☆4話 神対応女子達、それぞれの好きなタイプ、絶賛恋人募集中なタレント女王、ちゃんと見ててほしい、アイドルのお願い
※2023/4/9文末に草薙クレアのイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
碧羅さんに頬っぺたを触られ、千鶴さんには脚や胸を触られ、凛道さんは誰かなのか必死に思い出し中。
シークレットスターと会えるだけで奇跡的なのに、詰み体質はいとも簡単に奇跡を引き寄せてくる。
女装で偽装してる以上、バレれば人生は終わり。
女装元凶の渚さんにも迷惑が掛かる。
一時凌ぎで渚ヨウィータと名乗れば、逆に食い付かれる可能性が高い。
もはや八方塞がり。
心が絶望し掛ける中、女性スタッフさんが現れた。
「シークレットスターの皆さん! 現場入りお願いします!」
「「「はい! 分かりました!」」」
空気が一変した3人が、ご丁寧に立ち上がらせてくれ、ウィンクと手振りで足早に去った。
情報社会で飛び交う、シークレットスターの神対応は本当だった。
「……ィータ。ヨウィータ」
「ひゃあ!?」
「ちょ!? ちょっと!? 急に何よ!?」
本格メイクで更に美しくなられた、いつも画面越しに見る凪景こと、渚さんだった。
不意に声を掛けられたもんだから、心臓が本当に口から出そうになった。
「こ、声を先にかけて下さいよ……」
「か、掛けたじゃない。そ、それよりも、林マネに観覧席まで案内して貰うわ」
林マネージャーさんに預けられ、観覧席の最前列端へと案内された。
観客席は女性が大半を埋め尽くし、言わずもがな周りは女性しかいない詰み場。
怪しまれない為に、近辺の観客さん達へ軽い会釈をするも好機の反応。
出生名前、スキンケア、どうして日本語上手なのかエトセトラ。
質問ラッシュと詰め寄りに、白旗を振り続けても無意味なのは百も承知。
一刻も早く生配信が始まらないかと、切に願ったのが通じたのか、本番1分前の一声で救われた。
心が擦り減る一方、現場入りしたMCの美女が観客席に両手を振り、一気にスタジオ内が湧き上がり、生配信がスタートした。
『皆さーん! こんにちはー! 夢のコラボ生配信番組! ミックス~! 司会進行役の草薙クレアでぇーす!』
ハーフタレントの草薙クレアさん。
芸能界の第一線で活躍してる、現タレント女王だ。
ロシア遺伝の蒼眼と茶髪ヘアーの美貌と抜群のスタイル。
芸人顔負けのリアクション。
人を惹き付けるコメント力とトーク力。
裏表ない性格で人柄も良い。
冠番組は20、CM10本、最近だとドラマや映画、声優にも挑戦し好評の声が上がり続ける、老若男女に認知度も好感度も抜群な成功者だ。
『今回はなんとなんと! あのあのあの……怪演で演技業界が腰を抜かした、凪景さんがスタジオに来てくれてます! 早速お呼びしましょう! 凪景さーん!』
ゲスト用の扉が開き、女優凪景がパーフェクトスマイルで登場。
黄色い歓声に応えるウィンクで、更に観客はヒートアップ。
「こんにちはー♪ 女優の凪景です♪ よろしくお願いします♪」
『ヒューヒューぱふぱふ! さぁさぁ凪景さん! 隣に座って下さいな!』
「はい♪」
顔面偏差値のエグい2人が同じ場にいるだけで、見惚れる一枚絵になってる。
シークレットスターが来たらどうなるか、ある意味見ものだ。
止まない黄色い歓声に神対応する2人は、画面越しのオンライン視聴者にも、しっかりと目を合わせてコメント。
コメント欄が雪崩の如く、もう一度やって欲しい系のコメントで溢れ返ってる。
ものの1分で観客も視聴者も虜、カリスマの影響力は底知れない。
『いやはや凪景さん! 2週間振りですね!』
