をギュッと小脇に抱え、守ってくれてるも右顔面が豊満な胸に飲まれ、温もりと柔さ感じ、何とも幸福感に満ち溢れてる。

 

 ただ峰子さんの空気がピリついて、いつもの優しい頼れる峰子さんと違ってた。


「いいか蘭華。大事な友人に迷惑を掛けるんじゃない」

「はい……すみませんでした……もうしません……」

「……分かってくれたならいい」


 蘭華さんの反省に元に戻った峰子さんは、頭をぽんぽん撫でて許していた。

 一言二言で反省させる峰子さんは、やっと僕を小脇に抱えてるのに気付いた。

 スッと解放してくれ、照れ臭そうに頬を掻く峰子さんは、何か気にしてる感じだった。


「す、すまん洋……暑苦しくなかったか?」

「だ、大丈夫です」

「そ、そうか……ど、ドリンクがまだみたいだな。一緒に注ごうか」

「あ、ちょっと待って下さい」

「?」


 峰子さんに待って貰い、いつの間にか姿を消した蘭華さんを、キョロキョロ見渡して探した。

 限りなく存在感を消し去り、項垂れて歩く蘭華さんを見つけ、追いかけて手を掴んだ。


「ら、蘭華さん。良かったら、僕らと一緒に食べませんか?」

「……ふぇ?」

「いつも遠目から峰子さんを見守ってるのは知ってます。でも、今日は一緒に食べましょう!」

「積木様……」


 姉愛が故、どんな場所でも見守っているのが、僕の知っている蘭華さんだ。

 何をされるか分かったもんじゃないから正直怖いイメージは拭えない。

 それでも目の前の蘭華さんを放って置けない。


「で、でも今は姉様に向ける顔が」

「大丈夫です。峰子さんを一番知る蘭華さんなら、分かる筈ですよね」

「……そうですね。今日は同席させて頂きます」


 僕らのテーブルに着いて早々、峰子さんが一瞬だけ驚いた顔を見せた。

 蘭華さんの表情を見て嬉しい顔になり、快く同席を受け入れてくれた。


 店員さんに席移動したのを説明後、向かいに座る蘭華さんがもじもじとくすぐったい空気で、話そうにも話せない感じだった。

 いつもと見守ってる状況と異なり、戸惑いながらも嬉しい、そんな感情なんだなと思い、勝手ながら僕の方から話し掛けた。


「蘭華さんは何を頼んだんですか?」

「ふ、ふぇ? わ、わたくしですか? えっと、3種のチーズインハンバーグ・トリプルセット各500gですけど……」

「あ、峰子さんとまったく同じですよ」

「だな。ふふ……やっぱり蘭華とは通じ合うんだな」

「ね、姉様……!」


 性格や個性が違っても双子のシンパシーだけは揺るがない。

 そう実感した蘭華さんは自然と会話を続け、ハンバーグが届いてからも楽しい時間は続いた。


 ♢♢♢♢


 食後、お会計は蘭華さんが払うと、頑なに圧を掛けられ、ありがたくお任せした。

 外に出て感謝の頭下げをするも、すぐに止められ、ズズズと峰子さんに聞こえない距離間まで離され、耳打ちをしてきた。


「貴方には感謝してるのですから、このぐらいはさせて下さい」

「は、はい」

「それと……積木様に対する姉様の気持ちが、少しだけ分かった気がします」

「そうなんですか?」

「えぇ。今後とも姉様をよろしくお願いしますね」


 蘭華さんと出会って数ヶ月。

 初めて自然の優しい笑みを向けられ、不覚にもドキッと胸が高鳴った。

 峰子さんと双子なんだから、笑みが絵になるのは必然なんだと、今更ながら教えさせられた。


 耳打ちが終わったのか、見惚れる表情のままスッと離れ、峰子さんの隣に戻った。


「もういいのか?」

「はい♪」

「そうか。じゃあ、洋。また今度、ゆっくりと時間をとれたらいいな」

「ですね。じゃ、また」


 軽く手を振り合い、峰子さん達と別れ駅方面に向かってると、ふと今日が漫画の最新刊が発売する日だと思い出した。

 大きい本屋さんに寄って、漫画を買ってから帰ろう。

 幸せな満腹状態と、峰子さん達のお昼、楽しみな漫画に、足取りはかなり陽気だった。

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