44話 引き止めたい口実、わざと当ててる胸押し当て、モテるモテない討論、撫で撫でと胸沈め
結局千佳さんはケーキの誘惑に負け、涙を流しながら美味しそうにモグモグ食べていた。
白石兄妹と楽しい時間を過ごしてる内に、開店時間が目前だった。
ずっと居座るのも悪いし、お暇するには丁度良いタイミングだ。
「じゃあ、そろそろ帰りますね」
「もう?」
「おい馬鹿妹。積木クンを引き止めんなって」
キュッとTシャツを摘まみ、寂しい顔で見上げてくる千佳さん。
「で、でも……もうちょっとだけ……はっ!」
何か良案を閃いたのか、僕の髪を優しく触れ、真人さんにアピールし始めた。
「か、髪! 絶対伸びてるよね!」
「ま、まぁそうですね……切りたいんですけど、行ってるところが休業中なんですよね」
「だったら俺がやろっか?」
「あ、いいんですか?」
「俺みたいな在学生がやるなら、めっちゃ割安になんだよね。今回は特別にタダでいいからさ? どう?」
願ってもない散髪も、千佳さんのイメチェンをした真人さんの腕前なら、安心して信用できる。
「ま、待ってお兄! わ、私がやりた」
「アホ、バイトに切らせる訳ねぇよ。シャンプーだけだ」
「うぅ……分かった……」
「たく……で、どうだい?」
やる気満々な真人さんと、シャンプーするまで離れそうにない千佳さん。
頷く以外の選択は残されてないと悟り、よろしくお願いしますと2人に告げた。
真人さんが軽く準備する間、千佳さんがウキウキ気分で洗髪場所に案内してくれた。
リクライニング性の高い椅子に座り、カットクロスをテキパキ付け、ニコニコ笑顔で僕の顔を覗いてくる千佳さんにドキッとした。
「じゃあ、椅子倒すね」
「は、はい」
ジーっと眺められながらスムーズに倒され、フワッと薄手の布が顔に掛けられ、シャワーの音が耳に入る。
適温で程良い水圧で髪を濡らし、頭皮マッサージに近い加揉み洗いは格別だった。
適度に洗い終わり、良い匂いのシャンプーで気持ち良く洗ってくれる千佳さんが、ふと問い掛けてきた。
「ねぇ知ってる? シャンプー中にどうして痒いところありますか?って聞かれるのか」
「んー……そのままの意味っぽいですけど……違うんですか?」
「うん。頭皮に合う合わないを確認する為なんだって」
「あーなるほどー……人によって違いますもんね」
「ね。少数だけど、本当に掻いて貰う人もいるけどね」
「確かに意味を知らなかったら、素直に聞き入れちゃいますよね」
「ふふ。だよね」
声色の艶感がどんどん増している千佳さんに、つられて笑みを零すと、左顔面にむにゃりと大きな柔い感触が押し当てられ、笑みが固まった。
シャンプーに集中するあまり、無自覚でやってしまってるのなら、やんわりと教えておかないと。
「ち、千佳ふぁん……あ、当たってまふ……」
「……わざと当ててるんだよ」
「ふぁ?! むぅ?!」
豊満胸押し当ての面積が広まり、ふがふがな息継ぎが10分続いた。
息絶え絶えなシャンプーが終わり、薄手の布を取ってくれた千佳さんは、明らかに艶々で生命力に満ち溢れていた。
髪を乾かしながら耳をフニフニ触ってくる千佳さんは、陽気にハミングを奏でて上機嫌。
乾かし終えた直後に、耳元で囁くように息を吹きかけられた。
「ひょわ!?」
「ふふふ……じゃ、お兄とバトンタッチね」
「あ、はい……ありがとうございました」
好き放題された数十分は、ギャル積極行動力に感服するには充分だった。
思考をクールダウンさせてる内に、真人さんが肩にポンと手を置いてきた。
「さて! 普段どんぐらい切ってるか、参考までに聞かせてくれる?」
「とりあえず耳が出て、前髪は」
「お兄。これ、短かった頃の洋くん」
「んぉ?」
スマホで僕の何を見せてるのか、チラッと見た。
出会いたて当初に千佳さんと真理さんに挟まれながら撮られたスリーショットだった。
「なるほー積木クンもこのぐらいでいいかな?」
「あ、はい。このぐらいでお願いします」
「うっし! 任せて頂戴! てか、4月に撮ったって事は、結構前から知り合いだったのかよ」
「そうだよ。ふふーん」
渾身の胸揺らしドヤポーズに、真人さんは絶妙に呆れた顔だ。
「ドヤられる意味が分からん」
「……お兄はこれだからモテないんだよ」
「は、はぁー? も、モテるし!」
「モテてない。客観視してる妹の言う事は正しいんだよ」
ズバズバ切り捨てる千佳さんを見て、なんだか羨ましいく思えた。
「だ、だったらお前もモテな……い訳じゃないんだよな! なんでだよ!」
「あ、あの……そ、そろそろ切ってくれませんか?」
「すまん積木クン! 今やる! 大体お前は……」
白石兄妹のモテるモテない討論が繰り広げられ、同時並行で可憐に散髪して貰った。
♢♢♢♢
「今日はあんがと積木クン!」
「またね洋くん」
「はい、またです。ありがとうございました」
姿が見えなくなるまで見送りしてくれた千佳さんと真人さん。
時刻を確認するとお昼ご飯間近だった。
お腹も軽く鳴って、目星のハンバーグ店も混む前に、急いで向かった。
電車移動で数十分、ハンバーグ店を目指しスマホマップを頼りに、道なりを早歩き。
5分もすると店外で数人並ぶ列が見え、列の最後尾に並んだ。
お肉の焼けてる香りが外まで香り、食欲が刺激されまくっていると、背後からポンと肩を叩かれた。
「奇遇だな、洋」
「へ? あ、峰子さん!」
「髪切ったんだな。似合ってるぞ」
「えへへ……ありがとうございます!」
へそ出しタンクトップにショートデニムパンツ姿が、ダイナマイトボディーを一段と引き立て、思わず見惚れる。
「洋が良ければなんだが……髪に触れてもいいか?」
「いいですよ? どうぞ」
喜びながら優しく触れ、最終的に懐に抱き寄せられて撫で撫でされてる。
「ふふふ。いつまでも撫でていたいな」
「さ、流石に恥ずかしいんで、今の内撫でて下さい」
「あぁ、そうする」
首元周辺がボリューミーな柔らい感触に包まれる中、ふとした疑問が過った。
仲も深まった関係なのに、峰子さんが学校外で何をしてるかほとんど知らないと。
ファミレスでのバイトを偶然知っただけで、どこに住んでるかも全然知らない。
「もうそろそろ中に入れるな」
「え? あ、ですね」
折角の機会だ。
今の内聞いてみてもいいのかもしれない。
「あの、峰子さんってここら辺に住んでるんですか?」
「いや。体を動かしたくてな、ジムを体験しに来た帰りなんだ」
露出してる部位がキュッと締まり、肉体美に磨きが掛かってた。
「その……汗臭くないといいんだが……」
「大丈夫ですよ。いつもと変わらず、とてもいい匂いがします」
「ほっ。なら良かった」
安心し切ったのか更に引き寄せられ、店内に入るまで撫で撫でが続いた。




