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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
7章 日々の夏休み
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43話 気晴らし町ブラ、既に知り合いの美形兄妹、暴露される妹、ほっそり綺麗

 きっかけは海の家バイトから帰って来た夜、リビングで一緒だった空の一言だった。


「お兄ちゃん髪伸びたね」


 最後に切ったのが一か月半も前だ。

 髪が鬱陶しくなるのも無理はないんだ。

 いつも放課後か休日にしか行けなかったけど、夏休みに入った今なら時間を気にせず、気軽に行ける。


「よし、明日にでも行って来ようかな?」

「洋。吉田のおじさん、ぎっくり腰でしばらくお休みするみたいよ」

「あ、確かに回覧板に書いてあったかも!」

「そうなの? んー……でも、明日行きたい気分になってるし……いつ再開するか分かんないんだもんね……」


 他所に行く勇気は毛頭なく、吉田のおじさんが復帰するまで待った方がいいのかもしれない。


 ♢♢♢♢


 翌日、散髪できない気分晴らしに、町ブラをしに外出中だ。

 海の家のバイト代も色付けて貰い、前々から目星付けてた穴場の洋菓子店『フェネック』を目指し、最寄り駅まで足を進めた。


 電車移動で20分弱、駅からぶらぶら道すがらを探索しながら人通りの多い道を外れ、閑静な住宅街の更に奥まった場所を歩き30分弱。

 アンティーク調の老舗感が漂う洋菓子店『フェネック』が見えた。

 落ち着いた雰囲気の穴場にしては、他のお店もそれなりにあり、向かいも綺麗な美容室だった。

 そんな美容室から男性が掃除道具を持ちながら出てきた。


「ふぅー……今日は一段と暑いなー……ん? ん? んー?! あ! 積木クン!」

「え? あ、真人さん?」


 わちゃこちゃ掃除道具をほっぽり、歓迎ムードで僕に急接近し、ブンブン握手。

 美容学校に通ってるとは聞いてたけど、美容師さん志望の実習かなにかで、ここにいるのかもしれない。


「さぁさぁ! 立ち話もなんだからさ! 中に入って入って!」


背中に手を添え、店内にズイズイ進む真人さんに、そのまま付いて行った。


 天窓が幾つもあり、観葉植物と自然系の香りに包まれた雰囲気に、すぐリラックス状態になれた。


 お洒落なウッドテーブルに案内して貰い、ちょっと待っててと一言残し、店を出て向かいのフェネックへとルンルン気分で行ってしまった。


 数分後、すっかり自宅のリビングにいる気分でいたら、店奥から女性が姿を見せた。


「お兄ータオル補充終わっ……あれ? いないじゃ……?! い、1年生君?! な、なんでここに?!」

「え? あ、千佳さん?」


 完全私服姿の千佳さんが現れ、2人して軽く困惑気味になった。

 何とも言えない空気感の中、真人さんが大量のお菓子入りの袋を持って、陽気に戻って来た。


「お待たせ積木クン! お向かいさんでお菓子沢山買ってきたから、ちょっとお茶しよっか!」

「お、お兄……い、1年生く……洋くんと知り合いだったの?」

「ん? 前にオフ会行った時にな! あ、お茶も用意しないと!」


 お菓子の袋をテーブルに置き、店奥にバタバタ消えた真人さん。


 以前、千佳さんがイメチェンする際、実兄にやって貰ったとは聞いてた。

 まさか真人さんがお兄さんだったとは思わなかった。

 僕の隣に座る千佳さんは、とても深い溜息を吐き、軽く頭を抱えてた。


 夏休み始まってからは、連絡し合う以外で直接会うのは、数週間振りだ。

 いつもなら千佳さんの方から話し掛けてくれるけど、今は僕から話し掛けた方が良さそうだ。


「千佳さん。会うの久し振りですね」

「……え? あ、そうだね。んっん!」


 咳払いで平常運転に無理矢理戻った千佳さん。

 お互い真人さんとの関係性を話そうと提案したら、スンと微妙な顔をしながら納得してくれた。


 千佳さんと真人さんは実兄妹で、千佳さんは夏休みの間だけ真人さんの実習先で、バイトさせて貰ってるらしい。

