41話 愛が止まらない銀髪ビキニ美女、放って置けない性格、最強助っ人の緊急採用
ご褒美を糧にした愛実さんは、5人分の動きで接客し、一気に明日久さんとの差を離した。
持ち前のリア充コミュニケーションでお客さんとすぐ打ち解け、気分良く注文をじゃんじゃかしてくれる、まさにフィーバータイム。
ただ予定通り、僕と接客交代の時間になり、従業員Tシャツとエプロンに速攻で着替え、厨房に立った愛実さん。
「焼きそば一丁! ゴーヤチャンプル一丁! ナシゴレン一丁! 全部完了!」
「りょ、了解です!」
やる気フルMAXな愛実さんの料理を、持って行ったり片付けたりと、接客は接客でバタバタ大忙し。
明日久さんの現状は把握出来ずとも、感覚的には勝ってる気がする。
時間が進むにつれ、余裕を持ってた食材が午前中に無くなると判断され、戸羽女さん達が大慌てで買い出しに向かい、人手が一気に減少。
猫の手も借りたい超多忙極まる中、順番待ちのお客さんを店内に案内する僕は、今日一で驚く場面に遭遇した。
「いらっしゃいま」
「来たぞ洋君」
「よ、宵絵さん!?」
銀髪ポニテの美しき白ビキニ姿は紛れもなく、宵絵さんだ。
野暮用はここに来る事だったんだ。
カウンター席に案内しつつ、来た理由を聞いてみた。
「君のバイトする姿を想像したら、愛が止まらなくてな。こうして会いに来た」
「あ、う、ありがとうございます」
もじっと頬を赤らめて照れる、新鮮なお姿も美しい。
水を弾きそうな白い卵肌、スラっと長い手足、引き締まりながら出るところは出てる恵体。
目を奪われる美貌は、お客さんが何度も視線を向ける程だ。
普通ならお近付きすら叶わない、遥か高みの人なのに、僕に会う為だけに来てくれたんだ。
純粋な好意は本物だろうし、宵絵さんに対する答えを伝えた今も、未だ魅力的な異性だって思ってる。
このまま詰み体質で魅力的な異性と出会って、本当に愛実さんが好きなのか曖昧になるのが怖くて、どうすればいいのか時々分からなくなるんだ。
「……洋君は顔に出やすいな」
「へ?」
「君は確か、意中の人がいるんだったな」
「は、はい」
「私はその子に負けない為、私なりに洋君を振り向かせると、そんな風なことを言った。だが、それはあくまで私の問題であり、君の問題ではない」
「で、でも根本的は僕の問」
「違う。君は優し過ぎるが故、他人の問題を一緒くたにしてると私は考えてる」
「じゃあ……問題を区別さえすれば大丈夫なんですか?」
「あぁ。君は今まで、他人の問題を自分の事のかのように悩んでしまってたんだろう。1度や2度ではなく何度も」
完全な図星に、僕は言葉が出なかった。
詰み体質問題に巻き込まれたんじゃなくて、僕が放って置けなくて他人の問題に踏み込んでるんだ。
断る事だって本当は出来るのに、真っ先に考えるのは放って置けない事なんだ。
宵絵さんの真っ直ぐな言葉のお陰で、詰み体質の捉え方が少し変わり、感謝の一つや二つじゃ足りないけど、言葉として伝えてくなった。
「宵絵さんの言う通り、他人の問題に何度も何度も悩んだりしてます。でも、僕がお人好しの放って置けない主義だからなんです。だから、これからも放って置けないです!」
「ふふ。シンプルで分かり易いな、君って奴は」
「はい。宵絵さんがお陰で、難しく考えすぎてるって気付けました。ありがとうございます」
「いや、いいんだ。……ただ、そんなところも含めて私は洋君を好きになったんだ」
「言うタイミングがスムーズ過ぎません?」
「だな。まぁ、顔から火が出そうな恥ずかしさは込み上げてはいるがな」
柔らかな表情がほんのり赤らんで、血色がより良くなった程度にしか見えない。
それでも宵絵さんにとっては、恥ずかしさレベルは高いみたいだ。
「長々と話してすまないが、そろそろ注文させて貰っていいか?」
「あ、はい!」
フルーツ盛り合わせ氷フロートの注文を聞き、厨房にオーダーを伝え終えると、買い出しに行ってた戸羽女さん達が帰って来た。
大型冷蔵庫に食材を補充し、下拵えも同時並行で迅速にこなす中、買い出し組の様子がどことなく変だった。
「どうしたお前達」
「そ、それが、すげぇ人波がここ目指して行進してきてるんです!」
「昼時にはオレらが死にますぜ! お嬢!」
「死にはせんだろ」
塗田さん達の言う通り、大繁盛中の店内がこれ以上となれば、人手が絶対不足する。
今更本日限りのバイト急募したところで、接客か厨房を任せられる人材確保は困難。
手足を動かし良案がないか、それぞれ頭の中に巡らせてると、視線を送る宵絵さんが僕を手招いてた。
フロートを持って行き、耳を傾けた。
「人手が足りないと聞こえたもんでな、私で良ければ一肌脱ごうと思ったんだ」
「え? で、でも覚える事が沢山あ」
「フロートが来るまでの10分で、全体の動きは覚えた」
カウンター席から厨房の様子は見え、くるっと見渡せば接客の主な仕事内容は把握できる。
フロートの待ち時間10分で覚えただなんて、やはり常人の域を超えてる。
時間も惜しい中、藁にもすがる気持ちで戸羽女さん達に話を通し、5分後。
従業員Tシャツを着た宵絵さんが緊急採用され、超時短自己紹介タイムに。
「き、緊急助っ人の水無月宵絵さんです」
「水無月宵絵です。尽力致しますのでお願いします」
「よろしくお願いします。皆様、恐らく今より忙しくなりますが、生きて乗り切りましょう」
戸羽女さんの一致団結声に、より張り切って仕事を再開。
愛実さんと厨房を交代し、忙しない調理と向き合いながら、接客の宵絵さんの様子を確認。
涼し気で凛々しいイケメン接客に、お客さんは男女問わず見惚れ、スムーズに注文を聞き取り終えてる。
片付けの必要なテーブルも、目にも止まらぬ速さで片付け、次のお客さんを案内。
非の打ちどころのない接客スタイルに呆気に取られながら、愛実さんの勝負に響くんじゃないかと内心焦った。
けど、愛実さんも手一杯なようで、接客は宵絵さんに任せた方がいいのかもしれない。
そうこう眺めている内に、塗田さん達が言っていた沢山のお客さんが、ぞろぞろと外に集まり始めてた。
お客さんの会話に聞く耳立てると、日焼け美少女のビキニ接客が最高だと、SNSで軽く拡散してるようだ。
黒龍亭の方も、明日久さんの接客が素晴らしいと、客足がどんどん増えてるそうだ。
なんだか愛実さんの素晴らしさが多くの人に知られて嬉しい半面、やっぱりあまり知られたくないなと、一体何様な気持ちでバイトをせっせとこなすのだった。