『もうそんなに経ちましたか? きっと私が、クレアさんを見ない日がない程、いつも見てるって事ですね♪』
『んまぁ! 嬉しい一言に尽きます!』
キャッキャと眼福なトークは続き、視聴者も右肩上がりで急増。
同接が数十万人を超えても尚衰えない。
生配信の時間縛りの中、スタッフさんのカンペ通り、番組がスムーズに進行していく。
『もっと語り合いたいですけど、そろそろ対談ゲストをお呼びしましょう! この方です!」
対談ゲストはスタジオに登場するまで一切情報が出回らないそうだ。
予測する楽しみも醍醐味の1つなのに、詰み体質はそれすらも許してくれない。
誰しも期待に胸膨らませる中、対談ゲスト3人が姿を見せる。
『『『シークレットスターです! よろしくお願いします!』』』
最高潮をブチ抜く黄金の大歓声、コメントも読み切れないぐらい溢れ返り、想像以上の大パニック。
クレアさんや渚さんに負けない神対応で、短時間で自然に沈静化させ、もはや神業の域だった。
♢♢♢♢
『ミックスぅの恒例コーナー! 貴方の質問にお答えします、のコーナー! イェーイ!』
コメントから抜粋された質問を、テンポ良くゲストに聞く、シンプルで盛り上がるコーナーだ。
生配信上、普段ゲストは慎重な言葉選びに、緊張を隠し切れない一面を見せるも、渚さん達は平常通りだ。
『では早速行きましょう! ミトコンドリーさんからの質問です! ありがとー! えー好きなタイプは何ですか? ほっほー! 王道ですがいい質問ですね! では、凪景さんからお願いします!』
『ん~好きなタイプ……』
シンプル故に知りたい、好きなタイプ質問。
答え様によっては荒れるかもしれない危険な質問だ。
悩み仕草も絵になる中、僕をチラ見して、ニコッと微笑んで口を開いた。
『無難ですけど、眼鏡が似合う人ですかね?』
『眼鏡男子! お気持ち分かります! オンオフのギャップがまた、たまらんのですょー!』
『涎で出ますよ』
千鶴さんのクールツッコミと、碧羅さんが涎を拭いに行く神フォロー。
お見苦しい絵面ですらも、絵になる不思議な光景だ。
『ありがとう碧羅ちゃん! このままシークレットスターの3人にも聞いちゃいましょう! まずは凛道さんから!』
『はい! 包容力のある人です!』
『たはー! 全てを包み込んで欲しいんですね! あー! 私も早く梱包して欲しい!』
自称恋愛妄想家なだけあって、恋愛コメントは大体迷子だ。
観覧席とコメントに笑いが起きても、当の本人から溢れ出る恋人欲しいオーラは笑えない。
『次、千鶴さん!』
『ミステリアスな人です』
『おほぉー! 掴み所のない人って心擽られちゃいますもんね! 誰か私のハートも擽ってぇー!』
恋人募集を臆する事なく言える、鋼鉄のハートが羨ましい反面、モテない波動がダイレクトに伝わってくる。
『最後は碧羅ちゃん!』
『お料理上手で、美味しそうに食べる人ぉ!』
『お料理男子とはお目が高い! 台所から眺める料理姿も、隣で一緒に料理するのもイケる、素晴らしきお料理男子! 早く愛妻料理を未来の旦那に食べさせたい!』
料理番組でプロ料理家からお墨付きを頂く程、料理上手な人なのに、コメントだけが未来を行き過ぎてる。
♢♢♢♢
幾つかのコメント質問を答え、10分間の休憩時間に入った途端、クレアさんを始め、渚さんやシークレットスターが観客席へ自ら出向き、即興握手会とサイン会を始めた。
1人1人と丁寧に向き合い、ガッシリハートを鷲掴み。
まさに芸能界の女王達による真骨頂だ。
唯一、凛道さんがぺこぺこ頭を下げ、慌ててスタジオを出て行ってたのが、気にはなった。
慌てっぷりからして、林間学校でのGカップ水着事件が過り、背筋に嫌な汗が伝ってた。
凛道さんに意識を持ってかれてると、目の前に渚さんが女優スマイルで立っていた。
