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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
6章 海の家バイト
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42話 セルフご褒美、迫る模擬就寝、柔らかモーニングコール、君が一番

 午後5時、怒涛の営業が終わり、全員が疲労困憊の色を見せ、ぐったり座り込んでる。

 

「み、皆さんお疲れ様です……後片付けは私と父とでやるので、先に戻って下」

「水臭いこと言うな麗央。私達も最後までやる」

「杏世さん……ありがとうございます」


 戸羽女さんのウルウル瞳の上目遣いは、女の子にしか見えなかった。

 全員で体に鞭打ち片付けてると、入り口に明日久さんがやって来た。


「愛実後輩ー集計完了したぞー」

「む。分かりました」


 両者の集計売り上げを、楽さんと黒龍亭の責任者さんに確認して貰い、運命の結果発表が告げられた。


「……ごくごく僅差ですが、黒木場さんの勝利ですね」

「な?!」

「イエィーピスピスー皆ありがとねー」


 黒龍亭の皆さんと勝利を喜び合う明日久さんに、ガックリ膝から崩れ落ちる愛実さん。

 全体売り上げこそ僕らが上回ってたものの、個人勝負には負けてしまった。


「てな訳でーあーしの勝ちだ、愛実後輩ー」

「くっ……正直滅茶苦茶悔しいですけど、楽しかったです」

「なら良かったーほら、手貸すから立ちなー」


 手を貸して立ち上がらせ、そのまま引き寄せてギュッとハグ。

 見慣れてるハグ姿も、水着同士だとドキドキだ。


「実はさーあーし、勝ったらセルフご褒美を考えててさー」


 チラッと僕を見る明日久さんの顔が、どんどん悪い顔になってる。


「君に水着のお着替え、手伝って貰おうかー」

「え!?」

「だ、ダメに決まってるじゃないですか?! もうご褒美の領域超えてますから! アウトアウトアウト!」

「愛実の言う通り、聞き捨てならんぞ明日久」


 勇ましく止めてくれた宵絵さんが、本気でイケメンに見え、思わずキュンとした。

 公平な立場の宵絵さんなら、適切なジャッジを下してくれる筈。


「私も洋君の手で直々に、水着のお着替えをして貰いたい!」

「なら、一緒にお着替えしょうかー」

「え!?」

「ぜ、絶対ダメに決まってるでしょうがぁあああああ!」


 愛実さんの渾身の叫びで、お着替え手伝いはせずに済み、片付けを再開した。


 ♢♢♢♢


 宵絵さんと明日久さんとは現地解散かと思えば、僕らと同じ民宿で宿泊するそうで、帰り道が一緒だ。


 ただ愛実さんが警戒心剥き出しで、2人を僕に近付けさせまいと、腕をギュッと組まれてる。


「おーよしよしーお姉さん達は怖くないよー」

「シャー!」

「手を下からやるといいらしいぞ。ほれほれ、何もしないぞー」

「ふにゃー!」


 何をしても猫パンチでビシバシ撃退し、民宿に着くまで守り抜いてくれた。


 美味しい夕食を賑やかに囲み、塗田さん達とお風呂で背中を流しあい、あとは布団に入って爆睡を決め込むだけ。

 のに、僕の部屋前に、薄い寝巻き姿の宵絵さんと明日久さんが立ち塞がってた。


「さぁ洋君。真剣交際後を措定した、模擬就寝をするぞ!」

「も、模擬就寝ですか? でも、どうして明日久さんまで?」

「あーしー誰かと一緒じゃないと寝れないからさー君と同室にして貰ったー」

「同室で添い寝をするだけだ。問題ないだろ?」

「いやいやいやいや!? 問題ありありでまぁぷ!?」


 突然突っ込んできた明日久さんの拘束胸埋めは、動揺もあって回避出来なかった。

 身動きを封じられた隙に、宵絵さんが接近し、ズボンのポケットから部屋鍵を奪われ、部屋を開けられた。


 あと数秒で密室に囚われてしまう。

 覚悟を決めた時、階段を上ってくる足音と、愛実さんの小さな鼻歌が近付いてた。


「ふんふふんー♪ 積っちと寝る前に、ちょっと話し……にゃ、にゃにしてるんですかぁああああ!?」

「明日久、早く洋君を」

「りょー!」

「す、好きにさせる訳ないでしょうがぁああああ! ふにゃああああ!」


 慌ただしい3人の声と、3種のむにゅぷに感触騒動で訳が分からなくなるも、不意に部屋へと連れ込まれ、扉の閉音で周囲が静かになった。


