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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
6章 海の家バイト
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40話 好きな人と朝一、小悪魔系翻弄女子と日焼け美少女、ご褒美と緩み切った笑み

 2日目の朝、午前6時に設定したアラームよりも、早く目が覚めた。

 慣れない環境で嘘みたいに熟睡できて、コンディションは抜群だ。

 洗顔と歯磨き一式を抱え、一階の洗面所へ向かおうと部屋を出たら、ガッと扉に何かが当たった。


「えで?!」

「え? あ! め、愛実さん?!」

「は、はよ……いてて……」


 おでこを軽くぶつけてしまった愛実さんに、ペコペコ謝り、改めて愛実さんの姿を見ると、スポーツウェア姿でほんのり汗を掻いていた。

 どうやら海沿いの道を10km程ゆったり走り込み、今しがた帰って来たところらしい。


 寝起き早々に好きな人の顔を見られ、テンションが上がっるのに対し、愛実さんが自分の匂いをスンスン嗅ぎ、じわじわと後退してた。


「ちょ、ちょっくら着替えてくるわ!」

「う、うん」


 目にも止まらぬ速さで部屋に戻り、ドタバタシューシューと騒がしい物音が外まで聞こえた。

 全く汗臭くはなく、むしろいつもより良い匂いがしてたとは、絶対本人の前で言えない。

 