 僕もゲームのオフ会で知り合ったと軽く伝えると、かなり圧の掛かった詰め寄られをされた。


「お、お兄の口から、私の事は!?」

「ち、千佳さんの事は何もですよ?」

「……ほっ。なら良かった」


 圧がスッと消え、安堵の表情を浮かべる千佳さん。

 身内の真人さんだけが知る、千佳さんのあれやこれやを口走ってないかの確認だったんだ。


 本人が知らないところで、色々バラされたらたまったもんじゃない。

 気持ちは大いに同情できる。


 千佳さんが落ち着き、夏休み中の話を聞こうとしたら、真人さんがティーセットを持って戻ってきた。


「お待たせ―! 紅茶で良かったかな? あ、千佳はダイエット茶で良かったよな?」

「お、お兄! そ、そんなの飲んでないから!」

「え? 最近腹周りが気になるからって、がぶがぶ飲んでんじゃん」

「わぁわぁわぁわぁ!?」


 一気に真っ赤になる顔で、高速で両手をバタバタ振り、これ以上真人さんが余計なことを言わない様に阻止するも、真人さんは小首を傾げながら言葉を続けた。


「大体よ、腹が鳴り易いからって、間食をパクパク食ってちゃ、ダイエット茶も意味ないだろ?」

「お、お兄! 今すぐ口閉じて!」


「ホントのことだろ? 夜中にこっそり夜食作って食べてるのだって、お兄ちゃん知ってんだかんな」

「も、もう本気で殴るよ!」


「いや、お前運動神経へっぽこだし、無理だろ」


 完膚なきまでの口撃に、今にも泣きそうな千佳さんが、必死に口を塞ごうとするも、結局数分間止まらなかった。


 ♢♢♢♢


「まだ開店前だし、ゆっくりしてって!」

「ありがとうございます」

「じゃ、俺は雑用終わらせてくるから!」


 足早に外に出た真人さんは、午前中だけお店を任せて貰ってるそうだ。

 ここの美容室も美容学校の卒業生が経営し、在学生の実習場として面倒を色々見てくれてるそうだ。


 オフ会で会った時のビクビク姿が嘘みたいに、今の真人さんはしっかり者で、確かにお店を任せても大丈夫そうな感じだ。


 一方、千佳さんはぐったり疲弊し、いつものクールビューティー姿が薄らんでた。

 声を掛けていいやら分からず、フェネックのお菓子を頂きながら、自然に治るまで待つ事にした。


 袋から中身を一つ一つ、テーブルの上に出してると、元々目当てだったスイーツが入ってた。


「あ、ズコットケーキ」

「!」


 パッと反応した千佳さんから、可愛らしい高めのお腹の音が鳴った。

 速攻でお腹にセルフグーパンを食らわせ、強制的に黙らせても、より大きなお腹の音が鳴った。


 体質上、仕方がないと思う反面、ダイエットも重なり、食に人一倍敏感になってるのかもしれない。

 そもそも我慢こそ体に毒なんだ。

 痩せる必要が無いって言えば、食べる動機にはなる筈だ。


「あの……千佳さんは充分細いですし、無理に痩せなくてもいいと思うんですけど……?」

「……こんなお腹ぷにぷにでも?」


 バッと服を捲って、ほっそりくびれてるお腹を見せ、柔らかそうな横っ腹をむにむに摘まみ、悲愴に暮れてる。

 想像通り全然痩せなくていいし、むしろ女性が憧れる理想のプロポーションだ。

 ただ本人にとって死活問題は変わらないようだ。


 それでも僕から言えるのは、やっぱり痩せなくても充分魅力的だってのを、自覚して貰う事だ。


「全然ほっそりですし、綺麗ですよ?」

「むぅ……じゃあ、触って確かめて」

「あ」


 ガッツリ掴まれた手を、強制的に細いお腹へ誘い、むにぷに揉ませる動作をさせられた。

 女の子特有の柔らかく温かい感触は、見た目と寸分の狂いもないと確認出来た。


 ずっと触ってられる気持ち良い感触に、手が一向に離れずにいると、真人さんが戻って来た。


「ふぅー外の掃除終わったー……何してんの?」

「太ってるのを確認して貰ったの」

「へぇーでもお前、腹周り気になってる割に、太ってないだろ?」

「女の子にとっては重要問題なの! お兄はデリカシーなさ過ぎ!」

「えー女子って分からんわー。とりまケーキ食べよっと」


 ケーキを食べるタイミングがズレてる真人さんに、千佳さんはプンスカと可愛らしく怒ってた。

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