「ふぅふぅふぅ……もう大丈夫だからな!」

「め、愛実さん……ほ、本当に助かりました!」

「当たり前の事をしたまでだっての!」


 照れ照れ可愛らしい姿の愛実さんに、ぺこぺこ感謝の頭下げてると、妃叉さんのお叱り声が聞こえてきた。


 弁解する宵絵さん達が問答無用で、1階へ引き摺り下ろされる音が遠退いた。


「もう大丈夫そうだな」

「うん。愛実さんが来なかったら、今頃どうなってたか……」

「だな……でもまぁ、これからも頼ってくれていいからな?」

「うーん……男としては頼られたいけど、今回ばかりは愛実さん様々だったからね」

「まぁな! だって積っちは私の……」


 最後まで言葉を続けず、急に肌の赤らみが増す愛実さんは、ススス扉の方へと後退してた。


「ね、眠たくなったから寝る! おやすみ!」


 扉を勢いよく閉じ、ポツンと部屋に取り残された。

 愛実さんの言葉の続きは一体何だったのか。

 もやもやが残ったまま布団に入るも、しばらく眠れなかった。


 ♢♢♢♢


 翌朝午前6時、アラーム音で目が覚め、スマホを眠気眼で手探りしてると、むにゅりと柔らかな感触を掴んでた。

 室内にあるはずの無い、謎の柔らかな感触。

 何だろうと考えてる内に、感触の先に恐る恐る視線を向けると、正座で若干頬を染め見下ろす明日久さんがいた。


「き、君の朝のご挨拶は、とても大胆だねー」

「あ、明日久さん……どうやって中に……」

「起こしてくるって言ったら、鍵貸して貰えたー」


 指先でクルクル予備の鍵を見せ、ニヨニヨ楽しそうに見下ろして来てる。

 朝っぱらから油断も隙もあったもんじゃない。

 弄ばれる前に体を起こそうと、左手を動かしたら、さっきよりも大きく柔らかな感触を鷲掴み。

 むにゅりと沈む感触に、どんどん青ざめる顔を手元へと向けた。

 零れ落ちそうな胸元を見せ、頬を染め添い寝する宵絵さんがいた。


「んっ……丁度良い加減だ、洋君……」

「ご、ごめんなさい!?」


 模擬就寝ならぬ、模擬添い寝をされ、心臓がドキドキするのを他所に、明日久さんと宵絵さんが、じりじりと両脇を詰めるように接近。


「こんまま川の字になって二度寝するかー?」

「今度は腕枕をして貰おうか。ふふ」

「ま、待って下さ」

「積っちー? 朝だぞー!」


 扉の前で愛実さんのモーニングコール。

 今の状況を見られたら絶対にマズい。


「あれ? 開いてんじ……な?!」

「おはー愛実。一足遅かったなー」

「明日久、退散だ」

「りょー!」

「あ! ちょ!? な、何してたんですかぁあああああああ!」


 愛実さんの横を可憐に抜け、逃走する2人を追い掛けるドタバタ劇。

 ポツンと残された僕は、両手に刻まれた2人の柔らかな感触の名残を覚えながら、私服に着替えた。


 3日目は昨日の人波状態が朝から続き、帰り道もフラフラ足取りで、夕飯もお風呂も記憶が曖昧なまま、布団に入った瞬間泥のように眠った。


 ♢♢♢♢


 翌朝、玄関で戸羽女さん一家と杏世さん達が、営業前に僕らを見送ってくれてた。


「積木さん、瓦子さん、3日間お疲れ様でした。少ないですがバイト代を受け取って下さい」

「「ありがとうございます!」」


 大事に茶封筒を受け取り、3日分の労働対価に心が浮足立ち、皆さんと名残惜しみつつお別れし、戸羽女さんが車で最寄り駅まで送ってくれた。


 電車に乗り込んで早々、人がほぼほぼいないのを良い事に、愛実さんとだらしなく座り込んだ。


「あーあ。結局日焼け肌ペアルックになれんかったな」

「屋内にいる方が多かったからね」


「だなーてか、明日久先輩も宵絵先輩も人気ヤバすぎだったよな? そもそもの体の作りが全然違うし、当たり前か!」

「確かにそうかもだけど、僕の一番は愛実さんだったよ」


「そっかー一番だったかー……え?」

「え? な、なに?」


「ふ、2人のどっちかじゃなくて? わ、私が?」

「う、うん」


「~っ!」


 プイっと顔を背けられ、すぐ謝ろうとしたものの、窓に反射する凄くにやけてるのが見え、ホッとした。


 それから振り返る愛実さんは、物凄く上機嫌で3日間の思い出話に花咲かせ、2時間の帰り道を楽しく過ごした。

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