ピリピリ空気を肌身に感じ、握手を強制的にされ、グイッと顔を横まで引き寄せられた。
「視線送ってたのに、目逸らしたわね」
「す、すみません……」
「謝らないで、ちゃんと見てて」
「は、はい」
釘を刺すだけ刺して、何事もなく次なる握手へと戻って行った。
生配信中、チラチラとちょくちょく視線を送ってこられるのは、普通にマズいんだ。
コメントでも凪景がいつもと違う気がすると、気になってる人も少なからずいるんだ。
平和的に番組を乗り切るなら、集中して貰わないとだ。
ホッと一息つく間もなく、クレアさんの握手ターンが来ていた。
「凪景さんから番組前に聞きました! 身内の方なんですね!」
「あ、は、はぃ……」
間近のクレアさんは、誰がどう見ても麗しの美女。
詰み体質上、異性と接する機会こそ多いも、大人の女性に対しては免疫があまりないんだ。
慣れない恥ずかしさが態度に出て、もじもじを露わにする中、目にも止まらぬ速さで何かを手渡された。
名刺っぽい物は人肌並みに温かく、収納場所は言わずともがな、さっきまで見えなかった谷間だと判明した。
「ここだけの話ですけど……絶賛婚活中の殿方がいたら、是非是非連絡して下さい……私も本気なので」
「ぜ、善処します……」
「ありがとうぉ!」
幸せ一杯のギュッとハグに、頬キスのダブルパンチ。
上機嫌で次なる握手に向かったクレアさん。
大人の魅惑的な余韻に、ひたすら照れと恥ずかしさが込み上げてると、不意に目の前で声を掛けられた。
「どうしたの? ポンポン痛いの?」
「へ? あ、碧羅さん」
「無理しちゃダメだよ? あ、そうだ! 元気のおまじないしてあげる!」
「お、おまじない?」
人差し指で自分自身の唇に触れ、僕の唇に人差し指を当ててきた。
間接キスとも違う、何だか特別なキス表現に、流石に照れ臭さは隠しきれなかった。
「元気出したい時に、おまじないを思い出してね!」
「ふぁ、ふぁい……」
今日は本当に色んな異性から、感情を翻弄されて、もう頭の中は渋滞だ。
一度トイレで頭を冷やさないと、番組を最後まで見届けられる自信がない。
忍びながら向かおうとした矢先、千鶴さんの握手ターンが来てた。
「貴方って不思議な人ですね……とてもいいと思います」
「ど、どうも……」
「私……ミステリアスな人は、男女問わず好きです……ふふふ」
顔を触れる手付きに、妙な危機感を覚え、嫌な汗が止まらなかった。
千鶴さんは間違いなく、詰み体質的に出会っちゃダメな危険なタイプだと。
今以上に認知される前に、いそいそと逃げるようにトイレへ一目散に向かった。
♢♢♢♢
トイレに来たものの、どっちに入ればいいかトイレ前で絶賛迷ってる。
無難に女子トイレの個室に籠れば、多少の倫理観を失うだけで済むも、バレる可能性もある。
1人悩みあぐねてると、女子トイレから先客が現れ、思わず身構えた。
「うぅ……どこにいっちゃったんだろう……」
誰かと思えば、慌ててスタジオを去った凛道さんだった。
項垂れ涙声で絶望オーラを放ったまま、僕に気付かずにトボトボと歩いてる。
事情は分からずとも、目の前で困り果てる人を見過ごせる訳がない。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「ひゃ!? あ、貴方は……はっ!」
希望が射さんばかりにキラキラ瞳で見つめ、ギュッと手を握って来た。
素の陰キャモードを知ってるからこそ、アイドルモードの今はただひたすらに眩しい。
「あ、あの!」
「あ、え? な、なんでしょう……か……?」
「ぱ、パンツを貸して下さい!」
カーストトップの異性に、突然パンツを貸して下さいと言わたら、脳内に宇宙が生まれるんだと発覚した。