 洗顔歯磨き、着替えも完了し、朝食の午前7時まで部屋でのんびり待ってると、通話通知のバイブ音が鳴った。

 相手は宵絵さんで、モーニングコールの時間だった。


《おはよう洋君》

「おはようございます宵絵さん。毎朝モーニングコールありがとうございます」

《好きでやってるんだ。今日は寝起きテンションでないようだが、早めに起きたのか?》


 海の家でバイトすると伝えてなかったから、軽く嚙み砕いて説明した。


《ふぬふむ……海………今なら余裕だな……》

「宵絵さん?」

《洋君、すまないが野暮用を思い出した。これで失礼するよ》

「あ、はい」


 短めのモーニングコールに軽く小首を傾げてると、一階から妃叉さんの朝ご飯コールが響き渡り、愛実さんと1階に向かった。


 広間には杏世さん達が昨日と同じ場所に座り、僕らも隣に座った。


「おはようございます」

「ございます!」

「あぁ、おはよう。昨日は眠れたか」

「バッチリです」

「めっちゃ眠れました!」

「頼もしい限りだな! バイト初日! 頑張ろうぜ!」

「オレ達をバンバン頼ってくれな!」

「ありがとうございます!」

「あざます!」


 何気ない会話から心強いお言葉のやり取りをする内ぬ、どんどん朝食がテーブルに配膳され始めた。

 味噌汁に白米、焼き鮭に卵焼き、納豆に生卵、他にも漬物や煮っころがしの副菜が沢山並ぶ、THE理想の日本の朝食の数々を、大変美味しく頂いた。


 ♢♢♢♢


 営業開始2時間前、戸羽女さん達と徒歩で海の家まで向かうと、黒塗りの大型トラックが駐車場で荷下ろししていた。

 コワモテ系の男の人達が、えっさほっさと海の家方面に荷物を運んでいる感じだ。


「アイツら……今年も来やがったな……」

「あの人達を知ってるんですか? 塗田さん」

「繁忙期になると、隣にやって来る出張ラーメン店だ」


 元々連日から行列が出来る大繁盛店なのもあり、お客さんの半分は軽く持って行かれ、売り上げにも響く、ただならぬライバル関係らしい。


 両者共に稼ぎ時なら、しょうがないと思う一方、そのラーメン店にどこか既視感を覚えていた。

 ラーメン店さんの香りも絶対嗅いだことがあり、あと少しで思い出せそうな中、ふと視界がフワッと塞がれた。


「だーれだ?」


 背後から聞こえる女性の声は、一緒に歩いてきた愛実さん達ではない。

 同じ状況を同じ人にされたデジャブに、その人の名前を口に出していた。


「あ、明日久(あすく)さんですか?」

「せーかーい。君ってやっぱおもろいなー」


 正解しても手を避けず、背中に胸をむにゅっと押し当てる彼女は、西女生徒会役委員の黒木場(くろきば)明日久(あすく)さん。

 明日久さんの実家は、黒龍亭という大人気ラーメン店を経営しており、今回の出張ラーメン店がその黒龍亭だと、既視感の正体はそれだ。


 よりにもよって明日久さんとライバルだなんて、結構本気でヤバいかもしれない。


 じとーっと嫌な汗を掻く中、腕を引っ張りギュッと絡めた愛実さんが、明日久さんをギッと睨んでた。


「……西女生徒会の黒木場先輩……でしたよね」

「ピンポーン。君、林間学校にいた北高の子かー」

「瓦子愛実です、黒木場先輩」

「愛実なーおけおけーあーしのことは明日久でいいからー」

「……では、明日久先輩。生徒会に属している身なら、他校の生徒に変なことしないで下さい」

「えー? ただのスキンシップなのに心外ー」


 ショックを受けるどころか、チラッとホットパンツの横を指で下げ、黒い下着を僕に見せつけてる。

 愛実さんの視線にもバッチリ映り込み、より腕絡めが増し、敵対心を剥き出してる。


「やり過ぎです、明日久先輩」

「直接は何もしてないのに、ひどー」

「か、間接的でもダメなものはダメで」

「2人とも、もう止めろ」


 杏世さんの言葉を聞き入れ、スッとその場を後にしようとする明日久さん。

 ハッと何か思い付いたのか、ニヨニヨ悪い笑顔で振り向いた。


「せっかくお隣さん同士なんだしーちょっくら勝負しようか、愛実ちゃん」

「勝負ですか」

「そ。あーしと愛実の水着接客勝負ー」


 今日一日、接客し注文を受けた合計金額を争う勝負。

 露骨にお客さんに勧めたりするのはノーカウント。

 あくまでも純粋にお客さんが注文したいもののみ。

 時間は午前9時から午後5時まで。

 で、全体売り上げでない事がミソだそう。


 愛実さんは勝負を飲み、明日久さんとガッシリ握手を交わし、闘志を燃え上がらせてた。


 ♢♢♢♢


 午前9時前、開店準備が完了し、時間になるまで待機中だ。

 入り口付近には数十人ものお客さんが、今か今かと開店を心待ちに待ってくれてる。


 黒龍亭の方も同じぐらいお客さんが待ち侘びてる。

 どうやら冷やし中華メインで売り出すのか、冷やし中華の看板メニューが充実してる。


 一方、楽さんは黒龍亭の責任者と微笑ましく挨拶を交わし、お互い頑張って乗り切りましょうと、普通に仲睦まじいやり取りをしてる。

 本来は協力し合える仲でも、愛実さんと明日久さんのバチバチ勝負空気で、それを許してくれない。


 明日久さんもフロントクロスビキニ姿で店前に立ち、いつでも注文を取る満々。

 愛実さんは林間学校でも着ていたイエローのホルターネックバンドゥビキニに、ボタニカル柄のショーツ姿で険しい顔だ。


「愛実さん、笑顔笑顔」

「はっ。いかんいかん……キッ……」


 すぐ険しい顔に戻ってしまう悪循環だと、スタートダッシュが間違いなく出遅れる。

 何としてでも勝たせてあげたいのに、厨房係と接客係が交代交代で、直接役立てる場面が無い。

 僕も思わず険しい顔になる中、従業員Tシャツを着た杏世さんが、肩に手を置いた。


「思い詰めてるな」

「え? ま、まぁ……愛実さんには勝って欲しいので」

「なら単純だが、洋君がご褒美をあげると言えば、いいんじゃないか?」

「積っちからのご褒美!?」

「うぉ?!」


 目をキラッキラ輝かせた愛実さんが、急に目の前に来たもんだから、上ずった声が出てしまった。

 

「勝ったらご褒美くれるのか!」

「あ、えっと……うん。出来る範囲ならなんでも」

「な、なんでも!? ほわ……えへへ~どうしようかな~何にしようかな~?」


 今度は緩み切った笑みが戻らなくなるも、出鼻を挫かずに済みそうだ。

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